39.我慢
『風のクリスタル』の啓示を聞き、『風の神殿』を後にする。防御要塞を再び通り、2時間目の授業があった石造りの煙突のある教室に戻ってくると、煙突から白い煙が立ち上り、部屋の中ではミューラが帰りを待っていた。
「あっ、みんなお帰りなさい。ルナ様とジャンヌ様も一緒だったんですね?」
「はい・・」
「・・・」
「ガイア様、スズキ君と授業どうでした?」
「・・・」
「ちょっと。みんな、どうしたのよ?黙り込んじゃって」
ミューラが『風の神殿』に行っている間、どうやらパンとシチューを作ってくれていたようだ。たくさん食べるドワーフのために、多めに用意してくれていたらしい。全員で工房の机に座り、ミューラの手作りシチューをいただきながら、先ほどあった『風のクリスタル』での啓示の話をする。
「じゃあ『水のクリスタル』に危機が迫ってるって事、そんな・・」
「そのようじゃの~」
「ガイア様、急いでサンダース様に報告しないと・・」
「国交が未だに無い『ベネチア』じゃからの~。こちらがどうこうできる問題でもないじゃけ~。後でサンダースに言って、王宮のシャルル7世様に親書を出してもらう他あるまいて。この前の『ベネチア』からの親書でオルレアンは黒装束の襲撃を予見出来た、そのお礼が今回の『風のクリスタル』の啓示じゃなかろうかの~」
「ガイア先生、『ベネチア』ってどこにあるんですか?僕、行ってみたいです」
「ええ!?(全員)」
「どうしたのスズキ君、急に・・」
「その・・どうしても行ってみたくて。『水のクリスタル』も心配ですし」
「そうだけど。前にも言ったように、物資の交易は再開したけど、人の交流はまだ王族クラスの会談がメインで、いくら銀等級冒険者と言えど、『転移結晶』が無いと簡単には行けないところなのよ」
「何です、その『転移結晶』って?」
「人の往来を可能にする、結晶石の事。『土のクリスタル』のある『アリゾナ』の『グランドキャニオン』でしか手に入らないとても希少な鉱石なの」
「僕が勝手にその『転移結晶』を使って『ベネチア』に行くのは・・」
「ほぼ無理ね」
「・・その『転移結晶』が使えないなら、直接行く方法は?そもそも『ベネチア』ってどこに」
「スズキ君、最初に私とあった浜辺、覚えてる?」
「ええ、忘れもしませんよ。海の向こうの地平線に・・1つ島が見えました・・」
「その通り、その島が『ベネチア』よ」
「じゃあ船とかで行けないんですか?」
「あんた馬鹿でしょ?魔物がうじゃうじゃいる海を渡るなんて、わざわざ死にに行くようなもの。ねえルナお姉様」
「そうですねジャンヌ。海路で行くのはほぼ自殺行為。クリスタルの加護から外れた瞬間、我々は余りに無力です。それに・・」
「それに?何ですルナ様」
「『水属性』が無いと、『ベネチア』には入国そのものが出来ません。この中で『水属性』を持つのはわたくしだけ・・」
「ええ!?そうなんですか?ミューラは?」
「ルナ様の言う通りよ。『火属性』なんて、今の『ベネチア』では即処刑されちゃうの」
「しょ、処刑なんてあんまりですよ・・」
「だから、私たち『火属性』のエルフは、元々『ベネチア』の難民だったの。30年前、このオルレアンに難民としてやってきたエルフは・・」
「・・元々おったわしらドワーフやヒューマンと敵対しての~」
「ええ!?じゃ、じゃあミューラとガイア先生って」
「戦っとったの~かれこれ30年前か、かっかっか。ミューラが目を血眼にさせて、わしを『炎の矢』で狙っておったわい」
「ちょっと、ガイア様。その話はもうしないで下さいよ~」
「・・セバスさんから聞いた事があります。昔、異種族で、オルレアンが、『風のクリスタル』が無かった頃、争ってたって。で、でも、それでオルレアン連合ギルドを作ったサンダース様が、その争いを終わらせたんですよね?」
「スズキ君よく知ってる、さすが私の生徒ね」
「あ、そうだ!火炎竜で海が危ないなら空からビュビュッと飛んで」
「それはダメ」
「え?何でです?」
「『水のクリスタル』の加護で、『火属性』のあの子がダメージ受けちゃうの。あの子怖がって、とても『ベネチア』なんて行けない」
「と・・いう事は」
「くっくっく、小僧。『ベネチア』に行くのはあきらめろ。こちらも『ベネチア』と同じようにすぐに親書を出す、今わしらに出来るのはそれだけじゃわい」
「・・それでも・・」
「ねえ、あんた。そんなに『ベネチア』、何で行きたいわけ?」
「えっ?ジャンヌには関係無いだろ(バチッ!)痛た、何すんだよ!」
「アイリスお母様、探しに行くって言いなさいよ」
「ジャンヌ・・」
「ジャンヌ、あなた・・」
「ルナ姉様は『水属性』持ってるから行けるけど、私は『風属性』だから行けないの!本当は私だって、アイリスお母様を探しに行きたいの!」
「ジャンヌ、あなた今までそんな事、一言も言ってこなかったのに・・あなたのせいね・・」
「えっ?僕ですか?」
「あなたが現れてから、ジャンヌの様子がおかしいのです。最近はいつもいつもあなたの話ばかりして」
「ちょっとルナお姉様。それ言わないでってお願いした」
「ごめんなさい。あなたが最近、我慢してた事が爆発したみたいに色々しゃべるから、つい・・」
「はいはい2人とも落ち着いて。アイリス様を探しに行きたいっていうその気持ち、ジャンヌ様、とても素敵な事ですよ」
「うん。でも私、『水属性』無いし・・」
「・・分かりました。わたくしが親書を持って、『ベネチア』に行って参ります」
「ええ!?(全員)」
「ちょっとルナ様まで。ルナ様がオルレアンを離れられたら、この街はどうなるのです?」
「『風のクリスタル』は私が守る!ルナお姉さまは私の代わりにアイリスお母様を探してきて、お願い!」
「ふふ、ジャンヌったら。もっと早く言って下さいな。本当にこの農民様が来てから、あなたもわたくしも変わってしまうのですね。『風のクリスタル』の啓示を届けに行くだけです、決してアイリスお母様を探しに行くのではありません」
「ルナ様もジャンヌ様も・・まったくも~少しは私の話を聞いて下さい。国交が無いんですよ、国交が。どうやって行くつもり何ですか、も~」
「かっかっか、これは一本取られたの~ミューラや。まあ、同じ同志の『水属性』なら、処刑まではせんじゃろうて」
ここまでの話で、陸路・海路・空路が潰れ、農民は完全に蚊帳の外になってしまった。アイリスを探しに一緒に行きたい、でもいくら銀等級冒険者になったからといって、所詮は農民・・ん?農民?
「王室が保有する『転移結晶』があれば・・」
『水属性』なら、『ベネチア』に入国出来る。
「シャルル7世にお願いして~まずサンダース様の書状を~」
『水属性』じゃないと、『ベネチア』に行って、アイリスを探す事は・・できない。




