第3話 終わり(6)
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12:32 業務棟四階手前の階段室。
最終防衛線として、布陣された敵を突破できず、リュウジ達『ハピネス』の集団はエレベーターホールにつながる階段室の中で、対策を練っていた。
突入したメンバーは、すでに半数近くが脱落している。火力では勝っているはずのテロリストだったが、日頃の訓練で鍛え上げてきた執行部の前では、圧倒は出来なかった。
「そろそろ潮時だな。ターゲットを優先するか……」
リュウジはそう呟き、どこかにメッセージを入れた。
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12:33 業務棟地下 電源室。
電源室に立て籠もっていた二人は、ドアの外の説得にも応じず、そのまま籠城を続けていた。局長は電源室の扉に体重を掛けるように座り、外から警備部の人間が入ってきた際、少しでも時間を稼げるように踏ん張っている。
組織の男に何やら指示があったようで、携帯端末を取り出した。
「何か連絡が来たの?」
「はい、どうやら時間切れみたいです」
「時間切れ? どういう意味かしら?」
局長が怪訝そうな顔で、男の顔を見る。
「電源供給を再開します」
「え? それじゃ、移行が出来ちゃうじゃない。駄目よ!」
宿泊棟には愛しい男が妻と子供と午後の出発に備え待機しているはずだ。
局長は踏ん張っていた事で凝り固まってしまった身体にフラフラとしながら、男の動きを止めようと立ち上がった。その局長の顔を男が容赦なく蹴り飛ばす。
「ぎゃっ」
「時間が無いので、邪魔をしないでください。リュウジさん、あれで失敗には煩いんですから」
そういって、懐から小型拳銃を取り出すと、何のためらいもなく引き金を引いた。
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12:38オペレーションルーム。
突如、電源が復旧した。
「おお、これで大丈夫か?」
そんな声があちこちから上がっていたが、コウはふと気が付き、叫ぶ。
「エレベーターが使えます! テロリストが上がってきます!」
状況はついに最終局面を迎えた。
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各フロアには、エレベーターを使って二、三名ずつのテロリストが特攻をかけてきた。
停電している事を前提に、貨物用エレベーターと階段で構えていた執行部、警備部は対応が遅れ、待機室の手前まで占拠されてしまう。現在、電子移行室の防衛線は待機室手前の扉だけである。
「あの扉は、対戦車兵器でも簡単には壊せん!」
保安局長がオペレーションルームの職員達を落ち着かせるために、叫んだ。
「現段階をもって、全てのオペレーションをエマージェンシーモードに切り替えろ! 現在、待機室にいる対象者は全員、次の便で移行だ! 移行室担当のオペレーターも、一緒に入れ。口頭操作で、一緒に向こうへ飛べ!」
「同時移行の最適人数を大幅に超過します。それではアップロードに時間を取られ、非効率です」
「スキャンが終わってるんだ。データさえネットワーク上に上がれば、サーバーへのアップロードにかかるラグなどどうとでもなる!」
その指示に全移行オペレーターがマイクに向かって叫びだした。
「死にたくなければ移行室に全員移動! 詰めれば百人はいける! つべこべ言うな! あっちにいけば快適な生活が待っているんだ。こんな所で死ぬな!」
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クギの所にも状況が伝わってきた。
「ここにいる三十八人は、現在、テロリストの侵入が無い一番上の移行フロアまで、貨物用エレベーターを使って移動するぞ」
階段室の混雑の解消が遅れたため、階段の内側へ入れなかった三十八名は、階段で上る事を諦め、外側から階段室を封鎖した。
残されたのは武装した執行部の精鋭と案内のために回りから声を掛けていた一般職員と、そして、最後尾に並んでいたユキナとソラ。
「ユキナさん、申し訳ありません。もう一回、貨物用エレベーターまで走る事になります」
状況が更に悪化している事を理解しているユキナは青ざめた顔で頷く。
その表情を見て、クギは安心させるように腰を屈め笑い、先ほど目を覚ましたソラの小さな手に触れる。
「ユキナさん、大丈夫です。上でご主人が待っていますよ」
「はい」
その表情に、力強さが残っている事を確認したクギは腰を伸ばし。
「いくぞ! 執行部、警備部、意地を見せろ!」
「おう!」
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「一番上は取っておけよ」
リュウジはそう指示を出していた。
「リュウジさん、上に何かあるんですか?」
「一番偉いオペレーションルームがあるじゃないか……あそこにいけば、兄さんの消息が解るかもしれない……」
リュウジにとっては、オペレーションセンターは復讐の対象であっても、思想的な敵では無い。最優先すべきはタロウの消息だ。移行されたのか、殺されたのか、それともどこかに監禁されているのか――
「兄さん……待っててくれ、今いくぞ」
そう言って、リュウジはエレベーターに乗り込んだ。
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貨物用のエレベーターは、エレベーターホールとはちょうど反対側の階段室にある。
ようやく移行フロアの最上階まで、ユキナは辿り着いた。
そこでコウにメッセージを入れる。
『貨物用で十二階に着きました。これから待機室に向かいます』
そして階段室から出る列に並ぶ。
『ダメてきがいfる』
その時、コウから慌てて打ち込んだのだろう、誤変換だらけの返信があった。
「駄目! 敵がいます!」
そのメッセージを読み、ユキナが叫んだ瞬間、階段室の外が炎に包まれ、その炎は黒煙とともに、貨物用エレーベーターがある階段室へ入ってきた。




