23.襲撃(しゅうげき)
ミューラ、アイリスがギルド会館にいるのと同刻、黒装束を身にまとった2つの影が、王立学院エルミタージュの正門が見える建物の屋上にいる。昼間降っていた雨は上がり、漆黒の夜空に満月が輝いていた。
「・・・時はきた」
「やるのか奈落」
「無論だ、諸刃、手はずは出来ておろうな?」
「もちろん、すべては・・」
「(2つの影)闇のクリスタル 復活のために」
深夜 王立学院エルミタージュ 守衛
「あの小僧、明日は来れるのか?」
「大怪我してたな、相手はライン=ハルトか?」
「受験日といい、入学式の昨日といい、とんだ農民が来たものだな」
「ああ、まったく。ところで『風の神殿』の警備兵、減らされたって話だな」
「ああ、オルレアン内でも屈指の数が配備されてたが、予算が無いとか、経費削減の一環だとよ。エルミタージュだって、本当は『風の神殿』の警護が目的だろ?お偉いさんたちの考える事は分からんな」
「まったくだ、そのうちこの正門守衛も無くなって、俺たちはお払い箱か?」
「違いねえ、じゃあ、見回りの時間だな、先に休んでろ」
「ああ、頼む。帰ったら起こしてくれ、コーヒーを頼む」
「起きたら入れといてやる、じゃあ行ってく・・」
(ドォォォォーーーン!!)王立学院エルミタージュの正門で爆発が発生する。
正門破壊と同時に、月夜に照らされた脇道沿いの建物の影から、おびただしい数のゴブリンがわく。ゴブリンの大軍が破壊された正門からエルミタージュ内に次々と侵入していく。
(ドォォォォーーーン!!)
「敵襲ーー!!」
「なんだ・・」
ミューラとアイリス様が帰った後、眠りについて少ししか経っていないはず。地面が揺れ、眼を覚ます。深夜のギルド会館、慌てて治療室を飛び出すと、1階のいつも昼間窓口に座っている3エルフの姿は無い。
ギルド会館上の階段から、ギルド長サンダースと、副ギルド長のセバスが降りてくる。
「小僧か?」
「何ですか、さっきの爆発」
「エルミタージュが襲撃された」
「何ですって!」
ミューラとアイリス様の事が気になる。あの2人、エルミタージュに戻ってたりしてないよな・・・。
サンダースとセバスの会話が聞こえてくる。
「数は?」
「え~結晶石に表示しきれません」
「千・・・いや、それ以上」
「サンダース様!オルレアン連合ギルド要領第3条『緊急召集』の発動が必要かと」
「無論だ、セバス、後は任せる」
「行かれるのですな」
「あ、ちょっと待って下さい。僕も一緒に・・」
「いらぬわ!寝ておれ小僧、消されたいか!」
「・・嫌です」
サンダースの気迫に圧倒され引き下がる、装備らしい装備も持たずに、1人でギルド会館を出ていってしまった。
「さて、忙しくなりますね~」
「あのセバスさん。ギルド長1人で大丈夫なんですか?」
「え~サンダース様の心配は無用」
「え?」
「我がオルレアン最強の武闘家にして、我が国に2人しかいない序列2位 金等級冒険者なのですから」
「ええ!そ、そうだったんですか?」
同刻 エルミタージュ敷地内 中心部
「ギギー」
「おのれゴブリン、必殺!ライトニングセイバー!!」
(ドォォーン!)
「ライン=ハルト様!」
「ここは突破させん!『風のクリスタル』、総員、死をかけて守りぬけ!」
「了解!」
「突撃ー!!」
「(兵士たち)ワー!!」
兵士たちの捨て身の突撃、ラインハルトが再びライトニングセイバー発射の構え。その近くに2つの黒い影があらわれる。
「ほほう、その若さで、たいした腕だ」
「何奴?そ、それは!」
「ほう、分かるのか?まだ小さきこの闇のクリスタルの輝きが」
「おい奈落・・このガキ」
「そのようだな諸刃」
「?」
奈落が手のひらに黒く輝く結晶をかざす。黒い結晶の中の輝きを確認する。
「ほほう・・貴様の中に闇を感じる」
「な、私に闇などあるはずが・・」
「お前が欲するもの、手に入れたくは無いのか?」
「偽りを!」
「解き放て!『フォールダウン』!」
「ぐあああぁぁぁぁぁぁ」
奈落のかざした黒い結晶が輝く、『フォールダウン』と唱えると、ラインハルトの体が黒い光に包まれる。
「気分はどうだ?」
「・・悪くない」
「よくぞ言った!これより名を『刹那』と改めよ。闇のクリスタル復活を果たし、皇帝陛下に忠誠を誓うのだ!さすれば刹那、貴様の望みは果たされよう」
「ははっ」
奈落に向かってひざまずくラインハルト。
「刹那よ!最初の任を与える、『風のクリスタル』へ我々を案内するのだ!」
「ははっ、仰せのままに」




