25.反攻
「ギギャヤヤーー!!」
「落ちるーー!上がるーーー!ちょっと待ってーーー!!」
『火炎竜』の背中にまたがる空飛ぶ農民、現在ギルド会館上空を飛行中、一直線に王立学院エルミタージュへ進む。ああ、もう、気持ち悪いよ。
セバスの話では『火炎竜』はミューラの匂いが分かるらしく、黙って乗っててもミューラのところへ一直線に向かうらしい、なんて優秀な子なんでしょう。
「ギギャヤヤーー!!」
「ぬわーーーー!」
この高度が下がっては上がるのやめて、無理、もうダメ・・ん?エルミタージュに向かう大通りは白くて目立つので、上空からでもはっきり見える。
あのゴミのような黒い点々が白い石畳の上を覆っている、あれが、ゴブリンなのか・・。エルミタージュの正門があった場所には大穴が開いており、正門や鉄の柵ごと周辺が吹き飛ばされている。
エルミタージュを囲った柵に空いたその正門から、黒い点々が次々と流れ込んでいる。
「(ギギィィーー)」
ん?視線をギルド会館の方へ向け、白くて目立つ建物、大衆浴場『ウインダム』に目が止まる。周辺の大通りで、なにやら黒い点々が次々と絶命する声が聞こえてくる・・何だろ。
同刻 地上 大衆浴場『ウインダム』前 ゴブリンの大群
「ギギィー(バス!!)」(プシュー・・コツン)
「ギィ・・(バス!!)」(プシュ~・・コツン)
「サ、サンダース様が到着されたぞーー」
サンダースが怒りの形相でゴブリンに拳を打ち込むたびに、ゴブリンが黒い霧となって消えていき、次々と魔石が地面に転がっていく。
「ギギ・・・」
たじろぐゴブリンたち。
「失せろゴミども!死にたいものから、かかってこんかーー!!」
「ギ、ギ・・ギギィィー」
(バス!ドス!バスバスバス!!・・プシュ~・・コツン コツン コツコツコツン・・)
同刻 地上 エルミタージュ 『風の神殿』近く
ミューラと『風の神殿』を防衛する兵士たちが、ゴブリンの大群に包囲される。残った兵士たちは円陣を組み、盾と槍をゴブリンの大群に向けている。
「ひし形陣形ーー!!」
兵士たちが陣形を円からひし形に変えようとする。兵士たちの円の中心にいたミューラが姿をあらわす。
「炎の矢!!(ビュ!)」
「(ブス!!)ギギィィーー(シュ~・・コツン)」
兵士たちが陣形変化の間に空間を作ると、その隙間からミューラが弓を放なちゴブリンに命中。ゴブリンの体が灰のように崩れ、黒く輝く魔石が地面に落ちる。兵士たちの陣形がひし形陣形に変わる。
「ミューラ様、このまま我々はゴブリンの群れに突撃します。あなた様は『風の神殿』へ」
「駄目!あそこにはアイリス様がいらっしゃるの、私も行きます、命令です!」
「しかし・・あ、あれは何だ?」
「(バッサ!バッサ!)ギギャヤヤーー!!」
「あれは『火炎竜』!きっと兄さんね!こっちよ!(ピィー)」
ミューラは口に指を入れて指笛を吹く。
「『火炎竜』!ゴブリンを攻撃しなさい、『ファイヤーブレス』!!(ピィー)」
ミューラが再び指笛を吹くと、『火炎竜』の口から火炎の息が辺り一帯を焼き焦がす。
「ギィィーーー」
ひし形陣形を取る兵士たちの周りを包囲していたゴブリンたちが炎に焼かれ、絶命し、次々と魔石に変わっていく。
(バッサ!バッサ!)『火炎竜』が燃えているゴブリンを踏み台にして着地。着地で巻き起こる風で周辺の炎が一気に消え吹き飛ぶ。
「(ばさっ)痛てぇ!」
「スズキ君?」
着地の衝撃で『火炎竜』から落ちる。こちらに駆け寄ってくるミューラ。
「助けに来てくれたのね、ありがとう!」
「(ぎゅ)いてててて、痛い、痛いから、先生!折れてるから」
「あっ、ごめんなさい」
肋骨さらに損傷。
「ギギャヤヤーー!!」
「ああ、よ~しよし、エサじゃない、エサじゃないよ」
「いててて、え?今なんか言いました?」
「ううん、なんでも。それより、なんでスズキ君が『火炎竜』に?」
「セバスさんが呼んだんです、ミューラがピンチだからって、それで」
「そんな体で、私なんかのために・・・はっ、今はそんな場合じゃ、アイリス様が!」
「えっ、アイリス様、一緒じゃないんですか?」
「アイリス様は『風の神殿』に向かわれたわ。さっきから『感知』スキルで黒い3つの影がどんどん近づいてる!」
「え、それって・・」
「(ギギィィーー)」
先ほど兵士たちを包囲していたのとは、別のゴブリンの大群が遠くから迫ってくる声が聞こえる。正門が破壊されていることで、先ほど上空から見た黒い点の大群が次々とエルミタージュに流れ込んできているに違いない。
「兵士長!」
「ミューラ様!ここに!」
「この子を連れて、『風の神殿』へ。スズキ君!」
「はい」
「そんな体のあなたにお願いする事じゃないんだけど・・アイリス様を守って!お願い!」
「もちろん・・でも、ミューラは?」
「私にはこの子がいるから、ゴブリンはここで食い止めるわ。正門が破壊されて、今エルミタージュの結界が破られてる」
「結界?」
「結界は破られたにしても、どういうわけか、クリスタルの加護内で絶命するはずのゴブリンも死なないし、嫌な予感しかしないわ」
「いくら火炎竜がいても、あの大群が相手じゃ」
「ギギャヤヤーー!!」
「ひっ」
「大丈夫、ちょっと掃除してくる。時間が無い、お願い、急いで!」
「分かりました」
「行くわよ、『火炎竜』!」
「ギギャヤヤーー!!」
ミューラを乗せた『火炎竜』が飛び立つ、上空から『ファイヤーブレス』の炎の息が、暗い夜の闇を輝く炎で引き裂いていく。
「スズキ様、ミューラ様のご指示です!急ぎ『風の神殿』へ」
「分かりました」
『上位昇進』をかける相手がいなくなってしまったが、ミューラから託されたアイリスを守る約束は果たしたい。農民の自分に何ができるか分からないが、考えるより先に足が動く。
「いててて・・」
そういえば、昨日ラインハルトから受けた攻撃で肋骨はまだ折れてた、走るたびに胸に針が刺さるようでとても痛い。
槍と盾を装備した兵士たちの後を追い、『風の神殿』へと向かう。




