166.聖獣の食事
『ギルド会館第二タワー』の10階。日本でマミと子供と3人で暮らしていた時とまったく同じ内装の自宅マンションの部屋を、創造神『タイタン』となったガイア師匠に再現して作ってもらった『1001号室』。
マミは・・シスタージャンヌ様は部屋に入るなり、16年ぶりに帰宅した感動で泣いてしまい、ここにずっと住みたいと言い始める始末。
リビングの夜景を満喫したその後、玄関のチャイムが鳴る。
自分が応対し、リビングから玄関まで、妖精『カーバンクル』と、『聖獣』の『ユニコーン』、『ペガサス』を抱いた二聖女が後ろについてくる。
「誰かな・・あっ、やっぱりそうだ(がちゃ)どうぞ」
「こんばんわ、『白猫ヤマト』です!」
「(2聖女)『白猫ヤマト』!?」
「お荷物です、こちらにサインかハンコをお願いします!」
「じゃあサインで・・ス・ズ・キ・・っと、はいお願いします」
「お荷物です!」
「(ドサッ!)大きい・・持てるかな・・」
「一郎、なにそのデッカイお荷物?」
「ああ美馬さん、家電3種の神器の最後の1つですよこれ」
「その布袋に洗濯機が入ってるって言うわけ!?」
「そんな興奮しないで下さいって奥さん」
「よろしければ、重たいので室内までお運び致しましょうか?」
「本当ですか『白猫ヤマト』のお兄さん、良かった助かります、ぜひお願いします」
「それではどちらへ?」
「こっちの浴室の前に。ルナ様とジャンヌ様、ちょっと道空けて下さい」
「はい(2人)」
「失礼します」
子供3人と見るや、『白猫ヤマト』のお兄さんが大きな布袋をマンションの室内に運んでくれる。
廊下をしばらく進み、トイレを右手に過ぎさらに進み、右に曲がると浴室。浴室のスペースは水回りになっている。
スペース向かって右手がドアを挟んでお風呂、左手に洗濯機を置くスペースがある。
水の結晶石の給水、地面には風の結晶石の脱水、稼働に雷の結晶石が置かれているが、東京に住んでいた自分の『アリゾナプライム』カードで発注した洗濯機。
果たしてこの50ヘルツの洗濯機が、オルレアンにある雷の結晶石に対応しているのかは不明だ。
「では、わたくしはこれで失礼します!」
「『白猫ヤマト』のお兄さん、今日も玄関じゃ無くて、こんな浴室前まで運んでもらってすいません」
「お気になさらず、お荷物あるところ、一歩前まで必ずお届けします!」
「(3人)カッコいい・・」
(ガチャン・・)
カッコいい『白猫ヤマト』のお兄さんが、玄関から出て行く。またどこかへ消えていなくなってしまった。
「あの・・スズキ様。あの『白猫ヤマト』のお兄さんとは、一体どういう方なのでしょうか?」
「そうだよ一郎。あんなカッコいいヒューマンのお兄さん、16年いるけどオルレアンで見た事無いよ!」
「僕のオリジナルスキルで呼んだんですって」
「(2聖女)オリジナルスキル!?」
「まあまあ、お2人とも。とりあえず『ペガ』と『ユニ』がお腹空いた顔してますから、さっそく人参食べさせてあげましょうよ」
「(バッサ バッサ)ひひ~ん!ぱぱ、ごはん、ぱぱ、ごはん」
「(バッサ バッサ)ぶるる!ぱぱ、ごはん、ぱぱ、ごはん」
「もうお腹空いて限界みたいですね。お風呂は後にして、先に食事にしましょう」
「はい(2人)」
「・・やけに素直ですねお2人とも・・やっぱり調子狂うな・・」
「スズキ様、どうされました?」
「いや、ルナ様なんでも・・はは・・」
廊下を歩いてリビングへ向かい、リビングダイニングとなっている広い部屋の左手に入ると、台所と冷蔵庫、食器棚が置かれている。
今流行りの、対面式キッチン。
食事を作り、手前にあるテーブルにすぐに食事を出せるマダムご用達のリビング。
前世のうちの子が誕生日に友達を連れて来て、友達とケーキを食べながら楽しそうにお話をしている姿を、マミと2人で料理をしながら眺めるのが楽しい思い出だ。
『アイテムボックス』から、日中オルレアンの市場で買い物していた、『マドリード』産のニンジンを取り出す。
ニンジンを見るなり、『ユニコーン』と『ペガサス』がよだれを垂らしながら激しく興奮する。
「(バッサ バッサ)ひひ~ん!ぱぱ、ごはん!ぱぱ、ごはん!」
「(バッサ バッサ)ぶるる!ぱぱ、ごはん!ぱぱ、ごはん!」
「スズキ様、『ユニコーン』ちゃんがよだれを垂らしているのです」
「一郎、『ペガサス』ちゃんも、もう我慢できないみたいだよ~」
「はいはい、お2人は後ろにある食器棚から、ニンジン2・3本入るくらいのお皿出しておいて下さい」
「はい(2人)」
「ねえ『カーバンクル』、成熟した『ユニコーン』とか、りんご食べてたって言ってたよね?生のままでも大丈夫なのかな?」
「大人になった『ユニコーン』でしたら、なんでも食べられると思うのですが・・生まれたばかりのこの子たちが食べられるかは、私にもちょっと分からないです・・すいませんマスター」
「大丈夫だよ『カーバンクル』。やっぱり少しお湯で煮て柔らかく蒸かしてから食べさせてみようと思います。ほら美馬さん、昔あの子が小さい時、千葉にあるマザー牧場行った事あるじゃないですか?」
「あんた、あれは馬じゃ無くってポニーでしょうが。本当大丈夫かな、『ペガサス』ちゃんお腹壊したりしないかな・・」
「ちょっとだけ食べさせてみましょうよ。もうお腹空いてしょうが無いって顔してますし」
「そうね・・なるべく柔らかく蒸かして、食べやすくしてあげて一郎」
「分かりました美馬さん」
お鍋を用意して、水の結晶石の蛇口から水を入れる。
コンロ代わりの火の結晶石、コンロと同じダイヤルを時計回りにねじると火が付く。
魔法の火力で、一瞬でお湯が沸く。
ニンジンを鍋に2本投入、1本ずつ『ペガ』と『ユニ』に与える事にする。
ニンジンをお湯で蒸かしている間、もう1つのコンロにフライパンを準備して、こちらもオルレアンの市場で買ってきた油を温める。
ちょうどいい温度調整が難しい、油に段々と気泡が出てくる。
『アイテムボックス』からお芋を取り出し、洗って木のまな板の上に。
包丁で皮をむき、黒い点は包丁の先でほじって取り、円形に1ミリ2ミリをイメージしながら切っていく。
「スズキ様、それはなにを?」
「ルナ様、ポテトチップです」
「嘘でしょ一郎、ポテチ作るのあんた?それにその作り方・・結婚した時にやたら動画見ながら作ってた、ユーチューバーのヒカキンと同じ作り方じゃないのよ!」
「さすが僕の嫁さん、僕の事よく分かってらっしゃる。マミも覚えてるでしょ?今でこそデブキンに成り果てたヒカキンですけど、デビュー当時からチャンネル登録してた僕らが毎日爆笑しながら見てたポテチ作り、このオルレアンで再現ですよ(ザッザッザ)」
「マミ言うな、マミ。ちょっとあんたお芋切り過ぎでしょさすがに?一体何個刻んでんのよ・・ポテチは嬉しいけど、そんなに作っても今日1日じゃ食べきれないでしょうが?」
「分かって無いですね美馬さん、しばらく食べられるくらい作ってるんですって(ザッザッザ)」
「腐るでしょうが、もったいない事しないでよ。『アイテムボックス』に入れてても、腐るものは腐るんだからね?」
「魔法瓶があるんですよ」
「(2人)魔法瓶?」
「ルナ様、この前の『選抜試験』で僕、闘技場『コロッセオ』の前で、『毘沙門天』っていう『おにぎり』屋さんのブース出してたじゃないですか?」
「はい、ジャック様と2人でお伺いしました。あの時の『おにぎり』と『お味噌汁』はとてもとても美味しかったのです」
「一郎、まさかまたガイア様に何か作ってもらってたの?」
「さすが美馬さん、鋭いですね。その通り、『兵式飯盒』っていうお米を炊く特殊な鉄製品を『高等精錬』で精錬してもらったんですよ」
「飯盒炊飯ね・・それって、お米炊いたらおしましでしょ?ポテチと何の関係があるのよ?」
「この『兵式飯盒』、鮮度を永遠に保つ魔法がかかってるんです。20キロのお米を炊くのに、この間10個もガイア師匠に『高等精錬』してもらったんですよ」
「鮮度を保つ!?それって、あらかじめご飯作って入れておけば、いつでも出来たて食べられるって事!?」
「そうですそうです。この間『毘沙門天』出店した時に、『兵式飯盒』で炊いたお米の鮮度がまったく劣化しなかったのは実証済みなんです。ポテチを今量産しておいて、この魔法瓶を兼ねてる『兵式飯盒』に入れて保存しておけば、一週間は僕、リビングでポテチ食べながらゴロゴロできるわけですよ」
「一郎、あんた・・なんでこっちに来てそんなずる賢い頭になっちゃったのよ?」
「美馬さん、日本にいる時は想像は出来ても実現できなかったじゃ無いですか?こっちならもう、やりたい放題何でもできちゃいますから、そこがこのオルレアンの良いところですよね~」
「そんな自由に何でも出来ちゃうの、一郎だけなんだからね!私にもそれ頂戴よ!」
「ちゃんとポテチ後であげますから、そんなに興奮しないで下さいよ。ほら、『ユニ』と『ペガ』のお皿お願いしますよマミさん。そうそう、お風呂後で入りたいので、いつものお風呂のボタン押しといて下さいよ。ほら、後ろのそのボタンです」
「一郎、このボタンってまさか・・」
「あのピコピコ音が鳴って、お風呂が沸きました~ってボーカロイドが知らせてくれるやつですよ」
「はいはい、分かったわよ(ポチッ・・給湯を開始します)うわ・・あんた・・もう日本にいるとしか思えなくなってきちゃったじゃないのよ・・」
「そうでしょマミ。どうです、離婚届撤回して、うちに戻ってくる気になりました?」
「・・ちょっとだけね」
「冗談ですって。ライン=ハート兄さんがいるんですから、許嫁のあなたが何言ってるんですか?」
「うるさいわね馬鹿!ハート様に今日お泊りしたなんて言ったら、あんたの事消すから覚悟しときなさいよ!」
「分かってますって。あっ、『ペガ』と『ユニ』のニンジンいい感じになってきましたよ。ルナ様、少し水に付けて冷ましてみますね。器を食器棚からお願いします」
「はいなのです。ジャンヌ、『ユニコーン』ちゃんとお願いするのです」
「はいルナお姉様、『ユニコーン』ちゃんこっちきてね~」
「(ガチャ)これで良いでしょうか?お水張りますねスズキ様」
「お願いします」
「(バッサ バッサ)ひひ~ん!ぱぱ、ごはん!、ぱぱ、ごはん!」
「(バッサ バッサ)ぶるる!ぱぱ、ごはん!、ぱぱ、ごはん!」
「わあ、ルナお姉様、もうこの子たち限界だよ~」
「はいはい、ただいまニンジンさんをお持ちするのです。ではお皿に・・召し上がれ」
「(バッサ バッサ)ひひ~ん!」
「(バッサ バッサ)ぶるる!」
(ガツガツガツガツガツガツ・・)
「(バッサ バッサ)ひひ~ん!ぱぱ、ごはん!ぱぱ、ごはん!」
「(バッサ バッサ)ぶるる!ぱぱ、ごはん!ぱぱ、ごはん!」
「一瞬で無くなりましたね・・カレー作ろうと思ってたんでニンジン買ってたんですけど・・あと2本だけありますから、足りないようならお芋を追加してみましょうかね。『ユニ』、『ペガ』、ちょっと待ってろよ」
「(バッサ バッサ)ひひ~ん!ぱぱ、ごはん!ぱぱ、ごはん!」
「(バッサ バッサ)ぶるる!ぱぱ、ごはん!ぱぱ、ごはん!」
「凄いですマスター。まだ幼いとはいえ、『ユニコーン』や『ペガサス』が、ヒューマンの男の子の与える食事を食べている姿など、妖精の私には信じられない光景です。どうしてマスターが与える食事をこんなに欲しがるのか、まるで検討がつきません」
「まあいいって『カーバンクル』。ニンジンなら食費も助かるし。これで肉や魚を欲しがったら、毎日家計が大赤字ですよ。まだ副ギルド長になったばっかりですし、もっと僕が稼げるようになったら毎回食事作るのも面倒ですから、ペディグリーチャムとかペットフードでも発注して食べさせてみましょうかね」
「そのような物を食べさせて大丈夫なのでしょうかスズキ様?」
「ちょっと馬鹿でしょ一郎!ペットフードで『ペガサス』育つと本気で思ってんのあんたは!しかもさっきはニンジンさん食べさせといて、ペディグリーチャムはドックフードじゃないのよ!扱いが私たちと一緒で雑過ぎるよ!」
「(バッサ バッサ)ひひ~ん!ぱぱ、ごはん、ぱぱ、ごはん」
「(バッサ バッサ)ぶるる!ぱぱ、ごはん、ぱぱ、ごはん」
「(2人)ええ!?」
「マスター。マスターの与える食事は、本当にこの子たちは何でも食べてしまいますので、お腹を壊さないようにちゃんとお考えになって与えて下さいね」
「かしこまりました・・じゃあ今日はニンジンとお芋で・・」
その後2頭の馬・・聖獣『ユニコーン』と『ペガサス』が、ニンジン追加2本でお腹が一杯になるわけも無く、カレー用に用意しておいたお芋10個をすべて蒸かして与えてみたところ、すべて2頭でたいらげてしまった。
パパとママ2人で話し合い、追加で牛乳はさすがにマズだろうとの結論に達し、後は水を与えて今日1日問題無ければ、明日は最も喜んでいたニンジンを多めに準備する事で話がまとまる。
隣のフライパンに投入し続けていたポテチも、順次油から上げて油を切る。
塩をまいて味見をルナ様とジャンヌ様に1枚ずつ与えてみると、2人ともポテチの触感と塩加減に感動したらしく、もう1枚食べたいとせがむ有り様。
『ベネチア』産の海水から取った塩は、ポテチとの相性がバッチリのようだ。
先に『ユニ』と『ペガ』の食事を済ませると、お腹が満たされて満足したのか、自分の両肩に羽を羽ばたかせて乗ってくる。
「(すりすり)ひひん・・ぱぱ、ぱぱ」
「(すりすり)ぶるる・・ぱぱ、ぱぱ」
「はいはい、良かったな『ユニ』に『ペガ』。パパとママも食事にするから、おとなしくしてろよ」
「マスター、お食事中は私がこの子たちの面倒見ておきますね」
「頼んだよ『カーバンクル』。さあ『ユニ』、『ペガ』、妖精のお姉さんとあっちで遊んで来い」
「(バッサ バッサ)ひひ~ん。ぱぱ、まま」
「(バッサ バッサ)ぶるる。ぱぱ、まま」
「ふう・・肩が軽くなった・・。微妙に重いんだよな『ユニ』と『ペガ』は」
「スズキ様、お食事を作っていただけるのですか?」
「もちろんですよルナ様。すぐに用意したいんで、今日はスパゲティとサラダにしますね」
「まあ、美味しそう・・わたくしもお手伝い致します。今日は泊めていただく身ですので」
「一郎、私とルナお姉様でサラダ作るね」
「はい、お願いします」
『アイテムボックス』からオルレアン市場から買った野菜を出す。
ルナ様とシスタージャンヌ様が、仲良く並んで野菜を水の結晶石から出る水で洗って手で一口だいの大きさにちぎっていく。
自分は鍋にお湯を沸かして、『アイテムボックス』から『マドリード』産のスパゲティを出し煮ていく。
ギルドカードを取り出して、時間を計る。
市場の商人の話では、5分程度湯がくのが良いらしい。
小麦製品としてはパンの他に、スパゲティは存在するようだ。
ピザやラーメン、甘味どころでケーキやドーナツはまだ見た事が無い。
この辺りに商機がありそうな予感がする。
スパゲッティを湯がいている間、2人がサラダを準備して、コップに水を入れてテーブルに置いている。
こちらは容器にオルレアン市場で買っておいたあるものを入れて、箸でほぐし始める。
「一郎、それ『たらこ』じゃない」
「そうですよ美馬さん」
「じゃあやっぱり今晩は、たらこスパゲッティだね、やった!」
「ちょうど『ベネチア』産の安い『たらこ』売ってたんですよ。日によって値段も変動するみたいなんで、元々明日の朝ご飯に乗せようと思ってたんですよ」
「なによ一郎、まさか私の知らないところで、朝ご飯は味噌汁と『たらこ』も付けて明日にでも食べるつもりだったの?」
「別に美馬さんの許可なんかいらないじゃないですか」
「そういう事はちゃんと毎日報告してもらえないかしら?『フレンド登録』してるのに、何にも連絡無いじゃ無いのよあんたは」
「美馬さんとは勝手に登録されてたんですよね?元嫁なんですから、しょうがないじゃないですか」
「元嫁言うな、元嫁。そろそろスパゲティいい感じなんじゃないの?」
「(ピピピ)あっ、ギルドカードのアラームちょうどなりましたね、さすが美馬さん。さて、『たらこ』ちゃんとあえていきましょうかね~。たらこ~たらこ~ぐるぐる~たらこ~」
「(バッサ バッサ)ひひ~ん、ぐるぐる~たらこ~」
「(バッサ バッサ)ぶるる、たらこ~ぐるぐる~」
「スズキ様、『ユニコーン』ちゃんが、どんどんおかしな言葉を覚えていってるのです」
「そうだよ一郎、『ペガサス』ちゃんの教育に良くないよ」
「それを言ったらお2人もエッチだの、やらしいだの覚えて言ってるじゃないですか~」
「(バッサ バッサ)ひひ~ん。ぱぱ、ぐるぐる~エッチ~」
「(バッサ バッサ)ぶるる。ぱぱ、たらこ~やらしい~」
「『カーバンクル』、こっち飛んできたから、あっちに連れてってよ」
「はいマスター。さあさあ、こっちにいらっしゃい~」
ぐるぐるとリビングの宙を舞う『ユニコーン』と『ペガサス』を、妖精『カーバンクル』が誘導して一緒に飛んで遊んでくれている。
ダイニングキッチンの前にあるテーブルに、たらこスパゲティを3人前お皿に盛って、ルナ様、ジャンヌ様、自分と3人で食事を始める。
何やら食事前に2人は神に祈りを捧げている様子、自分も合わせて手を合わせてお祈りする。
今日は2回死んで、1回はここにいる目の前の聖女に葬り去られた自分。
夕飯をいただける事を、聖女では無く神に祈ろう。
父よ、あなたのいつくしみに感謝してこの食事を頂きます。
ここに用意されたものを祝福し 私たちの心と体を支える糧として下さい。
二聖女が神に祈りを捧げるのに合わせて、知らない自分も片言であるが、フレーズを合わせて口ずさんでみる。
不思議とご飯を粗末にしてはいけない、そんな感じにさせる大事な言葉だ。
「(3人)いただきます」
今晩の夕食は、たらこスパゲティにサラダ。
シンプルだが簡単に準備が出来るスパゲティ、忙しい副ギルド長の夕ご飯の献立には今後も欠かせない。
「(もぐっ)スズキ様、とても美味しいのです」
「どうです美馬さん、味します?」
「(もぐもぐ)凄く美味しいよ!ちゃんと『たらこ』の味がするよ!」
「それは良かった。そんなに美味しそうに食べてもらって、僕も作った甲斐がありましたよ」
「ジャンヌがこんなに美味しそうに食べてる姿、スズキ様に会うまでお姉ちゃんは見た事がありませんでした。まさか味がしなかったなんて・・ごめんなさいねジャンヌ」
「ううん、ルナお姉様のせいじゃないの。でも味が全然しないから、いつもお残ししちゃってたし・・」
「ふ~ん、ジャンヌ様、お歳のわりにかなり幼く見えますもんね。これまで本当にあんまり食べてこなかったでしょ?」
「そうよ・・だって・・パンだってパサパサするだけの塊だったし、王宮の料理人が作る料理だって、こんなに美味しいならもっと食べてたし」
「ジャンヌ様、ライン=ハート兄さんと結婚しても、僕がたまに料理作って持って行ってあげますって」
「本当!・・たまにって・・毎日?」
「毎日僕に作れって言ってるんですか?」
「そだよ」
「僕、副ギルド長してるんで忙しいんですけど・・」
「でも私・・ルナ姉が先に結婚するまで、ハート様とも誰とも結婚しないよ」
「ジャンヌ・・わたくしの事は良いのですよ?」
「だってルナお姉様、昨日もずっと泣いてたもん。ジャンヌはもう、そうするって決めたの」
「ジャンヌったら」
「良いんじゃないですかルナ様。僕はジャンヌ様に賛成しますよ」
「本当、一郎!」
「スズキ様。でもジャック様は石化して・・」
「大丈夫ですってルナ様。聖杯『カリス』だって、今日1日であっさり見つかったじゃないですか?僕のリビングで『聖獣』の『ユニコーン』と『ペガサス』だって、妖精の『カーバンクル』も飛んでますよ。今、僕、何でも出来るような気がするんです。ジャンク兄さんが明日にでも石化から解けたら、すぐに結婚式を『ハギア・ソフィア大聖堂』でやりましょうよ」
「スズキ様・・わたくしはまだ、結婚したいとは1言も言っていないのです・・」
「え?そうなんですか?」
「嘘だよお姉ちゃん~昨日の夜、ジャンヌにたくさん結婚しとけば良かったって言ってたじゃん~」
「ジャンヌはお黙りなさい!昨日はショックで想いがあふれてしまったのです!冷静になって考えたら、もうちょっと真剣に考えないといけないと思ったのです!」
「(2人)あはは」
「ジャンヌもスズキ様も笑わないで欲しいのです!」
「ははは、ルナ様もそれだけ元気になったんなら、もう安心ですね」
「え?わたくしが、元気に?」
「そうだよお姉ちゃん。昨日までずっと泣いてばっかりで、ジャンヌ心配したんだからね?」
「まあ・・ごめんなさいジャンヌ。スズキ様のおかげですね・・わたくしも美味しいお料理を食べられて、とても元気が出てきたのです」
「それは良かった。じゃあルナ様、例のあれ、明日『トロント』に試しに行きましょうね」
「あれ?・・ですか?」
「石像になった恋人を救うには、もうあれしかありませんって」
「ス、ス、スズキ様は!不謹慎な事を言わないで欲しいのです!」
「ルナお姉ちゃん、明日ジャック様の石像にチューするの?」
「しません!ジャンヌも何を言っているのですか、お黙りなさい!」
「(2人)あははは」
「2人ともお黙りなさい!」
「ははは。そうそうルナ様、ちょうど3人揃ってますし、『ユニ』と『ペガ』に名前付けてあげません?ずっとなんて呼ぼうか迷ってたんですよね」
「それジャンヌも思ってた、とりあえず名前決めようルナお姉ちゃん~」
「話題をそらさないで欲しいのです、まったく・・そうですね。ずっと『ユニコーン』ちゃんに『ペガサス』ちゃんと呼ぶのはちょっと・・パパ・・スズキ様はどんなお名前が宜しいですか?」
「(バッサ バッサ)ひひ~ん。ぱぱ、ぐるぐる~エッチ~」
「(バッサ バッサ)ぶるる。ぱぱ、たらこ~やらしい~」
「う~ん・・『ユニコーン』に『ペガサス』ですよね~やっぱりゲレゲレとボロンゴで決まりですね」
「(ビクッ!)ひひ!?」
「(ビクッ!)ぶるっ!?」
「スズキ様、『ユニコーン』ちゃんの表情が青いのです!」
「ダメだよ一郎!『ペガサス』ちゃんも絶望的な表情になってる、地面に落ちていってるよ!」
「良いじゃないですか美馬さん。今は日本でもキラキラネームが増えてて、檸檬ちゃんだの月くんだの、あんなのはダメですって。もっとマイナーなやつが後世に残る名馬になりますって絶対」
「ゲレゲレとボロンゴの方がおかしいよ!」
「スズキ様・・その・・わたくしとの赤ちゃんの名前を考えるくらい真面目にお考えいただいてもよろしいでしょうか?」
「またまた~ルナ様は真面目なんですから~」
(ピコピン ピコピン ピコピンピ~ン ピコピン ピコ ピンピンピ~ン お風呂が沸きました~)
「(バッサ バッサ)ひひ~ん。ぱぱ、ぐるぐる~おふろがわきました~」
「(バッサ バッサ)ぶるる。ぱぱ、たらこ~おふろがわきました~」
「スズキ様、今の音は一体?」
「ああルナ様、ナイリンの全自動湯沸かし器で、お風呂が沸いたんですよ」
「ちょっと一郎、なんでナイリンの音がこのオルレアンで鳴ってるわけよ?」
「こっちの方が毎日聞いてたから良いじゃないですかマミさん」
「マミ言うな、マミ。もう、これじゃあまるで日本で住んでるのと変わらないじゃ無いのよ。私の調子まで狂ってきちゃうわ」
「王宮戻る気になりました美馬さん?」
「全然。まだ私、テレビ見て無いんですけど」
「分かってますって。今日はテレビ購入特典で付いてた『アリゾナプライム』のDVD後で見ますんで。地上波も見れるかまだ試して無いんで、お風呂に先に入っちゃいましょうよ」
「本当一郎!お風呂は・・一緒に入るの?」
「なに冗談言ってるんですか、ちょうど3人とも食べ終わりましたし、僕が片付けしときますんで、『ユニ』と『ペガ』と一緒にお2人で入ってきて下さいよ。そうで無くても、今日タマゴちゃんから森で孵化したばっかりなんですから、あの子たちの体しっかり洗ってやって下さいよ」
「それもそうね・・ルナお姉様、私がシャワーの使い方教えてあげるね。『ペガサス』ちゃんたちと一緒にお風呂入ろう?」
「はい、そうさせていただきます。その・・お着替えも・・」
「そうだ一郎、空いてるお部屋使って良い?出来れば女の子のお荷物あるから、私とルナお姉様で1部屋ずつ欲しいんですけど」
「たった一泊で、一体どれだけ荷物持ってこられたんですか2人とも・・玄関の手前にある両側の部屋が空いてますんで、何も荷物ありませんから、ご自由にお使い下さい」
「やった、ありがと一郎!ルナお姉様、一緒に行こう。ジャンヌは左のお部屋使うから、ルナお姉様は右のお部屋使おうよ」
「はい、スズキ様、何から何まで申し訳ございません」
「良いですよ別に、どうせ家族もいませんから、部屋は余ってましたし」
「一郎、ベットまでさすがに持ってきて無いよジャンヌ。お布団お部屋にあるの?」
「さすがに布団は1つしかありませんよ。リビングの隣に畳の部屋ありますんで、僕が使ってる布団、今日はお2人で使って下さいよ。無属性法衣の『インフィニティ』着て寝てましたんで、臭いとか移って無いと思いますし、ほぼ新品ですよ」
「一郎はどこで寝るの?一緒に寝る?」
「また冗談言わないで下さいよ美馬さん。僕は仕事も少し残ってますし、リビングのソファで寝ますね」
「スズキ様、わたくしたちが押しかけてしまいましたので、ジャンヌと私はリビングで結構です」
「そうはいきませんってルナ様。僕この前まで干し草のベットの馬小屋で寝てましたから、ソファで寝られるだけで十分ですって」
「一郎ごめんね、私、明日は王宮からベッド持ってくるから」
「ちょっと美馬さん、本気で明日も泊まる気でいるんですか?」
「そだよ」
「ダメですって」
「なんでよ~」
「今日は特別サンダース様に許可取ったんですから。100歩譲って、ジャック兄さんが石化から解けるまでの特別ですからね?僕もハート兄さんも、ジャック兄さんが石化から解けるまではお2人をお守りしないといけない立場なんですから」
「じゃあ一郎、ジャック様の石化解けるまではここに泊めてよ~」
「それは今後のお2人次第ですね。はいはい、お母さんは子供を早くお風呂に入れてやって下さいよ」
「は~い、ルナお姉様、お荷物お部屋に置きに行こ~。先に全部整えちゃおう」
「今なにか言いました美馬さん?」
「なんでも無いよ~行こルナお姉様」
「はいなのです。ではスズキ様、お部屋をお借り致します」
「はいどうぞ・・さて、片付け片付け」
玄関を入って両脇にある左の部屋と右の部屋、それぞれの部屋を一時的にルナ様とジャンヌ様が荷物を置く部屋として使うようだ。
3人で食事を終え、リビングでは妖精『カーバンクル』と『ユニコーン』、『ペガサス』たちが相変わらず空を飛んで遊んでいる。
「ねえ『カーバンクル』、その子たち結構ヒューマンの言葉覚えてきてるよね?読み書きとかも出来るようになるのかな?」
「擬人化できる昼間の間であれば、覚えさせれば魔法だって使えるようになるはずですマスター」
「魔法まで・・さすが『聖獣』・・明日にでも、『ギルド本館第一タワー』の『小学校・保育園』に通わせてみようかな・・たしかダリアさんと、マリーゴールドさんの子供が同じくらいの歳の子供だったな・・」
「スズキ様、お風呂に入る準備が出来たのです・・一緒に入られますか?」
「なにルナ様まで冗談言ってるんですか?『カーバンクル』、ルナ様来たから、お風呂場にその子たち連れて行ってあげて」
「はいマスター」
「(ダッダッダ)一郎、お風呂入る準備できたよ~。一郎も一緒に入るの?」
「またそうやって僕をハメようとしないで下さいよジャンヌ様まで。『ユニ』と『ペガ』、『カーバンクル』が連れて行きますから、お風呂早く入れてやって下さいよ。口のまわりがニンジンだらけになってますから、後でリビングもクイックルワイパーお願いしますね」
「は~い。ルナお姉様、こっちこっち。『カーバンクル』さん、『ペガサス』ちゃんたちこっちにお願いしま~す」
「はい奥様。さああなたち、マスターの奥様のところまで一緒に来るのです」
「ひひ~ん」
「ぶるる」
「ふう・・静かになった・・。『カーバンクル』に、あの2人奥様じゃ無いって言っておかないと・・」
リビングダイニングの食事をしたテーブルからお皿とコップを引いて、台所で使用したお皿を水の結晶石とシャボンで綺麗に洗っていく。
蛇口に水の結晶石がついていく事以外は、特段日本の台所となんら変わりは無い。
しばらく洗い物をしていると、浴室の方で騒がしい音が聞こえてくる。
「(バッサ バッサ)ひひ~ん。ぱぱ、ぐるぐる~おふろがわきました~」
「(バッサ バッサ)ぶるる。ぱぱ、たらこ~おふろがわきました~」
「ちょっと『ユニコーン』ちゃん、そっち行っちゃダメなのです~」
「『ペガサス』ちゃん、ジャンヌ寒いから、早くお風呂入ろうよ~」
何やら裸の天使と天馬がリビングに一瞬現れたような気がしたが、下を向いてお皿を洗っているので気にしない事にする。
浴室の方では、相変わらず騒がしい音が聞こえてくる。
ママが子供たちを洗うのに必死になっている様子。
何も言わずに洗われてくれる、自分の持つお皿だけが僕の癒しだ。




