99.第4章最終話 ズーポロプ
宿屋の201号室から飛び出し、隠れる場所を探して宿屋の裏手にある馬小屋に逃げ込む。
「(ひひ~ん)」
「(ぶるる)」
馬たちの姿が目に入らない。奥のブースの干し草の塊まで走り込むと、夕日を浴びて大きく伸びる人影が1つ現れる。
(かつ かつ かつ)
人の歩いてくる音が聞こえる。
「逃げないでよ、一郎」
「ジャ、ジャンヌ。ふざけるなよ」
「一郎君、前にも私たち・・こんな感じで2人っきりになったよね・・」
「こんな感じって・・」
「あの時も、会社で一緒だったでしょ?」
「会社!?」
「ふふ」
なんでオルレアンのヒューマンのジャンヌが、会社なんて単語使うんだよ・・確かに心当たりはある・・そう、あれは・・マミが、マミのお見合いがあった日曜日の次の日の・・月曜日。
マミも元は会社の同僚だったから、彼女とは一緒に働いてた女の子だった。最初に就職した会社で、月曜日に残業してて・・コピー用紙切れたから・・倉庫に、コピー用紙取りに行った時・・・。
「・・そんなわけない・・お前が・・お前が、嘘だ!」
「一郎君・・私たち・・夫婦だったでしょ?」
「なんで・・」
「結婚記念日・・私、ずっと夜、待ってたんだよ?・・寂しかった・・一郎君・・全然帰ってこないんだもん・・」
「なんでそれを・・」
結婚記念日・・残業で帰りが遅れちゃって・・それは、マミしか知らないはずの出来事。
「あの子にちゃんと『レモン牛乳』買ってくれてた?朝は毎日、あの子あれしか飲まないから、買い忘れてたりしてないでしょうね?」
「嘘だ・・嘘だ・・」
「こらあんた!やっぱり買い忘れてたでしょ!」
「オルレアンにいるジャンヌが、なんであの子の事知ってる?なんで『レモン牛乳』知ってる?」
「・・それが答えよ」
「・・・う、嘘だ・・」
腰が抜ける。上半身だけ起こし、近づいてくる制服姿のジャンヌが、自分の方へ笑顔で近づきしゃがみ込むと、手に持つ金色のギルドカードを見せてくる。
「この毎月振込まれてくる金貨3枚・・ふふ、律儀に約束守ってきたの、ずっと知ってたの」
「金貨3枚!?毎月・・たまたまだろ!」
「・・・私がプロポーズした時と同じ格好ね、私達。ビックリしたその顔、大分若いけど・・本当にあなた、一郎なんだね」
「なっ・・なっ・・」
「アイリスお母様とルナお姉様、2人は利き腕どっちよ?この前の食事会、どっちのお手てで食べてた?」
「右手・・はっ」
「ふふ、じゃあ私は?」
「(ごくりっ)ひ、左手・・・」
「そこで気づかなかった?」
「・・・」
「・・本当、鈍感」
腰が抜けて、逃げ出したいのに両手しか動かない、腰から下が動かない・・。両手を這わせて、体を後ろへ、自然と体が、逃げていく。
ジャンヌは両手を地面について、逃げる距離と同じ分四つん這いでこちらに迫ってくる。
「マイナンバーカードは作らないし、役所にも行かないし」
「ああ・・なんでそれ・・」
「遊園地は入場券も買い忘れるし、ジェットコースターも怖がって乗らないし」
「嘘だ・・うそ・・」
「・・ねえ、一郎?」
「なっ・・・なに?(ごくりっ)」
ジャンヌが人差し指を出して、自分の顎の下をつんと突き上げる。満面の笑みのジャンヌの顔が・・マミそっくりのその顔が眼前に迫る。
「一郎、私がプロポーズした時、なんて言ったか覚えてる?」
「(ごくりっ)お・・覚えてる・・日曜の次の・・月曜・・会社で・・あの日の事は、今でも・・はっきりと」
「ふふ、いい子。怒らないから言ってみて?」
「(ごくりっ)・・・マ、『真美』が・・自分の名前・・あんまり・・子供の頃から・・好きに・・なれなくて・・」
「ふふ、うんうん、そうそう・・それでそれで?」
「(ごくりっ)・・・お、お前・・旧姓が・・『美馬』だから・・」
「ふふふ、うん、いい子・・それで?」
「(ごくりっ)・・・名前が・・『美馬真美』だから・・名前が・・好きに・・」
「はい、よくできました。それで私、こう言ったんだよね?」
「そ、それを言うなジャンヌ!」
「ふふふ・・ねえ鈴木君、お願いがあるの」
「言うな・・言うな・・」
「私にも・・鈴木君の名字・・一緒に・・使わせて欲しいの」
「言うな・・いう・・」
「ねえ鈴木君、一緒に・・私と・・結婚しない?」
「ジャンヌ・・・真美・・・」
「ねえお願い・・ス・ズ・キ・くん?」
「はぁ・・はぁ・・」
「(かつ かつ)あら、こんなところで何してるの2人とも?」
「あっ、ミューラ先生!」
ミューラが夕日の差し込む馬小屋に現れるや、ジャンヌが体を起こしてミューラに駆けよる。
「さっき一瞬やらしいオーラがすると思ったら、やっぱりスズキ君だったのね。ジャンヌ様、大丈夫ですか?」
「ミューラ先生~あいつがね、あいつがね、やらしい事しようとしたの」
「まあ!ちょっとスズキ君!一体なに・・を・・スズキ君?どうしたのスズキ君?」
腰を抜かし、放心状態になる自分にミューラが声をかけているようだが。
「スズキ君、気分が悪いの?大丈夫?」
「はぁ・・はぁ・・」
ミューラが近くに寄って話しかけてくれる。
「ちょっとジャンヌ様、スズキ君いじめたりしてないですよね?」
「え~私なにもしてないもん~」
「スズキ君、大丈夫スズキ君?」
ミューラの優しく話しかけるその声は・・自分の耳に・・届いては来なかった。
第4章 <復活する光と闇> ~完~
【第4章 登場人物】
《主人公 スズキイチロウ》『水属性』。オルレアン連合ギルド所属銀等級冒険者。『2重上位昇進』スキルで異世界を駆け抜ける。
《マミフレナ=アイリス=ダルク》
『光属性』を持つ聖女の1人。『光のクリスタル』の使徒。石化から復活。エルミタージュ85期生にして、主人公の同級生。
《マミフレナ=ルナ=ダルク》
『光属性』『水属性』を持つ聖女の1人。『水のクリスタル』の使徒。性格は母似、草食系、思春期。主人公の嫁にそっくり。双子姉妹の長女。
《マミフレナ=ジャンヌ=ダルク》
『光属性』『風属性』を持つ聖女の1人。性格は父似、肉食系、パパ大好き。主人公の嫁にそっくり。双子姉妹の次女。
《ジャック=ハート》
『雷属性』の騎士。『トロント』王国、ケンブリッジ王立学院からの留学生にしてハート家伯爵。聖女ルナの許嫁。ライン=ハートの兄。
《ライン=ハート》
『雷属性』の騎士。『トロント』王国、ケンブリッジ王立学院からの留学生にしてハート家伯爵。聖女ジャンヌの許嫁。ジャック=ハートの弟。
《シャルル=ドゴール女王陛下》
オルレアン王国女王にして、シャルル7世襲名。絶対的な権力を持ちながら卓越した統治により、オルレアン全国民・兵士より絶大な信用を得ている。
《ジェフ=ジョン》
『水属性』のブロンズ冒険者にしてエルミタージュ学院100期生。ルナ様親衛隊『月の雫』のメンバー。
《クラウド=エリス》
『水属性』のブロンズ冒険者にしてエルミタージュ学院100期生。ルナ様親衛隊『月の雫』のメンバーにして、85期生クラウドの実娘。
《クラウド》
『火属性』の戦士。『炎の鎧』『炎の盾』を持つ。エルミタージュ学院85期の卒業生にして、主人公の同級生。エリスのパパ。
《ミューラ》
『火属性』のエルフ。『火のクリスタル』の使徒。王立学院エルミタージュの教師にして、オルレアン連合ギルド所属の銀等級冒険者。主人公の第1村人。心優しきエルフ。
《ガイア》
『土属性』のドワーフ。『土のクリスタル』の使徒。銀等級冒険者。主人公の師匠。スキル『高等精錬』の使い手。
《サンダース》
『雷属性』オルレアン連合ギルド長にして、金等級冒険者の武闘家。通称「セガール」、聖女双子姉妹のパパ。
《セバス》
『火属性』のエルフ。オルレアン連合副ギルド長にして、ミューラの実兄。独特の話し方が特徴。
《アクア=マリン王女》
死別した両親の第一王女にして王位継承権第一順位の立場。『ベネチア』のトップ。
《キグナス将軍》
『ベネチア』王宮兵士団の将軍。アクア王女の両親にも仕えていた老兵。ダルク家の過去を知る人物。
《サラ》
『水属性』のエルフ。ミューラによく似た青色の髪のエルフ。
《サム国王》
『マドリード』王国国王。サム7世を襲名。『ベネチア』とは長年の同盟関係。ある理由によりアクア王女に頭が上がらない。
《奈落》
闇の黒装束リーダー格。性格は残忍。
《諸刃》
黒装束の影の1つ。
《刹那》
黒装束の影の1つ。その正体は・・。
《円華》
黒装束の影の1つ。大人の女性の艶美な声を発する謎の影。ゴブリンを瞬時に召還する謎の力を持つ。
【ご視聴の皆様へ】
ここまで読んでいただきありがとうございます。現在完結目指して執筆中。
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