30.十字の光
王立学院エルミタージュ 地下牢屋
変態の汚名を背負い、牢屋の中でうずくまる。ミューラが去ってどれくらい時間が経っただろうか、今頃サンダース様に報告出来たのだろうか?
やる事も無いので、ミューラが先ほど渡してくれた赤いギルドカードを起動する。カード自体は汚れてはいるものの、タブレットサイズのビジョンが表示されると、ちゃんと星のマークが映っている、どうやら使用には問題なさそう。
続いて黄色いスキルカードを手にとって眺める。15年前、ラインハルトとの決闘で憧れの公務員に3分だけだったけどなれた・・・きっとこいつ、かなり無理したはず、こんなに傷ついて、夢をありがとう・・・。
深夜 王立学院エルミタージュ
黒装束を着た2つの影が、結界を突破し、学院内に侵入する。
「15年ぶりか・・円華、陽動の手はずは?」
「もちろんよ刹那、チャンピオンにはまだ早い」
「お前らしいな、頼りにしている」
「『風の神殿』までお願いね。すべては・・」
「(2人)闇のクリスタル復活のために」
(ドォォォォーーーン)
「敵襲ーー!!」
牢屋の天井が振動し、砂煙とともに砂がボロボロ落ちてくる。この振動、啓示の話、これは、やつらが攻めてきたのか?誰かが階段を降りてくる音がする。
「(かん かん かん かん)スズキ君!」
「ミューラ!」
「彼を出して!」
「いけませんミューラ様!」
「この『署名状』を見なさい!」
「それはサンダース様の!はい、ただいま!」
(ガラガラガラガラ)牢屋の扉が開かれる。
「急いでスズキ君、もうそこまで、黒装束の2つの影が迫ってる!」
「黒装束!?」
「聖女様が先に向かわれたわ!あなたも来て!」
「聖女様?」
ミューラとともに牢屋の階段を上にのぼる。
(ドォォォーーン!)
「うわ!」
爆発が収まると、要塞の壁に大穴があいていた。砂煙が舞い上がり、次第に晴れると黒装束の2つの影が見えてきた。
「刹那、『風の神殿』へ」
「いくぞ円華」
「待ちなさい!」
「何者!?」
「ここから先へは」
「(2人)一歩も通しません!!」
「ルナ様とジャンヌ様が来られたぞ!」
「我々には、聖女様がついてるぞ!」
金髪の髪をした2人の女の子が、黒い2つの影に立ちはだかる。『風の神殿』近くの要塞からは、ニ聖女の登場に兵士たちの士気が上がる。
「・・似ている」
「どうした刹那?」
「空似か・・すぐに片付ける」
「任せたわ」
刹那と呼ばれる黒装束の影が、腰から引き抜いた剣を天にかざす。顔はフードで覆われており、表情をうかがい知る事はできない。
「アストラルバルト!」
上空から黒い雷が剣に落ち、刹那が黒いオーラに包まれる。。
「ルナお姉様!闇がくる!」
刹那が剣を振りかざす。
「必殺!ブラックセイバー!!」
漆黒の閃光が2人の聖女目がけて放たれた。
神官の姿をしたルナが杖を、騎士の姿をしたジャンヌが剣をかまえる。
「ジャンヌ、あれをやるわ」
「ルナお姉様!」
杖と剣が天に重なる。
「(2人)ニ重魔法! 聖なる光の多重壁!!」
ニ聖女の展開した聖なる光の多重壁に、ブラックセイバーが着弾する。
(ズガァァァーーン!)
「(パリーン!)キャー!!」
『聖なる光の多重壁』は砕け散る。辺りの巻き上がった砂ぼこりが収まると、要塞側は2人の展開した光の壁を境に無傷だったものの、敵側には展開した光の壁を境に大穴が空き、ブラックセイバーの破壊力を物語っていた。
「やったわ刹那。ニ聖女の揃ってのお出まし、こちらにとっては好都合・・『闇の召還』・・」
黒装束を着た円華と呼ばれる影が『闇の召還』と叫ぶや、満月で照らされた大地に出来たあちこちの地面の影から、地面を埋め尽くすほどのゴブリンが湧き出す。
刹那と円華の近くの影では、周辺の大木よりも背丈のあるひと際大きなゴブリンが徐々に姿を現してくる。
「ゴブリンの大軍だーー!」
「大きいぞ・・あれはまさか・・ゴブリンチャンピオンだ!!」
同刻 牢屋の階段をかけあがるミューラと囚人
さっきから上の方で、やたら大きな爆発音が聞こえた。兵士たちの叫びも聞こえる、ただ事ではなさそうだ。
要塞の外に出ると、すでにあたりは真っ暗な闇に覆われ、空を見上げると、黄色い満月が輝いていた。牢屋の上は要塞になっており、壁にある無数のたいまつが辺りを灯す。石造りの壁の2階から、兵士たちがゴブリン目がけて矢を次々と放っていた。
「ミューラ・・これって」
「15年前の再来ね・・あれは!ゴブリンチャンピオン!しかも・・闇の・・」
ミューラが声を震わせて見ている方向に目をやると、以前遭遇した事のあるゴブリンチャンピオンと同じサイズの巨体があった。月夜を受けて巨大な影がこちらの要塞にのびている、チャンピオンからは黒いオーラがふつふつと立ち上っていた。
「聖女様は・・・いた!ルナ様、ジャンヌ様、ご無事ですか?」
ミューラが地面に横たわっていた2人の女の子の近くにかけよる。
(ズシーン!ズシーン!)「ウォォォォーーー!!」
黒いゴブリンチャンピオンが歩く度に大地が揺れる。雄たけびをあげながら近づいてくる。
「うう・・だ、大丈夫。ルナお姉様は?」
「こっちも大丈夫よジャンヌ・・ミューラ様、来てくれたのですね・・ああ!?」
「ミューラ先生!そこの変態、危険です!早く離れて!」
「ううっ・・」
こいつら、あの時の2人・・まだ根に持ってるのか。
「この子はスズキ君で・・・」
(ズシーン!ズシーン)「ガーーーーーー!!」
闇のゴブリンチャンピオンが天に両手をかざす、黒い炎の塊が、ゴブリンチャンピオンの頭上で少しずつ大きくなっていく。
「まずい!もう時間がない、スズキ君!」
「は、はい!」
「『上位昇進』いける?」
「ちょっと待ってください・・」
慌てて赤いギルドカードを出し、ビジョンを起動、星のマークをタッチ。そのまま、『序列昇進』をタッチすると、黄金色のカードが出現し手に取る。
「いけます!ミューラに・・」
「駄目!」
「どうして?『竜レンジャー』になれば、ミューラなら一発で・・」
「15年前の森で会ったチャンピオンとは違う。『火属性』の私じゃ、闇のゴブリンチャンピオンに致命傷を与えても、また闇の力で再生するだけ!『光属性』で攻撃して、浄化しないとあいつには勝てない!ルナ様、ジャンヌ様、スキルカードを出して!」
「え?」
「はい・・これ・・」
ミューラが2人から黄色いスキルカードを受け取るや、手のひらに乗せ、こっちに差し出してくる。
「スズキ君、1回しか使えない。『上位昇進』は私にも扱いが分からない、あなたが選ぶのよ」
「(3人)ええ!?」
「先生、嫌です!」
「そうだよミューラ、何でこの2人に?」
「ガーーーーーー!!」
黒い炎の塊が大きくなっていく。
「『光属性』はこの子たちだけなの!早く選んでスズキ君!」
「ええ!?」
ど、どうする。2人の姉妹がめちゃめちゃ嫌そうな目でこちらを見ている。すでに2人の好感度は地に落ち、こちらは2人にとって変態以外何者でもない存在。年功序列、やはりここは・・。
「ではお姉ちゃんに・・」
「ええ!?」
「チャンピオンが撃ってくる!はい、ルナ様のスキルカード!早く入れてスズキ君!」
ルナと呼ばれる女の子のスキルカードを受け取る。長い金髪、神官姿の女の子が、涙ぐみながらこちらに目で訴えてくる。この顔・・泣きそうな顔がマミにそっくりだ。
「お願い・・入れないで・・」
「ぐっ・・むむ・・」
無垢な瞳が必死に訴えてくる。罪悪感が半端ない。『上位昇進』の黄金色カードを、ルナのスキルカードに挿し込もうとする手を止める。
(そっちじゃないよ・・)
「え?・・や、やっぱり妹!」
「ええ!?絶対に嫌!!」
お姉ちゃんよりも妹はさらに酷い拒絶反応。こっちはわざわざスキルで強くしてやろうとしてるのに、段々腹が立ってきた。
ミューラからジャンヌと呼ばれる女の子のスキルカードを受け取る。短い髪、セーラー服のような騎士の姿の女の子が、涙ぐみながらこっちを睨みつけてくる。この顔・・怒った顔がマミにそっくりだ。
「君に決めた、もう入れるから」
「嫌!やめてよ!」
ジャンヌがスキルカードに右から挿し込もうとするこちらの右手にしがみつき、必死の抵抗。
「(がちゃがちゃ)あ、あれ?入らない」
「それ大きすぎて、入んないよ!!」
「そんなわけあるか(がちゃがちゃ)」
「無理矢理しないで!壊れちゃうよ!」
「ちょっとだけだから(がちゃがちゃ)」
「やめてよ!!」
「ガーーーーーー!!」
黒い炎の塊がますます大きくなり、ゴブリンチャンピオンの顔よりもはるかに大きく膨れ上がる。
「スズキ君!ジャンヌ様は左利きだから、左の穴から入れて!早く!」
「よし、入った。いいかジャンヌ!合図したら、メイクアップと叫ぶんだ!」
「嫌ーー!!意味わかんないよ!!」
「みんながやられてもいいのか!」
「ガーーーーーー!!」
ゴブリンチャンピオンが両手を振りかざし、黒い炎の塊をこちらに投げつけてくる。
「ジャンヌ!」
「ジャンヌ様!!」
「ぐすん・・めいく・・」
「『上位昇進』!」
【上位昇進 マミフレナ=ジャンヌ=ダルク 属性『光』『風』】
【職業ジョブ】『聖騎士』→『ロードオブパラディン(神)』
【レベル】『レベル15』→『レベル45』
【固有スキル】『2刀流』『光の螺旋』
【固有装備】『三種の神器:エクスカリバー(光)』『ラグナロク(風)』
アイリスの時と同じように、天使のような光の羽が生える。青い瞳は金色に変わり、無垢だった顔が大人びた表情に変わる。
ゴブリンチャンピオンの放った黒い炎の塊が、こちらの眼前に迫る。ジャンヌは両手に剣を持ち、右手のエメラルドグリーンに輝く剣を天にかざし、左手の白金に輝く剣を水平に構えると、『風の神殿』がある背中の後ろでエメラルドグリーンの発光が夜空を照らした次の瞬間、ジャンヌが両手に持った剣を十字に振り下ろす。
「グランドクロス!!」
(ズバッ!!・・シューー・・・・)
放たれた光の十字架が、黒い炎の塊とゴブリンチャンピオンを一瞬で吹き飛ばした。ジャンヌは両手の剣を地面に手放し、続いて両手を開いて伸ばし体の前にかざす。
「光の螺旋!!」
(ピカッ!パァーー)『上位昇進』したジャンヌを中心に波紋が広がり、あたり一帯を光が幾重にも流れていく。
「ギギィィ(バン!)・・コツン コツン」
光がゴブリンの大軍に当たった瞬間、ゴブリンたちは黒い霧となって吹き飛び、一瞬にして魔石に変わっていく。
「グググッ・・ゴブリンどもが・・・か、『風のクリスタル』を・・」
「引くわよ刹那」
「しかし円華!」
「駄目」
「なぜ?」
「あなたはここで終わる人じゃない」
「・・しかし」
「陽動は成功した。予定通り先に水を攻める。相手の能力が分からない、諸刃と合流するわよ」
「くっ・・了解した」
(ビュン!)
2つの影は消え去り、おびただしい数の魔石が、あたり一帯に、無数に散らばっていた。
次第に空が明るくなり、海の向こうの地平線から、太陽が昇ってくる。
オルレアンに、朝がやってきた。




