第2話 孤独(4)
「おはよう、ソラ!」
翌朝、ソラはコウの声で起こされた。
「え、パパ……なんで?」
いつものなら朝食の準備をしてからソラがコウを起こしていた。
もう何年も、そうやって二人で暮らしていたのだ。
「パパもソラに甘えてばかりじゃ駄目だからな。これからはパパが先におきてソラを起こすよ。ほら、食事の準備も出来ているよ」
「じゃぁ、いつもの河原に……」
「ううん。リビングで食べよう。ここが二人の家だもんな」
昨日のことが気まずかった。
せめて、いつも通りに接して欲しいところだったソラだったが、妙にテンションの高いコウに思わず笑ってしまった。
「パパ、なんか変」
「そうか、いつものパパだぞ。ほら目がハート」
「変なエフェクト、止めて!」
ユキナのことが胸につかえているソラだったが、昨日、初めて見せた醜態もあって、取り繕うように明るく振る舞ってしまっていた。
多分、父親も気を遣ってくれているのだろう。
だから、できるだけいつも通りに――
自分のことで精一杯になっていたソラはコウの目の奥にある深い想いに気が付いていなかった。
***
「あ、ソラちゃん」
数日後、ソラがいつもの通りアサヒを振り切って帰宅をすると玄関の前でネギ先輩とセリが立っていた。
「こんにちは。どうしたんですか? 二人で。パパはまだお仕事ですが……」
「ソラちゃん、コウはいつも通り出かけている?」
「はい、いつも通りですけど」
ネギ先輩の質問にソラは首を傾げる。
「そうか、いつも通りか」
「どうしたんですか?」
「いや、コウがここ数日、仕事に来ていないんだ」
「え? 毎日行ってますよ」
ソラは益々混乱する。
あれからコウは毎朝、ソラを起こし、食事を食べてから一緒に家を出ていた。
帰りもいつもと同じ時間に帰ってきている。
ちょっとだけギクシャクしていたかもしれないが、今まで通りの日常だ。
「休むという連絡は毎日あるからいいんだけど、ちょっと気になってな」
(何だろう。サボり?)
「ソラちゃん、俺が聞いてみるから、気にしないで。家には帰っているんだったら大丈夫だと思うから。この世界、数年単位で休んだって何か問題になるという訳じゃないしね」
「はい……」
(もう、パパってば何しているの)
ユキナに会いたいという感情で塞ぎ込みつつも毎日学校には通っている自分自身と比較し、仕事もしないでフラフラしている父親に多少イラッとしているソラであった。
***
「ただいま」
「おかえりなさい、パパ」
コウが帰宅してきた。
いつも通り。
特に変わった様子も無い。
「お仕事、どうだった?」
「うん? ああ、いつも通りだよ」
(嘘だ)
とぼけるコウの様子にソラは余計腹が立った。
「夜ご飯はどうしようか」
「ああ、今日はソラが好きなチキンカレーにでもする?」
「うん」
それでも隣のネギおじさんが聞いてくれるというので、言葉を飲み込んだ。
(明日、後を付けてやる)
無駄な行動力は母親譲りであった。
***
「行ってきまーす」
コウと別れ学校へ向かうフリをしたソラは、すぐさまスケートボードを反転させ父親の後を付け始めた。
「ルミ、ごめん。学校休む。適当に誤魔化しておいて」
「無理でしょ」
ルミにメッセージを入れたが、即答で断られた。
システムで完全に制御されている以上、保護者以外からの連絡を学校が受け付けるとは思えない。サボりはサボりとして、始業後すぐに保護者へ連絡が届く。
(少しだけでも……え、速い!)
家からしばらくは歩いていたコウだったが、人通りの少ない場所に出ると通勤用のボードを取り出し、体重を後ろにかけ上昇すると、一気に最高速度まで加速して飛び去ってしまった。
ソラも慌てて後を追うように加速するが、そもそも未成年者と色々な権限を持つアドミニストレーターでは設定されている最高速度が違いすぎる。
唯一の救いは方向が判明していること。
あとは――
「学校から連絡が入れば、私に連絡してくるから、その時に場所がわかるはず」
お説教覚悟の作戦を決行することにした。
***
『コウ・シライ様。本日、ソラさんが登校されていませんが、欠席届が届いておりません』
そんなメッセージが飛び込んで来た。
「ソラが登校していない? そんな馬鹿な」
慌ててコウはコンソールを操作しソラの座標情報を確認しつつソラにメッセージを送る。
ソラの座標は自宅付近にあった。そして――
「パパ、みつけた!」
ソラにメッセージを送った5分後、ソラがコウの前に現れた。
「ソラ、学校行かないでなにしているんだい?」
ソラが意味もなく学校を休む性格ではないということをコウは信じていた。
ゆえに何か理由があるのだろうと優しく問いただす。
「パパ、なんでお仕事も行かないでこんな所にいるの?」
一方、ソラはコウが仕事を休んでいる事を知っていた。
どうせ学校のことはお説教になるだろうから、先に聞きたいことを聞いてしまおうと詰問口調になる。
さらに、コウが並んでいた場所に掲げられた看板がソラの感情を逆なでた。
『第29回電子アイドルフェス ~朝から踊り狂え 電子のオタク達よ~』
「パパ、隠れオタだったの?」
どうやらソラは盛大に誤解したようだった。




