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13.返済日

 マミに顔がうりふたつの女の子、いや、マミがここにいるわけがない。ただの人違い、ただの人違い・・。


「(シュン!)あっ、いた!」

「ぬわ!」


 目の前にミューラがスキル『瞬足(しゅんそく)』でまばたき1つの間に現れた。レンジャーの『感知』スキルでどこにいても発見されてしまう。


「スズキ君、こんなところにいたら危ない!」

「ミュ、ミューラ・・」


「・・行こう?」

「・・うん」


 気づいた時には(しげ)みの中で体育座りでうずくまっていた。ミューラに手を連れられて、オルレアンがあるであろう方向へ森を進む。1人では場所が分からず、迷子になっていたに違いない。


 しばらくミューラは何も言わず、離れないようただただ手をギュッと握りしめ先を歩いてくれた。


 森を抜けると遠くにオルレアンの街が見える。街の中心にお城、しばらくすると浜辺が広がり、奥には地平線の彼方まで海が広がっていた。


 空を見上げるとオーロラのようなカーテン、クリスタルの加護(かご)のありがたさが初めて身に染みた。ずっとあのゴブリンとか言う悪い魔物から街の人々を守ってくれていたんだな。


「スズキ君、あそこに湧き水(わきみず)あるから飲もうか」

「・・はい」


 山から川が流れ、オルレアンの街に通じている。砂の道を少し脇にそれ、太陽の光でキラキラと輝いている川のほとりへミューラと歩を進める。川のほとりの岩の間から、川へ流れ込む湧き水が絶え間なく流れ出ていた。ミューラは両手ですくって飲んで見せる。


「(ごくごく)ぷはぁ おいしい~。はい、スズキ君も」

「はい(ごくごく)」


 おいしいとは感じない、水の味はしないが、走り続けて疲れたあとの冷たい水がのどに心地(ここち)よい。何度も何度ものどが満たされるまで繰り返し飲んだ。


「(ごくごく)ゴホッ、ゲホッ」

「ふふふ、スズキ君、がっつき過ぎ」

「すいません」

「落ち着いた?」

「・・はい」


 川のほとりに1本の木があり、木蔭(こかげ)の下でミューラと2人横並びに座る。


「そのさぁ・・アイリス様と、知り合いだったりする?」

「ああ、あの子、アイリスって言うんですね」

「アイリス様!オルレアン西洋協会 大教皇の1人娘にして、オルレアン唯一の光属性を持つ聖女様よ」

「聖女様?マミが・・」


「あと、何でアイリス様のファーストネーム知ってるの?」

「え!?あの子やっぱりマミなんですか!」

「その名前は口にしない!街中でそれは絶対禁止!」

「え?なんでです?」

「ん~も~・・・絶対秘密よ」

「・・はい」

「絶対」

「・・はい」


「マミフレナ=アイリス=ダルク」

「マミ・・なんです?」

「アイリス様のダルク家は国一番の公爵(こうしゃく)の血筋・・つまり、えら~~い貴族の娘って事」

「それがマミと何か関係あるんですか?」

「だ・か・ら!マミフレナ様のファーストネームをマミと呼べるのは、将来夫婦(めのと)となる男性だけだって言ってるの!」

「ええ!そうなんですか?」


 ただ、冷静になって考えれば、そのアイリス様っていう子、ずっと昔からこの国にいるって事だよな。元妻のマミと別人のはず、いや、でも・・・。


「その、ミューラはマ・・アイリス様と知り合いなの?」

「ええ、アイリス様が生まれた時から。『光属性』の魔力の使い方とか、先生として教えてあげてたの」

「え?ミューラが?生まれた時ってそんなの無理じゃあ・・」

「なによ・・歳の事を言ってるの?・・ついでに教えておくけど、私、250歳ですから」

「ええ!」


250歳・・250歳・・。


「なに?不満でもあるの?」

「いえ、歳の割りに若いなって思いまして、あはは」

「・・エルフはヒューマンより寿命が長いの。私のおじいさんなんて、もう800歳超えてるし」

「800!!そんなに長生きしたら、貯金無くなっちゃうじゃないですか!?」

「ぷ!ふふふ、そこ?あははは」


 家の寿命もコンクリートでもって100年、800年の住宅ローンを組んでくれる銀行はオルレアンにあるのだろうか?ああ、自分は100年()たずに死ぬから、そんな心配しなくていいのか。


「ふふふ、あ~おかしい。確かに長生きはお金もかかる、だから銀等級(じょれつ3位)冒険者(ハンター)になっても、クエストの他に公爵(こうしゃく)家の先生なんかもしてお金は貯めてます、えっへん」

「ミューラ先生、偉いですね」

「なによいきなり、見直した?」

「はい、250歳でも」


「女子に向かって年齢の話はしない。そんな無頓着(むとんちゃく)だから、これまで生きてきて、誰かに怒られたりしたんじゃないの?」

「はっ」

「心当たりあるんだね・・直さないとね」

「・・はい」

「いこ」


 2人で立ち上がり、ふたたび砂の道に戻る。心地よい風が吹き、周辺の草花がユラユラと揺れる。しばらく歩き、石畳(いしだたみ)の道が見えてきた。クリスタルの加護(かご)のエリアに入り、緊張が一気に解けてきた。


「は~死ぬかと思いました」

「スズキ君のおかげで助かったわ、ありがとね」

「そんな事無いです、逆にどんくさくて、すいません」

「本当よ~もっとチャッチャとブーストして欲しかったけど・・今日は本当助かったわ。『(ドラゴン)レンジャー』なんて上位クラス、『王立図書館』で文献(ぶんけん)だけは読んだ事あったんだけど・・予想以上だったわ」

「そういえば、最初のファイヤーボール、何で防げたんですか?あれ僕、完全に死んだと思いましたよ」

「前にも言ったけど、私、火の属性あるでしょ?」

「ええ、そうでした」


「『ドラゴンシールド』の補助効果で、火属性の使用者がシールドを展開すると炎タイプの魔法・特技を完全無効化」

「それじゃ無敵じゃないですか」

「さあね~3分だけじゃね~ス・ズ・キ君」

「もっと長持ちさせろって事ですか?そんな事できるんです?」

「スキルも技も熟練度(じゅくれんど)ってあるから、鍛えれば鍛えるほど強く長くなる」


「え?そうなんですか?それって・・」

「そう、努力は無駄にならない。使えない特技(スキル)など無い」

「まるで先生ですね」

「先生よ!私」

「ああ、そうでしたね」


ミューラが(あや)しいエルフだと思っていたけど、本当に信頼できる人・・じゃないエルフだと感じた。後ろから狙い撃ちされるどころか、身を挺して(ていして)守ってくれた。


「それにスズキ君、これを見なさい」

「なんです、その黒い宝石?」

「ゴブリンチャンピオンの魔石(ませき)で~す」

「魔石・・って何ですか?」


「本当何にも知らないんだから~・・教えがいがあってよろしい。(よう)は、お金に換金(かんきん)できるって事」

「え?本当ですか!」

「あはは、元気になった。スズキ君、本当お金好きだね。農民じゃなくて、次は職業(ジョブ)商人に転職したら?」

「商人・・」


 確かに、第1次産業の『農民』はいずれ衰退(すいたい)、しかも味が分からない更年期障害(こうねんきしょうがい)発症中。ここは未来ある第3次産業『商人』に転職し、正社員のわらしべ長者に俺はなる。


 くだらない事を考えながら、いつの間にか街の中心部まで到達、ギルド会館はもうすぐだ。ミューラの話では魔石もオルレアン連合ギルドで買い取ってくれるらしい。質屋に銀行、役所も兼ねてる、この会館、本当に疑惑(ぎわく)総合商社(そうごうしょうしゃ)だな。


ギルド会館 1階 1番窓口受付


「おかえりなさいませミューラ様、スズ・キイチロウ様」

「スズキ君よ、ス・ズ・キ」

「ふふ、わざとよ、わざと。も~1日でこんなに仲良くなっちゃって~(あや)しい~」

「うるさいサリー!はい、魔石。さっさと仕事する!」

「まあ!このサイズはチャンピオンクラス、ミューラあなた、何と戦ってきたの?」


 1番窓口に持ち込まれた魔石の大きさに、1階ホールにいた人が一斉に駆け寄り魔石を見ている。口々に「信じられない大きさだ」「あんなサイズ見た事ない」と叫んでいる。魔石を見たのは今日が初めて、スケール感がまるで分らず凄いのかどうか分からない。


「あ、そういえばスズキ君、私のスキルカード」

「ああ、そうでした。ずっと持ってました」

「そうよ、私の分も持って走って逃げちゃうんだから」

「はは・・すいません」


「ミューラ様、スズキ様、鑑定が終了しましたので1番窓口までお越しください~」

「終わったみたいね。ちなみに分け前なんだけど」

「ミューラがほとんど持ってって良いよ、僕、逃げてただけだし」

「ダメダメ、私たちパーティーなんだよ、分け前は半分こ」

「いや、せめてミューラが・・」


「はいはいそこのお2人さん、イチャイチャしてないで早く来て下さい」

「サリーうるさい!」


 ミューラと1番窓口受付のお姉さんサリーがいつものやりとり。ギルドカードをサリーに渡して入金手続きを始める。


「それでは分割割合(ぶんかつわりあい)ですが」

「半分でお願いします」

「ミューラ・・」

「あなたの活躍です、ちゃんと受け取る」

「・・はい」


「宜しいですか?ではまずスズキ様、現在の残高は金貨9枚ですので・・」

「え?ちょっと待って下さい。昨日金貨1枚分引き出してて・・残高は金貨19枚では?」

「いいえ、本日金貨10枚の自動送金の引き落としがあったようですね。昨日の履歴から、金貨20枚より窓口で金貨1枚の出金で昨日の残高は確かに19枚。本日金貨10枚の引き落としで、残高は9枚です」


「スズキ君、いつの間に自動送金なんて契約してたの?」

「いや、そんな契約はこちらでは・・・」


金貨10枚、金貨10枚、10万円、10まんえ・・ん?今日何日だ?


「スズキ君、どした?」


 コンビニに野菜ジュースを買いに出た日、昼間スーパーの帰りにATMで10万円キャッシュカードで入金したのは・・・次の日が住宅ローン7万円の返済日と、マミへ子供の養育費3万円を送金するためだったからだ。混乱してきた、受付窓口のサリーに質問する。


「あの・・その金貨10枚って、どこに送金されてるか分かります?」

「はい、もちろん・・(ビー)あれ?照会先不明・・こんな事は一度も・・」

「スズキ君、お金だまし取られてない?すぐにこの送金止めた方がいいよ、振り込め詐欺だよきっと」


「私からもおすすめします。これだけの大金(たいきん)、意味もなく送金するのは無駄で・・」

「いえ、無駄じゃないです。その送金はそのままでお願いします」

「え?」

「いいの?」

「お願いします」


 ブラック企業の最後の給料が入り、住宅ローン7万円と養育費3万円を送金するのに、確かに10万円、金貨10枚の引き落としが本当にされた。勘違いかも知れないし、ミューラやサリーの言うように振り込め詐欺かも知れないけど、スキルだのエルフだの、このオルレアンという国そのものがまだ自分にとって天国のような架空(かくう)の国に思えてならない。


 こちらの世界にきた時、確かにコンビニに買い出しに出た時と同じ3千円、銀貨3枚を握っていた。という事は、このギルドの預金口座の残高が一致するという事は・・。


「まだ・・帰れるかもしれない・・」

「・・スズキ君?」

「ミューラ、僕、クエスト明日からも頑張るよ。お金、いっぱい必要になった」

「おっ!」

「頑張るなんて信じられない発言、とてもスズキ君とは思えないわ」


「サリーさん、今日の報酬は?」

「あっ、はい、本日の魔石は状態も良く、金貨20枚で買い取らせていただきます。分割割合は50%でお1人とエルフ様でそれぞれ10枚。本ギルドの手数料として1割、金貨1枚分は差し引きとなり、残りの金貨9枚が今回の入金金額です。現在のスズキ様の残高は合計金貨18枚となります。」

「お~やったね」


 ・金貨9枚、9万円。日給9万なら悪くない。毎日のようにこんな大物出くわさないだろうが、正社員切符ギルドカードも持っている。


「クエストには討伐系以外にも、もの探しや採集とか誰にでもできるクエストがたくさんあるから、パーティーのよしみ、いい仕事があったら教えてあげるね」

「ミューラ・ありがとう」

「たくさん貯金、するんでしょ?」

「あなたたち、結婚するの?」

「しません!サリーは本当うるさいから、ちょっと黙ってて!」


 換金(かんきん)・入金手続きだけなのに、雑談でかなり時間を使ってしまった。ほとんどミューラとサリーの痴話(ちわ)げんかだったけど。ギルド会館での手続きを終え外にでる。昨日と同じ時間帯、太陽が地平線に沈みかかっていた。辺りは夕日につつまれ、建物は赤く染まっている。


「お腹空いたね~お昼とばしちゃったし」

「本当ですね、僕もお腹ペコペコです」

「今日はどこで夕飯?」

「宿で食べます、変な謎のソース置いてて・・おいしいです」

「そうなんだ、今度私も誘ってくれる?あ~今日はダメ、クラウドのとこ行かないと」


「もちろん今度誘いますよ、僕がおごりますね」

「本当かな~スズキ君すぐ忘れちゃうからな~」

「美人と先生との約束は必ず守ります」

「あら、私はどちらでしょうね」

「どちらもです、クラウドさんが傷、(なお)ってると良いですね」


「そうね、大けがだったもんね、ちょっと心配になってきた。もう行くね」

「はい、容体(ようたい)分かったら今度教えて下さい」

「分かったわ、じゃあね」

「はい、ご安全(あんぜん)に」

「なにそのご安全(あんぜん)にって?」

「あっ気にしないで下さい。僕の国の業界用語です」

「も~今度教えなさい、じゃあね!」

「はい!」


 ミューラは小走りにお城の方角へ走っていく、ゴブリンと戦っていた騎士たちの事を思い出し、王立図書館があるくらいだ、王宮の類い(たぐい)もあるのだろう。


 今日は帰りに箱根・・じゃない、パルテノン神殿に寄ってお風呂を浴びて宿に戻ってすぐに寝るぞ。え~と、デスバレーはどっちだったか・・左だったか・・。


(そっちじゃないよ・・・)


 ん?えっと、右・・だったかな・・。ああそうだ、宿に一回寄って、そこから道なりに行けば間違いない、うん、そうしよう。


 何か声が聞こえた気がしたが、きっと更年期障害(こうねんきしょうがい)で発症した味覚障害と幻聴(げんそう)に違いない。自宅マンションに帰ったら「今日ゴブリンたくさん出たんだ」なんてあの子に話を聞かせてやろう、絶対無視されるのがおちだが、父さんの言ってる事は本当なんだぞ。









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