21.決闘
朝 王立学院エルミタージュ 正門から正面をまっすぐ進んだ講堂にて入学式が執り行われる。講堂内はとても広く、白い壁、白い床。今日は曇り空のため、太陽の光は届かないが、講堂内はいくつもの光の石が置かれ、キラキラした輝きを放ちながら講堂内は明るく照らされていた。
入学生の服装は様々で、ある者は鎧、ある者はタキシード、そしてあるものは修道服を着た若い男女がその服装に合わせて座る。その中に1人、布の服の、農民が、ただ1人。
「それでは、王立学院エルミタージュ 第85回 入学式を開催致します」
開会が挨拶される、ギルドにすぐに戻りますと言っておいて、こんなところで何をしている?両脇では屈強そうな鎧を着た同級生が両脇を固めて、逃げられないようにしっかりガードされる。
「私はエルミタージュ 学院長 セントルイスである」
学院長の挨拶がはじまる、一言二言しゃべり終わると、余興もなく進行係が無常の宣言を行う。
「それでは本日の入学式を終了いたします。明日より授業となりますので、皆さま方におかれましては~」
逃げるタイミングを完全に逸した。貴族たち相手なので、この入学式も完全な余興に違いない。角帽にガウンを身にまとった学院長と講師陣はそうそうに消えていく、講堂でラインハルトがあれだけの宣言をしているのに、誰も止めようとしない。
「さあ農民」
「時間だぞ」
「うっ・・」
講堂から一斉に貴族の生徒たちが外に出る。雲行きが怪しくなってきた、迎えを待つ馬車が講堂前に並ぶ中、ラインハルトから声をかけられる。
「貴公、何か思い残すことは?」
「このお皿」
「ああ、昨日の」
「今日はここのお皿を返しに来ました、ただ、それだけなんです」
「了解した、貴公の最後の願い、叶えよう。誰か!」
「はい、坊ちゃま」
「この皿をエルミタージュへ」
「仰せのままに」
皿はちゃんと元の場所に帰っていった、もう、思い残す事は何もない。
「おい、ハルト!」
「クラウド・・」
「クラウドか、何用か?」
「全部お前の勘違いだ、こんな農民の小僧、放っておけって。それにこいつは命の・・」
「クラウド、これは男の決闘。これ以上の侮辱は、いくら貴様といえど容赦はせんぞ」
「いいんだよクラウド、ありがと、もういいから」
「お前・・ちっ」
クラウドがどうやら決闘を止めようとしてくれたらしい。主君に逆らえば自分もただじゃ済まないのは分かってたはず、こんな農民に、まったく本当に良いやつ。
「こっちだ」
空の雲行きはますます悪くなっていく。ラインハルトに誘導され、白い石畳から外れ芝生の上に誘導される。どうやら入学式に参加した生徒全員をこの決闘の証人にするつもりのようだ。
ピカピカの鎧をまとった貴族、ドレス、タキシードの順に、奥には修道服の集団だけ動いているのが見えてくる。暴力沙汰に関わらないようにするためなのか、修道服の集団だけは、こちらの集団を避けて帰り支度を始めていた。
「それでは、決闘を始める!」
「うっ・・」
ライン=ハルトが宣言するや、腰にあった剣を抜き、天にかざす。
「アストラルバルト!」
雲行きの怪しかった黒い雲から、一筋の雷がラインハルトの剣に落ちる。剣に落ちた雷が光を放ち、ラインハルトが剣を構える。どう考えても、これ、死ぬ。
「貴公!何もせねば、お前は死ぬぞ!」
そうだよそうだよ、こっちは農民、装備の1つどころか、スキルだって・・・あれがあった。
「・・何をしている?」
ギルドカードを起動、星のマークタッチ、『上位昇進』起動。
「あれは。ミューラにかけてたやつじゃねえか」
クラウドが観戦する群衆の前方で叫ぶ。赤いギルドカードから、黄金色の『上位昇進』カードが出る。
「貴公!?」
「もうやけくそだ!」
自分の黄色のスキルカードの右から、黄金色のカードを差し込み叫ぶ。
「『上位昇進』!」
辺り一帯が一瞬黄金色に光り、取り囲む群衆も眩しさに目を閉じる。
【上位昇進 鈴木一郎】
【職業ジョブ】『農民』→『村役場職員』
【レベル】『1』→『3』
【体力】『1』→『2』
【固有スキル】『マイナポイント』
ミューラはいない、唯一の使えそうなスキル『上位昇進』をとっさに自分自身にかける。あと1・2秒で死ぬかも知れない大事な時に、よく分からない単語がたくさんスキルカードに表示されている。
「まやかしを!必殺!!」
必殺!?ライン=ハルトが発射体勢。こっちの職業は・・村役場職員ですと?憧れの公務員ではないですか!・・・って違ーう、死ぬ、スキル、何かスキル・・なにこの【マイナポイント】って?
「ライトニング!!」
ライン=ハルトもう出そう!死ぬ!?とにかくスキルカードの【マイナポイント】プッシュ!
(ぶぶー)「なっ!?」
<※固有スキル【マイナポイント】の使用には、『マイナンバーカード』が必要です>
「セイバー!!」
ライン=ハルト発射。
「マイナンバーカード・・」
『必殺ライトニングセイバー』着弾まもなく。
「持ってないよー!!」
(ドォォォーーン!)周辺が爆発で吹き飛び、芝生の地面も吹き飛ぶ。
土煙が立ち込める。
群衆は静まり返り、土煙が収まると、地面に大穴が空き、吹き飛ばされた農民1人が芝生に横たわった。
(ぽつり)どんよりした雲から、ぽつり、またぽつりと雨粒が落ちてくる。
だめだ、体が・・。
雨粒が顔に落ちてくる感触がする、一粒、一粒。
やがてその一粒が、額に、感じなくなる。
ここまで、なのか・・。
「・・・大丈夫?」
地面に仰向けに横たわる、体が痛い、動かない。
頭に枕のような感触、人のぬくもりがする、甘い香り、温かい。
うっすら目を開けると、心配そうにのぞき込む女の子の顔が浮かんできた。
「マ、マミ・・」
「はい、マミですよ」
「僕・・マミがカード作れって・・うっ・・あれだけ言ったのに・・作らなくって・・ごめん」
「あらあら」
「役所に行くのが・・面倒だったんだ・・僕・・今凄く・・後悔・・してる・・ううっ・・」
「それはいけませんね・・」
女の子は、膝枕をしたまま、優しく頭を何度も、何度も撫でる。
「イチロウ様・・」
「イチロ・・ん?」
ぼんやりしていた視界が開け、目をしっかりと見開く。
「き、君・・」
「?」
膝枕をされていた頭をガバっとあげ、腰をついたまま両手を地面につく。
「マ・・」
「マ?」
(「・・あんた!マイナンバーカード、何で作って無かったのよ!!」)
元嫁マミがフラッシュバックする。
(「世帯主でしょ?あんたがカード作って無かったから、定額給付金、もらうの遅れちゃったじゃないのよ!!」)
「す、すまん・・マミ・・ぼ、僕が・・」
「イチロウ様、お気をたしかに・・」
(「役所は行かない!カードは作らない!」)
「ご、ごめ・・」
(「こ・の・無能がーー!!」)
「ご、ごめんマミ!もう2度と顔も見せないから、頼む!僕を、許してくれーー!!」
「ああ・・また行ってしまわれて・・」
決闘を見守っていた群衆が様子を見守る。膝をついたままのアイリスに、ライン=ハルトが声をかける。
「雨が降り始めましたアイリス様。お体に触ります、急ぎ馬車へ」
下を向いたまま、アイリスは無言で立ち上がる。
「ハルト・・」
「はい、アイリス様」
「殿方の決闘に口を挟むつもりはありません。わたくしも約定に従い、あの方と顔を合わせる事は致しません」
「おお、分かっていただけましたかアイリス様」
「そのかわりハルト!」
「アイリス様」
アイリスの目から、涙が零れ落ちる。
「わたくしはもう2度と!あなたとも顔を合わせるつもりはありません!」
「アイリス様!そのような事を・・」
「知りません・・」




