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27.第1章 最終話 奇跡

 『風の神殿』の最奥部、『風のクリスタル』がある部屋。設置された台座の上で、人丈(ひとたけ)よりも大きな結晶が、空中に浮かびながらエメラルドグリーンの光を発していた。緑の輝きはオーロラのように、波うちながら部屋を明るく()らしていた。


「(かつ かつ かつ)何者です?」

「これはこれは、聖女様」

「『闇の千里眼(ダークアイ)』・・奈落(ならく)、まずいぞ!こいつ、『光属性』、持ってやがる」

「しかし、まだ、若い・・(やみ)のクリスタル!『風のクリスタル』を破壊するのだ!」

奈落(ならく)が手のひらに持つ黒い結晶が輝く。


「『闇の衝撃(ダーククラッシュ)』」


「させません。聖なる光の壁(ホーリーウォール)!」


 アイリスが光の壁を展開、黒い結晶から放たれた漆黒(しっこく)の炎がアイリスを襲う。光の壁は漆黒の炎を通さず、アイリスの後ろでは『風のクリスタル』がエメラルドグリーンに輝き続ける。


「おい奈落(ならく)()いてないぞ?」

「じき消耗(しょうもう)する」

「おお、こわ」


同刻 『風の神殿』内部


 胸が痛い、ズキズキ痛む。マミ・・じゃない、アイリスはどっちだ?まっすぐ進むと道が右と左に2つに分かれる。うーん、左!


(そっちじゃないよ・・いそいで・・)


 え?いま何か・・えっと、右!今なにか聞こえたような・・胸が痛くて考えられない。右の通路を進むと、左手奥の扉が開いており、何やら波打つエメラルドグリーンの光と、黒い炎が途切れ途切れに扉の外へ散っていた。いそいで向かうと、黒装束(くろしょうぞく)に攻撃されているアイリスの姿が目に入ってきた。


「はぁ、はぁ・・マ、マミ!」


「ああ、イチロウ様」


「何者だ貴様は?」


 部屋の手前には黒装束(くろしょうぞく)を身にまとう何者かが2つ、顔がフードに隠れて見えないが、絶対にヤバそうなやつら。

 気が動転(どうてん)し、奥にいる『風のクリスタル』を守るアイリスの顔を見るなり、15年慣れ親しんだマミの名前を思わず口に出してしまう。

 黒装束が1人、手のひらの黒い結晶から漆黒の炎をアイリス目がけて放ち続けている。アイリスは表情を変えないが、白い光の壁がうっすら、うっすらと光が失せていき、今にも消えてなくなりそうだ。


「イチロウ様!お逃げ下さい、このものたちは危険です!」


 アイリスは集中しながらも、自分に逃げるように叫ぶ。アイリスの顔をしばらく見つめ、呆然(ぼうぜん)と立ち尽くす。


「『闇の千里眼(ダークアイ)』・・ギャハハハ、おい奈落(ならく)、こいつレベル1、スキルもしょぼい、ただの農民だぜ?」


 もう1人の黒装束(くろしょうぞく)のやつは、こっちを一目(ひとめ)見てレベル1と見抜いた。しかも何でこっちが農民なんてすぐに分かったんだ?


「ゴミか・・」


 こっちの黒装束(くろしょうぞく)はずっと手のひらの黒い結晶でアイリスを攻撃してる。ゴミじゃない・・スキルだって・・そうだよ、スキル、スキルカード!持ってるんだよ、マミの!!


「マミ!!」


 マミ・・じゃなかった、アイリスの黄色いスキルカードを天に掲げ、右手にカードを持ったままアイリスに見えるように横に2・3度振る。


「イチロウ様・・そのカード・・」


 自分の赤いギルドカードの星のマークタッチ、『上位昇進(レベルブースト)』、スタンバイ。


「な、奈落(ならく)・・スキルが、変わっちまった、あのガキ・・『上位昇進(レベルブースト)』を使う気だ!」


「なに!?」


 ギルドカードから黄金色の『上位昇進(レベルブースト)』カードが出てくる。手にとり、黄色いマミのスキルカードへ右からセット、マミのカードに『上位昇進(レベルブースト)』が表示される。


「マミ!」


「イチロウ様!」


「『上位昇進(レベルブースト)』!」


上位昇進(レベルブースト) マミフレナ=アイリス=ダルク 属性『光』】


【レベル】レベル16→レベル48


【職業ジョブ】『聖女』→『ホーリーマザー(神)』


【固有スキル】『大天使の慈愛(ガブリエル)


 アイリスが『上位昇進(レベルブースト)』の光りに包まれ輝く。奈落(ならく)の手の結晶から放たれる漆黒の炎が一瞬で消え去る。アイリスの背から天使の光の羽が生え、部屋の天井にまで達する。

 アイリスの青い瞳は金色に変わり、まるで別人のような無表情に変わる。エメラルドグリーンに光る『風のクリスタル』の部屋が、まばゆい光の輝きに包まれる。


「光の中に消えなさい・・『大天使の慈愛(ガブリエル)』」


(ピカッ!)


「ガァァァーー、ま、まさか、この力、神?・・ヌヌヌ」


「ウワァァァーー、ま、まずい奈落(ならく)、浄化される・・」


「ウヌヌヌ、闇のクリスタルの力、開放する・・」


「な、奈落(ならく)、ここまで育てるのに・・ウワァァーー(光に包まれる諸刃(もろは))」


「まだ小さきこの(やみ)では神には届かぬ・・ならば!」


奈落(ならく)が突然振り向く、こちら目がけて、手のひらの黒い結晶を投げつけてくる。


「(バチッ!)痛た!」


「イチロウ様!」


 自分の顔目がけて飛んできた黒い結晶から反射的に守ろうと、両手を顔の前でクロスするなり、右手に何かが当たる感触がした。その瞬間、意識が遠のき、地面に仰向け(あおむけ)に横たわる。体が・・動かない・・。


 部屋を包み込んでいた強烈な白い光が次第に収まり、『風のクリスタル』のエメラルドグリーンの光に戻っていく。


「いまだ諸刃(もろは)、下がるぞ・・ウヌヌ」

「ハァハァ・・も、もちろん、だが神は?」

「『上位昇進(レベルブースト)』は封じた、もうやつは、神にはなれん」

「ハァハァ、また(やみ)の力を蓄えないと・・何年かかるか・・」


(ビュン!)


『風のクリスタル』の部屋から、奈落(ならく)諸刃(もろは)が地面の影の中に消えていなくなる。


上位昇進(レベルブースト)』の光に包まれたままのアイリスが()け寄る。


「ああ、そんな・・」


奈落(ならく)の投げつけてきた黒い結晶を受けた右手が・・次第に・・石化していく・・。


 石化は徐々に進行し、『上位昇進(レベルブースト)』をしたアイリスは、石化していく手に両手をかざす。両手の先から白く輝く光が発せられるが、石化は徐々に進行し、すでに右腕全体にまで広がろうとしていた。


「なんで・・なんで治らない(なおらない)の・・う・・ううっ・・」


「マ、マミ・・最後になるかも知れないから・・言っておきたい・・事がある・・」


「イ、イチロウ様・・」


「はぁはぁ・・ぼ、僕さ・・僕の勘違いかも知れないけど・・昔・・マミと・・結婚してたんだ・・」


「・・・続けて・・」


「うぅ・・1つだけ・・どうしても・・謝りたいと思ってた・・事が・・あって・・」


 石化が右腕全体に広がり、右の胸と首の方に広がってくる。胸が痛む、息が・・できなくなってくる。

 アイリスは下を向いて泣きじゃくる。

 涙が石化していく腕に、ぽつぽつと落ちていく。


「・・・続けて・・下さい・・」


「・・きょねウグッ!・・去年の結婚記念日・・食事・・間に合わなくて・・本当に・・ごめ・ん・」


「うん・・うん・・」


「急いだんだよ・・本当焦って(あせって)・・」


「うん・・うん・・」


「だから・・今度は・・うっ!・・」


 石化が首に達し、右の胸も完全に石化する。息ができなくなった。かろうじて動く左手で、服の中から、『署名状(しょめいじょう)』を取り出し、左手に握り、アイリスに差し出す。


「今度こそ・・約束・・」


「イチロウ様!」


「まも・・」


(シュン!)


 アイリスにかかっていた『上位昇進(レベルブースト)』が切れ、アイリスの体から放たれていた光も消えてしまう。アイリスは『署名状(しょめいじょう)』を両手で握りしめる。


(ピキキキキキキキキキ・・・・)


「う、ううっ」


 それと同時に、石化は一気に進行し、一瞬で意識を、失った。


 アイリスは、石化した体にうずくまる。石化した体の近くで、「かつん」「かつん」と床に音を立てながら、赤いギルドカードと、黄色いスキルカードが石化した体から転がり落ちる。


「ううううっ・・神様・・風のクリスタル様・・どうか・・この(かた)をお救い下さい・・・。わたくしは、この方に・・・謝らなければならないのです・・・」


 アイリスが号泣(ごうきゅう)する。クリスタルが静かに光り続ける。


「あのお芋(おいも)が捨てられる時も・・ううっ・・本当は・・怖くて・・言い出せなくて・・・皆さんに嫌われるのが怖くて・・言い出せなかったんです・・・」


 クリスタルのエメラルドグリーンの光が、少しずつ、輝きを増す。


「ハルトが・・・あの時だって・・怖くて・・・わたくしは・・この(かた)に・・言わせて・・戦わせて・・本当に・・聖女なんかじゃありません・・・だから・・」


 クリスタルが強く発光し、部屋全体を濃いエメラルドグリーンの輝きに染める。


「お願いします・・どうか・・もう一度・・謝らせて・・・どうか・・この(かた)を・・わたくしから・・・(うば)わないで!!」


 クリスタルの発光が爆発する(ピカッ!)


同刻 エルミタージュ上空 火炎竜(ファイヤードラゴン)に乗るミューラ


「なにあの光!『風のクリスタル』の・・キャ!」


 エメラルドグリーンの光がエルミタージュの中心からオルレアンの街全体へ波及(はきゅう)する。


同刻 エルミタージュ(もと)正門付近 ゴブリンと対峙(たいじ)するサンダース


「ギギィィ(バン!)・・コツン コツン」


 エメラルドグリーンの光がゴブリンの集団に当たった瞬間、ゴブリンたちは黒い霧となって吹き飛び、一瞬にして魔石に変わる。黒い霧が消え去ると、地面には無数の魔石が地面に転がっていた。


「ほう、この閃光(せんこう)・・クリスタルの・・奇跡か・・」


 次第(しだい)に空が明るくなり、海の地平線の向こうから、朝日が(のぼ)ってくる。


第1章 <風のささやき>~完~


【登場人物】


《主人公 スズキイチロウ》1日1回3分限定オリジナルスキルで異世界を駆け抜ける。


《主人公の嫁》

本作最大のミステリーにして影の主人公。


《マミフレナ=アイリス=ダルク》

『光属性』の聖女の1人。だれよりも優しく、だれよりも頑固。主人公の嫁にそっくり。ライン=ハルトの許嫁。


《ミューラ》

『火属性』のエルフ。王立学院エルミタージュの教師にして、オルレアン連合ギルド所属の銀等級冒険者。主人公の第1村人。心優しきエルフ。


《サンダース》

オルレアン連合ギルド長にして、金等級冒険者の武闘家。通称「セガール」。


《セバス》

『火属性』のエルフ。オルレアン連合副ギルド長にして、ミューラの実兄。独特の話し方が特徴。


《サリー》

オルレアン連合ギルド1番窓口受付嬢のエルフ。性格はミューラとそっくりかつ仲良し。


《リンダ》

オルレアン連合ギルド2番窓口受付嬢のエルフ。サバサバした口調のお姉さん肌。


《エミリー》

オルレアン連合ギルド3番窓口受付嬢のエルフ。淡々とした口調、ヒューマンに少し冷たい。主人公をエルミタージュ受験へ導く。


《ライン=ハルト》

史上最年少で伯爵、貴族のサラブレッド。聖女アイリスの許嫁。


《クラウド》

ライン=ハルトに仕えるエルミタージュ学院生徒。心優しき戦士。


《奈落》

闇の黒装束リーダー格。性格は残忍。























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