41.親衛隊
『漁民』への転職を果たし、ギルド会館を後にする。『指定緊急招集』の集合場所は王宮、先日の忌まわしい記憶がよみがえる。聖女ルナ様に詰め寄られ、果ては野獣に襲われ死の淵をさまよった因縁の場所、いい思い出などまったく無い。
お城のある敷地内に王族が寝泊りしたり、先日の晩餐会のような事が行われる施設もある。まさにオルレアンの中心に君臨する王族象徴の建物の数々・・とリンダさんが言っていた。
ギルド会館を出て宿屋を過ぎ、洋服屋を過ぎて、大衆浴場『ウインダム』までやってくる。ここから嫌でも見える大きなお城、この街のシンボルと言って良いだろう、そのまま歩いてお城へ向かう。
先日馬車の窓から景色を眺めていたので、方向だけは何となく分かるし、あの大きなお城へ向かっていけばまず道に迷う事も無い、これならスズキ君でも行ける。ほどなくお城の門へ到着。
「止まれ!」
「『指定緊急招集』で来た冒険者です。はい、ギルドカード」
「結晶石をここに!」
ここでも結晶石によるギルドカードの偽造確認が行われる、エルミタージュの『風の神殿』前の防御要塞でも確認された。15年前なんてエルミタージュ正門で賄賂の金貨を渡したら目視だけで通してもらえた。
この15年後のオルレアン・・しいては現在の国のトップは、末端の兵士まできちんと教育ができているに違いない。たしか・・シャルル7世とか言ってたかな。
「間違いなく『水属性』の銀等級冒険者様!敬礼ーー!!(びしっ!)」
「どうも(びしっ!)」
こっちは体は少年体型、心はオッサン、年上への敬意を払い、体が勝手に警察官のように敬礼して右手の5本の指をまっすぐ伸ばし空に向かって45度、額にあてて敬礼する。
案内の兵士に連れられ、なにやら防具やら武器やらがたくさんある部屋に連れてこられた。
「これより『指定緊急招集』の装備品を支給致します」
「え、装備品?」
「こちらになります」
兵士がそう言うと、他の兵士たちが何やら『槍』『盾』スカイブルー色の『鎧』を持ってきた。
「こちらを急いで装備願います」
「ええ!重たそうですね・・」
「すでに『水属性』冒険者様の残りお2人が広場で待機されております。あなた様が最後の1人です」
「えっ、僕以外に2人?・・って、全部でたったの3人!?」
「お急ぎ願います」
「分かりました・・」
装備品が3つ支給され、とりあえずスカイブルー色の『鎧』を兵士に手伝ってもらいながら装備する。
「あれ?以外に軽い・・」
重厚な外観とは裏腹に、予想以上に軽かった。鉄のような重さも感じない。続いて『槍』『盾』を持ってみるが、左手に『盾』、右手に『槍』を装備、こちらも予想以上に軽く感じる。
傘よりちょっと重くて、野菜で言えば大根1つ持ってるような感覚・・もしかして、『漁民』になって腕力が上がったから軽く感じてるのかな?あとでスキルカードをチェックしておこう。きっと体力はリンダさんが言ってた通り、1のままなんだろうけど・・。
兵士にせかされ、急いで広場に向かうと、自分と同じ装備をした2体の兵士が広場の中央におり、何やら指導役と思われる重装備をした兵士が1名その前に立っていた。スカイブルー色の『鎧』を装備した2体の兵士は頭の兜がマスクとなって顔全体を覆っており、ヒューマンなのかエルフなのかをうかがい知る事はできない。
「よし、最後の1人が来たようだな」
「遅れてすいません(がちゃがちゃ)」
歩く度に、装備の金属音が「がちゃがちゃ」と音を立てる。
「では3名の冒険者よ、よくぞこの王宮に集まってくれた。君たち3名の『水属性』冒険者を呼んだのは他でもない。これより君たちは、ある要人の護衛にあたってもらう」
「え?」
「要人?誰のです?」
「それは機密事項につき、一切話す事はできん」
自分以外の2人が指導役に色々質問をしている。話声を聞くからに、1人は男、1人は女、種族は相変わらずヒューマンかエルフか違いは分からない。
エルフのミューラだって、日本にいてもただ耳の長い外人くらいにしか思われないだろう、ドリフ・・じゃない、ドワーフのガイア先生だって、ヒューマンとなんら変わりなく思う。
「君たちは、要人を今日1日護衛し、無事にこの王宮にお戻しするのが今回のクエストだ」
「なぜ『水属性』限定なんです?」
「答えられん」
「どこに行くんです?」
「答えられん」
何を聞いても、この指導役は一切何も答えてはくれそうにない。自分から答えてくれそうな質問をしてみる。
「あの・・」
「何だね、君は確か銀等級冒険者だったね」
「ええ!」
「『水属性』の銀等級冒険者なんて、オルレアンにいたかしら・・」
「その、銀等級には昨日昇進したばかりで・・はは。この青い鎧、何か他の鎧と違うなって・・はは」
「さすが銀等級冒険者様、目の付け所が違いますな。その青い鎧は30年まえの火のエルフ族との戦いの際し、当時の王族によって開発された『水属性』専用防具、『水の鎧』です」
「なるほど・・『炎の矢』や『ファイヤーブレス』から身を守れるために開発されたんですね」
「その通り、さすが銀等級冒険者様。その鎧は炎攻撃を軽減できるばかりでなく、『水の結晶』から発せられる特殊なオーラが敵の『感知』スキルを妨害し、隠密行動が可能となります」
「素晴らしい鎧じゃないですか!」
「おお、お分かりいただけますかな。さすがは銀等級冒険者様」
これさえあれば、どんなムフフな事を考えていてもアカレンジャーの魔の手から逃れる事ができる・・じゃない。炎耐性に優れて隠密行動も可能、なんて素敵な鎧なんだ。
それと、たしか30年前のエルフ族との戦いと言えば、『ベネチア』での『火属性』の迫害から逃れるため、ミューラやセバスさんがこのオルレアンに難民としてやってきて、ヒューマンやドワーフと争った時期に一致する。
『水のクリスタル』の加護でダメージを受けるはずの『火属性』のエルフや『火炎竜』が、どんな時系列でこのオルレアンにやってきたのか分からないが、ゴブリンの大軍を根絶やしにしたあの火炎の息から身を守るため、当時のオルレアンの『水属性』兵士専用防具があったとしても不思議では無い。
そういえば、石化した15年前、そのさらに15年前の30年前まではこのオルレアンにも『風のクリスタル』が無く、街中からゴブリンが影から湧いていたってセバスさんが言ってたな。
もしかして、30年前は、『ベネチア』にもオルレアンと同じように『水のクリスタル』が無くて・・そのあと、『水のクリスタル』が出現して・・だから、『火属性』のミューラ達エルフが、『ベネチア』を迫害されて・・歴史として繋がる。
今度セバスさんに会ったら、詳しく話を聞いてみよう。ミューラにはちょっと聞きにくい、なんだか言いにくそうに暗い顔してたし、セバス兄さんならこちらも聞きやすい。
指導役の兵士と広場で話をしていると、後ろから誰かが近寄ってくる、驚いた表情を浮かべる指導役が見ている背中の後ろに振り向くと、1人の神官姿の女の子が立っていた。
「ルナ様!なぜこちらに・・」
「お父様ですね、護衛は必要ありませんと申していましたのに」
そうだったのか。『指定緊急招集』、このクエストの発注したギルド長の考えがすぐに分かった。愛する娘が、黒装束の襲撃が予想される危険な『ベネチア』に親書を届けに行く。
アイリスの捜索をどこまで話しているのか知らないが、あの親馬鹿ギルド長が、手ぶらで愛娘をおいそれと異国に旅立たせるわけがない。
オルレアンでは絶滅寸前の『水属性』限定で冒険者を指定してきたのも、国交が無い『ベネチア』への入国制限のハードルがあったからだな。隣にいた別の冒険者がルナ様を見るや声を発する。
「要人とはルナ様の事でありましたか!」
「ルナ様、ぜひ私たちにお供させて下さい!おい、銀等級!お前も何か言ってくれ」
「えっと・・」
『水の鎧』で顔を鎧のマスクが覆っている、『水の結晶』の効果もあるのだろう、自分が今朝まで一緒にいたスズキとは気づいていないようだ。
ルナがこちらを見つめる。気丈に努めて表情は硬い、怒っているようにも見える。この顔・・まるで・・マミ。
(回想)(「あんたなんかに関係ないでしょ?わたしの事は放っておいてよ!」)
マミ、あの時も、僕なんか当てにならないから、1人で全部、抱え込んで・・あの時と同じ失敗は・・。
(そっちじゃないよ・・)
えっ啓示?同じ失敗、繰り返すなって事?・・もう・・マミにしてしまった時と・・同じ失敗は・・したく・・ない。
「ルナ様!」
「・・はい、何か?」
相変わらず無表情のルナの表情。でもどこか不安げな・・本当はこの子・・。
「我々は、ルナ様の親衛隊であります!」
「・・親衛隊?」
「はは!ご事情は知りませぬが、1人で抱え込まれるのはおやめ下さい!」
「わたくしは、1人で抱え込んでなど・・」
「微力ながら、我々3人がルナ様の親衛隊として、たとえ地の果てまでもお供致します!敵がルナ様を襲う時は、我々がルナ様の盾となりましょう!ルナ様がお困りの時は、我々がルナ様をお助けいたしましょう!」
「わ・・わたくしのワガママで・・今から危険な地へ旅立つのですよ!あなたたちを巻き添えに・・」
「よく言った銀等級!ルナ様、私も同意見です。ぜひルナ様を守らせて下さい!」
「地の果てまでもお供し、あなたを必ずやこのオルレアンの地へお戻し致します!」
「・・うっ、うう(ぐすっ)・・ありがとうございます。ぜひ、お願い致します・・」
「ルナ様」
「分かっていただけましたか」
聖女ルナが両手に手をあて涙を流している。本当はこの子、1人で行った事も無い、危険な『ベネチア』に行くのを、本当は怖がっていたに違いない。王族以外、『水属性』を持つものしか今の『ベネチア』には入国できない。ジャンヌとの約束を守るため、お姉ちゃんとしてやせ我慢していたはず。
聖女ルナはこちらの3人に向かって頭を下げると、奥の王宮の建物に戻って行った。




