165.初めてのお泊(とま)り
日曜日、オルレアンの夜のとばりが訪れる18時、陽はすっかり暮れ、夜空に星々が輝き始める。
ホワイトカラーの副ギルド長である自分に休みなどあるはずも無く、これまでブラックに働いてきた部下の5エルフたちも、日曜日にも関わらずさも当たり前のように働き、社宅へと帰宅する。
5エルフの個性は様々。
1番窓口のサリーさん、『農林水産省』という日本かぶれの担当名を与え、さっそく各国からの輸入農産物と海産物のシェア統計を報告書にまとめてくれた。
2番窓口のリンダさん、こちらも古き良き日本のバブル景気にあやかり『大蔵省』の担当に任命。
今夜は『ベネチア』と『マドリード』の外交に出掛ける副ギルド長のセバスさんに帯同して夜勤をするため、明日の有給休暇取得を指示。
3番窓口のエミリーさんは、『文部省』の担当に任命。
さっそく『ギルド本館第一タワー』の6階『小学校・保育園』フロアに集まる300名近くの平民・貧困層の子供たちに教育の場の提供を開始した。
実質初日となる今日1日でこれだけの生徒が集まった。
とても『本館第一タワー』だけのスペースで賄える生徒数では無い。
早急に『西洋教会』が保有する中小の教会関係施設などへ、いくつもの教育施設を設ける協力を取りつける必要があるだろう。
今のギルドには、金はあるが土地・施設のハードが足りないのが現状。
アイリスが落ち着いた段階で、『ハギア・ソフィア大聖堂』にいる大教皇『ハウル7世』にお願いしないと・・あれ、大教皇・・何か忘れているような・・気のせいか・・。
続いて『ベネチア』ギルドから引き抜いた4名目のエルフ、ダリアさん。
『厚生省』の担当として、初日の今日は4階『小児科』フロアに、さっそく『産婦人科』を併設してもらった。
おかげで身重の体となったアイリスがすぐに病室に入院する事ができ、シャルル女王陛下側の王宮サイドへ、オルレアン連合ギルドの治癒レベルの高さ、受け入れ態勢を誇示する事も出来ただろう。
あの女王陛下が、何も言わずにアイリスをここへ置いてくれたのも、防犯の面でサンダース様の存在と、この4階『小児科・産婦人科』エリア、そして5階『内科・外科』フロアを含めた『病院』フロアに全幅の信頼を寄せていただいているのだろう。
明日以降は3階の『薬剤』フロア、日本のドラッグストアレベルの販売網にも着手してもらおう。
最後に・・『トロント』の『ラスベガス』カジノから引き抜いた元『カジノディーラー』のマリーゴールドさん。
どうやったのかプロセスが全く分からないが、エルミタージュ西門から入る新闘技場『コロッセオ』周辺に開発した『オルレアンネバーランドリゾート』の遊具、設備、宿泊施設すべてに対する教育された冒険者『キャスト』の調教・・じゃなくて社員教育を、たったの1日で完了させてしまった。
明日からは、事前にエルミタージュ学院の理事会で承認をもらっているアルバイト学院生の調教・・もとい、社員教育を任せよう。多少危険な暴れ馬を乗りこなしてこそ、真にたどり着くべき未来へとつながる・・はず。
ムチもある程度は許容して、彼女を自由と言う名の大海原へ羽ばたかせてみよう。
もはや『通商産業省』とは名ばかり。
夜の街対策課の実行部隊として、このオルレアンに金貨の雨を降らせて見せてもらおう。
『ギルド本館第一タワー』の1階、『マドリード』産薬草のヘビーユーザーである自分。
空き時間が出来たので、人知れず薬草の自動販売機で、今日1日でほぼ消費し切った薬草を補充する。
ギルド会館の職員に自動販売機の薬草を補充させ、それを買い占める副ギルド長。
公共事業とはまさにこの事。
「(シュン!)ただいま一郎!」
「うわ!?いきなり現れないで下さいよ美馬さん」
「美馬言うな、美馬。はいルナお姉様、ジャンヌの背中ゆっくり降りてね」
「ありがとうジャンヌ。いつもおんぶしてくれて、ごめんなさいね。こっちにいらっしゃい、『ユニコーン』ちゃん」
「こっちだよ『ペガサス』ちゃん、ジャンヌの方においで~」
「(バッサ バッサ)ひひ~ん。ぱぱ、まま、ぱぱ、まま」
「(バッサ バッサ)ぶるる。ぱぱ、まま、ぱぱ、まま」
「(ギュ)はい『ユニコーン』ちゃん、お母さんお待たせなのです」
「(ギュギュ)『ペガサス』ちゃんただいま~お母さんだよ~」
「(すりすり)ひひ~ん。ぱぱ、まま、ぱぱ、まま」
「(すりすり)ぶるる。ぱぱ、まま、ぱぱ、まま」
「『ユニコーン』ちゃん、必ずパパはおっしゃるのですね」
「ルナお姉様。『ペガサス』ちゃんもママだけじゃなくって、パパって言ってるよ。一郎が変な事教えたからでしょ?」
「僕は何も教えてませんって。逆にさっきからその子たち、2人が変な言葉教えたから、危険な言葉を覚えちゃったじゃないですか~」
「そんな事は何も教えていないのです。スズキ様がエッチな事をお考えだからいけないのです」
「そうだよそうだよ。ジャンヌ何も言ってないもん、一郎がやらしいからいけないんだよ」
「(すりすり)ひひ~ん。ぱぱ、エッチ、ぱぱ、エッチ」
「(すりすり)ぶるる。ぱぱ、やらしい、ぱぱ、やらしい」
「・・もういいんで、行きましょうか」
「(2人)はい」
『マドリード産』薬草を自動販売機で買い占めていると、何やら王宮でお泊りセットを持ってきたのであろう二聖女が、シスタージャンヌ様の『瞬足』で『ギルド本館第一タワー』まで戻ってきた。
2人は自分の両肩に乗っていた『ユニコーン』と『ペガサス』をそれぞれ胸に抱えて、先頭で『第二タワー』へ向かって歩く自分の後ろをついてくる。
背中の後ろでは何やら楽しそうに会話する姉妹の声が聞こえてくる。
『ギルド本館第一タワー』前の円形の広場をまっすぐ『第二タワー』に向かって進む。
広場の中心にある噴水を過ぎて、段々と10階建ての『ギルド会館第二タワー』がまじかに迫ってくる。
あらためて見上げると、とても大きく感じる。ルナ様が声をかけてくる。
「スズキ様、1日にして建てられたこちらの建物・・中はどのようになっているのでしょうか?」
「ルナ様、ここは元々ギルド会館前の宿屋があった場所なので、1階は食事が出来る場所や、お洋服を買えるような場所があります。まだ空き店舗が多くて、ほら、あそこに見える緑色の看板なんですが」
「ちょっと一郎、あれって日本の緑の看板のコンビニでしょ?」
「さすが美馬さん、分かってる。そこは秘密のアッコちゃんでお願いします。普通のコンビニですって、コンビニ。『ウインダムマート』って言う名前で、ガイア師匠のお母さんが経営してる大衆浴場『ウインダム』の作業員たちに声をかけてもらって出店してもらったんです。それにしても、すでに凄い人並んでますね・・」
「一郎、あそこで何売ってるの?」
「日本のコンビニに近いものを目指してます。今は『ウインダム』の地下作業場で作られてる、『マドリード』産の『ジャポニカ米』を使ったおにぎりとか、1階の『ギルド食堂』でも売られている日本のサンドイッチの『サンド』とかですかね。まだまだ品揃えが豊富とは言えませんけど、あそこで並んでる長蛇の列、ちょうどクエスト終わりの冒険者たちでしょうね。上の階が宿屋になってますから、買ってから部屋で食べる冒険者も多いでしょう」
「スズキ様、お昼にいただいた1階のあの場所で、『サンド』や以前いただいたお料理を、冒険者の皆さんが召し上がってらっしゃるんですね」
「そうですルナ様。『第二タワー』の2階から6階は、全部宿屋になってますから、全室で4・500名程度の各国から集まる冒険者は宿泊できると思いますよ」
「ちょっと一郎。たしかに大きな建物だけど、そんなに冒険者宿泊出来ないでしょうが?」
「それが美馬さん。5階と6階はカプセルホテルにしてるんですって。2階から4階は個室で値段高く設定して、5階が女子専用で100名。6階が男子専用で100名。すし詰めです」
「あんた・・なかなかズル賢いわね・・」
「お代官様こそ」
「勝手に私を巻き込まないでくれる?て言うか、なんでそんなに商売上手なのよあんた?」
「だって前世と違って、スキルに魔法一つで何でも建てられちゃうじゃないですか美馬さん。コンクリートから作る必要が無いって、なんて便利な世界なんでしょうねここ」
「あんたね、魔法があるからって、こんなタワー普通1棟まるごと半日で作れるわけ無いんだからね?元々あったパパのいるギルド会館だって、出来るのに2年もかかってるんだから」
「その話聞きましたって美馬さん。だから創造神『タイタン』様に神化したガイア師匠に、サクッと作ってもらったんですよ、サクッと」
「あんたの『上位昇進』がチート過ぎるのよ。一体この私をあと何レベル上げたら気が済むわけあんたは?」
「いいじゃないですか、アイリスお母様だって娘が強くなったって喜んでらっしゃいましたよ?」
「ふんっ、さっきまであんただって、私たちの事、化け物呼ばわりしてたくせに」
「そんな事ありませんって美馬さん、そんな可愛い顔して怒らないで下さいって。ああ、そうそう。宿屋フロアの上の7階、映画館とゲームセンター作ったんですよ」
「ええ!?何よそれ!」
「8階は、な、な、なんと水族館とプラネタリウムですよ美馬さん」
「嘘でしょ一郎、私もプラネタリウム見たい~一緒に連れて行ってよ~」
「まあ調子良い事言いましたけど、残念ながらハリボタもハリボタ。ハリーボッターなんですよ」
「え~それって、まだ水族館もお魚さんとかいないわけ~」
「そうですそうです。今度『ベネチア』からピラニアとか深海魚とか仕入れますって。美馬さん深海魚とかダイオウイカとかテレビで好きだったじゃないですか~」
「そんなグロテスクな物が、この私がさも好き見たいに言わないでもらえる?テレビでやってたら・・ちょっとあれよ、見ちゃうでしょ、ああいうのって。もっと普通にアシカちゃんとかペンギンちゃんとかにしてもらえないかしら?」
「ああ、良いですね。そのアイデア乗った!アシカショーで特別席を用意して・・貴族から金貨せしめてやりましょうよ美馬さん」
「スズキ様、動物を使って金貨を稼ごうなどと、『西洋教会』の教えに反するのです。アシカちゃんやペンギンちゃんを、一体なんだと思ってらっしゃるのですかあなたは?」
「ひひ~ん。ぱぱ、なんだとおもってらっしゃる」
「ぶるる。ぱぱ、やらしい」
「うるさいぞ『ユニ』に『ペガ』。マリーゴールドさんのところに連れて行くぞ」
「ひひっ!?」
「ぶるっ!?」
「ああ!スズキ様、『ユニコーン』ちゃんの顔が青くなったのです!体が透明になってきたのです!」
「ちょっと一郎、『ペガサス』ちゃんに変な事言わないでよ!体がどんどん軽くなってきたよ!」
「はいはい、『ユニ』に『ペガ』、2人がうるさいから勝手に消えるなって。家に帰ったら、美味しいごはん作ってやるから」
「(バッサ バッサ)ひひ~ん。ぱぱ、ごはん、ぱぱ、ごはん」
「(バッサ バッサ)ぶるる。ぱぱ、やらしい、ぱぱ、やらしい」
「・・『カーバンクル』、この子たちリンゴとか食べるんですよね?」
「はいマスター、確かに神の国の『妖精界』で、成熟期まで成長した『ユニコーン』や『ペガサス』が食べているのを見た事があります」
「スズキ様、何かお食事を買ってからおうちに帰られますか?」
「ああルナ様。僕昼間に市場寄って買い物済ませてますんで、材料は大丈夫です。まず初日ですし野菜を中心に、やっぱり馬と言えばあれですよね~」
「あんたまさか・・人参食べさせる気?」
「さすが美馬さん、分かってる」
「まあリンゴって言われてもね・・私なら・・やっぱり人参かな。ちゃんと買ってるの?」
「バッチリです、『マドリード』産が安く手に入ったんで、ちゃんと『アイテムボックス』入れてますって」
「ふ~ん、あんたにしては準備が良いわね。見直したわ」
「ありがとうございますマミさん。マミの夕食もちゃんと用意してますって」
「マミ言うな、マミ。調子に乗るとすぐにあんたは・・それで、今晩何作ってくれるの?」
「『ベネチア』産のたらこが安かったんですよ。『マドリード』産の小麦もあるんで、僕の料理スキルで、たらこスパゲティが今晩のメインです」
「本当!ジャンヌ早く食べたいよ!もうお腹ペコペコだよ一郎~」
「はいはい、ルナ様もたらこスパゲティ食べられますかね?この間作ったナポリタンみたいなスパゲティの事なんですけど」
「はい、それでぜひお願いします。私は『水属性』なので、『ベネチア』の海産物がとても楽しみなのです」
「ジャンヌは『風属性』だけど、何でも食べられるよ」
「それは良かった。お2人とも居候なんですから、お約束通り『ペガ』と『ユニ』のお世話をお願いします。僕が人参蒸かしますんで、2匹に与えてみて下さい。ダメそうなら、お芋やリンゴも買ってあるんで色々試してみましょう」
「(2人)はい」
「・・やけに今日は素直ですねお2人とも」
「スズキ様、そのような事は・・」
「いつも私たち素直だよ一郎」
「う~ん、まあ良いですよ。なんか2人が素直だと、調子狂うんですよね・・」
「なにかおっしゃられましたかスズキ様?」
「ああ、いや、なんでも・・行きましょうか2人とも」
「(2人)はい」
昨日までの2人とは思えないほど素直に言う事を聞き始める二聖女。
普段騎士の姿をしたジャンヌ様が、今日は修道服を着たシスタージャンヌ様だからおとなしいのかとも感じる。
いつもこれくらいおとなしくしていただければ、本当にお母様をしのぐ人気が出るだろうと強く思いつつ、『第二タワー』の10階住居エリアを目指して裏手にまわろうとする。
ルナ様から声がかかる。
「スズキ様、建物の裏に回られるのですか?」
「はいルナ様。表はコンビニ『ウインダムマート』や、1階のフードコートを利用する冒険者で溢れてますから。2階から6階の宿屋にもたくさん冒険者が宿泊してますし。元々この周辺に住んでらっしゃった住人の方には9階の住居を、各部屋10世帯に移住していただきました。10階がギルドで働く僕の部下職員の社宅になってまして、いくつかある10階の1室が僕の家なんです」
「一郎・・あんたまさか、ここまで日本かぶれの建物ばっかり作ったからには、あんたの家って・・」
「そうだよマミ。きっと僕の家見たら、マミ感動して泣いちゃいますよきっと」
「マミ言うな、マミ・・」
「ジャンヌ?」
「なんでも無いよお姉ちゃん、マミって言うの禁止だって言ってるよ一郎!」
「ああ、すいません美馬さん。さあさあ、16年ぶり・・ですか、ご自宅へご案内致します姫」
「またあんたは、調子良い事ばっかり言って・・」
急に黙り込むシスタージャンヌ様とルナ様を連れて『第二タワー』の裏手に回り、エントランスに向かう。
『第二タワー』の裏手に回ると、9階と10階の住人しか利用しないエレベーターホールがある。
そのため裏手への小道の人通りはほとんどなく、二聖女が夜中に出入りする様子を見る住人の姿も、あたりには見られない。
裏手の入口に回ると、高級ホテルの入口のような大理石のエントランスが見えてくる。
二聖女は揃って驚いている様子。
「あんた!なんてもの作ってくれちゃったのよ!?」
「どうです美馬さん。ドワーフのガイア師匠直伝の匠の技の数々。さらに大地神『タイタン』様となった師匠の『高等精錬』で作り上げたコンクリート造りのマンション。あのボロの宿屋がたった1日で、なんという事でしょう~驚きのマンションに生まれ変わったではありませんか~ですよ美馬さん。劇的アフタービフォーですって」
「そんな古いネタいらないわよ、あんた。それでこのマンションの中、一体どうなってんのよ!」
「まあまあ奥さん、興奮しないで下さいって。まずはエントランスから、さあこちらでございます」
「このエントランスって・・まんま、うちのマンションと一緒じゃないのよあんた!何勝手に日本の設計図パクってんのよ!」
「まあまあ、日本のそれは秘密のアッコちゃんでお願いしますよ奥さん。ではまず1階よりご案内致します」
「怪しい不動産業者みたいねあんた・・」
「さあルナ様、こちらです。親衛隊のわたくしめが、ルナ様をご案内致します」
「はい、ありがとうございます・・」
「ちょっと一郎、私の親衛隊の件はどうなったのよ?」
「兼任なんて無理ですって。僕はルナ様一筋ですって」
「スズキ様・・」
「あんたね、私とルナ姉の対応が違い過ぎるんですけど!なんで私の対応そんな雑なわけ?ちょっと信じられないんですけど」
「まあまあ奥さん、そんな興奮しないで下さいって。こんな入り口で聖女様がたむろしてたら、住人にバレちゃいますから、お早く上の階まで」
「ふんっ、もういいわよ。さっさと案内なさい」
「かしこまりました」
『聖獣』を胸に抱えるルナ様と、シスタージャンヌ奥様をエントランスに誘導すると、自動でガラスのドアが開く。
二聖女が驚きの表情。
「自動ドア!?どうなってんのこれ?」
「オートロックです。風の結晶石でゼンマイを動かして、土の結晶石が地面に張られてます。そこを踏むと雷の結晶石の電気で起動。入居者の持ってる鍵が無いと通電せずゼンマイが止まります、つまり開かない。からくり装置ですね」
「一郎・・日本にいる時からそのずるがしこい頭を、なんで日常生活や会社で生かせなかったのかしらねあんたは?」
「痛い過去エグらないで下さいよ奥さん。さあさあ、エレベーターへ。ルナ様、こちらがエレベーターホールでございます」
「ありがとうございます・・なのです」
「一郎、そういえばこのエレベーター・・王宮とギルド会館にしか無かった『マドリード』式機械を、なんであんたが再現できるのよ?」
「まあまあ奥さん、エレベーターもガイア師匠の手にかかれば、たった1日で産業革命が大爆発ですって。このエレベーターは僕とガイア師匠の愛の結晶。日本人である僕が作ったんです、もはや日本製と言っても過言ではありませんよ。鈴木製作所、インスパイアー・ザ・オルレアン、この~木なんの木、スズキのキのですって奥さん」
「その私にしか伝わらない、発見不思議世界言わないでもらえる?ルナ姉が意味分かんなくて混乱するでしょうが」
「わたくしにはまるで意味が分からないのです・・スズキ様は一体何をお話されていらっしゃるのですか?」
「まあまあお2人とも、早く上に上がっちゃいましょうよ。部下の5エルフに一緒にいるとこ見られたら、すぐに噂がタワー中に広がっちゃいますから。大スクープも良いとこですよ美馬さん。文春砲ですよ文春砲」
「だからその私にしか伝わらない話するのやめてもらえません?」
「はいはい奥さん、上へ参りま~す(ポチッ)」
ルナ様とシスタージャンヌ奥様を、最上階10階へエレベーターでご案内する怪しい不動産業者の副ギルド長。
エレベーターが10階に到着すると、マンション共用部から、オルレアンの街の夜景が一望できる。
向かいには『ギルド本館第一タワー』が結晶石で夜でも光り輝く。
少し西側の左手に、こちらも夜間営業まで続く大衆浴場『ウインダム』。
さらに左手にはお城の王宮、『ハギア・ソフィア大聖堂』の輝く建物が見える。
『シャルル=ドゴール大通り』には、夜でも馬車やヒューマンの人影が行き交い、U字の大通りのカーブが反時計回りに曲がる。
エルミタージュの西門がまず見え、その奥に新闘技場『コロッセオ』と、『オルレアンネバーランドリゾート』の輝きが見えてくる。
さらに東側右手にエルミタージュの講堂。
こうしてみるとオルレアンの街も、『トロント』に負けない大都会といえる。
今はまだ稼働していない施設を整えて、いずれは『四国同盟』で一番の国にして見せたい。
「どうですルナ様。王宮より質素かも知れませんけど、10階から見るオルレアンの街の夜景も素敵だと思いませんか?」
「はい、とっても素敵なのです。毎日王宮の窓から眺める景色と、ここから眺めるオルレアンの街全体の景色は全然違うのです、とてもキラキラして素敵なのです」
「ちょっと一郎、なにルナ姉くどいてんのよ?」
「そんな事してませんって奥さん。なんでしたら、僕の部屋の『1001』号室のお隣の、『1002』号室、すぐにでもお2人でご利用いただけますよ?」
「その部屋、テレビ無いんでしょ?」
「またまた~どうせ今まで無かったんですから良いじゃないですか無くても」
「テレビも見たいし、味のするご飯も私食べたいの!」
「分かりましたから、ちょっと声が聞こえちゃいますから、部下にバレたら面倒なんですって本当に。バレないうちに早く部屋に入って下さいよ」
「ルナお姉様、一郎にやらしい事されるから、ジャンヌのそば離れないでね」
「はい、そうしますジャンヌ」
「ひひ~ん。ぱぱ、ごはん、ぱぱ、ごはん」
「ぶるる。ぱぱ、やらしい、ぱぱ、やらしい」
「・・ここが『1001』号室の僕の部屋です(ガチャ)どうぞ」
「(2人)失礼しま~す」
二聖女と、聖獣『ユニコーン』と『ペガサス』、ついでに妖精『カーバンクル』の5名が自分の『1001』号室に入る。
「日本にいた美馬さんには分かると思いますけど、先ほど見たオルレアンの街の方は北側です。『第二タワー』は全棟、オルレアン海のオーシャンビュー。南向きの物件なんで、後で見せますけどリビングの景色も最高ですよ。朝7時から夕方16時まで絶え間なく日光が室内を明るく照らして、洗濯物は『風のクリスタル』の加護でサラッと乾燥しますし。オルレアンの環境って、日本のジメジメした高温多湿の環境とはやっぱり違いますよね美馬さん」
「一郎、あんた、次の転職先の6社目は不動産会社が向いてるわね」
「もし日本に戻れたら再就職のあっせん、美馬さんも手伝って下さいよ」
「なんで私があんたと一緒にハローワーク行かなきゃいけないわけ?」
「またまた~まあ、もう前世の話ですって。どうせ前世の僕の遺体バラバラなんでしょ?」
「もうすでに火葬されて東京湾にまかれてるわよ」
「え~そうだったんですね・・だから魚に転生したんですかね?」
「何納得してんのよ・・怪しい不動産業者さん、さっさと室内を案内してもらえるかしら?」
「はいはい、ただいま。さあさあ、お2人とも、こちらが『1001』号室、僕の自宅マンションです。どうです美馬さん、再現度バッチリでしょ?」
「バッチリどころか、うちのマンションそのまんまじゃないのよ!シューズボックスに鏡もあるし・・これなら朝、エルミタージュ学院行く前に髪型のセットもチェックできるじゃないの」
「そうですそうです、16年ぶりの我が家、段々思い出してきましたか美馬さん?では室内ではこちらのスリッパを(パスッ)」
「はいはい、まだ新築って事ね」
「そうですそうです。では玄関入って左手の部屋が」
「あんた、この部屋・・」
「そうです、あの子の部屋です。僕だけ入っちゃいけない、秘密の部屋です」
「夜中にこっそり散々入ってたくせに、よくそんな事言えるわね?」
「夜中にこっそり?」
「ああ、ルナ様、前世の話です、前世の」
「前世・・ですか・・」
「それはあの子には秘密のアッコちゃんですって美馬さん。さあさあ奥様、リビングへ、こちらでございます」
「(かつ かつ かつ)あんた、この台所・・このリビング・・」
「そうです、そうです」
「本当にテレビまで!?うちのマンションとまんま同じレイアウトじゃないのよ!」
「そうですそうです。どうです美馬さん?日本に帰って来た感、ハンパ無くないです・・か?」
「(ポロポロッ)ううっ・・」
「マ、マミ!?どうした?」
「(ポロポロッ)もう日本に帰れないって・・ずっと思ってたから・・え~ん、お姉ちゃん~」
「ジャンヌ・・よしよし」
「マミ・・ごめん、泣かないでって」
リビングに入るなり、日本の自分の家に帰って来たと感じたのだろう。
突然マミが泣き出してしまった。姉のルナの胸に顔をうずめる。
胸に抱く『ペガサス』が苦しそうに2人に挟まれる。
「ううっ・・ぐすっ・・ちょっとあんた!なに、これみよがしにまたマミって言ってんのよ私を!(バシッ!)」
「(カチン!)ちょっとマミ、叩かないでって」
「だからマミ言うな、マミ・・そっちの台所・・冷蔵庫!?」
「当たり前ですよマミさん、ただの鉄の箱じゃ無いんですよ?僕の言った通り、本当に家電の3種の神器ですって。うちのマンションにあったやつより、大分小さいですけど」
「これ使えるの!?」
「もちろんですよマミさん。さあ、開けてみて下さい。合言葉は、開けゴマです」
「(パカッ!)凄い!『コーヒー牛乳』に『レモン牛乳』、『イチゴ牛乳』もあるじゃない!キンキンに冷えてんじゃないの!」
「ちゃんと合言葉使って開けて下さいよマミさん」
「そんな事言うわけないでしょ!これ、飲んでいい?」
「もちろんです、さあさあどうぞ。マミは『イチゴ牛乳』派で、あの子は『レモン牛乳』派でしたよね」
「よく分かってんじゃないのよあんた(グビグビ)美味しい!イチゴ味がちゃんとする!」
「そうですそうです、僕の愛が詰まってますから。賞味期限3日ですんで、明日の分も補充しときますね」
「一郎、『アイテムボックス』から『レモン牛乳』・・どうやって手に入れたのよそれ?」
「それは企業秘密ですよマミさん。それ知っちゃったらまた欲しい欲しい病が再発しちゃうじゃないですか~。はいルナ様も、こっちの『コーヒー牛乳』で良いですかね?僕これが好きなんですよ」
「スズキ様・・そちらの色がちょっと・・黄色い方が好きかもです」
「え~ルナ様も『コーヒー牛乳』派に勧誘したかったんですよ。黄色が良いならしょうがない・・はい、どうぞルナ様」
「(クピッ)んん!?」
「どうしましたルナ様!?」
「・・とても・・美味しいのです」
「はは、なんだ・・それは良かった。まだたくさんありますんで、後でお風呂上がりにでももう1杯飲んで下さい」
「はい、ぜひ(クピクピ)」
「(グビグビ)一郎、この部屋、私にくれるの?」
「なに冗談言ってるんですかマミさん、うち出ていったのあなたじゃないですか」
「マミ言うな、マミ。はい、美味しかったわよ『イチゴ牛乳』。ビンはどうする?」
「(クピッ)わたくしも、とっても美味しかったのです。ご馳走様なのです」
「ガラスのビンは洗って再利用してます。僕、空き瓶もらっておきますね」
「一郎、このタワー全部ギルドの所有なの?」
「そうです美馬さん。土地はエルミタージュ学院の所有なんで、テナント収入は基本エルミタージュに流れる仕組みです。そこから月のテナント料の1割を、手数料としてギルドが受け取る契約になってます。ギルドが儲かれば、僕の給料も当然・・」
「考えたわね。それなら副ギルド長でいる間あんたは、ここのテナントの手数料収入でぼろ儲けじゃないのよ」
「そういう事です、ぼろ儲けですよ美馬さん。まあこのタワーに、どれだけ魅力的なテナントが入るかにもよりますし、僕の給料も今後のテナントの稼ぎ次第ですかね。将来的には賃貸事業も始めて、老後に備えて定期収入も狙いたいですね~」
「なるほどね。黙ってても金貨が毎月入ってくるわけね」
「そうですそうです。さすが美馬さん。では、最後のご紹介にベランダへご案内致します。奥様、どうぞこちらへ」
「はいはい、怪しい不動産業者さん。行こうルナお姉様、一郎がこの部屋からの景色見せてくれるって」
「はい、わたくしもカーテンの外を見て見たいのです」
「はいルナ様、ジャンヌ様。結晶石の照明消しますね(カチャ)カーテンオープン(シュシュ~)」
「(2人)綺麗・・」
日本でマミと暮らしていた自宅マンションを再現した部屋。
外は夜、空に星々が輝く。カーテンを開けると、眼前にはオルレアン海が広がり、遠くに光り輝く島が見える。
あれは『ベネチア』王国だ。
『ベネチア』の手前には、エメラルドグリーンのキラキラした輝く海が光っている、世界遺産の『グレートバリアリーフ』に違いない。
海は夜空に輝く月の光に反射してキラキラと輝き、遠く『ベネチア』王国周辺の海では、夜にも関わらず、点々と輝く船が動いているのがここからも見える。
「美馬さん、ガイア師匠に作ってもらったタワーマンションどうです?10階からの眺め、全室オーシャンビューの海が見える部屋ですよ。昨日も帰ってから見たこの景色がもう最高で最高で、お2人に見せられて良かったですよ」
「スズキ様は昨日からここで寝泊りされてらっしゃるのですか?」
「はいルナ様、まだここに住み始めて今日で2日目なんですけど、実質前世で住んでたのと同じ家の造りなもので。15年住み慣れた我が家、僕にとっては癒しの空間なんですよ」
「私・・ずっとここに住もうかしら」
「ええ!?」
「ちょっと美馬さん、なに言ってるんですか?王宮は?」
「一郎、さっきも言ったけど、夜はこの子たち馬に戻っちゃうでしょ?昼間はヒューマンに擬人化するからいいとして、夜はやっぱり・・マズいのよ」
「そりゃあこんなお馬さんが羽ばたつかせて、お空を飛んでたら兵士たちが度肝を抜かしますよ。もう正直に話して、ヒューマンの子じゃ無いって、女王陛下に報告しましょうよお2人とも。タマゴちゃんから孵化したんだって」
「スズキ様。何も無ければ、その・・聖獣『コウノトリ』は来ないのです」
「どういう意味ですルナ様?」
「一郎、あんたやらしい事聞いてんじゃないわよ!この子たちが生まれたのも、全部あんたのせいなんだからね!」
「ひひ~ん。ぱぱ、まま、ぱぱ、まま」
「ぶるる。ぱぱ、やらしい、ぱぱ、やらしい」
「・・この馬が僕とお2人の子供って本気でおっしゃられてるんですか?」
「(2人)そうです」
「ひひ~ん」
「ぶるる」
「・・どう見ても馬ですよ聖女様」
「・・鍵」
「え?なんです美馬さん?」
「鍵ちょうだいって言ってる」
「どこのです?」
「この部屋に決まってる」
「なに同居しますみたいな発言してるんですか美馬さん。お泊りは今日だけですから、勘弁して下さいよ。許嫁のハート兄さんに僕が怒られちゃいますから、この部屋を勝手に王宮の別邸にしないで下さいよ。せっかく1階のオートロック入れた意味が無いじゃないですか」
「なによそれ?一体なんのためにオートロック警備入れたのよ?『風のクリスタル』の加護があるんだから、街中に魔物なんて出ないし、そんな警戒しなくて良いでしょ?」
「聖女が襲ってくるからに決まってるじゃないですか」
「なんで私たちが入るの警戒して作ってんのよあんたは!」
「そうやって怒鳴り散らすからですよ」
「ううっ・・一人で住む気で作ったのここ?どうせ女の子連れ込もうとか思ってたんでしょ?」
「なに言ってるんですか美馬さん。僕、当分結婚はこりごりなんですから」
「なにそれ?」
「1人暮らしでもいいように、テレビも冷蔵庫も揃えたんですって」
「本気で1人で住むつもりだったの一郎?」
「そうですけど美馬さん、なにか?」
「結婚とか・・しないわけ?」
「僕はしばらくフリーを満喫したいんですって」
「なに私との結婚生活、疲れ切ったような言い方してるのよ!この部屋の家電製品、全部王宮で徴収するわよあんた!」
「ええ!?一体なんの権限でそんな事言ってるんですか?」
「聖女の特権に決まってるでしょ!公爵なのよ私!」
「僕だって、今や銀等級冒険者ですよ美馬さん」
「私、金等級冒険者の聖女様なんですけど」
「ううっ・・すべてにおいて・・美馬さんに負けてる・・」
「そうよあんた。そういうわけだから、私も毎日冷蔵庫使いたいわけ。いつもキンキンに冷えた『イチゴ牛乳』飲みたいの」
「水の結晶石あれば、いつでもキンキンじゃないんですか?『ウインダム』の作業員なら、簡単に冷やしてましたよ」
「温度調整が微妙なのよあれ。時々なんだか水も生ぬるいし、こっちの日本製の方が良いに決まってる!」
「この冷蔵庫は、この木なんの木スズキの木が作ってる会社だから性能が良いんじゃないですか~ああ、冷蔵庫固定しちゃったんで、もう動かせないですよ奥さん」
「なによそれ!」
(ピンポ~ン)
「あっ」
「誰よ一郎?」
「多分『白猫ヤマト』ですね」
「(2人)『白猫ヤマト』?」
今朝『アリゾナプライム』で注文した品がどうやら届いたようだ。
部屋の結晶石の照明を付けて、玄関へ向かう。『聖獣』を胸に抱いた二聖女も後ろから玄関までついてくる。




