蒟蒻を廃棄する話ではない話。小話10(ほらほら「ホラー」だよとホラを吹き、ほったらかしのほら穴があったら入りたい)
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「蒟蒻を廃棄する話ではない話」
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「蒟蒻を廃棄する話ではない話。小話1(砂糖漬け)」
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「蒟蒻を廃棄する話ではない話。小話2以降」
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この作品
の流れですが、この作品だけを読んでも雰囲気ホラーになるつもりで作成しました。
蝉の楽園、蝉の国。
ジジジジジと鳴く生きた蝉。
軽く、空っぽな蝉の脱け殻。
鳴き疲れ、命果てた蝉の死骸。
ガタンゴトン、ガタンゴトン
三日前にも歩いた学園の中庭。
蝉の国を山手線の電車が走る。
ガタンゴトン、ガタンゴトン
蝉の鳴き声だけに満たされた世界に囚われて、わたくしはわたくしでなくなる。
この場にいる自分は果たして、ちゃんと生きて存在する人間なのか、空っぽなだけの体躯なのか、蝉なのか、蝉の脱け殻なのか、はたまた蝉の死骸なのか。
三日前の出来事が頭の中をループする。
蝉の脱け殻を見つけ、優しく優しく摘まみ上げる。
嫌い、好き、嫌い、好き、嫌い、好き……。
蝉の脱け殻の脚を一本ずつ外した蝉占い。
三日前と違うのは、一本目を「嫌い」から始めたこと。
だって、もう答えは分かっている。
「嫌い」には出来ない。
中庭のシンボルマーク、大きな楠。
楠の周りに蝉の死骸が落ちていた。
蟻が群がり、解体し、運搬する。
既に失われた片方の羽。
空を飛ぶ蝉の死骸。
わたくしの肩に当たり、落下する。
クスクスと笑う、華やかな蝶々達。
脚六本を失い繭玉になった蝉の脱け殻。
一番華やかな蝶々のもとに歩み寄る。
一番華やかな蝶々の手を取り、手の平に繭玉を乗せてやる。
蝉の国を木霊するのは儚い蝶々の断末魔。
蝉の国に迷い込んだ蝶々達は散り散りになり霧散する。
また蟻が群がるだろう。
蝉の楽園、蝉の国。
ジジジジジ……と鳴く生きた蝉。
軽く、空っぽな蝉の脱け殻。
鳴き疲れ、命果てた蝉の死骸。
ガタンゴトン、ガタンゴトン
楠が言う。ここで電車を降りなさい。
楠が言う。私は駅だと。
目を開ける。
キーン、コーン、カーン、コーン……キーン、コーン、カーン、コーン
昼休憩の終わりを告げるチャイムの音。
楠はただの楠になり、駅は消え、山手線も消えていた。
今この場にいるわたくしは人間。
ちゃんと生きて存在する人間。




