46.仮面舞踏会
水の国『ベネチア』の王宮前の正門守衛で門前払いを食らった4人は、『ベネチア』にもあるであろうギルド会館を探しに街の中心部へやってきた。運河を海の方向へ逆に下っていく途中に気づく、何やら街中が綺麗な飾りで埋め尽くされ、まだ灯されてはいないものの、結晶石の埋め込まれたランタンのようなものが、街の至る所に散りばめられていた。
「今日は『ベネチア』で、年に1回のお祭りね」
「あなた何着ていく?」
運河のゴンドラに乗っている通行人の話が聞こえてくる、どうやら今夜は『ベネチア』のお祭りがあるらしい。
「あ、銀等級!あそこに看板が、『ギルド会館』って書いてるよ!」
「すごいぞジョン、お前、目が良いな!一緒にいてくれて助かったよ」
「へへ、ルナ様親衛隊として当然」
「あの・・」
「どうされましたルナ様?」
ルナが歩くのをやめて、顔を赤らめながら何やらモジモジして言いにくそうな表情を浮かべる。
「その。オルレアンにいる時からずっと思っていたのですが・・」
「どうされました?」
「その・・」
「何でも言って下さいルナ様!俺、ルナ様親衛隊だから何でも・・」
「ルナ様親衛隊って言われるのが・・恥ずかしいのです!!」
(恥ずかしいのです 恥ずかしいのです 恥ずかしいのです・・)
「それは申し訳ございません。ちょっとジョン、あんたちょっといい加減に・・ちょ、ちょっとジョン?なにボーっと突っ立ってんのよあんたは!」
ブロンズ像になり、あっちの世界に旅立ったジョンを、エリスが顔の頬をつねって必死にこちらの世界に呼び戻そうとしている。
しばらく戻ってきそうにないジョンを、エリスが顔をつねりながら手をつかんで誘導する。ようやくギルド会館に着いた頃には、もう日が地平線に沈みかかっていた。
『ベネチア』ギルド会館1階。造りは15年前のオルレアンにうりふたつ。茶色で木調の外観が、怪しい観光案内所の雰囲気を醸し出していて、懐かしささえ漂う。とにかくお金が急いで欲しい、手っ取り早くお金を稼ぐ方法を・・って、リンダさんに怒られそうな考えだな。
興奮する気持ちを抑えつつ、オルレアンと同じく1番窓口のギルドカード保有者窓口に行く。受付の対応者はオルレアンと同じくエルフだったが、どういうわけか対応が氷のように冷たかった。
「ご紹介できるクエストがございません」
「なんでですか?僕、これでも銀等級の・・」
「オルレアンの所属冒険者に、ご紹介できるものは無いと申しております」
「そ、そんなぁ・・」
「あの、少し宜しいでしょうか?」
1番窓口でクエストを紹介してもらえるよう交渉している自分に変わり、聖女ルナが窓口に座る。
「こちらが、わたくしのギルドカードです」
「な!?金等級!しばらくお待ちください!」
窓口のお姉さんが慌てたようすでルナの金色のギルドカードを震える手で結晶石にかざしている。どうやら金等級冒険者の地位は、この『ベネチア』においても不変なようだ。
聖女ルナが『ベネチア』に一緒にきてくれていなければ、ここでも門前払いをくらうところだった。
「ど、どのようなクエストをご所望ですか?わたくしどものギルドでは、金等級冒険者のあなた様といえども、オルレアン所属による限定的な紹介となります・・」
「それは存じております。どのようなクエストでもお受けします、今夜までに、引受可能なクエストで構いません」
「・・こんなクエストで宜しければ。クエストというよりは、今夜この『ベネチア』で行われるお祭り、『ベネチア仮面舞踏会』のお仕事ですが・・」
「仮面舞踏会って、今夜のお祭りの?それはどのような・・」
「『ベネチア』大臣の勅命により、全冒険者に開放されているクエストになります。この年に1度の『ベネチア仮面舞踏会』は、王族にとって『ベネチア』繁栄の象徴。交通誘導、清掃、出店に至るまで、あらゆる仮面舞踏会関連の仕事がクエストとなります」
「はあ・・」
聖女ルナがいまいちピンときていない表情なので、会話に割り込む。
「あのお姉さん。報酬が定額制じゃなくて、歩合制のクエストはあります?」
「歩合制なら・・露店が一応、該当します」
「僕たち何でもします。材料とか、素材とか、食材でもあれば・・」
「当ギルドが用意できるものが、すでに『中央広場』の倉庫に積まれております。王族サイドから当ギルド側に物資の供給がされておりますので・・ギルド所有の倉庫の物は自由に使っていただいて結構なのですが・・まあ、販売許可が出ればの話ですが」
「販売許可!?」
「あなた、職業は?」
「漁民ですが・・なにか?」
「ここは水の都『ベネチア』。当然、漁民であるあなたなら『魚』しか売る権利がありません」
「ええ!?材料自由に使えるのに、売れるのが『魚』だけなんですか!それってあまりに」
「漁民のあなたが何を言います。『ベネチア』の法律に反すると処刑されますよ、あなたたち。これは私からの忠告です」
「あの・・わたしたちなら、何かほかに売れたりします?」
「戦士の方は販売資格がありません。ついでに言っておきますが、本日は年に1度のお祭りにつき、討伐クエストはすべて中止となっております」
「ゴブリンチャンピオン倒すってクエストくらいを期待してたんだけど、とんだ検討外れね」
「なんだよ、それじゃあ俺たち、銀等級の漁民しかいないし・・」
「ここにきて、まさかの『魚』縛りね・・金貨100枚どころか、金貨1枚いくかどうかの話ね」
窓口に座るルナの両脇で必死に1番窓口に食らいつく3人だが、紹介されたクエストは祭りの露店という期待外れなクエスト。
倉庫にある物資を自由に使えるが、売れるものは職業に応じた海産物が限定されているというのが今回の条件。おまけに討伐系クエストは、冒険者を仮面舞踏会に集中させるためすべて中止。
明日の夜明けまで『月の雫』、水の戦士の2人は稼ぐすべを失ったに等しい。
「まだあきらめられない・・」
「銀等級・・」
「スズキ様・・」
「ルナ様・・受けよう」
「ええ!?(3人)」
「ルナ様!僕はどうしてもあきらめ切れない」
「で・・でも」
「アイリスに・・会いたいんだ・・」
「スズキ様・・クエストお受けいたします!」
「はい、金等級様。それではただいまより、手続きを致します」
「一度倉庫を見に行きましょう、あきらめるのはそれからでも遅くない・・」
「倉庫行ってどうするのイチロウ君、それより暗くなる前にオルレアンに引き返して」
「夜明けまで、まだ時間があります」
「あなた、どうしてそんなにクエストにこだわるのよ?」
「・・僕は・・アイリスに・・確かめたい事があるから」
「お母様に?」
「まずはお金を稼いで、親書を届ける。終わったら、アイリスの情報を探す。これを逃したら、チャンスが無くなる・・」
「スズキ様・・」
聖女ルナの持つ金色のギルドカードが1番窓口受付で手続きされている。アイリスに確かめたい事、15年前に、『風の神殿』で聞きそびれた事・・。
「マミ・・」
「・・はい?」
アイリス、お前は、やっぱり、マミだったのか?頼む、答えて・・くれ。




