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9.家庭教師

 朝 オルレアン連合ギルド会館 1階


「おはようございますミューラ様」


「おはよう」


 ギルド会館の入口案内にいるお姉さんがミューラに挨拶している。ミューラは冒険者(ハンター)ランク序列3位 銀等級の偉い人、歩く部長、キャリアウーマン。


「あの、僕もミューラ様って呼んだ方がいいですか?」

「やめてよ、気持ち悪いから」


 キモイと言われる中年男子、早朝ミューラ部長から会心の一撃。大衆浴場で体の体臭は除去できたが、体に染みついた気持ち悪さをぬぐう事は出来なかったようだ。


「はい、出して」

「え?何をです?」

「ギルドカード!」

「ああ、はいはい」


 部長は早朝からご機嫌斜め(ななめ)、部長と先生を怒らせる天才的行動。ミューラに催促(さいそく)されギルドカードの中央をタッチ、タブレットサイズのビジョンが浮かぶ。


「はい、ここ。押して」

「押したら爆発とか」

「しません!」


 部長と先生を怒らせる天才的発言。そういえばミューラ、昨日といい今日といい、やたらと教え方がうまい、まるで先生みたいだ。


「あの、ミューラって教えるの上手ですよね」

「えっ?うん、学校で教えたり、たまにしてるかな~」

「ああ、やっぱりそうなんですね」

「銀等級冒険者(ハンター)はたまに頼まれたりするの、今はこっちに集中」

「はい、はい」


 ビジョンにまたしてもスマホのアプリのようなアイコンがある。


「これ、押して」


 そういえばミューラ先生から昨日金貨の預金残高が見れるコインのマークのアイコンと、必ずチェックしろと言われて見なかったオリジナルスキル、星マークのアイコンがあると説明を受けていた。もちろん星マークの方をさっさと押すよう先生がこちらを睨んで(にらんで)おられる。


(ぽちっとな)


 ビジョンには中央に『上位昇進(レベルブースト)』と表示された、起動を待つかのように黄金色に発光と点滅を繰り返していた。


「何これ・・見た事ない・・」

「え?ミューラ先生も知らないスキルです?」

「誰が先生?知らないも何も、ちょっと見せて」

「え?うわっ」


 こちらはカードを手に持ち、視線を下にビジョンを眺めている隣から、ミューラがビジョンに小さく浮かぶ文字を読み拾おうと顔を近づけてのぞき込んできた。


「あの、近いです先生」

「対象者の職業(ジョブ)上位へクラスアップ・・レベルを3倍にブースト・・信じられない」


 こちらの言う事を無視してビジョンの文字を食い入るように見つめるミューラ。


「・・信じ、キャ!」

「えっ?」


ミューラの耳がこちらのほほに当たるや、ミューラはのけぞって体を離した。


「ごめんなさい・・・近づき過ぎちゃって」

「すいません、何か、痛かったです?」

「その・・敏感(びんかん)なの」

「え?」


 ミューラはほほを赤らめて、長い耳をさすっている。エルフは耳が敏感らしい、さらに嫌われたのは間違いなさそうだ。しばらくしてミューラが落ち着いた様子、一呼吸すると属性とスキルについて話を始めた。


「今日は属性について・・まだ早いかな~。誰しもってわけじゃなくて、魔力があると風・火・水・雷・土の5つの属性の力を使えるようになる事があるの。他に光や闇とかもあるけど・・」


 魔力?いきなりオカルト話になってきたな。


「ミューラはその・・属性とか持ってるの?」

「うん、私は『火』の属性使い。銀等級クラスになると大体みんな1つは持ってるかな。スズキ君はまだレベル1だし、少し先のお話だね」

「はぁ・・」


 人生経験のレベルの高い人は属性のいずれかが使えて便利らしい。先週失職した男には程遠い世界のようだ。


「はいスズキ君!今度はスキルのおさらい」

「はい。えっと、技術スキルはスキルポイントを使って取得する大衆(たいしゅう)技術」

「そうです」


 昨日ギルド会館で、少しだけこの世界の基本的な事を教わっていた。今日はその続き。ミューラ先生に促され(うながされ)、黄色の『スキルカード』中央をタッチ、クリスマスツリー・・もとい技術ツリーアイコンをタッチして起動。


 家系図(かけいず)のような表が表示される、今の自分は一番左の「A」と表示された言語スキルしか持っていない。


「昨日浜辺で取得した『言語』スキルの次は何が表示されてる?」

「えっと、『筆記』と『採掘』です」

「次にスズキ君の取りたい技術を選んで」

「えっと、この『筆記』が取りたいです」

「どうして?」


昨日失ったギルド受付お姉さんの好感度を回復させたいわけじゃない、自分の名前くらい自分で書きたい。


「その、文字を書けないのは何かと不便(ふべん)で・・」

「そうね。私も職業(ジョブ)レンジャーだから、『地図』を書く時、『筆記』は必須スキルだよ」

「あっ、ミューラさんレンジャーなんですね」

「名前、ミューラ!」

「あっ・・はい」


 ミューラ先生は『火属性』のアカレンジャーらしい。情熱的ですぐにキレやすい女性のようだ。レンジャーの意味も知らずにふんふんうなずく。


「技術スキルのポイントはギルドに登録してクエストをこなすと自然と増えるの。パーティーや仲間を助ける行動をしても増えていくし、時間のある時に積極的に選んで取得すること!(びしっ)」

「はい。今はポイントが無いからまだ名前も書けないんですね」

「そうです、じゃあ次」

「赤い方のカードですね」


 黄色い『スキルカード』を閉じ、続いて先ほどトラブルのあった赤い『ギルドカード』を起動。


「えっと、オリジナルスキルや魔法はその人の固有スキルで、その人にしかない・・何とかです」

「う~ん、まあ、いいでしょう」


ミューラ先生から及第点(きゅうだいてん)


「私の場合は『感知』スキル、ある程度のエリアの状況把握ができる私の固有スキル」

「それって、見えてなくても誰がどこにいるか分かるって事ですか?」

「そう、敵が攻めてくる方向とか~」


これで合点(がてん)がいった、昨日だだっ広い浜辺(はまべ)に寝てる男をピンポイントで察知(さっち)できたわけだ、啓示(けいじ)が何とかって、あれは女の嘘。


「味方が危ない時とか特に重要で~」


 今朝は偶然を装って(よそおって)大衆浴場を出てすぐの再会。明らかな意図的遭遇(いとてきそうぐう)(よそお)ってこちらに近づいて来たのは明白。自分が悪い事をしててもすぐバレる。


「そこでスズキ君のその『上位昇進(レベルブースト)』!」


 女の子としゃべったりしててもすべてバレてしまう。何て恐ろしいスキルなんだ。


「だから今日一日、私と付き合ってね」

「恐ろしい・・へ?」

「も~ちゃんと聞いてた~?」














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