54.使徒
ジョンとの槍の戦闘訓練が終了し、上半身の強化と良からぬ力の向上に成功した2人。スキルカードは見ていないが、相当あらぬ力がパワーアップしたのは間違いない。2時間目の授業が終了する。
「それでは解散!!」
「ありがとうございました、先生!!」
ガチの戦士ですよね?の先生が去っていく、ジョンと青春爆発ごっこをしていたのでガチバトルにはまったく絡んでいない、先生の名前すら分からなかったが単位はもらえたようだ。
ギルドカードのタブレットビジョンを起動、学校のアイコンみたいなアプリが増えていたのでタッチする。
ジョンの話では「取得した単位がチェックできるぜ」との事。試しに起動させてみると、ミューラの講義を3回受けたので1授業単位が2、合計6単位ゲット、卒業試験は後日行われるらしく、『卒業試験未実施』と表示される。
昨日はガイア師匠の授業を2時間目と3時間目に受けたので、合計4単位ゲット・・どういうわけか『卒業試験合格』になってる、試験なんかいつやったっけ?
「なあ銀等級、3時間目どうする?」
「もう眠いから、ガイア先生とこ行ってお昼寝してくる」
「はは、それがいい。昨日頑張ったもんな・・ついさっきまで」
「本当だよ、ミューラ先生も『ベネチア』行ってるの絶対知らないし、1時間目と2時間目で精も根も尽き果てたよ」
「はは・・」
「ん?どうしたジョン」
「いや・・さっきの話の続きなんだけどさ。俺・・ルナ様、お前に気があるんじゃないかなって思ってて・・」
「ルナ様が?俺に?・・はは、それは無いな。大丈夫だってジョン、お前の方に気があるって」
「どうしてそう言えるんだよ・・」
「そりゃあ・・あっ」
「ルナ様!」
2人で2時間目の授業が終わって立ち話をしていると、なんと制服姿の聖女ルナがこっちに1人で歩いて向かってくる。奥には同じく制服姿のジャンヌとエリスの姿があった。
聖女ルナは一目見て分かるくらい、鬼の形相でこちらを睨みつけてくる・・この表情・・マミに・・うりふたつ・・。
「(ぷるぷる)・・スズキ様!」
「あっ、はい。スズキですけど、なにか・・」
「(ぷるぷる)・・スズキ様のエッチ!!」
(ばっ!)
聖女ルナはそう言い放つと後ろを振り向いて駆け出し、ジャンヌとエリスの方へ走っていってしまった。
「ほらなジョン君、見ての通りだ」
「イチロウ・・お前・・」
「彼女とは、3日前に初めて顔を合わせたその瞬間から変態扱い。裁判にもかけられ、私は危うく死刑判決」
「イチロウ・・」
「この変態の私より、以前からルナ様を慕い見続けてきた君の方こそ、彼女の花婿にふさわしい」
「イチロウ・・お前。なんていい奴なんだよ!」
「さあジョン君、次の授業に旅立つがいい。私は予定通りガイア先生のところでお昼寝をしてくる、行けジョン!私の屍を超えていけ!」
「分かったぜ相棒、お前の骨は、俺がオルレアン海に撒いてやる!」
「ああ、頼むぞジョン君。わが親友、心の友よ」
心の友が走って次の授業へ向かって行く。
「さて・・お昼寝行くか」
心の友とあっさり別れを告げる。もう眠たいので、急ぎガイア先生のいる煙突のある小屋へ歩を進める漁民。
お花畑のある平原から、エルミタージュ敷地内を歩き移動し、10分前後歩いてようやくガイア師匠の小屋に到着。正門前講堂から『風の神殿』近くまで歩く、やたら遠い、お昼寝するつもりが無ければ、卒業試験はすでに合格、もはやここは用済み。
「(とんとん)失礼しま~す」
「かっかっか、来たか小僧」
「ガイア師匠、ご無沙汰しております」
ドリフのおっさん、ガイア師匠に挨拶。弟子は師匠に敬意を払うもの、しっかりと挨拶をする。
「かっかっか、もう小僧に教える事は何も無いぞ?」
「もちろんです師匠。実は僕、昨日『ベネチア』で・・」
「おお、どうした?」
昨日突然『指定緊急招集』で王宮に召集された事。オルレアン側のゲート前で緑の十字砲火を浴び右足を負傷した事。『水の鎧』の身ぐるみをはがされ、黒装束の4つの影と『変な仮面』を装備して戦った事を報告する。
もちろん『水のクリスタル』の啓示、天使化し神『アルテミス』になったルナの事もちゃんと伝えた。
「ほお・・『アルテミス』とな・・まさか『3大天使』の天使様を宿すとは、こりゃたまげたわい」
「なんです『3大天使』って?ジャンヌに『上位昇進』した時には、『ロードオブパラディン』とか、神にはなりましたけど、そんな名前のある天使様にはなりませんでしたよ?」
「天使様にも序列があっての、わしら冒険者の言うところの白金冒険者にあたるのが『3大天使』様じゃぜ」
「それって、社長のさらに上・・会長とかのレベルって事ですか!?」
「なんじゃ、その会長とは?」
社長の上の会長クラス、平社員の私にとってもはや神をも超えた有人神に等しき存在。
「あっ、そういえば!15年前、『風の神殿』でアイリスに『上位昇進』した時、アイリスは『ホーリーマザー』っていう神になって、『大天使の慈愛』っていう天使様の技を使ってました」
「なんと!『ホーリーマザー』に『大天使の慈愛』じゃと・・もはや神話の世界の話じゃぜよ」
「そんなクラスの話です?」
「『大天使の慈愛』そのものが『3大天使』様のスキル」
「え?じゃあここまでの話で、ルナ様は『アルテミス』、アイリスは『大天使の慈愛』で、もう『3大天使』のうち2大天使が出てきましたよね、『3大天使』様のバーゲンセールじゃないですか」
「アイリス様のはさらにランクが上の話じゃわい」
「『3大天使』で十分神様ですけど、何でアイリスだけ特別なんですか?」
「アイリス様は『ホーリーマザー』という神を生み出した神の母、『3大天使』の『ガブリエル』の技を使いこなす、すなわち『3大天使』を含めたすべての神の母じゃぜ」
「アイリスは『上位昇進』をした3分間だけ、神様を生んだお母さんになったんですね。し、師匠。それじゃあ、ジャンヌの『ロードオブパラディン』は?なんか『3大天使』様の名前っていうよりは、ただの職業の名前のようでしたけど・・」
「ありゃ、不完全な神じゃな」
「あれで・・不完全・・」
「まあ、クラスがそもそも神じゃから、下界のわしらからしてみれば化け物みたいな強さじゃがの~、かっかっか」
「じゃあ、なぜルナ様だけ完全な『3大天使』になれたんです?」
「そりゃわしも分からんが・・小僧の話を聞く限り・・『水のクリスタル』の使徒に選ばれた事が1つの条件じゃなかろうかの~」
「『水のクリスタル』の・・使徒・・。『水のクリスタル』が、『7つのクリスタルの使徒』を集めろって・・」
「ああ、わしも昔『土のクリスタル』の使徒をやっとったわい」
「ええ!?初耳ですよ師匠!!」
「ああ、今言ったからの~かっかっか」
「・・もしかして。僕が石化した15年前のさらに15年前、オルレアンに『風のクリスタル』が来たって・・その頃の話です!?」
「おお小僧、賢いの~。30年前、『雷のクリスタル』の使徒がサンダース、『火のクリスタル』の使徒がセバス、そして何を隠そう、『土のクリスタル』の使徒がこのわしじゃったわい、かっかっか」
「じゃあもう『水のクリスタル』が啓示で言っていた『7人のクリスタルの使徒』、このオルレアンにほとんど揃ってるじゃないですか」
「まあ、そうでも無いかの。今のところ、『水のクリスタル』の使徒のルナ様だけじゃわい」
「えっ?何でですか師匠?」
「クリスタルは気まぐれじゃわい。その日、その時、選ばれる使徒も変わる。わしも『土のクリスタル』の使徒をやっとった頃はよく啓示を聞いておったが、最近はさっぱりじゃぜ」
「あ、そういえば師匠そんな事言ってましたね?じゃ、じゃあ。昔、使徒してたからって、『水のクリスタル』から集めろって言われた今は・・」
「わしは今のところお呼びがかかっておらんぞ」
「そんなぁ・・このままじゃあ、『水のクリスタル』が、アクア様やキグナス将軍が・・」
「・・まあ、もう休むんじゃ小僧。小屋の奥にベッドがある、昨日の今朝で寝ておらんじゃろう」
「・・すいません師匠。本当は、そのつもりで・・」
「かっかっか、本当にお前さんは正直者じゃのう~まるで裏表が無い、素直な小僧じゃわい」
「ええ、よく言われます。おかげで女性からは批判の嵐で毎日難破船ですよ僕」
「かっかっか、起こしてやるからもう休め。起きたらスープを作っておいてやろう。さあて、薪でも割ってくるかのう~」
「すいません師匠、甘えさせてもらいます」
ガイア師匠が小屋の外へ出ていく。小屋の奥にはベッドがあり、そのままダイブ、何て気持ち良いふかふかしたベッドなんだ・・僕・・のびいちろう・・おやすみ・・ままん。
眠りにつく漁民が寝ている小屋に近づくと、1人の女の子の影が窓から中を確認する、おもむろに扉を確認し、鍵がかかっていない小屋の中に入ってくる。
女の子はベッドに近づくと、顔を確認するなり、イスをベッドのわきに置き、イスに腰掛ける。しばらくの静寂、小屋の外ではエルミタージュの『風の神殿』近くの森で、心地よい日光と、さわやかな風が吹いていた。小屋にドワーフのガイアが薪を持って戻ると、森の中から歩いてきたミューラと出くわす。
「ガイア様、ご無沙汰しております」
「かっかっか。お前さんはいつもご無沙汰じゃのう~。お前さんが小僧にそれを教えたのか」
「えっ、スズキ君こっち来てます!?」
「おお、なんでも今朝まで『ベネチア』におったようじゃからの~」
「ええ!?私それ聞いてない!!」
ガイアが小屋の前で、『ベネチア』で漁民が経験した事、先ほどまで話していた『大天使』や『使徒』の事をミューラに伝える。
「も~スズキ君ったら、『ベネチア』に行ってたなら行ってたって、なんで言ってくれないのかしら。今日の授業もウトウトしてて、やらしい事考えてて夜寝てないだけかと、すっかり勘違いしちゃったじゃない」
「かっかっか、小僧は頑張っとるよ、さすがお前さんの教え子じゃわい。ミューラや、3時間目はどうした?」
「今日は私、2時間目でもう上がりなんです。昨日まで『緊急招集』に備えて余裕持って講義消化してますし。思ったより今年は生徒多くて・・でも『卒業試験』まであと1・2回も講義すれば十分です」
「かっかっか、では小僧の3時間目のお昼寝の授業が終わったら、スープを飲ませてやるとするかのう~」
「知ってますよガイア様、勝手に『卒業試験』、スズキ君だけ合格させちゃってるでしょ~」
「なんじゃ、お前さん知っとったんか」
「バレてますよガイア様、セントルイス学院長に大目に見ていただくよう言ったの、私なんですからね~」
「かっかっか、こりゃあ一本取られたの~。今日はお前さんにも、スープをご馳走せにゃならんの~」
「はい、私もスズキ君のために手伝いますね・・あれ?」
「どうしたんじゃ?」
「小屋に・・2人いる!?ス、スズキ君!!」
ミューラとガイアが小屋の小窓から中の様子を覗く。奥のベッドの手前には、学生服を着た女の子が1人、イスに座ったまま、ベッドに頭だけうずめて、猫のように眠りこけていた。
「ちょっ、あ、あれ!ルナ様・・」
「若いの~」
「冗談言ってる場合ですかガイア様・・」
「なんじゃ?起こしにいかんのか?」
「・・もう少し様子を・・」
「おまえさんも楽しんどるんか?」
「そうじゃありません、聖女様にもしもの事が無いよう監視してるだけです!」
「若いの~」
ベッドが気持ち良い、朝から疲れて体はだるい、なんだか・・人の声が・・するような・・。
「・・・大丈夫?」
地面に仰向けに横たわる、体が痛い、動かない。
頭に枕のような感触、人のぬくもりがする、甘い香り、温かい。
うっすら目を開けると、心配そうにのぞき込む女の子の顔が浮かんできた。
「マ、マミ・・」
「・・・スズキ様」
目をおもむろに開けると、マミにしては若すぎる女の子がこちらを見ている。ベッドに横になってて、視界が180度、顔は右を向く。自分のいるベッドに顔だけ同じ向きで横にうずくまる女の子・・。
「マ・・マミじゃない!(ガバ!)」
「なんでいつもいつも、わたくしをその名前で呼ぶのですか!!(ガバ!)」
「ごめん、勘違いで、寝ぼけてて、間違えちゃって・・」
「どう間違えたらわたくしの名前を呼んじゃうんですかスズキ様は!許嫁でも何でもないのですよ!!」
「もちろん、ちゃんと分かってるって、全部知ってる、もう間違わないから」
「それにさっきも、何でわたくしのお花畑知ってるんですか!どこで見たんですか!答えなさい!!」
「えっなんだよそれ?意味わかんないよ、それ知らない」
「また1時間目みたいに嘘ついて、しらをきって、わたくしの事を馬鹿にしてるんですか!!」
「ごめんルナ様、謝るから、本当ごめんってば」
ベッドの上でとりあえず土下座、男の誠意を見せる。
(小屋の外から監視する4つの眼)
「いつの間にあの2人、あんなに仲良くなってるの!?」
「若いの~」
「冗談はやめて下さいガイア様!それにしても・・ルナ様がお生まれになってからずっとこれまで見てきましたけど、サンダース様以外に他の男の子とあんなにおしゃべりしてるの、私、見た事ありません」
「若いの~」
(ベッド近くの聖女と漁民)
「まあ落ち着こうルナ様・・」
「はぁはぁ・・はい・・」
「その、あの・・なんでルナ様・・ここにいるの?」
「え?その・・ですね」
「うん・・」
「さっきは・・その・・」
「・・うん」
「わたくしも・・少し・・言い過ぎたと言いますか・・」
「え?何が?」
「もうお忘れですか!」
「ごめん!僕、忘れやすいからさ・・」
「・・なんでお母様はこんな方を・・」
「えっ、アイリスがなんだって?」
「あ!それは・・お忘れ下さい!」
「なんだよそれ!あ、あれだろ?『ベネチア』のギルドで見た署名状、あれに何か僕の事書いてたんでしょ?」
「何も書いてありません!」
「良いんですかルナ様、聖女様が嘘ついて」
「うう・・それは・・ちょっとだけ、ちょっとだけあなたの事も書いてあったのです!」
「はは・・そうなんですね。何だろアイリス・・僕、アイリスと第85期生の同級生って、ルナ様に言ってましたよね?」
「ええ、そう・・ですね。その・・スズキ様は、お母様と親しかったんですか?」
「はは、まさか。アイリスとは、最初クラウドと一緒に森で出会って3日の仲ですよ」
「たった3日!嘘です嘘です!!」
「本当ですよ!何で否定するんですか?」
「だってだって・・とても出会って3日という内容ではございませんでした・・」
「はは、それこそ嘘ですよ。3日といえば、僕とルナ様が過ごした時間と同じじゃないですか?」
「え?そうです・・ね・・」
「たった3日で、一体どれだけの仲になれますか?知り合いですよ知り合い、ちょっとだけお芋でトラブルがありましたが・・」
「それも書いてありました!」
「はは、あの子らしいですね。やたら頑固ですし、真面目で、でもやってる事無茶苦茶で・・本当、今のルナ様にそっくりな子でしたよ」
「なんですかそれは・・お芋についてはちょっとしか書かれてなくて、お母様と何があったのか詳しくお聞かせ下さい!」
「えっと・・それは・・」
「それは?」
「それは・・秘密です」
「なんでですか!あなたはわたくしの親衛隊では無いのですか!」
「都合の良い時だけルナ様親衛隊にしないで下さいよ!」
「わたくしはあなたの事を知らないのに、あなたはわたくしの事を知ってるのは不公平です!」
「またアイリスと同じ事を・・」
「またそうおっしゃって、早く全部お話なさい!」
「そっちこそアイリスの署名状の中身教えないじゃないですか?」
「全然お話できるような中身じゃないんです!」
「なに意味わかんない事言ってるんですか聖女様!」
「都合の良い時だけ聖女にしないで下さい!」
(小屋の外の監視員)
「若いの~」
「どうしましょうガイア様、私、飛び出すタイミング完全に逸してしまいました」
「ええんじゃないかの~このまま3時間目の保健体育の時間じゃわい」
「ちょっとガイア先生まで、ふざけないで下さい!聖女様なんですよルナ様は!」
「若いの~」
(聖女と漁民)
「はぁはぁ・・少し休戦に致します・・」
「ぜえぜえ・・本当頑固なんですからルナ様は・・」
「・・ひとつだけよろしいでしょうか?」
「えっ、良いですけど・・」
「・・わたくしの事は・・その・・2人だけの時で良いので・・」
「・・はい、ルナ様・・」
「様が余計なのです!」
「えっ?」
「その・・マミは・・・まだ・・恥ずかしいので・・その・・」
「えっ、何です?マミがどうかしました?」
「だからその名前を言わないでって言ってます!」
「ごめんなさいルナ様!」
「だから様を付けないで!」
「え?」
「・・・」
「・・・その」
「・・・うん」
「わたくしの事は・・ルナと呼んで欲しいのです」
「・・・え?」
小屋の外で中の様子を覗き込む2人組の怪しいエルフとドワーフ。その後ろに広がる森から、大きな影が近づいていた。




