33.親馬鹿
(回想)(「一郎・・」)
(「どうしたマミ?」)
(「・・・」)
(「マミ、おいマミって。何か言いたい事があるのか?はっきり言ってくれってマミ」)
(「あのね・・」)
(「うん・・」)
(「そのね・・」)
(「うん・・」)
(「私たち・・離婚しよう・・」)
(「嘘だろマミ!僕を、僕を、見捨てないでくれーー!!」)
「・・・君、・・・キ君、スズキ君」
「はっ・・・」
悪夢・・知ってる天井。
「大丈夫?スズキ君」
「ああ、サリーさん。おはようございます」
太陽の光がまぶしい。昨日の夜の晩餐会会場から一転、見慣れたギルド会館の治療室の窓から朝日が差し込んでいた。
「心配したんだからね!」
目を覚ますと、オルレアン連合ギルドの一番窓口受付、エルフのサリーさんが抱き付いてきた。
「サリーさん・・すいません。そういえば15年も石化してたんですよね・・ただいま戻りました」
「本当だよ~」
自分にとっては昨日の事のようだが、サリーさんたちにとっては15年も前の石化したヒューマンが突然目の前に復活したに等しいはず。
「あのサリーさん。泣いてるところ悪いんですが、さっきまで僕、王宮にいたような・・」
「昨日の夜に瀕死の状態で運ばれてきたんだよ!オルレアンで唯一、蘇生魔法の使えるセバス様がいるこのギルドに、兵士たちがスズキ君担いで来てビックリ」
「そうなんですか、セバスさんが・・僕、よく生きてましたね」
「スズキ君レベル1で体力も1でしょ?あと少しで死んじゃってたんだって」
「さらっと言わないで下さいよサリーさん・・かなり危険だったわけですね」
「王宮で何があったの?」
「野獣に噛みつかれまして」
「誰が野獣よ!」
「え!?」
なんと、部屋の隅にルナとジャンヌの姿が、2人ともエルミタージュの制服を着てスカート姿。近づこうとするジャンヌを、ミューラが止めようとジャンヌの肩を両手で抑えていた。
「ジャンヌ様、こらえて下さい。スズキ君レベル1しかないんです、弱いんです。また叩いたりしたら、昨日みたいになっちゃいますよ」
「ううーー」
野獣がうなりを上げながら両手の拳を握りしめ、こちらに襲い掛かるのを必死にこらえている。
「(がちゃ)え~スズキ君は起きましたか?」
「あ、セバスさん。お久しぶりです」
「兄さん」
「え~元気そうで何より」
セバスさんとはギルド会館の屋上で火炎竜を召還してもらって以来の再会だ。
「何か蘇生してもらったみたいで、すいません」
「え~かなり危険な状態でしたが・・一体、何がどうなったらそうなるのか・・」
「野獣に襲われたんですよ」
「誰が野獣よ!!」
「ジャンヌ様、落ち着いて。スズキ君も挑発しないの!アイリス様の娘様ですよ、もう」
「ううーー」
ジャンヌがふたたび威嚇の様相、今にも襲い掛かって、こちらの1しかない体力を削る気満々だ。
「(がちゃ)小僧は無事か?」
出た、セガール。
「あ、パパーー!」
「お父様」
「ええ!?」
おもわず口に出てしまった、なんだとなんだと!パパだって!?
お姉ちゃんのルナが「お父様」とか言いながらセガールの右手に寄り添う。妹のジャンヌは「パパ」と言いつつセガールに飛びつき、ひょいと左手に飛び乗っている。
完全に仲の良すぎる親子のやりとり、こちらを無視して会話を始めている。
「パパ、あのねあのね。この前のあれ、ジャンヌやっぱり欲しくなっちゃったの」
「おお~そうかそうかジャンヌ。よしよし、今度買ってあげよう~」
さっきまで完全に獣の目をしていたジャンヌは一転、パパにおねだりタイム。一方のお姉ちゃんは・・。
「あの、お父様、少し困った事がございまして・・」
「どうしたルナ、言ってみなさい」
「教会で日曜日に礼拝があるのですが、人手が少し足りないようで・・」
「ルナ、そういう事は遠慮せず早く言いなさい!すぐにギルドで手配させる」
「お父様・・いつもいつもすいません」
なに勝手にギルド長権限を私用に使ってるんだ。さっきから聞いていれば、どれもこれも双子の姉妹のおねだりばっかり、普段見せない崩れた表情でセガールが笑っている、信じられない。
「おおジャンヌ、可愛い可愛い」
「おひげジョリジョリしてて痛いよパパ~スリスリしないでよ~」
なんて親馬鹿なんだ・・この2人のパパって事は・・アイリスが嫁!ま、まさか、たしかアイリスには許嫁のライン=ハルトがいたはず。アイリスがこんなハリウッド映画に出そうな強面男と結婚するはずが・・そういえば昔、マミが・・。
(回想)(「やっぱりセガール最高!一郎もこのDVD見なさいよ、あんたとは大違い、しびれるわ~。なんで私、あんたとなんか結婚したんだろ」)
アイリス・・たしか『西洋教会』の大教皇の1人娘とか言ってたな、しかもアイリスが許嫁を裏切ってまでセガールと結婚するなんて考えにくい・・もしも、もしも・・。
「お父様・・実は次の日曜日も~」
自分と同じ・・マミがこのオルレアンに来ていて・・アイリスとして振舞っていたとするならば・・すべてが合点がいく。
「そうかそうか、そっちもお父さんに任せなさい。ルナは何1つ心配しなくてよろしい」
石化して・・いや、それすら計算されていた?元旦那が死んだのを見計らい、かねてより目をつけていたセガールになびき、その子を宿したとしても・・不思議では・・。
「ねえパパ、あいつねあいつね(ごにょごにょ)」
ん?何やらパパに抱っこされているジャンヌがこちらを指さしてヒソヒソ耳元でささやいている。セガールの顔がどんどん鬼の形相へと変わっていく。
「それでねそれでね(ごにょごにょ)」
何かチクってる、あいつ。
「何!小僧ーーー!!!」
「は、はゃい」
セガールがジャンヌを抱き降ろすや、殺す気満々でベッドに座っているこちらに近づいてくる。
「小僧貴様!私の娘に、なんてことをしてくれたかーー!!(バァァァーーン!!)」
「ひーー!?」
セガールの右ストレート炸裂。ベッドの上で体を起こして座っていたこちらの顔の、ほんのちょっと右をかすめながら壁をぶち抜く。治療室の壁に大穴が空き、噴煙がギルド会館の外に巻き起こっていた。
「小僧!今回は貴様の功績に免じて命だけは助けてやる、だがしかーし!」
「ひゃ、ひゃい」
「次にルナとジャンヌに近づくような事あらば、その命、次こそ無いものと思うがいい、良いか!!」
「りょ、了解しますた」
こんな危険なパパに近づかれては、命がいくつあっても足りない。全員があっけにとられている中、セバスだけが冷静に話はじめる。
「え~サンダース様、これで何回目ですかな?ここの壁の修理費用も、サンダース様のお給料から差し引いておきますので~」
「セバス、それはあまりに・・」
「この前も壊したばかりではありませんか。本当に口より先に手が出る、あなたの悪いくせですぞ」
ギルド長のサンダースと副ギルド長のセバスが話をする横で、ジャンヌがこちらをニヤニヤしながら見ているのが腹立たしい。あの笑い方も・・まるで・・マミに・・そっくりじゃないか・・・。




