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第2話 孤独(5)

第2話 孤独(5)


「隠れオタ?」


 ソラの言葉が一瞬何を意味しているのか飲み込めなかったコウだったが、その視線の先にあるアイドルフェスの看板を見て、厳しく閉じていた口を少し緩めた。


「ああ、これか……違うよ、ソラ。パパはその隠れオタとかじゃないと思うよ」

「え? まさかの堂々オタク宣言?」

「アイドルの? いや、別にアイドル好きがどうこう言う事はないんだけど、パパはアイドルには興味は無いかな」

「そうなんだ……じゃぁ、なんで仕事をサボってこんなところにいるの?」


 その質問にコウはどこかばつが悪そうな表情を浮かべた。


「その……ソラがベッドで観ていた動画を……」

「え?」

「この間、ソラの様子が少しおかしかっただろ。それで気になって……ノックはしたんだけどね。そしたら……」

「ミウの動画を見たの?」

「うん。そう。あの娘、ミウって言うんだ……ああ、アサヒ君が言っていたアイドルの子なのか」

「え? パパ、ミウって知らなかったの」

「ソラの動画を見ただけだから……その、名前がわからなくて……」


 仕事をサボったことを問い詰めてやろうと思って力を入れていたソラは思いっきり脱力をした。


「それでここに探しに来たの?」

「そうだね。うん、そうなるかな」


 コウからみてもミウの姿はユキナにそっくりだったのだ。居ても立ってもいられなくなり、色々とアイドルの事を調べ、今日はここにきていたのだ。


「それはママに似ているから?」

「ああ」


 電子アイドルの人気など一時的なものだろうし、コウが普段、そういうものに興味を持たない事を知っていたので、このまま隠し通そうとしていた。万が一、コウに知られてしまった時、


「ごめんなさい……ママに似ていたから……パパに教えたくなくて……」


 自分の父親がどういう反応をみせるのかの想像が全くできなかったのだ。


「気を遣ってくれたんだね。ありがとう」

「うん」


 ソラの目にじわりと涙が浮かんでいた。


「そうだね。動画を最初見た時はちょっとびっくりしたかな。でも……」

「でも?」

「ソラの端末で流れていただけだったから、どこの誰かがわからなくて……一度ちゃんと見たかったんだよね」

「へ?」


 画像検索や動画検索という手段もあるのだが、確かにチラリとみただけの動画から、それが何なのかを検索するのは難しい。


「それでアイドルフェスに来たの?」

「うん、パパはどこでそのミウっていう娘の動画を見ればいいのか解らなかったし、なかなか相談できる相手もいないからね」

「そうなんだ……聞いてくれても良かったのに……」

「でも、ミウっていう名前が分かったから大丈夫かな。あとは自分で調べてみる」

「調べてどうするの?」

「うーん、どうしようかな。そこまでは考えていなかった。でも一度、会ってみたいなぁ」


 もしかしたら、姿形が似ているミウに会うことで何かが切り替わるかもしれない。

 幼かったソラがここまで気を遣ってくれていたのだ。

 ソラのためにも、もう、心の整理をしなければならないのかもしれない。

 コウはそう考えていた。


「会えないよ」

「え?」

「ミウは電子アイドルだから、魂を持たないの。だから会ったりもできない。デバイスの向こう側にしかいない存在なの」

「……そうか」

「うん」

「そうなんだ」


 コウが弱々しく微笑んだ。

 これでは結局、ユキナを吹っ切るどころか、ミウという存在を代償的に求めていただけで終わってしまう。


(ユキナ……ごめん。僕はまだ君の事を整理できないかもしれない)


「でも、本当に似ていたね。ママの若い頃にそっくりな気がしたなぁ」

「ママとは髪の色も目の色も違うよ」

「そうだね」

「それに雰囲気が似ているだけで、よく見たら顔も少し違うんじゃないかな」


 ソラは思ってもみないことを言う。

 何度も見た。

 何度も何度も繰り返し見た。

 家に残されている写真や動画とも何度も見比べた。


 髪の色と目の色を除けば、同一人物としか思えないその姿。


(ママ……)


 それでも、そんな気持ちを一つも見せずにソラは微笑む。


「もう帰ろうか、パパ」

「わかった。そうだね。あ、それじゃぁ、帰り道でソラが学校をサボった理由について詳しくきかせてもらおうかな。いつでも休める大人と違ってソラは休んだらペナルティがあるのは知っているよね」

「うげ、大人だけずるい……」


***


「電子アイドルって知っています?」

「なんだ?」


 翌日、久しぶりに出社したコウは食堂でネギ先輩にミウの話題を持ちかけた。


「あんなリアルな存在を作れるんですかね」

「ああ、あれな。どうやらシステムが実験的に行っているみたいぞ」


 ネギ先輩は顔も上げずにネギたっぷりのラーメンを啜った。


「どこかの芸能事務所ではなくて、システムが?」

「出産以外で人工的に魂を生み出すことは可能か。理屈としては俺達はすでにデータだけの存在なのに、魂を持っている。だが、データをコピーしても魂は作られない。このあたりを解決するための研究らしい」

「そうなんですか……」

「でも噂によると実験は成功しているんじゃないか……という説もあるんだよな」


 そこでネギ先輩は顔を上げた。

 その表情には会話の内容から想像も付かないほど真剣なものだった。


「その質問をしてきたという事は、ミウのことを知ってしまったということだよな」

「ええ」

「これはあくまでも噂だ。真実は知らん」

「はい」

「正式名称は電子アイドルプロジェクト『ミウ』」


 そこから先を口にするのを躊躇うようにネギ先輩は言葉を切った。

 そして水を一口含み、大きく息を吐いてからこう言った。


「開発期間中のコードネームは『ユキナ』だ」


 コウの時間が動き出した。

第2話はここまでです。

第3話は月曜から投稿予定ですが……書きためがここまでなので、少し遅れてしまうかもしれません。

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