10.転職活動
「ミューラ様、スズキ様、1番窓口へお越し下さい~」
正社員の切符、ギルドカードを手に1番窓口へ堂々の受付。昨日聞いた話では、ギルドカードがあると日雇いクエストでもプレミアムがついて、非正規社員より多めに報酬が貰えるらしい。昨日セガールとの死闘を制した勲章ギルドカード、なんて優秀な子なんだ。
1番窓口の席に着くと、受付側に女性が1人座る。どうやらクエストの事務手続きをしてくれるお姉さんのようだ。
「じゃあスズキ君、私とパーティー組むからよろしくね」
「え?何ですパーティーって」
「これから行くクエスト、一緒に来てってさっきから言ってる!」
「ふふっ、ミューラったらいつも単独クエストばかりなのに、今日に限ってルーキーのこの子と行くの?」
「こんなのでも、そこそこ役に立つの。サリーはさっさと手続きする!」
「ふふ、はいはい。仲がよろしいようで」
「うるさい!」
どうやら1番窓口のお姉さんはサリーという名前らしい、しかもミューラとはタメ口の中。普段はミューラ単独で動くことが多そうだ、ますますミューラの素性が分からなくなってくる。
「ではスズキ様、こちらにご署名をお願いします」
「あっ、その・・」
「いいわよ、私が書くから貸して」
「あら、これはこれは」
「うるさいって言ってる!」
まだスキルポイントが足りず、『筆記』を取得していないのを知るミューラが代わりに署名してくれる。昨日今日会ったこのエルフを信用して良いものか、段々と不安になってきた。
だからといって、文字すら書けなくなった今の自分、ある程度お金を稼いで、情報を集めない事には元いた場所に帰る方法も分からない。注意を払いつつも、しばらくはこのエルフについて行こう。
「よし、これでよし。・・スズキ君、どうした?」
「え、いや、なんでも・・あはは」
「よし、クエスト登録完了」
「・・はい」
「スズキ君、元気出して行こ、元気」
怪しいといえば気になるのはあのギルド長、セガール。2番窓口受付の話では前回の受験者はすでに消されたらしい・・・はっ、まさか!そういえばここの副ギルド長はミューラの実兄のセバス、当然セガールが情報を握らないわけがない。
逐一自分の個人情報はアカレンジャーから駄々洩れ、通帳の金貨をせしめられ、今日のクエスト先で葬り去るつもりでは・・・。
「そういえばスズキ君、職業の登録忘れてたね、今無職でしょ?」
(無職でしょ 無職でしょ 無職でしょ・・・)
「ううっ」
ミューラ先生から突然の会心の一撃、よく考えたら『自宅警備員』の正社員、給料など1円も入ってこない名ばかり正社員。
「あ、ごめんなさい。悪気は無かったの。クエスト出る前でよかった、3番窓口で職業登録済ませていきましょう」
「えっ職業って登録できるんですか?」
「そうだよ、いこ」
ミューラにおとなしくついて行き、3番窓口へ案内される。3番窓口でもギルドカードを提出、タブレットビジョンを確認する3番窓口受付のお姉さん。
「無職・・ですね」
「ううっ」
「あの、この子には優しくお願いします。弱くて・・」
「もう大丈夫ですミューラ。その、農民も自宅・・無職も変わらなくないですか?」
「全然違う、職業を登録すればステータスにプラス補正がつくの」
ますますファンタジーな話になってきた、本当にゲームみたいな設定だな。
「私なんかレンジャーでしょ?職業のおかげで跳躍力とか歩く速さとか早くなるの」
「じゃあ僕もレンジャーになります」
「申し訳ありませんが、スズキ様が現在なれる職業は『農民』か『漁民』のみです」
「ううっ」
どうやら自分はここまでの男らしい。
「・・しっかりしてスズキ君、農民も素敵よ」
ミューラ先生の必死のフォロー、さすがレンジャー、無職にも優しい。だがその優しさが逆に痛い、「あなた太ってるけど、お相撲さんより痩せてるわ」と同じレベルの話だ。
「・・たしかに・・僕の父も農民でした」
「あっそうなんだ、だったらこれにしよ、ね?」
「よろしいですか?」
「・・お願いします」
実家は農家、東京の自宅によく野菜を送ってくれてた親父。よくよく考えれば、農家の息子。父さん、僕、ヒーローにはなれなかったよ。
「登録完了致しました、おめでとうございますスズキ様」
「ありがとうございます」
正社員の『自宅警備員』から正社員の『農民』へ進化を遂げた。
「スズキ君、元気出そうよ~」
「元気ですよ、元気・・」
ミューラ先生に連れられて、ギルド会館を後にする。




