SS2 最後の移行者
2話同時投稿になります。
「行ってらっしゃい!」
和やかな表情を浮かべ、トツカは最後の一人を送り出した。
人類が電子世界へ魂を移行できる技術が発明してから17年。様々な事情が絡み合い人類は結局自らの滅びを選択した。
約百億近い全人類の移行。
その途方も無いプロジェクトも終わろうとしている。
最終移行ユーザーを担当したトツカは穏やかな気持ちで移行端末をみつめていた。
「東は大変だったけど、結局最後は静かなものだ」
先に全人口の移行を完了するはずだった東日本は大規模なテロに巻き込まれ移行センターごと倒壊し多数の死者を出した。それでも職員以外の死者や行方不明者がほとんど出なかった事は僥倖だ。トツカは西日本の最終移行担当者として最後までオペレーションセンターに残っていた。東日本の事件と、その後日本各地で起こったテロ活動がなければ日本は早々に全人口移行を完了するはずだった。だが、事件の影響で世界で一番遅い移行となってしまったのだ。それでも、先ほどの移行でトツカを除く残っていた職員を全員送り出した。一般市民の移行は3ヶ月前に終わっている。
トツカ自身、一人残る必要性は無く移行室の中からも口頭指示で移行操作は可能だったので、一緒に行ってもよかったのだが……
「この広い世界に俺がただ一人! この瞬間を味わいたかったんだよなぁ」
そう叫び、周囲を見回す。
「……なに! この開放感! 誰もいない! 思っていた以上に脳内にドーパミンが出まくっていて、すっげー楽しんだけど」
そう言いながら屋上へつながる階段を駆け上がる。
「うわぁ……」
幸いにも快晴だった空は、少し陽が落ち始め赤く化粧を始めている。
「何だろう……地球ってこんなに綺麗なんだな」
オペレーションセンターのわずかな電源以外、全ての設備は停止している。走っている車も飛んでいる飛行機も何一つ無い。人工物が作り出す音の無い世界。
「地球がこんなに優しく見えるなんてな……なぁ、人類は本当はこの地球上にいらない存在だったのかな? 俺達がいなくなったから、こんなに世界は美しいのかな?」
トツカは誰もいない世界でそう呟いた。
「でも、俺達は愛していたぞ。この地球を。もう誰もいなくなっちまったけど……それでも母なる地球を本当に愛していたんだぞ」
その目には大粒の涙が浮かんでいた。
「バイバイ! バイバイ! さよなら! ありがとう! じゃあな!」
思いつく限りの別れの言葉を叫び続け、トツカはすっきりしたのかオペレーションセンターの中に戻り始めた。
壁を触り、手すりをなでる。
その感触を楽しみながらオペレーションセンターの7階にある移行室に入った。
「最後だ。お前もよく頑張ったな」
移行処理を担当するAIにそう話しかけた。
「こちらこそ、ありがとうございます。オペレーター トツカ」
「じゃぁ、行くわ」
「行ってらっしゃい」
「Listen, oral terminal, uid, satoshi.totsuka……
……やがて静かに移行処理は終わり、その使命を果たしたオペレーションセンターも事前に設定された手順の通り自らの全電源をカットする。
世界は本当の静寂に包まれ、人類は自ら滅び去った。
本日、12:00にもう1本、投稿します。




