20.入学式
朝 ギルド前宿屋201号室 起床
窓からは薄暗い光しか届かない、今日の天気は曇り空。オルレアンにきて4日目の朝、昨日はくたくたになるまで働いて夜はぐっすり眠りにつけた。
オルレアン連合ギルドの正社員となったはいいが、上司のギルド長はとんだパワハラ上司と判明、セガールに昨日散々尋問を浴び、エルミタージュでは渾身の回答をアホ呼ばわりされて社会の大きな壁にぶち当たる。
しかしこんな壁、我が人生すでに5度も経験している、壁は当たるたびにぶち壊すもの。それを乗り越えた先に真の未来が・・。
(ドン!ドン!)「スズキ君!スズキ君ってば!」
うちの部屋の扉がドンドン叩かれている、こんな朝から一体誰だ?
「(がちゃ)は~いって、サリーさんじゃないですか?」
「スズキ君、すぐギルド来て!大変なんだよ!」
「ちょっと待って下さい、なんで僕がここにいるって分かったんですか?」
「え?ああ、スズキ君のギルドカード、それ持ってると位置が分かるのよ」
ハメられた!何が個人情報だ、駄々洩れじゃないか!もはやアカレンジャーの『感知』スキルなんて不要、ギルドの職員なら誰でも冒険者の位置を瞬時にGPSで特定できる、できてしまう!
こんな重大事実、なんで今まで黙ってたんだ・・そうか、セガールこそ諸悪の根源!なんの実績もない、どこの馬の骨とも知れない男にギルドカードをわざと発行したのは、こちらの位置・行動を逐一把握するための罠だったんだ!
「そんな事より大変なの」
で呼びに?私用ですか?業務ですか?」
「業務に決まってるでしょ!サンダース様が直接お呼びよ、あなただけ『緊急招集』!」
「それって断ってもいいやつです?」
「いいわけないでしょ!」
「・・ですよね」
秘密結社に騙されていると分かったものの、そこの正社員になってしまっては呼び出しにも応じざるを得ない。諸悪の根源、セガール直接のお呼び出し、これは好都合。ここはこれまでの悪魔の所業を、こちらからガツンと言って・・。
ギルド会館 2階 応接室
「遅いぞ小僧!」
「・・すんません(ぼそっ)」
「何だその返事は!」
「・・反省してます(ぼそっ)」
朝からパワハラ上司の怒涛の尋問。いいかげんな返答がセガールの火に油を注ぐ。
「散々昨日嘘をついてくれたな小僧!」
「え?なんの事です?」
「しらばっくれるのもいい加減にせんか!(バンッ!)」
昨日の嘘?付き過ぎてて、もうどの嘘か覚えてないよ。
「・・すいません。昨日呼び出し受けてた時間、『ウインダム』でゆっくりお風呂に入って気持ちよくなってました・・反省してます」
「違う!」
応接室にはセガールと副ギルド長セバスの2人、こちらの回答を2人とも真顔で無視する。
「・・じゃああれか、エルミタージュの施設のお皿をメイドさんから奪って持ち逃げしちゃいました、すいません・・あ、でも誤解しないで下さい、ちゃんとこれから返しに行くつもりだったんです、信じて下さい!」
「それも違う!小僧、1日中一体何をやっておるんだ貴様は!!」
これも違うらしい、昨日あと何やってたっけな。
「エルミタージュの受験、まるで出来なかったなどと嘘をつきおって!エミリーの報告では、筆記も面接もまるで駄目だと言っていたそうだな」
「ええ、そうですよ。何一つ出来ませんでしたけど、それが何か?」
「今朝がた、エルミタージュより使者が来た。我がオルレアン連合ギルドでは15年ぶりの合格者だぞ君は!」
「え~まったくもって不可解な合格でして、私もまるで分析出来ません。農民が一体なぜ学院に・・」
「・・・へ?それって、合格してるって事ですか?」
「そうだぞ小僧、まったく。このギルドに来てわずか3日でエルミタージュに合格、小僧!貴様はなぜそこまで優秀なのだ!」
「え、ええ!?僕には、何が何だか・・」
一方的に怒られているとばかり感じていたのに、どうやらエルミタージュに合格して褒められているらしい。セガールがいかつい顔で怒鳴り散らすから、怒られてるようにしか受け止められなかった。セバスが声をかけてくる。
「え~エルミタージュの入学についてですが~」
「ああ、セバスさん、僕、合格、辞退します」
「え~なんですと?」
「何を言っておるか小僧!」
昨日貴族社会の闇を知った、完全に農民であるこちらとは別世界の人間たちの社会であると感じた。道徳、倫理観、すべてがこちらの価値観とは違い過ぎる。あんな社会の中で、1日として学院に通う生活は想像できない。
「え~エルミタージュの合格を辞退したものなど、わたくしの知る限り聞いた事がありませんな」
「農民が合格し辞退となれば、小僧!お前もただではすまんぞ」
「すいません・・なんていうか、気が変わりまして・・」
「え~本当に良いのですね?」
「はい」
「後悔しても知らんぞ小僧」
「ありがとうございます、セ・・じゃなくて、サンダース様。あっ僕、直接辞退を伝えに行きます。昨日間違ってエルミタージュのお皿を持ち出ししちゃいましたので、ちゃんと返しに行きたいです」
「ふ~まったくお前というやつは・・分かった!」
「うわっ!良いんです・・よね・・」
「辞退届と合わせてわしの署名状を出しておこう。我がオルレアン連合ギルドに必要な人材につき、辞退を認めて欲しいとな」
「サンダース様、宜しいのですか?エルミタージュとの今後の関係を考えまするに」
「いらん心配だセバス、後はお前が何とかしろ」
「え~これはまた面倒ごとを、まったく、君という男は・・」
「すいませんセバス様まで・・」
そういうとセガールは応接室を後にする。階段を上る音が聞こえる、どうやら署名状を書きに3階のギルド長の部屋に上がっていったようだ。
「ふ~サンダース様はあのように仰せになったが、まだ1日と通ってもいないでしょう?せめて1日、それからでも判断は遅くないと私は思いますよ」
「ありがとうございます。でも、もう決めましたので」
セバスと話をしていると、3階から降りてきたセガールが署名状を手に戻ってきた。それを手に取り応接室を出る。階段を下りて、ギルド会館1階入口でセガールとセバスが見送りをしてくれる。
「小僧!今日は大通りをゆけ、脇道など寄るな、身のためだ」
「え~先ほどの私の話、行くまでによく考えてみるように」
「分かりました、でも今日はすぐ戻ってクエストします。では」
セガール、しれっと「今日は脇道に行くな」とか白々しい事を。まるで昨日の貴様の行動と位置はすべて把握済みだと言わんばかりの発言、いや、実際そうに違いない。
感動の送迎を装って、真実はすべてこちらの行動把握が目的であることは明白な事実。ここは初見の地オルレアン、後ろから刺されないよう、常に、慎重な行動を心がけよう。
手にはギルド長の署名状、そして昨日お芋を乗せていたお皿を持参、一路エルミタージュを目指す。宿、洋服屋、『ウインダム』を経由し、大通りを道なりに進む。道は途中大きくカーブし、石畳の道は市場を過ぎたあたりから、白い石畳の道へと変わっていく、エルミタージュへ近づいている証拠だ。
長い鉄製の柵が左手に、柵沿いに植えられた木々で中の様子は見えないが、「正門こちら」のご丁寧看板がところどころに見えてくる。エルミタージュが近づいてくるにしたがって、車道ともいえる白い石畳の上を学院へ向けて馬車が何台も走っている。おそらく昨日受験会場にいた貴族の生徒たちが、きっと学院目指して登校しているに違いない。
途中何台もの馬車に追い抜かれ、徒歩でギルド会館から歩く事30・40分ほどかかっただろうか?ようやく王立学院エルミタージュ正門へ到着する。正門は今、馬車が入って行くピーク、門は大きく開かれ、昨日仲良くなった守衛がこちらに気づいた。
「おお、昨日の農民」
「小僧、どうした?何用だ?」
「あの。実はこのお皿何ですが・・」
正門の端で守衛2人と話をしているすぐ隣で馬車が止まる。馬車の窓が開くと、車内からこちらを確認する男の姿が目に入った。
「ラインハルト・・」
「貴公か・・話がある、乗りたまえ」
「ええ?でも・・」
「話があると言っている」
「分かりました・・」
昨日ドレスの女の子たちの味方をしていた貴族の男、たしかアイリスの許嫁だったな。断る事も出来ずそのまま馬車に、どのみち学院入学辞退の届け出を出さなければいけない。お皿の返却もある、守衛に面倒な説明をする時間が省けてこちらも好都合。
馬車の中に入る、中はふかふかのソファーが置かれており、振動でもお尻が痛くならない。
「貴公は、アイリスの知り合いか?」
「え?」
唐突に話を始めるラインハルト、アイリスと呼び捨てにするあたり、許嫁というのは本当のようだ。正面の講堂までは2・300メートルくらいだったはず。すぐに到着する間、無言で過ごすつもりだったが乗せてもらった手前、質問には返していく。
「この前、森で・・会ったのは、それが初めてです」
「ふ~ん、そうか。そうは思えないが・・」
「・・何がです?」
「昨日、あの後、アイリスが街に出かけた」
げっ、そういえばセガールが「お前がいないか、わざわざ来た」とか言ってたような。
「あの後・・そうそう!『ウインダム』に清掃のクエストが入って、掃除しに行ってたんです、本当に・・」
「アイリスは・・お前を探しに行った」
全部バレてる。でも、アイリスと会っていないのは事実。アイリス様が何しにギルドに寄ったのかは知らないが、それはこちらも知る由が無い。
「昨日アイリス様と最後に会ったのはエルミタージュが最後です。そんなに気になるなら、本人に直接聞けばいいじゃないですか?」
「・・アイリスが話をしてくれない、理由が分からないんだ。きっと貴公が原因だ」
「それは誤解です。おかしいですよラインハルトさんも、僕はオルレアンに3日前に来たばかりなんですよ?森で初めて会ったのが2日前、たった2日前に出会った人を、わざわざ街まで探しに行きますか?」
「2日前!?そ、そんな話信じられない。農民の分際でこのエルミタージュにどうやって忍び込んだのか不思議でならん。貴公はきっと、私に嘘をついているんだ!」
「ええ!?」
「降りなさい。使用人!馬車を止めろ!」
「はは、坊ちゃま」
馬車が止められ、降ろされる。すでに講堂の前まで来ており、降りた先は多くの馬車と、登校を待っている多くの学院の生徒が入口が空くのを待っているかのようにたむろしていた。学院生たちは男女とも制服を着ており、時折鎧を着た者も含まれる。女子の制服はスカート、西洋教会の関係者である若い女子は全員修道服を着ていた。
「キャー」
「ライン=ハルト様だわ」
ライン=ハルトの登場に、学院生から声があがる。馬車から降りる前のラインハルトは、とても怒った顔でこちらを睨みつけていた。
学院生たちの集団を前にして、ライン=ハルトと向き合う。おもむろに白い手袋を外すなり、こちらの顔面目掛けて手袋を投げつけた。
「(ベシッ!)痛て!?」
「嘘でしょ!」
「ライン=ハルト様が!?」
ライン=ハルトに注目が集まる、周りの集団に対して叫びをあげる。
「入学式を待つ生徒諸君、お騒がせして申し訳ない。本日、式が終了次第、我が伯爵、ラインハルトの名において、この者と、1対1の決闘を申し込む!」
「おおー!」
「何をしたの、あの農民?」
とんでもない事になってしまった、今投げられたのは決闘の合図だったのか、知らなかったよ。
「ちょっと待って。僕、ただの農民で」
「貴公が勝った暁には、私は君の家来としてこの学院生活を送る事を認めよう」
「嘘だろ!」
「ライン=ハルト様、それだけはダメです!」
いらないよこんな家来、こっちからお断りだって。
「ただし、貴公が負けたなら、我が許嫁アイリスに近づく事を今後一切認めない」
「おおー!」
「そうだ!」
伯爵の猿芝居になんでこちらが付き合わなければいけないのか、こちらはもう入学辞退するって決めてる。セガールからの『署名状』もこの手にある、こんな決闘受ける義理は無い。
「僕は入学しません、今日は合格辞退を言いにここまで来たんです」
「またまやかしを、貴公の口からは嘘しか出ないのか?」
「そうだ!」
「合格して辞退する奴なんて、このオルレアンにいるもんか!」
しまった、周りの生徒を完全に敵に回してしまっている。味方は誰もいない、四面楚歌。
(か~ん か~ん)
入学式が始まる合図のようだ、正面講堂の入口が一斉に開く。
「この農民を連れていけ!」
「入学式が終わったら、処刑執行だ!」
殺られる。




