29.水の啓示
(がらがらがらがら・・バーーン!!)牢屋の檻が閉まる。
「スズキ君、ごめ~ん」
さっきまで入っていた牢屋へ再び送還される。兵士たちが監視する中、ミューラは檻の外から謝っていた。
「何ですさっきの?」
「ほんとごめん、本当にスズキ君だったから、信じられなくて」
「またそんな嘘を・・」
「嘘じゃないの、本当なの」
「はいはい。しかもさっきの弁護になってないでしょ?普通そこは「この人はそんな事をするような人ではありません」って言うんですよ。なんで自分の思いを伝えて終わるんですか?また牢屋ですよ僕」
「スズキ君、結局なにしたの?」
「知りませんよ、気づいたら石化が・・あっ、解けたんですよ!石化が!」
「・・・『伝説の農民像』はやっぱりスズキ君だったのね・・うっ・・うう・・」
「ミュ、ミューラ?」
ミューラが両手をあてて泣き始める、石化されたのは、昨日のはずじゃあ・・・。
「あのさミューラ・・その・・アイリス・・は?」
「ぐすっ・・アイリス様は・・今は、行方不明なの・・」
「ええ!?昨日まで一緒にいましたよ?」
「あなたはそうかも知れないけど、スズキ君が石化されてた15年間、色々あったのよ・・」
「15年!?それはさすがに嘘・・」
「う・・ううっ・・」
ミューラの涙が真実と物語る。アイリスやミューラ、兵士たちと一緒に戦った『風の神殿』での出来事が昨日のようだ。
「・・ねえ、スズキ君」
「はい・・」
「あの日・・『風の神殿』で、一体何があったの?」
「・・・はい」
あの日、火炎竜に乗ったミューラと別れてからの出来事を、ミューラにすべて話した。
「・・そうだったの、やっぱりアイリス様に『上位昇進』を・・」
「まさか神までランクが上がるなんて、思ってもみなくて・・」
「それでスズキ君は、アイリス様の身代わりに石にされたのね・・頑張ったね、偉かったね・・」
「・・今でも、どうしたらよかったのか僕には・・あっ、アイリスは?行方不明って・・」
「スズキ君、一緒に『風の神殿』に向かった兵士たちの事、憶えてる?」
「ええ、憶えてます。とても勇敢な兵士たちでした」
「生き残った兵士たちが、『風のクリスタル』の部屋で石になったスズキ君とアイリス様を見つけたの。石像がスズキ君だって、アイリス様が話されたそうよ」
「そうなんですね・・それで?」
「その後は・・あの頃のアイリス様は・・とても見てられなくって・・・」
「アイリス・・・」
「でもね、時が経って、アイリス様が身ごもられて・・それで」
「ちょっと待って下さい!身ごもる?アイリスが?」
「そうなの。アイリス様、あまりお話にならなくて・・・国のみんなは、救世主の誕生だって、みんな大騒ぎだったの・・」
「そうなん・・ですね・・。石化してた間に、そんな事に・・」
「アイリス様がお話できるようになったのも、ルナ様とジャンヌ様がお腹の中にいるって分かったぐらいかな・・その時からアイリス様、やっと笑顔を見せるようになられて・・」
「双子・・だったんですね・・でも、なんで行方不明なんです?」
「あなたを助ける方法を探すために、『水のクリスタル』のあるオルレアンとの同盟国『ベネチア』に向かわれたの」
「同盟国『ベネチア』?」
「そう、君がオルレアンに来た頃は、まだ転移結晶で誰しも自由に行き来してたんだけど、アイリス様はルナ様とジャンヌ様が生まれた後すぐ、あなたの石化を解く方法を探しに『ベネチア』に向かわれて・・そのまま・・」
「探しに行かなきゃ!」
「もちろん!そうしたの・・でも、『ベネチア』の冒険者も見つけられなくて。怒った『西洋教会』と、当時のシャルル5世が、オルレアンに報告に来た『ベネチア』の冒険者を処刑しちゃって・・それ以来、同盟国だった『ベネチア』とは国交断絶」
「それっきり、見つからないって事ですか?」
「・・そうなの。15年経って、ようやく『ベネチア』との人と物の行き来が再開されたんだけど、未だにアイリス様の情報が入ってこないのよ。それどころか・・」
「何です?」
「『ベネチア』から親書で警告があったの。『水のクリスタル』の啓示があったって」
「また啓示ですか・・それって一体・・」
(そっちじゃないよ・・・)
「あっ・・」
「どうしたのスズキ君?」
「いえ・・僕・・その啓示・・聞いた事、あるかもです」
「そうなの?啓示は、クリスタルの導きって言われているの」
「それで?その『水のクリスタル』の啓示って何です?」
「オルレアンの『風のクリスタル』に、闇が迫って・・」
「闇って、僕を石化した、あの奈落とかってやつらの事じゃあ・・」
「今日のスズキ君の話でようやくつながったわ。アイリス様を『風の神殿』で襲った、その奈落や諸刃ってやつらが、ふたたび『風のクリスタル』を破壊しにくるはず」
「そ、それって・・」
「『ベネチア』の親書には、『満月の夜』ってあったの・・」
「いつです、次の満月は?」
「・・今日」
「そんな・・」
「スズキ君、私はこの事をサンダース様に伝えに行くわ。もう少しの辛抱だから、ここで我慢してて頂戴」
「分かりました、急いでミューラ!」
「それと、これ」
「え?」
ミューラは、赤いギルドカードと、黄色いスキルカードを渡してくる。ところどころ痛んだカードを、檻の外から柵の中に、ミューラが差し出してくる。
「これ・・」
「私が大事に持ってたの・・スズキ君!」
「はい」
「オルレアンを、わたしたちを、もう一度、守って・・じゃあ」
「気をつけてミューラ!」
ミューラは小走りに、牢屋の階段を上にあがっていく。




