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第4話 電子の世界(1)

 第一電子移行室に詰め込んだ約七十名をエマージェンシーモードで送り出した。回線上の問題で、ここから十五分は次の移行は出来ない。


 このフロアが担当する移行対象者は全て移行させる事が出来た。後はオペレーションルームにいる職員と――


(ユキナ、ソラ!)


 コウが唇を噛みしめる。

 そこへユキナからのメッセージが入った。


『貨物用で十二階に着きました。これから待機室に向かいます』


「敵襲! エレベーターホールに侵入されました!」


 その時、警戒していた警備部の人間が、オペレーションルームから見える十二階のエレベーターホールに侵入してきた人影を見て叫んだ。


『ダメてきがいfる』


 コウは慌ててユキナに戻るようにメッセージを送信した。


 その瞬間、大きな爆発音はオペレーションルームまで聞こえてきた。


 十二階以下のエレベーターホールが、同時に赤い閃光に包まれ、業務棟が大きく揺れる。


 それでもオペレーションルームから見える待機室、電子移行室には特に被害は無い。対戦車兵器にも耐えられるといううたい文句は本物だった。だが、エレベーターホールと貨物用エレベーターがある階段室は、外周部の廊下を通じて、つながっている。


 コウは立ち上がり、オペレーションルームから十二階の電子移行室へつながっている階段へ向かおうとするが――


 その時、オペレーションルームの扉が開き、銃を構えた3人の男が入ってきた。


「なんだ貴様! どうやって入った!」

「なんだと言われても、テロリストですが?」


 そうふざけたように話すのは浅黒い顔に眼鏡をかけた、筋肉質の男だった。その後ろには事務局長だったと思われる血だらけの女性が崩れるように転がった。まだ口から血が溢れているため、かろうじて生きているようだ。


「どうやって入ったと言われれば、このおばちゃんの協力で」


 そう言って、先頭で入ってきた男が事務局長の身体を足で押す。エレベーターホールにあった、対戦車ミサイルでも壊せないゲート。これを超えるにはセキュリティカード、静脈認証、生体反応付きの網膜認証。通常は警備部が止めるという前提があり、このような事態は想定されていなかったが、まさにセキュリティの穴を突かれた結果だった。


 その先頭でニヤニヤしている男の顔つきに、コウは薄らと施設時代の面影を感じ、


「お、お前……リュウジか?」

「ん?」


 リュウジはそこで、警備部が構える銃の影になっていたコウに気が付く。


「あれ? コウ兄ぃ?」

「そうだ……コウだ……お前……何やってるんだよ!」

「何って、コウ兄ぃこそ、タロウさんの仇のオペレーションセンターで何やってるの?」


「だから、タロウさんって誰だよ!」


 コウが叫ぶ。

 そもそも、今は一刻も早くユキナとソラの所へ駆けつけなければならない。こんな事をしている暇なんか無いのだ。会ったことも無い施設の先輩の話など聞きたくも無い。


「あ、ああ、動かないでね」


 コウとのやりとりに隙をみつけたのか、警備部の職員が動こうとしたのを、リュウジが手を上げて止める。


「ほら、これ……ねっ、落としたらドカンですよ。うん、やめた方がいい」


 そう言ってリュウジが上げた左手には何かを握り込んでいる。

 その言葉に職員の動きが止まった。


「リュウジ、おまえ……そんな事をしてどうするんだよ。移行はもうほとんど終わっちゃってるんだぞ」

「ああ、そんなのは知っているよ。僕の目的はただ一つ、いるんでしょ。世界の子が。ほら、出して。今日の便で送るって聞いていたから、わざわざ今日にしたんだしさ」


 その言葉にコウの動きが止まる。


「ソラをどうする気だ……」

「へーソラ君? ソラちゃん? 別にどうもしないよ。 その子を人質にして、兄さんを返してもらうだけ。コウ兄ぃは知らないかもしれないけど、俺達の大切な兄さんなんだ」

「ソラは僕の大切な娘だ……てめぇなんかにやるか!」


 コウの言葉にリュウジがキョトンとする。


「え、世界の子ってコウ兄ぃの子供? 家族? ファミリー?」


 その言葉にコウは頷く。


「あちゃー。しまった。どうしよう。どうしよう」


 リュウジの様子が変わる。


「じゃぁ、いいや。コウ兄ぃ、タロウさんの居場所は知らないんだよね?」

「ああ」

「そこの偉そうな人、タロウさんの事知らない? この間、ここが襲われた時にリーダーをやっていたはずなんだけど……」

「リーダー?」


 その言葉にコウが反応する。


「タロウさんかどうかは知らないけど、リーダーなら、そこの待機室で緊急退避施設に落ちたはずだけど……そういえば、あの後、どうなったんだろう?」


 色々あって特に気にしていなかったが、タロウが死んだのかどうかも報道では出ていなかった事にコウも気が付いた。その疑問に、保安局長が答える。


「敵組織のリーダーなら、緊急冬眠装置に入った事で、そのまま冬眠に入ってしまって、あと三年は解凍されない。装置の爆発の影響で現在、一部の冷凍装置が外部制御を受け付けなくなった状態なのだ」



 コウの疑問に保安局長が答える。


「へっ? 兄さんは生きているの?」

「ああ、ここの地下施設にな」


「……」


 リュウジは、イタズラが見つかったような顔をしてコウを見る。


「コウ兄ぃ、兄さん生きているって」

「だから、タロウって人の事は知らないんだって」


(こんな奴と話しているより、一刻も早くユキナの所へ行かないと……)


「そうか……生きているのか……うん、じゃぁ、撤収—!」


 リュウジが突然、一緒にきた二人に振り返り、こう宣言した。


「あ、コウ兄ぃ、なんかどっかに行きたそうだったけど、いいよ行って」

「そうか!」


 その言葉にコウは走り出した。

 特に他の二人は反応しなかったので、そのままオペレーションルームに繋がる階段に飛び込む。

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