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45.門前払

 『転移結晶』で『ベネチア』入りを果たした、聖女ルナと親衛隊『月の雫(つきのしずく)』3名。ゲートを抜けた先での兵士たちの妨害により『水の鎧』を1つ失ったものの、人的被害の発生無く、目的の『ベネチア』王族への親書を渡すべく王宮を目指す・・王宮って、どこだ?


「これからどうすれば・・」

「元気を出して下さいルナ様。ねえ銀等級様・・って呼びにくいので、名前で呼んでも良いかな?スズキ様」

「様はやめてよエリス、普通にスズキとかイチロウで良いよ」


「そうはいかないわよ、私、ブロンズ(序列4位)冒険者(ハンター)なんだから。一応(いちおう)、上司ですし」

「はは、一応(いちおう)・・だったら、イチロウでお願いします」

「はい、イチロウ君、よろしくです!ふふ」


「もう何でもいいよ。エリスは本当にクラウドの子供なんだね」

「え~何ですそれ?」

大雑把(おおざっぱ)なところがそっくり」

「え~」


「ぷっ、ふふふ・・」


「あら、ルナ様元気になった。イチロウ君、さすが銀等級」

「それ、銀等級関係ないでしょ?」


「ぷふっ、ふふふ」


 自分とエリスの会話がよほど面白いらしい。ルナの笑いが止まらなくなっている。くだらない会話をしていると、ジョンが声をかけてくる。


「なあエリス。俺たち、今からどこに行くんだ?」


「あれ見て分からないジョン?どう見たって、あの小高い丘の滝の上にあるお城でしょうよ。見るからにこの運河に沿って歩いて行けば着きそうだし、さっさと親書王宮に届けちゃおうよ」


「そうだなエリス。たっしかに、この運河の(かわ)を逆にさかのぼっていけば、どれもこれも全部あの滝に繋がってるもんな。あんな丘のてっぺんから、一体全体どうやって水が湧き出てるんだろうな?」


「それ!私も不思議で仕方ないのよ、『水のクリスタル』ってくらいだから、やっぱりクリスタルの加護(かご)のおかげじゃないのかな?」


「そうだな。にしても、こっちの『ベネチア』は『ベネチア』で、なんだか空気ジメジメしてて、もう『水の(よろい)』の中まで汗びっしょりだぜ?」


「オルレアンの『風のクリスタル』のおかげでしょ?空気はいつも風に吹かれて気持ちいいものね。ジメジメしてるって、こんな真昼間(まっぴるま)だから暑いのはあたりまえ。それにあんたはオルレアンにいたって、いつも(よろい)臭いんですけど」


「なんだよそれ、エリス!」


「ぷっ、ふふふ」


「ほらエリス!お前のせいでルナ様に笑われただろ!」


「あ、そんな事はございませんよジョン様」


(ジョン様 ジョン様 ジョン様・・)


「ジョ・・ジョン・・様・・」


「・・って、ジョン、ジョンってば聞いてんの?なにボーっと突っ立ってんのよ!さっさと歩きなさいよブロンズ(序列4位)冒険者(ハンター)!」


 ブロンズ像になったジョンが何やらあっちの世界に行ってしまったのを、エリスが顔をつねって必死にこちらの世界に連れ戻そうとしている。


 運河の(かわ)を常に小さなゴンドラが行き交い、物資を運ぶ小舟が混じり、相互がすれ違う程度の広さがある。当然、ゴンドラに乗るための『ベネチア』の通貨は無いため、全員で歩いて滝を目指す。もしこちらの通貨があるなら、きっとオルレアンでは馬車に乗るように、こちらではゴンドラに乗って優雅(ゆうが)にお城までたどり着けることだろう。


 海岸線から運河の脇道に沿って上り、時計が無いので分からないが30分程度歩いたところでようやく丘の上のお城の門近くまでたどり着いた。運河を抜けてしばらく石畳の道が続き、丘は反時計回りにU字にゆるやかに上っていたが、2・30メートルほどの立派な石橋の先にお城の正門がある。  

 この石橋、仕掛けがあり、両脇は金属のチェーンが通っており、この仕掛けのある石橋が降りている事で正門までたどり着ける。逆を言えば、この石橋が上がっていると、正門には入れない仕掛け。防御を意識した、戦略的な地形の配置、仕掛けのある石橋、まるで戦争を意識したような造りが印象的だ。


 石橋を渡り切り、正門の脇にある、守衛(しゅえい)らしき兵士に声をかける。


「ん?ああ、報告のあったオルレアンの4人組だな・・」

「報告って・・」

「お前たちはここを通さない。オルレアンのスパイかも知れんからな」


「私たちが・・」

「スパイですって?」

「親書があります。これを、王宮へ届け・・」


「帰った帰った」

「よし。じゃあ俺の『水の(よろい)』をやるからさ」


 ジョンが前に出ると、先ほどやったように『水の(よろい)』を交渉材料に持ち出す。しかし、先ほどと違い、兵士たちの反応は冷ややかだった。


「お前のその臭い鎧(くさいよろい)が『水の(よろい)』だって?」

「なんだと!これは本物の・・」

「俺たちはオルレアンを信用しない」

「まあ、入りたければ金貨100枚でも持ってくるんだな。さあ、帰った帰った、しっし」


「お前たち!」


「ジョン、ここは一度引こう」

「でも銀等級」

「イチロウの言う通り、ここでもめてもどうにもならないでしょ?戦争でも始める気?」


「分かったよ。でも、ルナ様が・・」


 全員で再び来た道を引き返す、石橋をまた戻ると、すれ違った馬車が石橋に入り、正門が開くや、お城の中に入っていく様子が見られた。


「・・変ね」

「何が?」

「おかしいと思わない?『風のクリスタル』の襲撃を、元々は『水のクリスタル』の啓示を伝える『ベネチア』の親書が教えてくれたのよ?」


「確かに、エリス様の言う通りです。これだけオルレアンの反感感情が兵士にあるとは、この『ベネチア』に来るまで思っても、みませんでした」

「じゃ、じゃああれか?エリスは先に来た『ベネチア』からの親書が嘘だって・・」

「嘘なら、私たち、もう(やみ)の襲撃でエルミタージュごと死んでたかも知れないでしょ?」

「そうだよな、そうだよ・・」


「まだ情報が足りませんが、『ベネチア』の国内でも、『水の(よろい)』の価値を知っている者と、それを信じようとしない者の2人に別れておりました」


「つまり『ベネチア』も1枚岩じゃないって事ね。今いじわるしてる兵士たちとは別に・・」

「オルレアンと繋がろうって勢力が、まさか!そいつらが親書を!ありえねえだろ」


「『ベネチア』の親書のおかげで、わたくしもジャンヌと一緒に、あらかじめ『風の神殿』へ満月の夜に備える事ができました・・」

「でもそのオルレアンに傾いてる勢力と、どうやって明日の夜明けまでに接触するって言うんだよ」


 丘の上から、『ベネチア』の街が一望できる。石橋の上から、滝が下に落ちて行くのが見える。滝が落ちきる場所から、いくえにも水が分岐し、街の中の運河につながり、水の流れが、『ベネチア』の街を伝って、海へと流れ込んでいた。


「金・・か」

「どうしましたスズキ様?」

「あ、オルレアン連合ギルドの職員に言われたことがあって、最後はお金って」

「・・さっきの門番?」


「あ、ええ。実は15年前、エルミタージュの受験試験を受けに正門の守衛に行った時、今日と同じように、ギルドカードが偽物じゃないかって疑われたんです」


「どうしたのよあなた?」

「あらかじめギルド会館の人に教えてもらってて・・金貨2枚で解決できました」

「あら」

「それじゃあよ、さっきのやつら・・」


「お金で動いている方は、お金でさらに動く・・」


「そんな話しててもしょうがないじゃない。金貨100枚なんて用意するのは、あと半日じゃできっこ無いわよ。ルナ様、私から進言します。ここはあなたの命が最も大事です。できるだけの事はやりました、ここは危険過ぎますので、急ぎオルレアンへ引き返しては・・」


「ちょっと待ってエリス。それじゃあ、アイリスを探しに行けない」

「え?」

「なにそれ?アイリスって・・15年前行方不明になった、ルナ様のお母様の事?今になって、なんでそれが出てくるのよ」


「スズキ様・・」


 駄目だ、親書を渡して、アイリスの情報を少しでも集めて帰らないと、この『ベネチア』に来た意味が無い。


「エリス、僕が、僕が何とかお金を稼ぎますんで。あの門番を黙らせるだけの大金を、今夜中に」

「イチロウ君、あなたがいくら銀等級でも・・」

「何かお金を稼ぐ手は・・」

「なあ銀等級。俺たち冒険者(ハンター)だろ?」

「え?なんだよジョン、当たり前だろ?」

「銀等級さ、最初にオルレアン来たとき、最初にどこ行った?」


「どこって、そりゃ。お金と情報が欲しくて、とりあえず・・」


「だろ!」

「偉いぞジョン!」

「ちょ、ちょっと待ちなさいよ馬鹿!敵国のギルドに何しにいくつもり?ルナ様も止めて下さい」


「ルナ様、聞いてくれ!」


「はい」


 ルナは驚いた表情をうかべ、こちらの話を聞く。


「お金があれば、門番とも今一度交渉できるかも知れない。親書も渡せるチャンスは、今日この1回しか無い!」


「はい」


「『ベネチア』のギルドに行けば、うまくいけばアイリスの情報も得られるかも知れない。もちろん危険もあるかも知れない」


「・・はい」


「ちょっとイチロウ君、そんな危険が分かってて、ルナ様を危険な目に」


「エリス様、もとより危険は承知の上です」


「ちょっと何ルナ様までイチロウ君みたいな事言い出すんですか?オルレアンにはあなたが必要・・」


「ルナ様、君はどうしたい?」


「え?スズキ様・・」


「聖女は君だ、金等級の序列を持つ君に、僕も最後は従う。今ここでおめおめとオルレアンに身ぐるみはがされて引き返すのか、『ベネチア』のギルドに乗り込んで、ひと稼ぎして親書を届ける、アイリスの情報も引き出す。今やらないで、君はいつやるんだ?」


「いつって・・」


「今だろ!」


「はい!わたくしもそう言おうと思っていました!」


「ちょっとルナ様、今一度考え直して」


「ルナ様、チャンスは待つんじゃない、自分の手でたぐり寄せるんだ!」


「はい、わたくしもそう思っていました!」


「ちょっとジョン、あんたも止めてよ!」

「俺たちはルナ様親衛隊なんだよ!いくぞエリス」

「あんたに聞いた私が馬鹿だったわ。も~、どうなっても知らないからね!」


 U字の丘の石畳を、急いで『ベネチア』の街に向かって下っていく4人。太陽がだんだん落ちて行き、夕日に変わるのも時間の問題だろう。ただうちのご主人様、『月の雫(つきのしずく)』が守る聖女ルナ様が一番に駆け出し、先頭をまっすぐ神官姿が小走りに走っている。

 『ベネチア』のギルドがどこにあるのか分からないが、ゴールの丘の上の王宮の場所は確認できた。まずはお金と情報を求めて、4人は『ベネチア』のギルド会館を目指す。



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