43.転移結晶
王宮の広場にいた聖女ルナ様親衛隊『月の雫』の3人、ジョン、エリス、『漁民』の3人が王宮内の施設に案内される。広い敷地をしばらく歩くと、先日晩餐会のあった会場の近くに小さな白い祠のような建物があった。
指導役の兵士に連れられてその場所につくと、白い建物の周りを多くの兵士が囲んでいた。その中心に、ルナ様とジャンヌ、ミューラ、ガイア先生の姿があった。兵士に誘導され、『水の鎧』に『槍』『盾』を装備した3人の『水属性』冒険者がルナ様の近くへ歩み寄る。兜を付けてマスクで顔が隠れたエリスがルナ様に声をかける。
「聖女ルナ様、我々冒険者3名は先ほど『風のクリスタル』へ宣誓を誓いました。聖女ルナ様の親衛隊『月の雫』以下3名、ルナ様にお供させていただきます」
「よろしくお願い致します。これほど心強い事はございません」
ルナ様が『月の雫』3人に向かって深々と頭を下げる。ルナ本人は生まれた時から金等級冒険者、序列がこちらの3人より上にも関わらず、お構いなしに頭を簡単に下げてくる。周りの兵士たちの見送りも、聖女ルナ様への敬意の現れ、先日までの自分の悪態、きっと罰が当たるに違いない。
「シャルル様!」
「女王陛下!」
「王宮を出られては、危険です!」
「下がれ!聖女ルナの見送りはわたくしが」
「シャルル様・・」
シャルル・・って、まさか、この国の王様の名前!どう見ても若い綺麗な女性。この国の王様って、女王だったのか・・。王宮を出ると危険って、王宮にはエルミタージュと同じように、ミューラの言ってた結界でも貼られてるのかな?『水の鎧』を全身に身にまとい、表情を隠したまま事の成り行きを見守る。
「良いですかルナ、わたくしの親書、たしかに渡しました。その使命を果たすのです、よいですね?」
「はいシャルル様。このわたくしの、命に変えましても」
「そこの3人、前へ!」
「(3人)はい!」
突然、シャルルと呼ばれる女王より指示が飛ぶ。たった1言、言われただけで体が反応してしまった。場の雰囲気も手伝ってか、全身が硬直する。
「我がシャルル7世こと、シャルル=ドゴールの名において命ずる!」
「(3人)ははー!」
「『水の戦士』たちよ、必ずや聖女ルナを守り抜き、我が前に無事に送り届けよ!」
「(3人)ははー!!」
1言1言の重みが違う、声が発せられるたびに、『水の鎧』を装備していても、トーンが体の芯まで突き抜ける。シャルル7世より声がかかるたび、共鳴するように3人で返答してしまう。
「『転移結晶』開けーー!!」
兵士から声が上がると、祠のような白い建物の中にあった石から青いブルーの光が放たれながら、人の背丈ほどのドア・・ゲートが徐々に・・開いていく・・。
「聖女ルナ様!『転移結晶』は明日の『日の出』とともに閉じる約束です。それ以上の開放は『宣戦布告』とみなされ、両国が危険にさらされますゆえ、それまでにくれぐれもお戻り下さい!」
「承知致しました、注意します」
「ルナお姉様!」
「ジャンヌ・・行って参ります。『風のクリスタル』をお願いね」
「ルナお姉様も、『水のクリスタル』と・・頑張って!」
青い光のゲートに、聖女ルナが先に歩みを進めようとすると、突然『水の鎧』を装備したジョンが飛び出す。
「ルナ様、あなた様が最初は危険です。親衛隊である、まず俺が最初に入って、様子を確かめてきます」
「まあ、えっと・・」
「ジョ・・ジョンです!」
「はい、ジョン、よろしくお願い致します」
「はい!お任せください!!」
そういうと、ジョンは明らかに嬉しそうな声で返事をするなり、先に『転移結晶』の青い光のゲートの中に入って行った。しばらくすると、ゲートの光の向こうからジョンの声が聞こえてきた。
「ルナ様、みんな、こっちは安全だ!」
「大丈夫みたいですね、さあ、ルナ様。わたくしとご一緒に『転移結晶』へ」
「はい、あの・・」
「エリスとお呼びください、同じ女同士、何かお困り事があればすぐにお声がけを・・」
「はい、女性の方もいらっしゃったのですね。頼りにしてます」
声を掛け合いながら、聖女ルナ様とエリスの2人は、手をつないで青い光の中に消えていった。
「さて、僕も・・(ガッチャン!!)」
『ベネチア』への第一歩を踏み外し、全員の前で、女王陛下の御前にて、豪快にこけてしまう。
鎧なんて普段装備しないので、いつもの歩く感覚で右足を出した瞬間、右足がちゃんと持ち上がらなかった。
腕力は上がっているが、脚力は上がっていないらしい。スキルカードを「ちゃんとチェック!(びしっ!)」するよう散々ミューラ先生に言われているのに、面倒くさいので全然チェックしていない、中年男子最大の悲劇。
感動の別れを一瞬でぶち壊すエアークラッシャーとは私の事。
「なにあれ」
「あれも『水属性』の冒険者?」
ゲートまであとわずか、こちらスズキ少尉、味方陣地にて、右足を負傷、メーデー、メーデー。海上自衛隊、オルレアン方面防衛隊、スズキイチロウ。ただいま世間という冷たい目の十字砲火が頭上を飛び交う。
(ピューン!ピューン!パパパパパ!!バリバリバリバリ!!ただいま妄想の中で、頭上を銃弾が飛び交っております。そのまましばらくお待ち下さい)
匍匐前進、みんなの視線が降り注ぐ、地面をはいずる漁民隊員、戦場の味方陣営から、銃弾がすべて自分に撃ち込まれてくる。
「女王陛下!危険です、お下がり下さい!」
「う、うむ。そのようじゃな・・」
あと20センチ、頭の先ちょっとだけゲートに侵入・・、この戦場をなんとしても切り抜ける。体、上半分、『ベネチア』に違法入国、おしり、まだ『オルレアン』・・・全身入国まで、あと少し・・。後ろで聞こえる味方陣地から、追撃の銃弾が撃ち込まれ続ける。
「大丈夫かあいつ?」
「ルナお姉様・・大丈夫かな・・薬草いっぱい・・持ってるかな・・」
「どんくさい・・まるでスズキ君みたいね・・」
青い光のゲートをなんとか通過、はいずり漁民が『ベネチア』に到達。『ベネチア』側で見守っていた3人からの視線が痛い・・・残念な人・・そんな目で私を・・見ないで・・。
『月の雫』の2人に抱え起こされ、『ベネチア』への入国が完了すると、こちらを取り囲む、たくさんの兵士の姿があった。




