14.蛍(ほたる)の光
朝 ギルド前宿屋201号室 起床
窓から差し込む朝日がまぶしい、今日も天気は最高に良い。このオルレアンにきて3日目の朝を迎え、いよいよ天国とばかりも言ってられなくなってきた。住宅ローンの返済と養育費が実際に引き落とされて、急に労働意欲が湧いてきた。
農民として納税資金を稼がねばならない、今日もしっかり働くよ父さんは。あいかわらず更年期障害発生で味覚が無くなったが、体が見た目、若くなったせいか目覚めがよく疲れも感じない。
「おはようございま~す」
食事係りの女の子と顔見知りになり、昨日と同じ奥の席に誘導される。そういえば初日に2泊3日でこの宿、銀貨2枚で宿泊していたんだな。今日のクエスト次第で、今日中に帰れそうならそのまま延長する事も考えよう。ギルド近くにある宿、駅近の便利な宿。
「お待たせいたしました~」
「いや~本当に、ここの食事おいしいよね~」
「ふふ~ありがとうございます~」
隣の席で宿泊客と食事係りの女の子が普通の会話をしている。ちょくちょく周りを観察していたが、やはりここの料理はおいしいらしい。味覚障害なのが本当に残念。
「お待たせしました」
「ありがとう」
「ソースお使いになります?」
「お願いします」
ガラス瓶に入った謎ソースをいつも通り付けてもらう。味がしないのは何だか悔しい、味がしないにしてもソースだけはかけて口に入れる。本当はどんな味がするんだろうか?今度ミューラに食べさせてみよう、どんな反応するのか見てみたい。
「おっはよ~」
「ぶっ!ミュ、ミューラ」
「なによその顔、また変な事考えてたんでしょ~」
早朝いきなりの再開、暇なのかこのエルフ?
「あっ、これでしょ謎のソースって」
「そ、そうっす」
「どれどれ~」
「あっ、ちょっと」
ミューラがソースをスクランブルエッグにかけるや、さっきまで使っていたスプーンを勝手に使って口に運ぶ。
「うんうん、おいしい!すいませ~ん」
「は~い」
「わたしもモーニング1つお願いしま~す」
「は~い」
「あの、どうしてこの宿分かったんです?」
「えっ?『感知』スキル使ったからに決まってるでしょ、スズキ君や~らしいオーラ出してるからすぐに分かっちゃうんだよね~」
「勝手に僕の場所特定しないで下さいよ、それに街中で銀等級冒険者が勝手にスキル使ってて良いんですか?」
「あっいっけな~い、スキルは街中で仕事以外は使用禁止、セバス兄さんから怒られちゃう。スズキ君いいとこ突くね、私とスズキ君だけの秘密だね」
「そんなのすぐにバラしますよ、これからギルド会館行くとこでしたし」
「ええ~ごめんなさい~」
「おまたせしました~」
面が割れた、ここの宿は今日限り。この後ギルド会館で副ギルド長で実兄のセバスにチクってスキル使用禁止にしたうえで、アカレンジャーの目の届かない秘境の宿に本拠地を移すことにしよう。
ミューラはモーニングのパン・スープ・サラダとスクランブルエッグのセットが運ばれてくるや、こちらにあった謎ソースをたくさんかけて朝食を嬉しそうに口にほおばっていた。
「あ~美味しかった。ごちそうさまでした」
「こんな朝早くからどうしたんですか?こんなコモン冒険者、ミューラ先生に用無しでは?」
「用があるから来たんです、昨日クラウドの様子見に行ってね」
「ああ、どうでした?随分と大けがでしたし」
「うん、傷口はアイリス様の魔法である程度治ったんだけど、胸の骨も折れててしばらく安静ね。装備がしっかりしてたから大事には至らず、しばらくしたら復帰できるかな」
「あちらも同じようなクエストのパーティーだったんですよね」
「そうそう、最近のゴブリンの動きが不自然だったから、万一の『闇の属性』に対抗できるようにオルレアンで唯一『光属性』をもつアイリス様まで森に入ってたし。今回のチャンピオンの出現といい、最近無かった動きだったし。教会や王族関係者にも被害が出たから、直属の騎士にも王様から直接討伐の命が下ってたようね、ライン=ハルトがいたのがその証拠」
「ライン=ハルト?」
「ああ、昨日スズキ君逃げちゃった後だったもんね」
「うう・・誰ですそれ?」
「史上最年少で伯爵まで上り詰めたサラブレット中のサラブレットで~」
「あっ、もういいです」
「え~そう?話の続きだけど、ギルドサイドも王宮側から圧力があって、冒険者資格のある実力者には相当数声がかかってて、今回のクエストはギルドもかなり力を入れてたの」
「そうだったんですね」
「ただその怪しい最近のゴブリンの出没と同時期にあらわれた謎の浜辺の少年・・・」
「それって、僕が諸悪の根源みたいじゃないです」
「そう、ずばり、ようやく気づいたのね!」
「って、そんな人に冒険者資格授与しませんよね」
「あ~バレたか~ゴブリン1匹にあれだけブルってる男の子じゃあ、ちょっとチャンピオンを操るのは無理かな~」
「すいませんね、ブルってて」
「あ、怒った?ごめんごめん」
「いいんです・これから副ギルド長のお兄さんのところにちょうど、ご挨拶に行くところでしたから」
「いや~お願い~兄さんに知られると色々面倒なの~」
確かにこの時期にオルレアンの街に新たに入ってきた人間が疑われるのもうなずける、ミューラがこちらに張り付いている可能性はまだ否定できない。どの程度街の人から信用してもらえているのか分からないが、今後の行動とアカレンジャーには引き続き注意しよう。
ミューラが話の続きがあるというので、他の宿泊客のグループがたくさん降りてきたタイミングで食事を終えて2階の部屋に戻る事に。
チェックアウトの時間は特に無くアバウトな宿。女エルフのミューラと2階に上がる前に受付にお姉さんに小声で「延長されますか?今エルフ様とご一緒なら安いですよ」とか質問され、「すぐチェックアウトします」と返す、エルフ割まであるらしい、どれだけ商売上手なんだこの店は。
まだオルレアンに来て2日目、元嫁とか言ってるが不倫など許されない離婚協議中の身。この現場を受付の女にチクられて週刊誌にでもスクープされてみろ、盾の勇者の二の舞だ。
「失礼しま~す。あっ、なんか男の子の部屋に入ったの初めてかも~」
「・・・それで、話の続き、あるんですよね」
「え~何か冷た~い」
さっきから甘えてくるこの感じ、妖怪お父さんアンテナがビュンビュン反応する、絶対に面倒な事を要求する前兆。
「実はね・・」
ほらきた。
「ゴブリンチャンピオンが討伐されて、ギルドが出してた『非常招集』今日で解除になるの。引き続き警戒態勢ではあるから、私たち銀等級冒険者は非常時にギルド長の命令で強制招集されるんだけどね」
「僕が浜辺で寝てる時から、ゴブリンでオルレアン大変だったんですね」
「そうよ!ゴブリンがわんさか出てんのに、何この子って感じの衝撃の出会いだったわ、うん」
「・・で、その非常招集終わったから・・ミューラはまた冒険者のクエストに戻るの?」
「私は先生の仕事があるから、しばらく無理かな」
「先生?」
「うん・・先生。頼まれたクエストがある時以外は、最近そこで先生してるの」
「そう・・なんですね。という事は・・」
「うん、しばらくお別れなんだ」
「そうですか・・良かったですね!仕事に戻れて」
「うん」
「僕も今日から、ギルドの仕事頑張ります。今すっごく働きたい気持ちでいっぱいなんです」
「本当?うそ~」
「しっかり働いて、次に会う時は・・もっと、まともな大人に、なってます、多分・・」
「ふふ、あなたまだ子供でしょ」
「子供じゃないです!」
「うん、そうだね。昨日までありがと、それだけ、言いに来たの」
「・・はい、ここまで育てていただいてありがとうございました先生」
「先生言うな・・頑張れ、スズキ君」
宿の2階から階段を下りて、チェックアウトが終わるまで外で待っていてくれるミューラ。宿の受付のお姉さんには、仕事が決まったらまたくると伝えておいた。
宿の外で待っていたミューラの笑顔が、どことなくぎこちなく感じたのは、きっと気のせいに違いない。




