51.4つの影
爆発音がこだまする『ベネチア』王宮敷地内。兵士たちがさかんに行き来する、あちこちで黒煙が上がり、王宮敷地内は大変な混乱が起こっていた。
サラと呼ばれる青い髪のエルフを先導に、王女アクア様とキグナス将軍、ルナ様と『月の雫』3人が後を走る。キグナス将軍が声を発する。
「馬鹿な!なぜ『水の神殿』の場所が・・」
「『水の神殿』って、目立つ場所にあるんじゃないんですか?」
「ダミーの神殿を敷地内にいくつも建てておる。サラの『感知』スキルでは、黒い影が4つ、まっすぐそこに向かっておる」
「まっすぐって・・」
「本物の『水のクリスタル』がある『水の神殿』を知っているのは、『ベネチア』王国内ではアクア様と私、そして大臣の3人しか知らないはずだ。よもや大臣、やはり奴が、たばかりおったな!」
また『ベネチア』の大臣の名が出てきた。たしかこの『ベネチア』に来て、最初にギルドのお姉さんが「大臣の勅命で仮面舞踏会が・・」って言ってたような。年に1度の『仮面舞踏会』を盛り上げる民を思いやる大臣だとばかり思っていたが・・将軍とは仲が悪いのだろうか?
サラの先導で白い石畳の引かれた木々の間を走る。途中、至るところで兵士が地面に倒れ込んでいた。まるで、最初の『風の神殿』への襲撃と同じ光景。嫌な予感がする。
しばらく走ると、白い神殿のような建物が見えてくる。神殿周辺でも、やはりたくさんの兵がすでに倒れていた。1人の兵が、意識をもうろうとさせながら右手を天にかかげていた。キグナス将軍が声をかける。
「大丈夫か!?」
「黒装束の4人組が・・『水の神殿』へ・・」
兵士が右手を地面にばたんと落とす。
「先を越された、アクア様・・ここはあまりに危険過ぎます」
「『水のクリスタル』にもしものことあらば、わらわもいきてはおれん」
この子にとって、そんなに『水のクリスタル』は大事なものなのだろうか?
「アクア様」
「せいじょルナ・・」
「アクア様の『水のクリスタル』は、わたくしたちが必ずお守り致します」
「・・たよりにするぞルナ」
時間が無い、危険を承知で急いで『水の神殿』に全員で突入する。今度はアクア様が先頭になり、おそらく『水のクリスタル』があると思われる方向に進んでいく。
途中階段を下に降りる、方向的に、最初に来た正門の方向へここまで戻ってきたように思える。その証拠に、石橋の上から見えた、丘から噴き出していた滝の音が近づくにつれてどんどんと大きくなってくる。通路を進むにつれて、マリンブルーの波紋の光が徐々に色を濃くしていく。
『風のクリスタル』のある『風の神殿』でみせたエメラルドグリーンの波紋と同じ光景、間違いない、もうすぐ『風のクリスタル』の部屋が近づいているに違いない。
通路にある1つの扉から、とりわけマリンブルーの青い波紋の光が大きく漏れ出る部屋が見えてくる。
「あそこ」
「開けるぜエリス」
「ええ、ジョン。いっせ~の~せい!」
エリスとジョンが2人で扉を同時に開ける。
部屋に入るとなんと、黒装束を身にまとった3つの影の姿と、貴族のような立派な服を着た1人の男がそばに立っていた。
残りの3つの影はフードをかぶり顔を伺い知る事は出来ないが、『風のクリスタル』を守るアイリスの聖なる光の壁に対して、黒い炎で攻撃していた黒い結晶を手にする覚えのある影が・・あいつ、奈落って奴に違いない。キグナス将軍が声を上げる。
「大臣!貴様、たばかったな!!」
「おお、こわ。これはこれはキグナス将軍」
「大臣!貴様が兵士をそそのかし、オルレアンとの断交を主張した理由、仮面舞踏会へ多くの冒険者を集め酒におぼれさせたわ、すべてはこの日のためであったか!!この外道が!!」
「なっ」
「それじゃあ、あの大臣がすべて黒幕だったって事かよ!」
「おお、こわ。キグナス将軍、それに王女アクア様まで・・。あなた様のお父上、お母上、突然お亡くなりになられて、まことにお気の毒な事でしたな~」
「大臣!貴様、アクア様の御前でそのようなたわごとを!・・まさか・・」
「ちちうえ、ははうえ・・あっ」
大臣の、人の姿をしていた男の体が黒いオーラに包まれると、顔ががいこつの顔、眼帯のような物を付けた、全身機械のような体の人ではない黒い影が姿を現す。
「この姿を見たものは、生きてここからは返さん。アクア様、あなたのお父上とお母上がなぜお亡くなりになられたかお分かりですか?」
「・・」
「それは・・このわたしの・・諸刃のこの正体を・・見てしまったからなのですよ!」
「そんな!?」
「消えなさい、外道が!(ばしっ!)キャア!!」
鬼の形相でとびかかったサラが、諸刃の機械の左手で払いのけられ地面に倒れる。
「サラ・・」
「すべては、闇のクリスタル復活のため!」
諸刃と呼ばれる機械の体をした影が、次々と過去の悪行を自慢する中、もう1つのフードを被った影、奈落は手のひらで浮かべた黒い大きな結晶を使って、『水のクリスタル』に向かって黒い炎を浴びせ続けていた。
「口が過ぎるぞ諸刃、ゴミは早く消せ。王女と将軍はすでに報告を受けている。他の4人のスキルを早く暴け」
「おお、こわ。分かってるよ奈落」
「やはり似ている・・アイリスに・・」
「どうしたの刹那?あなた、この前『風の神殿』の時にいたあの女を見てから、様子が変よ」
「いらぬ心配だ円華」
「そう、なら・・いいけど。そういえば刹那、あの女・・たしか!」
「諸刃、あの金髪の女、やつは『光属性』だ」
「なんだって!本当か確かめる」
アクア様は大変なショックを受けたようで、その場でうずくまってしまう。キグナス将軍がアクア様を抱え込んでうずくまり守ろうとしている。
サラは地面に・・くそ、あの諸刃ってやつ・・思い出した!たしかアイリスと一緒に戦った時も、『|闇の千里眼《ダークアイ』とか言って、自分の職業やスキルを一瞬で見抜いた影じゃないか。
「イチロウ君、何してるのこんな時に!?」
自分はあいつらに顔が割れてる。いや、15年の石化の時だから向こうが覚えてるか分からないけど、素性が知られるとまずい。
この『ベネチア』の王宮に来るまでに酔っぱらいに絡まれた時にかぶせられた『変な仮面』をすかさず装備する。スキルはバレるかも知れないが、とりあえず顔を隠しておく。
「エリス、ジョン。2人とも『水の鎧』のマスクを、早く!」
「え?」
「分かったわ、ジョン早くマスク降ろしなさい!」
「『|闇の千里眼《ダークアイ』!ん?おい奈落、まずいぞ!あの金髪のガキ、刹那の言う通り『光属性』持ってやがる。青い鎧の2人は『|闇の千里眼《ダークアイ』でも・・見えねえ」
「あれはきっと『水の鎧』よ諸刃」
「『水の鎧』?なんだそりゃ円華?」
「『感知』系のスキルもはじく、オルレアンに伝わる水属性専用防具。さすがのあなたの『|闇の千里眼《ダークアイ』でも、水の結晶石の力でスキルは分からないわ」
「そんなもんがまだこの世にあったとは・・見えないやつは・・消す!」
「熱くならないで諸刃、あの変な仮面つけた子も早く教えてちょうだい」
「ああ、分かった」
自分の順番が回ってきたようだ・・隠された、他人に絶対に見られてはいけない、真の実力がさらけ出されてしまう・・まずいぞ。
「『|闇の千里眼《ダークアイ』!ギャハハハハハハ!!こいつレベル1の『漁民』、スキルもしょぼい、たいした事ないぜこいつ」
「ゴミか・・」
完全に敵に馬鹿にされている・・・どうやら15年前の農民だとは気づかれていないようだが・・なんだかすごく悔しい。おもむろに奈落と呼ばれる影が、手のひらの大きな黒い結晶から『水のクリスタル』に向かって放っていた黒い炎を止める。
「『水のクリスタル』はもうすぐ闇に染まる。他のゴミはどうでもよいが、『光属性』は我らが敵。今ここで葬っておかねば、いずれ我らの妨げとなろう」
「大変!『水のクリスタル』が!」
エリスが大きな声で叫ぶ。なんと先ほどまで黒い炎で攻撃されていた『水のクリスタル』の最上部から、徐々にマリンブリーの色が黒い漆黒の闇に徐々に染まり、クリスタルの最上部から下に向かって黒の浸食が徐々に広がっていくのが見える。
黒い漆黒の色が上から下に広がるにつれて、マリンブルーの光が次第に弱まっていく。黒装束の奈落が叫ぶ。
「まずは数を減らす。『闇のクリスタル』よ、あのゴミの心の闇を開放せよ、解き放て!『闇の洗脳』!」
えっ?初手、俺?
「うわぁぁぁぁぁーー」
「銀等級!!」
「イチロウ君!」
奈落と呼ばれる影が、手のひらに乗った大きな黒い結晶を天にかざし、『闇の洗脳』と叫ぶと、自分の体が黒いオーラに包まれる・・このまま・・死ぬ?
「ふはははは、闇に落ちるがよいゴミ虫よ!」
「銀等級!!」
「イチロウ君!」
エリスとジョンの声が聞こえる。まさか、こんなところで終わるなんて。今までの事が、走馬灯のようによみがえる。この『ベネチア』に3人と一緒に『転移結晶』のゲートをくぐって、双子のアイリスの子供に会って、石化する前、アイリスと出会って・・み、短かすぎるオルレアンの日々。
40歳手前の自分にとって、このオルレアンの出来事は、わずか1週間程度の出来事・・今はもう出て行ったけど・・最後の最後で15年間妻として連れ添った、彼女の顔を思い浮かべてしまう。
「マミ!!ごめん!俺・・ここまで・・うわぁぁぁーーー」
「スズキ様!!いやーー」
黒いオーラが全身を包み込み、体にまとった漆黒の黒い光が爆発する。
「(ぱぁぁぁぁん!)うわぁぁぁぁぁぁ・・・・って、あ、あれ?なんとも・・・ない・・けど・・」
「ば、馬鹿な!『闇のクリスタル』はここまで成長している。わずかな闇があれば解き放つは容易なはず・・まさかあの子供・・わずかな闇すら無いと言うのか・・」
「おい奈落、どうしちまったんだよ?」
敵も味方も困惑している、よく分からないけどなんともない、今がチャンスだ!
「マミ!スキルカードをこっちへ!」
「え!?は、はい。これを!」
ルナがスキルカードを投げてくる、すかさずキャッチ、まさに以心伝心。『風の神殿』の防衛戦で、ジャンヌがどうなったか分かっているはず。こちらの意図がすでに分かってくれている、こっちはてんぱってて、すでに一杯一杯。混乱しながらも、自分にできる事は『上位昇進』のただ一択。
ルナの顔がマミにそっくりなので、死に際に本気でマミだと錯覚しながら15年連れ添った嫁の名前を連呼する。
自分の銀色のギルドカードの星のマークタッチ、スキル、スタンバイ。
「奈落・・あの漁民、スキルが変わっていく・・あああ」
「なに?」
「あ、あのガキ・・あの時の農民と同じ・・まずいぞ奈落、『上位昇進』を使う気だ!」
「刹那!ブラックセイバーを・・」
「もう間に合わん!円華、お前が先にやれ!」
「分かったわ!『闇の召還』!」
円華と呼ばれる影が『闇の召還』と叫ぶと、『水のクリスタル』のマリンブルーの光で出来た影という影から、一斉にゴブリンの大軍が湧き出してくる。
「ギギィィーー」
ギルドカードから黄金色の『上位昇進』カードが出てくる。手にとり、黄色いスキルカードへ右からセット。双子の妹のジャンヌは左利きだったが、お姉ちゃんは右利き。
さっき『たい焼き』食べてる時に、しっぽを最後食べる時、右手で持ってたのを思い出す。・・入った!黄金色カードを入れる向きは正解、手に持つスキルカードに『上位昇進』が表示される。
「ゴブリンども、やつらを始末・・」
「マミ!」
「スズキ様!」
「『上位昇進』!」
【『上位昇進』 マミフレナ=ルナ=ダルク 属性『光』『水』】
【レベル】レベル15→レベル45
【職業ジョブ】『聖神官』→『女神アルテミス(神)』
【固有スキル】『光の螺旋』『属性(水)第10位界魔法使用可』
【固有装備】『三種の神器:デュランダル(光・杖)』『アルテミスの弓(水・弓)』
ジャンヌの時と同じように、ルナに天使のような光の羽が生える。青い瞳は金色に変わり、無垢だった顔が大人びた表情に変わる。
「光の螺旋!!」
(ピカッ!パァーー)『上位昇進』したルナが光の杖『デュランダル』を天にかかげる。光の杖を中心に波紋はもんが広がり、あたり一帯を光が幾重にも流れていく。
「ギギィィ(バン!)・・コツン コツン」
光がゴブリンに当たった瞬間、ゴブリンたちは黒い霧となって吹き飛び、一瞬にして次々と魔石に変わっていく。
「ガァァァーー、まさか、この力も、神?・・ヌヌヌ」
「(光に包まれる刹那)・・ゴブリンどもが・・」
「(光に包まれる諸刃)ウワァァァーー、まずい奈落、また・・浄化される・・」
「(光に包まれる円華ウウッ・・奈落、ここは引きましょう」
「ウヌヌ・・いずれ『水のクリスタル』は闇に落ちる。これ以上の長居は無用」
「行くわよ刹那!(シュン!)」
「くっ、次こそは決着を・・(シュン!)」
「ウウ・・機械の体でもこれはたまらん・・が、水は仕留めた。次は火と土だな」
「諸刃、貴様の口は黙らんのか!」
「おお、こわ(シュン!)」
「貴様ら覚えおくがいい!神の力と言えど、その小さき光の螺旋程度では、この『闇のクリスタル』の力を浄化し切る事は不可能だと知るがいい!あーははははは(シュン!)」
「いなくなったぞ!」
「やったルナ様・・『水のクリスタル』が!」
『水のクリスタル』の最上部から漆黒の黒い闇に徐々に染まり続け、次第に黒い色がクリスタル全体の3分の1程度まで浸食されたその時。
「ルナ様!(3人)」
神となったルナが『光の螺旋』を放った『デュランダル』の光の杖を手放し、背中に背負う金色のラインが入った青い弓を射る体制に入る。弓の射る先には『水のクリスタル』があった。
「天使様!お待ち下さい!」
「ルナ・・わらわの『水のクリスタル』を・・」
キグナス将軍に抱き込まれていた王女アクア様が、神となったルナに『水のクリスタル』を守るよう・壊さないで欲しいと懇願する。さも『水のクリスタル』を弓で破壊する体勢の天使化したルナがアクア様に笑顔で語り掛ける。
「・・・大丈夫」
「ルナ・・・『水のクリスタル』を、まもって!」
アクア様に向かって優しい笑顔で大丈夫とつぶやくと、マリンブルーの光が徐々に弱くなっていた『水のクリスタル』が強烈な光を発っする。
(ピカッ!)
「『ダイヤモンドダスト』!(ピキキキ!)」
天使化した弓を引くルナが呪文を唱えると、光の矢が、氷の光輝く矢へと変化する。
「『ダイヤモンド・アロー』!!」
ルナの弓から、光輝く氷の矢が発射され、『水のクリスタル』の漆黒の色が侵食したクリスタル上部に突き刺さる。
(パキン!ピキキキキキ・・・)
「闇が・・」
「と・・止まった」
『水のクリスタル』の最上部から浸食していた漆黒の黒い色の進行が止まる。『水のクリスタル』の上部には、先ほど天使化したルナが放った氷の矢がささり、クリスタル上部は浸食された漆黒の黒を包み込むように氷におおわれていた。
弓を手に持ったまま、天使化し神となったルナが、まるで別人のようにこちらに向かい語り掛けてくる。
「この矢をもってしても、『水のクリスタル』は、いずれ闇に落ちてしまうでしょう」
「えっ・・」
「そんな・・」
「水の戦士たちよ・・『水のクリスタル』の啓示を伝えます」
「『水のクリスタル』の・・」
「啓示ですって・・」
「『7つのクリスタルの使徒』を集め、『三種の神器』をもって、この漆黒の闇を浄化するのです」
「7つ!?」
「『水のクリスタル』が闇に落ちるまで、時間はそう長くないでしょう」
「『クリスタルの使徒』って・・そもそも『光のクリスタル』はどこに?」
「クリスタルはいつも、あなたたちの心の中に・・(しゅん)(バタッ!)」
「ルナ様!」
地上から少し浮かんでいたルナの体が元に戻り地面に落ち横たわる。背中の羽が光のチリとなって舞いながら消えていく。
地面に横たわるルナの首には、この『水のクリスタル』の部屋に入る時には付けていなかった、『水のクリスタルのかけら』のペンダントが付いていた。




