第4話 勃発(2)
しばらく週1くらいの更新になりそうです。
「原因は何だと思う?」
直属の上司にあたるミウラ管理官の問いにトツカは言葉を詰まらせた。
コロニーを維持するリソースは、人々の行動により消費されるため、管理空間の中で消費量が多いところ、少ないところが発生してしまう。その需給調整を行っているのがアドミニストレーターの仕事なのだ。
逡巡した後、トツカは正直に答えることにした。
「これほど大量のリソースが同時多発的に消費される事態など想定しておりませんでした。今の段階では推論すら立たない状態です」
「例の噂は?」
「オペレーションセンターが把握できていなかった移行者がいる……というやつですか?」
「はい」
「噂に過ぎません」
「だが、これほどのリソースを消費する存在は我々の管理下にはいない。それは間違いないのだろう?」
「はい」
コロニーのプラットフォームとなっているシステムのリソースは膨大だが、それでも個人に対するリソースの割当は厳密に管理されている。リソース不足は魂の活動の停止を引き起こしかねない。
「管理官、ですがコロニーに我々が管理できない人が存在しうるのですか?」
その問いにミウラ局長は首を横に振った。
「管理官という肩書きがあっても、私が持っているのは君たちアドミニストレーターと同じレベル4の権限しか持っていない。私がこの地位にあるのはシステムが判断したからに過ぎない。私もこの管理センターが管理していない人について知っていることは君たちと一緒だよ」
管理官のミウラ、チーム長のトツカ、それに一般アドミニストレーターのネギ先輩に割り当てられているコロニーを支えるシステム上における権限は同等だ。そしてその範囲も、あくまでミウラ管理官が担当している256区画の中に限定される。
「事実、私の管理区域にも私の管轄外となる人はいる」
「例の件ですね」
「ああ、そうだ。彼らが何を目的とした集団かは、情報部に調べさせているのだが……コロニーの相互不干渉の原則が引っかかって、まだ何もわかっていないのだ」
コロニー内で生活する人々に対しては個人の尊厳が徹底的に守られている。
開示したくない秘密については第三者がどう暴こうとしても調べることができないのだ。
たとえば芸能レポーターが芸能人同士のスキャンダルを探ろうとしても、そもそも調べられる側が、その情報を非開示にしている限り、管理センターの職員も含め、その情報は誰も一切知る事ができない。
「しかし、電子アイドルプロジェクトが、なんでここまで機密性の高い情報になっているんでしょうか?」
トツカは疑問をそのまま口にする。
電子アイドル『ミウ』プロジェクト。
管理センターに対して全ての情報がプロテクトされており、そのプロジェクトチームが消費するリソースは、ミウラ管理官の管轄外から供給されている。
通常、ありえないような運用なのだがミウラ管理官を通すことなくシステムが承認してしまっている。
「何かが起こるんでしょうか?」
「そんな大袈裟な話では無いとは思うが……いずれにせよ今回のリソースの異常な消費と、物理社会との通信途絶についてはレポートをまとめてくれ。事実だけ並べてくれれば、それをもって管理官会議に上げる」
「わかりました。事実だけであれば数時間程度で仕上げてきます」
トツカはそう言って頭を下げ、ミウラの前から退出した。
***
一通りのチェックが終わり、コウはネギ先輩と休憩スペースでコーヒーを飲んでいた。
「……なんだったのだろうな?」
「ええ、なんか変でしたね」
訓練以外で全員招集がかかった事も初めてであったし、リソースが吸われるように消えていくような事態も初めてだった。それも同時に複数箇所で発生したのだ。
「パージするような事態になったら大変でしたよ」
「バックアップがあるとはいえ、一時的に活動停止になるとか、怖いよな」
データ化された魂は常時バックアップが取られているために、リソースの異常で区画ごと放棄されたとしても、魂そのものは瞬時にバックアップ側へ転移する。バックアップそのものも多重化し、複数箇所に分散して保持しているため月面のサーバーが全台同時に消失でもしない限り、コロニーの住人は不死なのである。
だが、人類だった頃の感覚からすると一時的にバックアップ側に魂が引っ越すというのは不安があるのだ。この辺りの感覚も、アサヒ達のようにコロニーに移行後に生まれた人とは違う感じ方だったりする。
「とりあえず、今日はもう帰ってもいいのかな」
「そうですね。一回帰ってソラにも説明しておかないと。ほとんど何も言わずに飛び出した……えっ?」
その瞬間、再び管理センターが警報に包まれた。
『物理世界と通信途絶! アドミニストレーターは全員持ち場に戻れ!』
そしてその瞬間に強制的に二人はコンソールの前に転移させられていた。
アドミニストレーターに対しては、管理官権限である程度の行動制限が可能なのだ。
そしてコンソールには次々と各区画の状況が映し出される。
同じように強制的にアドミニストレーター室に戻されたトツカが指示を飛ばす。
「ネギ先輩、全区画……」
「ああ、くそっ! ここも持つのか!?」
先ほどとは違い、全ての区画のリソースが消失し始めていたのだ。
256の区画内でリソースを調整することでこれまで対処をしていた。
だが、その全てのリソースがまるで空気が抜けるような勢いでリソースが減っていくのだ。これでは手の打ちようが無い。
ただ呆然と全区画のリソースが減り続けるのを見ているだけ。
「このペースですと、あと2分で全区画のパージが必要になります」
それでもコウは必死に手を動かし、状況を把握した。
「チーム長!」
コウの言葉を受けてネギ先輩がトツカに状況を報告。
「パージしますか?」
「意味はないな。このまま見守れ」
「え?」
「全ての区画が一律でリソースを減らしている。これではパージをして守る意味は無い。大丈夫だ、バックアップがある」
「そうですが……」
ネギ先輩が不服そうにそう言いながらも再びコンソールに向き合う。
「セリとアサヒにしばらく会えないかもな」
「そうですね、ソラに連絡を取れればいいのですけど」
当然、こんな事態では、プライベートな通信は制限されている。
「まもなくパージポイント……あ……」
「どうした!」
間抜けな声を出したコウにトツカから質問が飛んだが、その答えを待つまでもなくトツカのコンソールにも状況の変化が映し出されていた。
「止まったのか……」
リソースの減少はパージポイントのギリギリの数値で止まっていた。
そしてその数値は回復することはなかった。




