37.存在の証(あかし)
王立学院エルミタージュ 第100期生・・の中に第85期生が1名。1時間目のミューラ先生の講義が1時間で終了し、ミューラの勧めで2時間目は「スズキ君も会った事のあるガイア様が講義をされるから、行ってみて損は無いわよ」との事で、講義のある教室へ向かう。
正門まっすぐ進んだ講堂から『風の神殿』方向の中心部へ歩く事10分、指定された場所に到着するまでに随分と時間がかかり、危うく10時の開始時間に間に合わなくなるところだった。というか、着いた先は教室というよりは工房、石造りの小さな家には煙突が付いており、煙突の先から煙がもくもくと立ち上っていた。1列目に座っていたルナとジャンヌは別の講義に行ったらしく、周囲を見渡すと・・誰も・・いない・・。
「(トントン)失礼しま~す」
「かっかっか、1人生徒が来たようじゃの~」
「ガイアさん!」
冒険者の面接官かつ、銀等級冒険者昇進時に証人となってくれたドリフのおっさん事ガイアさんが1人部屋の中におり、何やらカマドに薪を入れて火を起こす姿が目に入ってきた。
「あの・・ガイアさん・・じゃないや、ガイア先生」
「かっかっか、なんじゃ小僧?」
「あえて言いますけど・・ガイア先生の授業・・人気無いですよね」
「くっくっく、はっきり言うの~」
どうやら図星のようだ。さっきの1時間目、ゆうに生徒は100名を超え、テストの答えだけ最初にピンポイントレクチャー。その後は言いたい事をマシンガントークでぺちゃくちゃ言っている可愛い美人のエルフを眺めるだけの簡単な講義。人気が出ないわけが無い。
対してこっちのドリフのおっさん。講堂からは馬車でも使わないとやたら教室遠いし、来たところで顔が炭で真っ黒になりそうな煙が漂っている。特に女性層を中心に、最も受けたくない授業ベスト3にランクインしそうな勢い。
「あのガイア先生、今日は何の授業です?」
「今日は「金床」と「ふいご」を使った、鉄製品の作成について~」
「あ~なるほど」
「なんじゃ小僧?」
「なんで貴族に人気が無いのか、一発で理解できました」
「なんじゃ?言うてみい」
「ガイアさんはガイアさんのままでいて下さい」
「ん?」
かまわず授業に入るよう生徒からうながす、よほどこの教室に生徒が来る事が無かったようだ。ガイアさんはまったく授業慣れしていない。
「・・ガイア先生、鉄製品を作るのに何かスキルって入ります?僕、今『筆記』と『地図』しか持って無くて」
「はっはっは、それでは駄目じゃの~。出来れば『精錬』があれば・・」
「ちょっと待って下さい・・えっとスキルカードっと」
年季の入ってきた黄色いスキルカードを出す。タブレットビジョンを起動させると、所有スキル『筆記』『地図』と表示され、スキルポイントの残りを見て目を見開く。
「6850ポイント・・なんで・・いつの間に」
「なんじゃ?どうした小僧、スキルポイント足りんのか?」
おかしいおかしい、そんなにクエストやってない。だとしたらあの黒装束の襲撃、自分でゴブリン倒した記憶も無いし・・そもそも15年も石化してたし・・。
「え、いや、ポイントはたくさんあるんですけど・・その、ガイア先生。スキルポイントって自分が石化されてる間の15年で増えるとしたら・・どんな原因が考えられますかね?」
「ふ~む、わしもこれで250歳じゃが、わしの嫁さんが戦士での~」
「250・・エルフのミューラはたしか・・か、考えるな、考えるな」
「どうした小僧?」
「い、いえ。戦士・・女性なのにすごいですね」
「かっかっか、ドワーフはヒューマンとは逆で女性の方が活発で攻撃的じゃからの~」
「いえ、そんな事も無いですよ。むしろ今は女性の方が攻撃的で野性的です」
「かーかっかっか、意見が合うの~小僧~。その嫁さんがの、ゴブリン倒すと入るんじゃよ、スキルポイントが」
「え?それって、クエストのパーティーだからじゃないんですか?」
「たしかに、わしがサンダースとセバスとギルドでパーティー組んでおった時は、サンダースが一騎当千で片づけては、大量のスキルポイントがわんさか入ったもんじゃぜよ」
「え!?ガイア先生もサンダースさんやセバスさんとパーティーだったんですね」
「そうじゃ。まあ、クエスト終わらせると、ギルドを離れて何日かする間はスキルポイント入っとらんかったからの~あのサンダースが1日において狩りをせん事はまずありえん、解散中仲間の分はノーカウントじゃったな」
たしかに、ミューラとゴブリンチャンピオンを最初に倒した時に50ポイント入ってたけど、クエストのパーティー解散した後はスキルポイントは溜まっていなかったな。どこかでミューラがゴブリンを退治していたとしても、ちゃんとギルドで登録したクエストでパーティーを組んでいた時しかスキルポイントは入らないのかも知れない。
「じゃあその、ガイア先生のお嫁さんが戦士なんでしたよね?もしかして、結婚してるとスキルポイントって」
「そうじゃ、わしがここでこうしておっても、嫁さんがガンガン稼いでくれるでの、おかげでわしも高等錬成技術を取得し放題、みんなには内緒じゃが、ついに金貨の複製までできるようになってしもうての~今度オルレアンの金貨を作っとる造貨局に誘われておるんじゃわい、かっかっか、稼ぎもええての~」
「貨幣技術って、高度な技術ですよね・・スキルポイント結構いります?」
「ざっと5000じゃの」
「5000・・」
250歳というからモノサシが違うだろうが、今の自分の6850ポイントもかすんで見える。きっとゴブリン倒して1ポイントなら、ガイアさんのお嫁さんが相当暴れてる事が容易に想像できる。
「ドワーフに伝わる言い伝えじゃの、スキルと嫁さんは永遠の輝きじゃと」
「素敵な奥さんですね・・」
「わしは錬成技術を高めて、嫁さんの装備を鍛えてるんじゃよ」
「すごい、二人三脚ですね。うちとは大違い・・」
「なんじゃ小僧?そういえば試験で離縁した妻がいるとか言っておったが」
「え?あ、ああ、ははは。あれ、僕の、勘違いです、多分。勝手に僕がそう思ってただけで」
「おかしな小僧じゃの」
ますます分からなくなってきた。『風の神殿』でミューラが火炎竜の『ファイヤーブレス』でゴブリンを一層していたが、当然結婚しておらず、15年前のあの時はギルドに登録してクエストを一緒にこなしていたわけでは無い。結婚していないミューラが倒したものが加算されているわけでもなさそうだ。
結婚している、結婚している人・・と・・という事は・・このオルレアンで、自分は、誓って、結婚など、していない。もし、マミ・・とは、まだ離婚協議中で・・一応、戸籍上はまだ夫婦。変な事に気づいてしまった。今まで散々マミの面影に惑わされてきたが、やっぱりマミ、こっちに来てるに違いない!
もし、もしも、スキルポイントが「6850ポイント」なんて短期間にこれだけ増えた原因を考えるに・・自分1人では絶対にこんなに稼げない。考えられるシナリオは・・・一番可能性があるのは、アイリスに『風の神殿』で使った『上位昇進』。
あの15年前の襲撃の際、後から聞いた話ではゴブリンの大軍が一瞬で消え去ったと。『光属性』を持つアイリスであれば、一瞬でゴブリンたちを浄化出来たはず。あの火炎竜に乗って上空からみたゴブリンの大軍とこのスキルポイントなら合点が行く。
そして、当然・・ギルドでクエストは・・パーティーは・・登録して、いない。奇跡を起こしたのが・・倒したのが・・嫁であるマミで無い限り、ポイントは・・増えない・・はず。マミで無い限り・・アイリスが・・マミなら・・それは・・可能・・・。
「どうした小僧。顔が青いぞ?」
「すいません。変な事考えちゃって、あはは。そ、そうでしたそうでしたガイア先生、『精錬』ってどうやったらスキル取れます?僕、今『採掘』なら取れそうです」
「おお、『精錬』は『採掘』の次の派生じゃてい、まずは『採掘』を」
「分かりました。(ぽちっ)」
スキル『採掘』を10ポイントでゲット。残りスキルポイント6840ポイント。
「続いて『精錬』を」
「はい(ぽちっ)」
スキル『精錬』を40ポイントでゲット。残りスキルポイント6800ポイント。
「では『金床』の使い方じゃがの~」
その後、ガイア先生から鉄の塊からいろいろな道具を作れる事を1時間のあいだにみっちり教わったのだが、マミの、スキルポイントの謎が気になり、ガイア先生の話が、全然頭の中に入ってこなかった。




