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第4話 勃発(4)

「パパ、今日もなんか変だね」

「ああ、まだリソース管制が続いているからね」


 管理エリアのリソースは約半減していた。

 システムは自動的にリソースの割当を調整しており、それは人々の生活に多少なりとも影響が出ていた。


「なんか、カクカクして気持ち悪いよね」

「もうしばらくの辛抱だ」


 ソラにそう答えるコウも、復旧に関しては懐疑的だ。


「仕事もしばらくお休み?」

「しばらくはそうだね」


 ミウラ管理官は、自分が管理しているこの管理エリアに対しドライスティックな判断をしていた。学校を含む全ての業務は休業。仕事をさせるにも、勉学をさせるにも人々はリソースを消費する事に対しての緊急措置だ。

「毎日つまらない」

「ソラは高校生なんだから我慢しなきゃね」

「でも動画も昔のアニメとか映画しか流れていないし……女子高生だからこそ刺激が欲しいんだよ」

「その刺激はリソースの消費の上になりたっているからね。仕方無いんだよ」

「うううー、私の青春……」


 あらゆるクリエイティブな活動は制限をされていた。

 その上、画像の描画レートを10%ほど落としている。

 ソラがカクカクしていると表現しているのは、そういうところだ。

 これが動画で見ているのであれば気が付かなかったかもしれないが、コロニーの住人は自分の五感で感じているのである。ちょっとした変化にも敏感になるというものだ。


 ちなみに、ミウラ管理官はリソースが1/3以下まで減少していたら色情報を落とすつもりでいたらしい。最悪、白黒の世界で生きていく状況もあり得たので、コウは多少の不便さは許容すべきだと考えていた。


「でも、さすがにパパも仕事もなく、家でじっとしているのは嫌になったので」

「なに?」

「じゃーん」

「あ、ライブのチケット!」


 コウはツテを頼りにミウのシークレットライブのチケットを手に入れていたのだ。


「こんな時期にいいの?」

「こんな時期だからこそ、リソース消費の少ない電子アイドルらしいよ」

「でもパパ……ミウは……」

「解っているよ」


 ミウはユキナでは無い。

 魂の無いただのオブジェクト。


 頭では解っていた。

 だが、あの日、自分の手の中に現れたセキュリティカード。

 あれは間違いなくオペレーションセンターのゲストカードだった。


「どうする? 行く?」

「行く!」

「チケットは5枚あるから、ネギ先輩のところも誘うよ」

「えー、馬鹿アサヒも来るの?」


 学校に行けないこともあり、毎日アサヒが遊びにくるかもしれないと覚悟をしていたソラだったが、全く顔を出さない幼馴染みに少し腹を立てていたのだ。


「喧嘩でもしたの?」

「してない! 馬鹿が嫌いなだけ」

「ふーん」

「なに!」

「なんでも無い」

「もう!」


 ソラは怒った顔をしているが、本心では少し寂しかったのだ。


「ネギ先輩、ライブ行きます?」

『行く!』


 コンソールのメッセージ機能で連絡をとったコウに、ネギ先輩は即答していた。お隣さんも、さすがに退屈になっていたらしい。


 こうして両家はミウのライブ会場に向かった。


 ***


「あれ? ミウラ管理官?」


 コウは壇上に立つ男に気が付いた。


「本当だ。何をしているんだ? あの爺ぃ」


 ネギ先輩が自分の組織のトップに悪態をつく。といっても仲の良さからくる親密表現でしかなかったのだが、


「ミウラのおじいちゃんに言いつけるよ」


 というソラの言葉に、あっさりと白旗を上げた。


「ごめん、ごめん、ソラちゃん。ミウラ管理官は良い人。うん」

「わかればよろしい」

「そのうち降格されるわよ」


 ネギ先輩の妻、アサヒの母でもあるセリが呆れたように笑う。


「父ちゃん、クビになったら毎食コンニャクブロックだからな」

「うげ……それは困る」


 アサヒの言葉にさらに頭を抱えるネギ先輩。


「ソラちゃん、ミウラの爺さんには絶対内緒な」

「えー、どうしようかな」

「ひぃ、コウ、お前からも何とかいってくれ」

「ネギ先輩がいなくなったら僕が出世するかな?」

「お前も裏切るのか!」


 ネギ先輩の叫びに一同が笑った瞬間、会場の照明が消えた。


 ***


「みなさん」


 舞台の上に立つミウラ管理官にだけスポットライトが当てられた。


「このような事態を招き、このエリアの管理官として心よりお詫びします」


 そう言って頭を下げる。


「復旧は鋭意進めていますが、いくらチェックをしてもシステム側では異常は発生していないというログしか出ないため、まだ時間がかかりそうです」


 ネギ先輩やコウが自宅待機となった最大の理由はシステムが異常を検知していないことにある。リソースが半減し、物理世界や域外エリアに対しての通信が途絶しているにも関わらず、あの警報が停止して以降、システムは「正常」とだけ返すのだ。結果、アドミニストレーターレベルでできることがなくなってしまった。


「一方でリソースの利用は出来ており我々も行動が出来てる以上、何か物理的なサーバーに問題が生じたとは考えにくく、そして我々の寿命は永遠です。少し気長に、かつ慎重に対応を取らせてください」


 そういってミウラは再び頭を下げた。


「今夜はそのお詫びを兼ねて、管理センター主催で電子アイドル『ミウ』の初ワンマンライブを実施します。存分に楽し――」


 その瞬間、ミウラの頭が爆ぜた。


 ***


 この日、多数の観衆の目の前で。

 電子世界(コロニー)における最初の死者(ぎせいしゃ)が発生した。

第2部第1章はこれでおしまいです。

次回より第2章が始まります。再び世界には「不幸」が訪れます。


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