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地獄のスクールライフ

 いつからだろう。


 ベッドに潜っても、なかなか寝れなくなったのは···


 いつからだろう。


 起きるのが嫌になったのは···


 いつからだろう。


 学校が、遠くに感じたのは···


 いつからだろう。


 友達やクラスメイトが···ううん。


 人間が、怖いと感じるようになったのは!



「こーらっ! 麻由美、いつまで寝てんの。いい加減に起きなさいよ、もぉっ!」


 ドアの外から、怒りながら言うママの声が聞こえる。きっと、いまは腰に手を当てて怒ってる。


(わかってる。わかってるけど···)


 週の始めの月曜日は、学校に通ってる子なら誰だって思う。


「学校なんて、なくなればいいのに···」


 そんなことを毎日のように願っても、無くなる事はないし、夜が終われば朝もやってくる。


「行きたくない、や」と、私·木崎麻由美は、重い溜め息を吐きながら、ベッドからノソノソと出て、中学の制服に着替えた。


 トン···トン···トン···と階段をゆっくりと降り、リビングへと入ると、


「いつまでも寝てないで、ほらさっさと朝ごはん食べちゃって!」


「うん」


 白米に目玉焼きに、お味噌汁。代わり映えのないメニューを時間をかけて、ゆっくりと食べる。


「麻由美。あんた、いつまで食べてるの」


 イライラした口調で言いながら、まだ食べてる途中なのに、片付けが始まる。


「パパは?」


「仕事よ。早く支度をしなさい」


 なんとなく感じる。ママは、よくパパのことでイライラしてる。喧嘩でもしてるのだろうか?


「うん。ご馳走さま。お弁当いつもありがとう」


 私が通ってる中学は、去年まで給食が毎日あったけど、校長先生が変わってから給食中心だったお昼が、お弁当中心になり、毎週月水金は、お弁当の日になった。



「行ってきます」


「行ってらっしゃい。気をつけるのよ」とママは、声だけ掛けて顔は新聞の折り込み広告にいっている。


 空は、真っ青に晴れ渡っているのに、私の心はどんよりと曇っている。


 何故って···


「おい、便所虫!」と通学途中、後ろからサブバッグで後頭部を直撃され、止まる私の前をケラケラ笑いながら走り去ってくクラスメイト···いや、悪魔たち。


 それならまだいい方で、一番酷い時は石を頭やお腹にぶつけられた事もあった。


 教室は、私にとっては地獄の場所。騒がしい教室に入れば、一瞬静かになって、また騒がしくなる。


 挨拶をしても誰も挨拶を返さない。存在の無視。


 なのに、席に座ってるだけで、ペンケースを投げられたり、教科書の角で頭をゴンゴン叩かれたりする。


 授業で班毎になる時は、他の子の机に当たらない程度に机を合わせるけど、そこ班の中に私という“木崎麻由美”は存在しない。


 体育でフォークダンスをやった後は、最悪だった。


「うっわ! 幾ら授業でも、便所虫なんかの手を触っちまったぜ」


「おい、お前俺の手を握った罰として、この道具を倉庫に片付けとけよ。あー、汚ねー」だの言っては、頭を叩いたり、背中を蹴ったりしてくる。勿論、先生の目に届かない場所で。


 私を苛めるのは、殆どがクラスの子達だけど、時々他のクラスの子も混ざったりしてる。



 お昼になると、みんなそれぞれお弁当を囲んで楽しい時間になるのに、私はいまトイレでお弁当を食べている。


「なんとか、残さず食べれた。良かった」


 教室で食べてた時は、チョークの粉や鉛筆削りのカスがお弁当の上に“ふりかけ”と称して掛けられた。ベランダで食べてもそれは変わらなかったし、出たら出たで鍵を掛けられて教室に入れず、先生が来た時に、


「あー、ごめんごめん。いるの忘れてたわ」と謝る素振りで、そっと、


「いい? チクッたら、もっと酷くするよ?」と脅されたりもしたから、最終的にはトイレになった。


 トイレ掃除の時なんか、水をホースで掛けられて濡れた体操服のまま次の授業受けて風邪をひいたり、トイレの床を這いつくばって舐めさせられたりした事もあった。


 自分が、落ち着ける場所なんて何処にも無かった。どこに行っても、私の後をついて来るのが一人か二人はいたし、先生の目を盗んでは廊下の隅の所や見えない場所で、目に見えない場所をつねられたり、叩かれたりした。


『だったら、先生や親に言ったら?』


 石を投げられた時、おでこに酷いたんこぶが出来て、出血してた時は騒動になったけど、


「グランドで石投げしてたら、木崎さんが通ってました」


「すみませんでした」とさも私が偶然通っていたかのように謝罪してきた。帰る人が、校舎や校門から真逆のグランドをどうやって通るのか?誰もそこを言わなかった。それからは、石を投げるのは止めてくれたけど。


「どうせ、麻由美がボーッと歩いてたんでしょ!」とママもパパも私の怪我のことよりも、そのことで周りに迷惑をかけたとでも思ってるし。



「あ、高校生だ」


 小学生の時は、高校生に凄く憧れていた。アイドルみたいに可愛い制服を着たり、お化粧したりしてるお姉さん達可愛いもの。


 それに、高校は義務教育じゃないから···。



「どうして義務教育ってあるの? 無かったら、中学辞めたかったのに···」


 そんな事を呟きながら、出された宿題をする。自分のと頼まれた二人のを。


『お前、頭だけはいいからな。俺、今日部活あるから、これやっとけよ』


『俺、これからデートだから! 朝貰いにいくから』とこういう時だけは、存在は普通にしてくる。


 私に宿題を押し付けたのは、倉田准也と田中篤史。私をいじめてる所謂ボス的な存在。


 宿題を代わりにやった日だけは、あまり痛い苛めはされなくなるから。完全に無視だけど。


 コンコンッ···


「麻由美。石川さんから電話だけど。あなた、遊ぶ約束してたの?」とママが、子機を渡しにきた。


「約束?」と言いつつ、石川さんがなんで電話してきたのか分かった私は、場所を聞き、出掛ける支度をした。


「足りる、よね?」お財布の中身を確認しながら、溜め息をつく。これって“たかり?”と思いつつも、断れない自分がいる。断ったら、何をされるかわからないもの。


「ママ、18時迄には帰るから」


 キッチンで、夕食の下ごしらえをしているママにそう言って、家を出た。



「あ、きたきた。こっち、こっちー」


「ったく、遅いんだからー」


 傍から見れば、友達との集まりに私が遅れてきた、かのように見えるが。


「幾ら持ってる?」と先に口を聞いてきたのは、小池祥子。他には、いつも一緒にいる林芹香、佐々木優佳里がいた。


「いまあるのは、5000円だけ」


 この間、お祖母ちゃんちに行った時、渡された奴の残りだった。


「それだけ?」


「すっくな」


 3人は、顔を寄せ合って何かを小声で話していたけど、結局その中から4000円だけ抜いて、立ち去って行った。


「欲しい本とかあったのに···」


 ショッピングモールの中の憩いの場。呼び出されるのは、いつもここ。時計の塔は、まだ15時を過ぎたばかり。


 適当にお店をブラついたり、自動販売機でジュースを買って飲んだりして、時間を見て帰る。


「おかえり。早かったのね。ご飯すぐに食べる?」


 ママは、なんだかんだ言いながらも、私が友達と遊んでると思ってるのか、そういう時は優しい。


「うん。食べる! 今日なに?!」とさも友達と遊んだかの如く、たいして食欲もないのに無理して明るく振る舞い、食べ、遊んでもいないのに適当に話を作ったりしては聞かせている。



「はぁっ」


(いつになったら、こんな生活から抜け出せるのかな?)


 誰もいない放課後の教室は、夕焼け色に染まり、グランドでは野球部の声が4階の教室まで届く。


『いい? これ、お母さんに渡しといて。で、そのお金をこっちに回してよ』と小池さんが、渡してきたのは、やりもしない合宿のお便り。


「20000円? 無理だよ、こんな大金」


 いくらなんでも、部活ではない合宿にうちのママもパパも首を縦に振るとは思えなかった。


 のに!


「も、麻由美。そういう合宿があるならあるって、先に言ってよ。おかげで、ママ小池さんに笑われちゃったじゃないの。はい、20000円」とお財布から20000円を渡してきたのには、驚いた。


(ママ? このお金、合宿じゃないんだよ? 私を苛めてる人たちの遊ぶお金になるんだよ?)


 これまでに彼女達にたかられた金額も既に10万は超えていた。ノートに書いてあるから。


「ごめん。忘れてた。これ、お便り」


 一体、どんな手を使っていたのかは、知りたくもないけど、小池さん演劇部だから声色を使ったんだろうね。


「でも、私どうなるの? 小池さんちに泊まるの? いないのに?」


 合宿の日は、1泊2日という短期間。


 どうするのかわからず、翌日学校で聞こうとしたら、向こうからやってきて、階段の踊り場に連れてこられた。


「大丈夫だって! ちゃんと泊まるとこは養育するから! いい? 何があっても暴れたりしないのよ? わかった?」


「おとなしくしてれば、お金だって貰えるんだから」


「うん」



 寝る場所は、確保してくれるらしいから、当日合宿っぽい準備をして、待ち合わせの場所に向かった。


「おかしいな。小池さんの知り合いが迎えに来てくれる筈なんだけど」


 駅前のベンチに座って、キョロキョロしてたら、


「きみ、木崎麻由美ちゃん?」と大学生みたいな人が私に声を掛けてきた。


「そうだけど···」


「いこうか。みんな君が来るの待ってるから」と私の荷物を持って、ふたりで駅前から離れる。


「さ、乗って。こっから、少し遠いから」と車の助手席に乗ると中にはもう一人の男性がいた。


「お、なるほど···」小さく笑った後部座席の男性は、スマホを弄り始め、私を乗せた車は、走っていく。


「あの···」


「ん? なに? 大丈夫だよ。楽しもうな」


 街から離れると、なんとなく車の中の静けさが不安に代わって、声を掛けた。


「そうだよ。お金欲しいんだろ?」


 ?


「きみ、ほんとに処女? 幾ら欲しいの?」


 ??


 運転してる人の手が、私の足に手を置いて、やっと意味がわかった!


(酷い! こんなことって!)


「楽しみだな。きみみたいなうぶな娘···」


 男性の手が、スカートの中に入ってきた時には、心臓が飛び出る位にドキドキして怖くなった。


(逃げよう!)と思ったけど、車走ってる。


 幸いにもドアロックが、掛かってない!


(今しかない!)車が信号で停まった。走り出してすぐ、私は大きな声を出し、ドアを開け道に転がる。


 転げ落ちた私は、後ろを振り返らずひたすら逃げた。落ちた瞬間、声がしたけど追いかけてくる様子は無く、お店の物陰に隠れてジッとしていた。


「あたっ···」


 車から転がった時に、手足を擦りむいた上に、足首を傷めていた。


「携帯、鞄の中。お財布も···」


 痛い足を引きずりながら、まだ明るい道を歩いた。


「羽津傘? どこ?」


 自分が住んでる市を出たのは覚えていたが、この町名に記憶は無かった。


「なんだ、隣じゃん!」


 大きな道路標識に自分が住んでる市の名前や距離があったが、到底歩ける距離では無かったが···。


「歩こう。どうせ、合宿なんだし···」


 悔しかった。泣きたかった。


 どうしてこんな事までさせられるのか、まるでわからなかった。


 歩いては休むを繰り返し、大きな道路に出た。


「あ、信号あった!」


 赤から青に変わり、私は急いで横断歩道を渡った···。


 プワッ!プワァーッッ!!


 目の前に大きなトラックがいた。


「─いっ!」


 身体に大きな衝撃が走る。


(あ、私死ぬんだ。良かった···)

いじめって、撲滅運動とかありますが、なくなりませんね。



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