48.足跡
中央広場での『たい焼き』作戦は大成功をおさめ、数は分からないが、たくさんの銀貨が布の袋ぎっしりに詰まっている。前の前の仕事が生かされた、分量や焼き加減も体に染みついており、スキルでは無く経験が2年近く焼き続けた『たい焼き』をこの『ベネチア』で再現させてみせた、まさに40歳手前貫禄の技術。
チェーン店で正社員として『たい焼き』を焼いていたころ、子供の学校の行事で頼まれて、PTAの皆さんとともに『たい焼き』を作った事がある。マミのやつ、あいつも甘いものに目が無かった。子供も凄く喜んでくれて、あの時はまだパパとして・・ちゃんと出来てたのかもしれないな・・。
「もうすぐギルドだな銀等級」
「結構頑張ったもんね私たち」
ジョンとエリスが2人がかりで布袋をギルドに運ぶ。ブースの片づけを終えてから、クエスト完了報告のため、ギルド会館に向かい到着。ふたたび1階の窓口の受付にて、クエスト完了の報告を告げ、銀貨がたくさん詰まった布袋を受付に出す。
「これだけの銀貨を・・しばらくお待ち下さい」
先ほどクエスト発注の時と同じお姉さんが対応してくれる。何やら後ろに下がり、銀貨をカウントする機械のようなものに入れると、「ジャラジャラ」と音を立てながら機械が銀貨と銅貨に仕分けをしていく。しばらく待っていると音が消え、受付のお姉さんが戻ってきた。
「クエストお疲れ様でした。本日歩合制となっており、当ギルドにて売り上げの2割を手数料として徴収、残りを皆様へお渡し致します」
「・・はい」
手数料2割はオルレアンの倍の手数料。やはりこの『ベネチア』では国交が無い影響なのか、冷遇されている事はいがめない。
「銀貨しめて1500枚」
「ええ!」
「そんなに・・いくら残るんだ?」
「手数料300枚を引いた残り銀貨1200枚が皆様方の取り分となります、金貨への両替をご希望ですか?」
「お願いします」
受付のお姉さんにお願いすると、しばらくして金貨120枚が窓口に用意された。用意された金貨に3人が見とれているところで、窓口に座りお姉さんに声をかける。
「あの、少し聞きたい事がありまして・・」
「お答えできる事と、出来ない事がございます」
「それで結構です。15年前、オルレアンからアイリスという名の女性がここに来たか記録を調べて欲しいんですが」
「スズキ様!」
「おい銀等級、アイリスって・・」
「ルナ様の・・」
「お調べ出来たとしても、オルレアンの冒険者への記録の開示には、当ギルド長の決裁が必要です。お答えしかねます」
「やっぱり・・」
「僕たち、おっしゃる通りオルレアンの冒険者なんです。夜明けまでに『転移結晶』で戻らないといけないの、あなたもご存じですよね?」
「お答えしかねます」
「ご存じのように、僕たち、明日にはこの『ベネチア』からいなくなる冒険者なんです」
おもむろに手にある金貨120枚の入った布袋から、2枚金貨を取り出してわざと見えるように手のひらに乗せ、手を握って机に右手を乗せ、窓口のお姉さんにゆっくりこぶしを近づけていく。
「なんのつもりです!」
「それに僕・・人の話、すぐ忘れちゃうんですよね・・」
「・・・アイリス・・ですね」
「・・はい」
お姉さんも手をこぶしにして机に乗せ、周りから見えないように2人の手が窓口で一瞬重なる。なにやら結晶石のタブレットビジョンで調べてくれている様子。
「・・15年前、オルレアンからの来訪者が『水の神殿』にある『水のクリスタル』への謁見を願い出たと記録があります」
「それは、お母様の事!」
「ルナ様!・・静かに・・(しっ)」
「はい・・」
おもむろに金貨をさらに2枚手をこぶしに握り、お姉さんの方へさらに差し出す。
「・・来訪者から当ギルドに対して保管依頼を受けた署名状が保管されており、指定されたギルドカードの所有者が当ギルドへ来訪した際、署名状の譲渡が契約されております。現在はギルド長権限により、オルレアン関係者への譲渡は禁止されております」
「『署名状』?」
「前金をいただいており、廃棄まではされておりません。前金に対する保管期限は・・15回目の『仮面舞踏会』まで」
「それって・・」
「今日・・お姉さん」
さらに金貨を2枚追加、お姉さんの方へ差し出す。
「指定されたギルドカードの保有者名は・・・」
「・・記録では、譲渡可能なギルドカード保有者は『ルナ』または『ジャンヌ』となっております」
「お母様の署名状・・それを!」
「待ってルナ様、落ち着いて・・お、お姉さん。今日の『仮面舞踏会』で、もうその『署名状』は廃棄するんですよね?」
「・・当然です」
「廃棄する前に、一度保管庫から出さないといけませんよね・・」
勝負どころと感じ、金貨10枚をわざと見せてこぶしに握り、お姉さんの方へ少しずつ差し出す。
「スズキ様・・」
「ルナ様・・黙って・・」
「・・・はい」
おもむろに窓口のお姉さんが立ち上がり、後ろに下がって見えないところまで行ってしまった。
「おい、銀等級」
「イチロウ君、ルナ様のためなのよね」
「ごめん2人とも、せっかく稼いだ金貨・・」
「必要なんでしょ・・私たちは良いから、そのまま続けて」
「すまないエリス」
「今度『たい焼き』おごりなさいよ」
「ああ、もちろん。ルナ様、こっち座って、ルナ様には、この『署名状』を見る資格がある」
「はい・・」
「銀等級、戻ってきたぞ」
「よし、エリス、ジョン、僕らは離れるよ」
「おう」
「ルナ様、お母様があなたとジャンヌ様に残した『署名状』、しっかりご確認なさって下さい」
「はいエリス様、しっかり、この目で・・」
聖女ルナの後ろに下がる3人。窓口に座ったルナはじっと受付窓口のお姉さんの行動を目で追い続ける。お姉さんが窓口に戻ると、何やら手に書類を持っている、あれが、アイリスの・・『署名状』・・なのか・・。
「・・金等級様、ギルドカードを」
「はい」
「・・たしかに・・このギルドカードはこの場では見なかった事に致します。よろしいですね」
「・・はい」
「私はこの『署名状』を廃棄するために、一度中を開かねばなりません」
「・・」
聖女ルナが黙って座っていると、受付のお姉さんが、わざと『署名状』を開いて見えるように聖女ルナの目の前に差し出す。
「・・ギルド長は外出中です、お早く・・」
お姉さんが周りの様子を警戒している。ギルド会館は人の行き来があり、隣の2番窓口では冒険者との面談が続いている、こちらからも周りからは単に冒険者が手続きしているようにしか見えない。
聖女ルナがしばらくすると窓口で一礼する。すかさず受付のお姉さんは、『署名状』を丸めて後ろへ下がって行った。3人でルナに声をかける。
「ルナ様、いかがでしたか?」
「・・」
「ルナ様?」
「・・スズキ様」
「今できる事は全部やりました。あなたには、まだやらなきゃいけない事が残ってますよね?」
「あっ・・」
「女王陛下と約束しましたよね?」
「その通りです」
「行きましょう、ルナ様」
「あの、スズキ様」
「どうしました?」
「今回の件が終わりましたら、その・・」
「えっ、なんです?」
「ルナ様、夜明けが近づいています。急ぎ『ベネチア』の王宮へ!」
「エリスの言うとおりだ、ルナ様。ここまでで大分時間食っちまった、急がないとゲートが閉まっちまう」
4人は駆け足でギルド会館の出口へ向かう。夜明けがだんだんと近づいてくる。ルナの困惑した表情を、その時の他の3人には、うかがい知る余裕は無かった。




