4.圧迫面接(あっぱくめんせつ)
血判によるダメージ痕を確認しつつ、2番窓口の前で待っていると、受付のお姉さんから声がかかる。
「スズ・キ様~スズ・キイチロウ様~」
「はい・・」
名前の発音が微妙におかしい、つっこみたくなるがやめておく。これから就職面接を受ける身。いきなり受付のお姉さんに悪態をついて印象を悪くするわけにはいかない。
「こちらです」
お姉さんに先導され、階段を上る。どうやら2階が面接会場らしい。
「当ギルド長が直接面接されます、くれぐれも粗相の無いようご注意下さい」
「分かりました」
どうやら本日の試験、懸念していた剣術試験の類では無いらしい。期待していた面接試験、俄然突破率、体感で30%程度まで跳ね上がる。服装が農民みたいな上下薄白い布の服着てるし、完全に足元見られてるな。だがしかし、見ていろお姉ちゃん、伊達にこれまで何度も就職面接を落ち続けてきたわけじゃない、実力をみせてやる。
「(とん とん)失礼します」
「入りなさい」
扉を開けると、ギルドの1階ホールとは別世界の社長室のような応接間になっていた。
「座りたまえ」
部屋にいたのはソファーにならんで座る3人の男、向かって右側の男から声をかけられる。うながされ、部屋の中央にある革のイスに座らされる。
左手には屈強そうで鎧をまとった小柄な男、右手の声をかけてきた男は、浜辺で会った耳が長いお姉さんと同じくらい耳が長い。インテリそうな賢い秘書といった印象、このオルレアンという国では耳の長い人が多いのか?
「え~私はこのオルレアン連合ギルドの副ギルド長をしておりますセバスです。そしてこちらが当ギルドのギルド長、サンダース様」
「サンダースだ」
出たよセガール、元嫁マミが好きだったハリウッド映画によく出てくる外国人俳優にそっくり。しかもこれまで落ちてきた就職面接に必ずいるタイプの強面男、嫌な予感しかしない。
「え~最後に、本日立会人として序列3位 銀等級冒険者でドワーフのガイア様に立会をお願いしております」
「ガイアだ」
ドリフ?なんだそりゃ?セガールにドリフ、相手にとって不足なし。今日この男たち、この面接試験を突破して、正社員に僕はなる。
「え~まず私から」
まず右手のセバスとかいう独特の話し方をする副ギルド長から質問タイム。
「え~まず現在の職業は?」
「自宅警備員です」
「はい?」
「・・・くっくっく、自宅を警備とはこれは愉快」
ドリフのおっさんのつかみはオッケー、中央に座るギルド長、セガールの表情は変わらず鉄仮面。ウソをついてもしょうがないので素で思った事を答えていく。セバスという面接官から続けて質問タイム。
「え~以前は何を?」
「倉庫で商品管理の仕事をしていましたが、先週クビになり今は無職です」
「・・え~なぜうちに?他にあては無かったのですか?」
「就職サイトで29社にエントリーしました。全部落ちました」
「29社?」
「はい、全部ダメでした」
「・・ふっ」
「くっくっくっ」
「え~ガイア様、真面目にお願いします。君も適当な事は言わないように。何ですか、その就職なんとかって言うのは」
中年男子最後の砦、就職サイトを知らんとは、よほど世間知らずな面接官だな。セバスが声を荒げる中、ギルド長セガールに若干の表情の変化がうかがえる。気にせず面接に全集中。
「え~なぜ君は冒険者になりたいのですか?」
「お金が必要だからです、たくさん」
「え~何にそんなに?」
「住宅ローン・・家の借金の返済と別れた妻子の養育費です」
「・・君が?」
「はい」
「・・え~いくらです?」
「月10万です」
「万?」
「ああっ、えっと」
そういえば耳の長いお姉さんも「円?」って言ってたな。この国の通貨単位が違っていた、確か3千円で銀貨3枚だったか。
「家の借金が銀貨70枚、子供のほうが銀貨30枚、合わせて銀貨月100枚です」
「なるほど」
「え~サンダース様。もう少し詳しく話を聞かない事には・・」
「もうよいセバス、スズ・キと言ったな小僧」
「はい、スズキです、スズキ」
大事なところなので2回言う。セガールがこちらを睨みつける、さっきからの高圧的な質問、知らないふりをしてこちらを馬鹿にしてくる物言い、明らかに圧迫面接。
過去に5度転職、先週失業、中年向け就職サイトで起こしたエントリーシートは29社へ一斉送信、結果はすべて玉砕、35歳の壁がすべてを阻む。今日30社目にしてようやくこぎつけた正社員採用の大チャンス、どんな質問でも中年男子の年季でカバーしてみせる。
中央に座るギルド長が、鬼のような形相でこちらを睨みつけて質問してくる。
「わしから最後の質問だ。海に囲まれる我が祖国オルレアン、その若さで妻子がいると言ったな小僧」
「はい」
「離縁した妻と子、船に乗り、まさに海に投げ出されたなら、スズキ!お前が海に飛び込み、どちらか1人だけ助けられるとするならば、お前はどちらを選ぶか?」
緊迫した雰囲気に包まれる応接室、ギルド長からの最後の質問に答える。
「僕は泳げないので、僕が海に飛び込んだところで、どうする事も出来ません」




