2.ハローワーク
目覚めた砂浜から、街へ歩く途中、出会ったお姉さんから声をかけられる。
「このあたりのヒューマン・・じゃなさそうね」
「はい・・たぶん・・」
「とりあえず君、ここ危険なんですけど」
「えっ!?そうなんですか?」
「近くに街があるから、安全なところへ移動しましょう。ついて来なさい」
「お願いします」
浜辺で出会ったお姉さんに促されて街があるという方向へ進む。ここがどこで、どこが安全なのか分からない。素直にお姉さんに従おうと思う。
「お姉さんは何で僕に声をかけてくれたんですか?」
「危険な浜辺で寝てる人なんてあなたくらいよ、死にたいの?」
仰向けに寝ていた砂浜は何かが出るから危険らしい。
2人は砂浜を海とは反対の平地側に向けて歩いて行く。
「あなた職業は?」
「職業?」
「仕事よ仕事、通じないわね」
「ああ、先週クビになりました」
「えっ、そうなの?」
美人のお姉さんの好感度を一瞬で下げる男。
「手持ちはあるの?」
「あ、そういえば財布・・あれ?」
「どうしたの?」
自宅マンションから持って出たはずの財布が無い。ジャラジャラという硬貨がこすれる音がする。何か布袋みたいなのものに財布が変わっていると感じた、お金の音がするのは間違いない。中に手を突っ込むと、何やら銀色の硬貨が3枚入っていた。
「銀貨は持ってるのね」
「銀貨?僕3千円持ってたはずなんです」
「円?なにそれ」
コンビニに行くのに3千円財布の中にあったはず。それがどうしてこんなコインに変わってるんだ?
「家も無いし、宿なしかぁ、やっぱりギルド連れてくしかないかな」
「何ですギルドって?」
「ギルドも知らないの?・・ふぅ」
お姉さんがまるで残念な人を見るように腕を組んでこちらを眺める。
「ギルドっていうのは仕事を紹介してくれるところ。定職にありつける冒険者は無理にして、まずは日雇いの仕事かな・・絶対仕事がもらえるかは行ってみないと分からないけど」
「仕事がもらえないと、どうなるんです?」
「私に聞かれても・・ギルドカードが無くても出来る日雇いの仕事ならいくらでもあるし」
「ギルドカード?」
よく分からないが、要は明日行こうとしてた日本のハローワークみたいなものか。今の職業は【自宅警備員(自称)】。志は高いが金は一銭も入らない。
浜辺で目が覚めてから混乱してたけど、段分落ち着いて冷静になってきた。まだ自分が死んだとも限らないし、家に帰るにしても先立つものが無いと何もできない、情報も欲しい。まずはそのギルドに行って、今度はギルドの受付のお姉さんに色々聞きに行くべきだな。
しばらく耳の長いお姉さんにギルドの事を聞きながら浜辺を抜けると、石畳の道に出る。通り沿いに生えている松の木のような木々で見えなかったが、海岸線に沿っていくつかお店らしきものが見える。
「あの、浜辺が危険ならこのあたりのお店も危ないんじゃないですか?」
「ああ、大丈夫よ。ここから先はクリスタルの加護があるから」
「クリスタル?何ですそれ?」
「はぁ~もう驚かない・・ここは風のクリスタルの加護があるオルレアン。結界が悪い魔物から街を守ってくれてるの」
魔物?お姉さんが指さす上空をよくよく見上げると、うっすらとオーロラのような光のカーテンが時折見える。魔物とはよく分からないが、あの光のカーテンが街を守ってくれるらしい。
海岸線沿いの石畳の道を歩く、道路はよく整備されている。行き交う人がこちらをチラチラ見ている、というよりはこの美人の耳が長いお姉さんを見ている。
ギルドがあるというエリアは街の中心部にあるらしい。最初にいた浜辺から海岸線のお店までが歩いて10分、中心部と言われるエリアまでさらにそこから5・6分ほど歩いてきた。
「着いたわよ」
ハローワーク到着。外観は木調で茶色い、3階建ての大きな建物。看板には『オルレアン連合ギルド』と金型に綺麗に打ち込まれ、太陽の光が反射して光り輝いている。実家の近くにある観光案内所にしか見えない、見るからに怪しい場所だ。
「じゃあ私は少し用事があるから、いい仕事見つかるといいね」
「あの」
「お礼は仕事が見つかってから」
「あ、はい」
男気のある耳の長いお姉さんの恩に報いるべく、怪しいハローワークの扉を開ける。