表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
39/301

38.風の啓示

 2時間目の授業、ガイア先生の『精錬(せいれん)』の授業が終了する。気づいた時には、鉄や(なまり)(かたまり)を色々な形に変える技術をマスターしていた。話をまるで聞いてなかったのに、体は勝手に覚えてくれるらしい、なんて優秀な体。


「かっかっか、小僧、これで農具もたくさん作れるぞい」

「それはすごく嬉しいです。わ~い・・」


 使わないなこの技術(スキル)。農具ならホームセンターで売ってるでしょ?なんで1時間も『金床(かねとこ)』叩き続けて、こんなの自分で作らないといけないのか、令和時代の僕には理解できない。優秀な若い体に対して、中年男子のおっさんの心はすさんでいる。


「(げしっ)痛た!」

「これ小僧、鉄をけるで無い!鉄の神様のたたりがあるでな」


 外に出ようとして鉄の(かたまり)につまづき負傷する農民。職人、ドワーフ、技術者の皆さん、毎日お勤めご苦労様です。こんな技術とか思ってすいません、反省してます、尊敬してます、体力1しか無いんで許して下さい。


(そっちじゃないよ・・いそいで・・)


「あっ・・また・・」

「どした小僧?」

「その・・啓示(けいじ)ってやつが、また聞こえて・・」

「ほお、啓示とな・・こりゃまた、たまげた。『風のクリスタル』様が、お前のこと、呼んどるのかも知れんな」

「え?『風のクリスタル』ですか?それって・・」


「『風の神殿』じゃな。どれ、このまま今日最後の3時間目、始めてみようかの」

「それって、これから行くって事ですか?」

「あそこはあの15年前の事件以来、関係者以外立ち入り禁止じゃからの。通行には今では大教皇様か聖女様、冒険者(ハンター)とて銀等級(序列3位)冒険者(ハンター)以上の序列ランクが必要じゃ」

「ああ、じゃあ僕は入れませんね・・」


「何を言っとるか?小僧、お前さん、今朝(けさ)銀等級(序列3位)冒険者(ハンター)になったばかりじゃろうが」


「え?あ!そうですよ!」


「かっかっか、おまえさんには『風の神殿』に入る資格がある。さあ行くぞい」

「分かりましたガイア先生!」


 煙突(えんとつ)のある工房(こうぼう)のような教室を出て、そのまま3時間目の授業、風の神殿に向かう。時間は11時を少し過ぎたところ、本日エルミタージュでの最後の授業。

 太陽が直上にのぼり、からっとした空気の中にあって心地よい日差しが照り付ける。日本の蒸し蒸しした空気とは大違いでとても過ごしやすい、これも『風のクリスタル』の加護(かご)のおかげなのだろう、オルレアンでも良い作物が育ちそうだ。


 『風の神殿』近くの防御要塞に到着。先日の襲撃(しゅうげき)の跡が、まだ生々しく残っている。要塞入口の兵士たちが挨拶してくる。


「ガイア様に敬礼!」

「かっかっか、元気元気。これよりこの小僧を『風の神殿』へ連れて行く」

「しかし・・ガイア様、いかにガイア様のご指示とはいえ、このような農民を・・規定(きてい)反し(はんし)ます」

「くっくっく、ほれ、小僧。あれを」


「はい、ギルドカードです」


「これは赤いブロンズ(序列4位)冒険者(ハンター)、やはり規定に・・」


「ごめんなさい。そういえばまだギルドで更新してもらって無かった。はい、こっち。今朝もらったばかりなんで、すいません、間違えました」

「おい誰か、結晶石(けっしょうせき)を持ってこい」

「はい、ただいま」


 門番がもう1人の門番に指示し、なにやら自分の銀色のギルドカードを結晶石と呼ばれるビジョンにかざしてチェックしている。偽物(にせもの)で無いか確認してるのかな?まるで空港の手荷物検査のようだ。


「これはまさしく本物!し、失礼致しました!銀等級(序列3位)冒険者(ハンター)様に敬礼!!」


「ええ!?そんなあらたまらなくても大丈夫ですよ、僕、農民で・・」

「そうは参りません。この国のブロンズ(序列4位)冒険者(ハンター)以下、すべてあなた様の部下となります」

「かっかっか、まあ行くぞ小僧。好きにさせてやろうでは無いか」

「はい。では行って参ります(びしっ)」


「お気をつけて!(びしっ!)」


 互いに敬礼をして別れる。突然オルレアンの下位冒険者(ハンター)たちが部下になった。レベル1で体力1、スキルは『筆記』や『採掘』としょぼいスキルばっかり。名ばかり管理職(かんりしょく)とは私の事。


「ああ!あちらにおられるのは聖女様!全員、聖女様に敬礼!!(びしっ!)」


え?聖女だって?兵士たちの敬礼しているうしろを振り向くと、なんと制服姿のルナとジャンヌの2人だった。


「あっ・・あなた・・」

「それにガイア様も!」

「かっかっか、なるほどなるほど。『風の啓示』を聞いたのは、小僧だけではなかったようじゃの~」


「ええ!?まさかそっちも?」

「ジャンヌが『風の啓示』が聞こえるからって来てみたら、まさか、あなたまでいるなんて・・」

「くっくっく、話は早そうじゃわい。さあ、『風のクリスタル』様のつぶやきじゃわい、行ってみようかのう~」


「(3人)はい」


 銀等級(序列3位)冒険者(ハンター)のドワーフ、ガイア先生を先頭に、ルナ、ジャンヌ、農民の順番に要塞の中を抜け、しばらく歩くと『風の神殿』に到着する。


「ここ・・」

「小僧・・そういえばお前さん、15年前にここで戦ったそうじゃの?」

「はい・・激戦(げきせん)でした・・。ここで、僕と兵士たちが黒装束(くろしょうぞく)の影と戦いになって。最後は『風の神殿』を守る兵士たちが陣形(じんけい)を組んで突撃して突破口を開いてくれたんです。僕を『風のクリスタル』の部屋まで導くのに、どれだけの兵士が犠牲になったのか・・」


「そんな・・」

「知らなかったよ・・」

「行こうかの・・」


 15年前とはいえ、自分にとっては石化したほんの数日前の出来事。本当に昨日の事のように、まだ兵士たちの突撃する声が聞こえてくるようだ。周囲から小鳥のさえずりが聞こえ、当時の面影(おもかげ)はまったくと言って良いほど無い。ドワーフと3人は『風の神殿』内部に入る。


「こっちです、『風のクリスタル』の部屋、ここを右に」

「おお、さすがじゃの小僧」

「15年前も『風の神殿』に入ったのは初めてで、その時、道に迷ったんです。そしたら、声が聞こえて、そっちじゃないよって、いそいでって・・。アイリスを助けたくって、本当はもっと早く走りたかったんです。でもその時、僕、胸の肋骨(ろっこつ)折れてて・・」


「そんな体で、お母様を助けに?」

「うん、ルナ様のお母さんだったね。あの子・・アイリスってさ、僕の同級生で・・・」

「お母様と同級生?85期生って事?」

「うん、とても頑固(がんこ)で、とても優しくて、とても強い人だった。15年前『風のクリスタル』の部屋についた時・・」


 『風の神殿』内部の通路を歩き、部屋の扉からエメラルドグリーンの光が漏れ出る部屋が通路左手に見えてきた。間違いない、あそこが、この前、15年前、アイリスとの、マミとの・・最後に会った場所。

 ルナとジャンヌが、『風のクリスタル』の部屋の扉を2人で開ける。


 扉を開くと、通路の先までエメラルドグリーンの光が波紋(はもん)のように広がり、周囲を温かく、優しく照らす。部屋の奥の台座(だいざ)には、15年前と変わらず、大きなエメラルドグリーンの結晶が浮かんでいた。


綺麗(きれい)・・」

素敵(すてき)・・」


 ルナとジャンヌが『風のクリスタル』に見とれている。ただ、自分にとってこの光は・・あの15年前の思い出がよみがえる。


「ねえ、イチ・・ロウ?」

「え?ジャンヌ・・うん」

「お母様と、ここで・・15年前・・」

黒装束(くろしょうぞく)の影2つと・・(やみ)のクリスタルってそいつら言ってて・・」


(やみ)のクリスタルじゃと!まさかそんな大それた堕落(だらく)の象徴を、この神聖な『風の神殿』に持ち込むなど・・ゆるせん!」

「この部屋に入ったら、そいつら、黒い炎で『風のクリスタル』目がけて攻撃してて・・必死にアイリスが、光の壁で『風のクリスタル』を守ってて・・」


「それで、あなたは『上位昇進(レベルブースト)』をお母様にかけたのですね」

「そうです、ルナ様・・本当は、ミューラにかけるつもりでエルミタージュに来てて・・なりゆきで・・ここまで来る事になって・・」

「小僧・・それも『風のクリスタル』様のお導き(おみちびき)じゃったのかも分らんな」


「あんたは・・その、どうして石像になったの?」

「『上位昇進(レベルブースト)』かけたアイリスが『ホーリーマザー』になって・・」

「『ホーリーマザー』ですって!それは神に等しい存在です」


「なんか影のやつらもそう言ってて、突然手に持ってた黒い結晶を投げつけられて・・」

「なるほど・・小僧・・お前さんの『上位昇進(レベルブースト)』を封じて、アイリス様がふたたび『ホーリーマザー』になれんように仕向け(しむけ)たんじゃの。敵ながら、なかなかの策士(さくし)じゃわい」

「その後は・・あまり・・言いたくありません・・」


「ごめんなさい。わたくしたち・・」

「あなたの事を、誤解しておりました・・。心より、お詫び(おわび)致します」

「え?」


 ルナとジャンヌが、『風のクリスタル』を背に、エメラルドグリーンの光を背に並んでこちらに頭を下げてくる。


「(2人)お母様を助けて下さって、ありがとうございました」

「2人とも・・頭をあげ・・」


(ピカッ!!)『風のクリスタル』の優しかった波紋(はもん)の光が爆発する。辺り(あたり)の空間が、エメラルドグリーンの光に包まれ、足元と天井、空間の境が無くなり、全員がエメラルドグリーンの宇宙に浮かんでいた。


(いそいで・・)


「これは・・この声ですよ、啓示!」

「わたくしにも聞こえます、ジャンヌは?」

「ルナお姉様、私の聞こえた声もこれだよ!」

「わしにも聞こえるわい・・まるで、100年前に聞いた『土のクリスタル』の声によう似とるの~」


(いそいで・・みずのくりすたるに・・)


「え?」


「『水のクリスタル』が、どうされたんですか?」


(みずのくりすたるに・・やみが・・せまって・・)


「(全員)(やみ)・・」



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ