15.序列昇進
ミューラと別れてギルド会館へ、1階1番窓口へ。
「スズ・キイチロウ様~1番窓口へお越しください~」
「わざとです?」
「あっ、バレました?」
ミューラとタメ口を話すサリーが気軽に話かけてくる、仕事する気ゼロの感じ、ミューラと同じ雰囲気の女性だ。
「サリーさん、耳・・」
「髪形変えたの気づいた、さすがミューラの彼氏、やるわね」
「サリーさんもエルフだったんですね」
「そうよ~、副ギルド長のセバス様もエルフでしょ?ギルドは多様な仕事も多いし、結晶石の操作も難しいから、事務作業はほとんどエルフの子が多いかな~」
「そうなんですね、みんな制服の青い帽子つけてて、今まで気づきませんでした」
「そうよね、なんかスズキ君、いっつも下向いてミューラに付きっきりだったもんね~あはは」
「あの、雑談はいいので僕が今日一番稼げる方法を紹介して下さい」
昨日も雑談だけでミューラと日が暮れるまで女子話を続けてずっとつき合わされた、女子はおばちゃんに至るまでなんでいつもぺちゃぺちゃしゃべってるんだ?
1番窓口が占拠されて2・3番窓口に冒険者のおじさんたちが昨日渋々といった表情で回されていたし、ミューラの序列がやたら高いから誰も文句を言おうとしないし、おじさんには分からんよまったく。
「あっ、ごめんごめん、ミューラに怒られちゃうね。えっとスズキ君の手持ちは金貨19枚、職業は農民だったよね」
「はい、出来る事にも限りがあるので、実現可能で一番稼げる方法を」
「はいはい、まったくおじさんみたいな発想ね・・え~とね~」
実際おじさんなのでなんかムカつく。しかしここでミューラの知り合いに「実は40歳手前でして」なんて口がすべってみろ、もはやマイナスにしか作用しない、仕事も、印象も、好感度も。
「これなんかどうかな、小さいけどクリスタルの加護下にある小さな土地、井戸は無いけど頑張ればいいお芋が」
「それって農民ですよね」
「うん、あなた農民でしょ?」
「サリーさん、土地を耕して、肥やして、まともに作物育つまで何年かかるかご存じですか?」
「え~そこまで分かってるなら、すっごく向いてるじゃない、いいよこの土地」
「そんな怪しい不動産業者みたいな事言わないで下さいよ。作物が育つころまでに僕が肥やしになっちゃいますよ」
「う~ん、じゃあいっそ職業変えちゃう?『漁民』なら今すぐなれるよ。今ならこの中古漁船金貨100枚、オール付き、救命胴衣付きで、分割で100回払い」
「すでに借金2つも抱えてるんです、これ以上借金は・・」
「そうなの~スズキ君、苦労してるのね~」
まるでハローワークの窓口のやりとり・・ああ、ここハロワだったな。しかしサリーがやたらと漁船購入をこちらに押してくる、ノルマでもあるのか・・はっ、ま、まさか、これもセガールの罠!サリーが甘い誘惑で漁船を購入させ、クリスタルの加護の届かない沖合へ誘導、漁船の救命胴衣を外したうえで、海のもくずとする魂胆・・・。
サメのエサになっている妄想をしているところを、隣の2番・3番窓口のお姉さんたちがサリーの後ろを並んで通り過ぎる。
「王立・・今日が試験」
「『非常招集』今日で解除でしょ?延期されてたんだったね」
「あのサリーさん。後ろで言ってた今日の試験って何ですか?」
「え?ああ、王立学院エルミタージュの入学試験の事。年に1回入学試験があるんだけど、『非常招集』」あったの知ってる?
「ええ、ミューラさんから聞きました」
「1カ月近く入学試験延期されてたの、オルレアンにとってはビックイベント!確かに、学院卒なら、農民でももっといい土地紹介できるんだけどな~・・はは、そんな農民の子いないか」
「学院卒ってそんなに優遇されるんですか?」
「されるもなにも、これ見て」
「え?」
サリーさんは手元のタブレットビジョンを開いてこちらに見せてくれる。本当は冒険者に見せてはいけないらしく、職員限りと赤く光っていた。サリーさんは「秘密ね」といってこっちが見える向きにわざわざ変えて小声で教えてくれ始めた。
「これって・・」
「そう・・」
王宮警護、王族の護衛、西洋教会への物資運搬、すべての王室・教会関係の仕事は『学院卒限定』と表記されていた。
「・・はい、ここまで。分かったでしょ」
「平民と貴族の壁って事ですね」
「そういう事。言っとくけど、学院に入れる条件は超厳しくて、ほとんど裏口入学が横行してるの。爵位が無いとまず無理ね」
「学院卒は貴族で占められて、身分の高いものだけが儲かる社会システムなんですね・・」
「そうね~まあ気は落とさない!買った土地から魔石がたくさん出てきてお金持ちになった人も知ってるし、人生何があるか分からないよ。エルフだって・・苦労してるんだから」
そう言ってサリーさんは諦めたような声で軽くため息をついた。
「あの、サリーさん。その学院卒になれば、毎月コンスタントに金貨10枚稼げるようになりますかね?」
「うん。まあ仮に学院卒とすれば・・毎月ゴブリンチャンピオンなんて現れないだろうし、王族関係なんて特に楽でお金も美味しいわね」
「それにしては連日ギルドに来てますが、昨日会った騎士みたいなピカピカの鎧来た人見ませんよ?」
「あ~あれね。もう終身で契約してるから、スズキ君たちみたいに毎日ここに来なくて良いのよ。最低でも男爵の爵位があるお坊ちゃま達なの」
「(バン)分かりました、その何とかって試験、誰でも受けられますか?」
「ええ!?」
「ちょっとサリー、どうしたの?」
少し大きな音を立ててしまい、ちょうど冒険者2・3番窓口のお姉さんが1番窓口に集まってきた。
「みんな止めてよ、ミューラの彼氏が『エルミタージュ』受けるって聞かないよの」
「え!本当!?」
「でも・・無理」
昨日真顔で「無職・・ですね」と言われ、致命傷を負った3番窓口のエルフのお姉さんから、今ふたたびの死の宣告。
「えっ?どこか問題でも?」
「誰でも受験できるわけじゃない、爵位が無いなら、最低ブロンズ冒険者以上じゃないと駄目、あとお金」
「ええ!?・・じゃあ、ただの序列5位のコモン冒険者じゃ駄目なんですね・・」
「え~そんな事はありません」
「セバス様!」
1番受付窓口にさらに副ギルド長のセバスが姿を現した。
「え~呼び出そうと思っていたので、ここにいて都合が良かった」
「あのすいません、今はちょっと・・」
「え~ブロンズ冒険者のギルドカード、いらないのですか?」
「ええ!」
「副ギルド長、そのカードどうされたんですか?」
「え~どうされたもこうされたも、昨日ミューラとゴブリンチャンピオンを討伐したのです、彼の事はミューラから報告を受けました。実績十分、正真正銘、副ギルド長セバスの名において、正式にブロンズ冒険者に特例昇進です」
「ほ、本当ですか!」
喜んでいる暇は無い、試験は今日、間に合うのか?入学試験に一番詳しそうな3番窓口のお姉さんに質問する。
「ブロンズ冒険者になれました、他に問題は?」
「金貨10枚、でも時間が無い」
「試験開始まであと少しって事ですね、目いっぱい会場まで走ります!他には?」
「私たちの手続き、でも時間が無い」
「間に合わせて下さい!お願いします!」
「・・・やる」
「ちょっとエミリー、いつも時間に厳しいあんたが、何でこの子に甘いのよ!間に合いっこないから断ろうよ」
「私が『昇進』手続きする、リンダは受験用紙書かせて、サリーは金貨の用意」
「も~分かったわよエミリー。ほらスズキ君、さっさとギルドカード更新するから出して!」
「お願いします」
「リンダも手伝え!あんたが試験あるのこの子に漏らした!受験用紙持ってくる!」
「分かったわよサニー。スズキ君、これに名前」
「あっそうだ」
昨日ミューラと一緒にゴブリンチャンピオンを撃破したから・・やっぱり!黄色のスキルカードを確認すると、スキルポイントが50も溜まってる!筆記に必要なスキルポイントは10、タッチ、すぐに取得する。
「よし・・ス・ズ・キ・イ・チ・ロ・ウっと、他には?」
1番窓口のサリーが金貨出金手続き、2番窓口リンダが受験用紙の記入案内、3番窓口エミリーが序列昇進の手続きをいっぺんに行う。さすがエルフ、仕事ができる、転職5回の僕とは大違いだ。2番窓口のリンダが続けて案内する。
「スズキ君、王立学院『エルミタージュ』今日の試験会場よ、『地図』のスキルある?」
「分かりました」
黄色のスキルカードを再びオープン、今は不要な『採掘』を飛ばして、『筆記』の次に派生する『地図』をスキルポイント10を使って続けてタッチ、取得する。
「防犯の関係で直接渡せないから、『エルミタージュ』までの近道、この白紙の紙あげるから写して」
「ちょっと、リンダ!あんたいつも重要情報漏洩防止とか言っといて、何でこの子に駄々洩れさせてるのよ~」
「サリーもさっき機密情報の王室と『西洋教会』のリストこの子に見せてたでしょ!私の事言わないでよ~副長に言っちゃうよ~」
「え~あの~ここにいるんですけど~」
「(3エルフ)うるさいので少し黙っててもらえます?」
「え~はい・・」
3人はそれぞれの業務に手いっぱいで、完全に副ギルド長セバスの存在を忘れ去っていた。おもむろにセバスはため息をつきながらカウンターの向こうから、こちらのいる冒険者待合室へ、声をかけてきた。
「え~昨日の活躍、聞きました。ミューラを守ってくれて、ありがとう」
「いえ。守られたのは僕の方で」
「今日の事は、昨日の君に免じて目をつむります」
「ありがとうございます」
「出来ました!スズキ君、一番窓口、早く!!」
「あっはい!ありがとうございます」
1番窓口へ向かい、『金貨12枚』『受験用紙』『ブロンズ冒険者新ギルドカード』の3つを手に入れた。1番窓口のサリーが声をかけてくる。
「ブロンズ冒険者の任命金30枚も入金したから、金貨は多めに出しといた、残り合計金貨36枚、途中で落とさないでね!」
「ありがとうございますサリーさん」
「地図に付けた赤い丸、今石畳の道工事中だから迂回して!そのまま進むと行き止まりになるから間に合わないわ」
「新しいギルドカードに記録全移植、普段もっと時間かかる、私に感謝」
「ありがとうリンダさんエミリーさん、愛してます。行ってきます!」
3エルフに手を振り、ギルド会館1階ホールを入口へ。
「エミリーどうする~いきなりの3股宣言~」
「サニーにあげる、いらない」
「じゃあリンダ、回ってきたわよ~」
「私、年下はちょっと・・」
「そうなの?この前の彼氏どうなったのよ~」
「え~おっほん!」
「あ、セバス様、いつからそちらに・・」
「え~仕事に戻りなさい。仕事です、みなさん」
「(3エルフ)は~い」
ギルド会館 1階 案内窓口を走って横切る
「スズキさん、ブロンズ冒険者昇進おめでとうございます」
「案内の人。僕、名前、書けるようになったんです、今度見て下さい!すいません、急いでるのでー」
「・・・行っちゃった、今、何て言ってたのかな・・」
この前冒険者資格試験の受験用紙に名前を書いてもらったお姉さんに別れを告げてギルド会館を後にする。2番窓口リンダさんから教えてもらった地図を見る、これなら初めての街でも迷わず受験会場まで一直線。
ギルド会館を出て右に向かう。2泊した宿を通り過ぎて道なりの大通りへ、人がたくさん行き交う。地図を確認、大衆浴場『ウインダム』に向かう途中にあった洋服屋近くの脇道に入る。脇道をお城の方向へ進むと、道がワイ字に右と左に分岐。
「右は赤い丸がついてる、左へ迂回だな」
地図が無いと分からなかった、3人・・もとい3エルフに頑張ってもらった。今度はこっちが頑張る番、今日はゴブリンから逃げるんじゃない、社会の壁に向かって突き進む、走れるだけ走るぞ。
「今度はどっち(ぜえぜえ)」
意気込みは少年、心は中年、体は若いがさすがにミューラの『俊足』とはいかない、若干上りが続く石畳、息があがってきた。迂回したはいいが、また道が2つに分かれている。家が道に沿って迷路のように高くそびえ、太陽の光がこの脇道では地面まで届かず視界は暗い。
「(ぜえぜえ)み、右!」
勘を頼りに右に進もうと走り出す。
(そっちじゃないよ)
ん?・・・やっぱり左!
こっちで本当に受験会場に向かってるのか?焦りと疲れで判断がおぼつかない。進むほどに道が暗くなっていく、両脇の家が3階4階と高くなっているせいだ、地面がドンドン暗くなり視界が悪くなってくる、光るパジャマは持っていない、あたりを照らすものが無い。それでも道は一本道、そのまま走って突き進むと、道の向こうに一筋の光が見えてきた、脇道の出口だ。
「(ぜえぜえ)んっ眩しい!」
太陽の日差しが突然目に入り、段々と視界が見えてくる。大通りに出る、石畳の道が綺麗な白い石、見える先まで鉄製の柵が建物を囲む、間違いないここが、王立学院エルミタージュ。




