36.水属性
王立学院エルミタージュ 8時30分 授業開始時間 学院内には「き~んこ~んか~んこ~ん」と授業開始を知らせる音が鳴り響く。
ジャンヌにマミの幻影を感じ、猛ダッシュで講堂内へ駆け込んだところで迷子になり、学生服の女子と修道服姿の女子によからぬ感情を抱いた次の瞬間、駆け付けたアカレンジャーに拘束され教室に連行された。
「はい、今日の授業はクリスタルについて、みんな集中して聞いてちょうだい」
「(全員)はい!」
「とくにそこのスズキ君!」
「へ?はい!」
「女の子ばっかり見てないで!授業に集中しなさいよね!」
「(生徒たち)はははははは」
ルナとジャンヌとは別れ、1列目中央に座る姉妹とはなるべく離れるように教室の一番後ろの隅で座っているところを不意に指摘されてしまう。どこにいても、何を考えていても、すべてバレてしまう。何て恐ろしい先生なんだ。
100名を超すであろう人気のミューラ先生の講義に集まった学生服を着た生徒たちから笑いが起きる。どうやら人気講師は大きな教室が割り当てられるのだろう、好きな授業が受けられる単位制って以前言ってたな。
日本の大学みたいなシステム、どうせまた貴族の坊ちゃんが全員卒業できるように、テストの答えを冒頭持ってくるに違いない。
「ではまず質問から、はい、スズキ君!」
「ええ!?何ですか?」
「(生徒たち)はははは」
教室から笑い声が上がる。
「『水のクリスタル』のある国の名前は?簡単でしょ?」
「・・・『熱海』です」
「ぶぶー!全然違う、なによそれ?」
「(生徒たち)わははははは」
教室は大爆笑。
「まったく・・では~ジャンヌ様、お願いします」
「馬鹿でしょあいつ・・かつての同盟国、『ベネチア』です」
「はい正解、さすがジャンヌ様。ここテストに出ます!」
全員が一斉にメモを取る、バラして良いのか試験問題?おかしいでしょ。文句を言いつつ、自分も忘れるのでスキルカードを起動してノートにメモを取る、なんだろう『ベネチア』って。
「15年前の事件により、同盟国では無くなったものの、最近では『風のクリスタル』の恩恵により日中の日照時間の長い事、定期的な季節風と降水量の恵みを受けるオルレアンの農作物と、『水のクリスタル』の恩恵を受けて街そのものが港になっている『ベネチア』産の海産物の交易が盛んに行われており~」
ふ~ん、たまたま『風のクリスタル』の加護のあるこのオルレアンに来たから正職員の『農民』になったけど、もし『水のクリスタル』のあるベネチアに来ていたら正職員の『漁民』でも悪くないな・・あれ、そういえば、以前ギルド会館のサリーさんから『漁民』になるよう勧められた記憶が・・。ミューラがさらに講義を進める。
「オルレアンでは属性の区別無く誰でもなれる『農民』が人口比率では一番多く、対して水の街『ベネチア』では『水のクリスタル』の影響と考えられる『水属性』のヒューマン・エルフ・ドワーフが多く、人口比率で一番多く従事している職業が『漁民』です。なお、『漁民』は『農民』と違って、『水属性』を持たないとなれない職業となっており~」
え?・・『水属性』が無いと・・『漁民』には・・なれない?なんで。てことは・・自分は、『水属性』持ってるって事?
で、でも、農民は誰でもなれるのがそもそもおかしいのでは?『土属性』限定って方が自然じゃあ・・はっ!そうか、なるほど。確かに日本でもおじいちゃんおばあちゃんみんな農民だし、ちょっとした一軒家にいる専業主婦が庭で家庭菜園やってるし、マミだって自宅マンションのリビングで家庭菜園で土盛ってたし。
しかもマミ、台所で「ネギって延びるのよね~」とか言いながら伸びたネギを僕のラーメンにだけ刻んで出してきたこともある。なるほど、今、自分の職業『農民』だけど、これって、誰しも農民にはなれるって事なのか・・。
「このオルレアンにおいて、『水属性』は極めてまれであり、その1人が『光』と『水』の属性を持つ、聖女ルナ様です」
「(生徒たち)おおーー」
教室で感嘆の声が響く。
『水属性』がこの『風のクリスタル』のあるオルレアンではまれな存在・・じゃあ、自分は・・。
(そっちじゃないよ・・すぐにきて・・)
「え?」
教室でミューラの講義を聞いているとき、突然、時々聞こえる、あの声が・・する・・。声がする方を探して、顔をきょろきょろさせる。
(そっちじゃないよ・・すぐにきて・・)
教室の一番後ろに座っていたので、前の列の様子が一望できる位置にいる。自分と同じように、キョロキョロ何かを探しているようなそぶりを見せる女の子が1人・・短い金髪の髪を揺らしていたのは、1列目の姉のルナの隣に座る、妹のジャンヌだった。




