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第3話 終わり(3)

 10:30。オペレーションセンターへ向かう地下鉄の中。


「全員準備はいい?」


 食事をしにいこうとハピネスのメンバーを引き連れて地下鉄に乗り込んだリュウジは、突然こんな事をいいだした。


 その中の一人の男が首を傾げ、


「リュウジさん、準備って?」

「あ、言ってなかったっけ?」

「何をですか?」

「一斉蜂起、今日だって」


 その言葉に驚いた男が周囲を見回すと、乗客だと思った人々が、それぞれの荷物から武器を取り出し始めた。車両の隅では一般人とみられる子供を含めた男女が固まって震えている。


 よく見ると、その身体には爆弾のようなものを取り付けられていた。


 リュウジは、情報が漏れているのを意識してクリアポイントを一斉蜂起の日として定めていた。だが、その裏で、それが二週間くらい前倒しになっても、問題の無いよう、各組織の予定をコントロールしていたのだ。


 クリアポイント二週間前。

 一般の人は、ほとんど移行を完了している。これは地下鉄の警備を担当する警備会社も含めての話である。だからこそ、リュウジは残された数少ない警備担当全てに対し、脅迫をするというこれまででは考えられない手段が取れた。


 対象となる警備員は、わずか四名。その四名の家族を、信頼できるメンバーに指示し、人質にした。警察も、警備会社の家族がテロリストの対象となるとは思いもよらなかったため、この時点では全く気が付かれていない。


 テロリスト達は始発駅から堂々と、人質に銃を突きつけながら地下鉄に乗り込んだのだ。銃を突きつけられた姿を見て、警備モニタ前で監視をしていた警備員は警察に通報する事すらできず、ただ呆然とモニタを見ているだけになってしまった。


 この結果、テロリストにとってオペレーションセンターまで咎められる事なく進める地下鉄は安全な移動手段となり、次々と沿線から武器を忍ばせ、乗り込んできたのである。その数、総勢42名。


 彼らは大量の武器とともにたどり着く。オペレーションセンターがある第十六区画へ。


***


「さて、いきますか」

「リュウジさん……待って……」


 一人だけ状況を把握していない男は自分の言葉が致命的だった事に気が付いた。


 いつでもいける準備をしておけ――


 その言葉に従って他のメンバーは何の疑問も抱かずに武器を手にした。そして、今や自分だけ武器を手にしていない。


「……」


 焦る男の顔をみてリュウジがニヤニヤしている。


(気づかれている)


 そう思った瞬間、男はすでに駅に到着していた地下鉄から飛び出した。


「おお、逃げたぞ」


 リュウジの呑気な声が後ろから聞こえる。


 逃げる時点で男はすでに自分の命を諦めていた。そのために、躊躇いなくポケットに手を入れ、そこに忍ばせてある通信装置のスイッチを入れて叫ぶ。


「ケース3!」


 だが最後まで言い切ることは出来ず、狙いを付けたリュウジに後頭部から撃ち抜かれ、前のめりに倒れて動かなくなった。


 リュウジは特に駆け足になる事もなく、その死体に近づき、


「ああ、俺は結構信用していたんだけどな。こいつだったか……」


 ちょっと残念そうに呟いた。


「すみません、うちの組織の人間です」


 そこに、リュウジよりは二十歳は年上に見える男が頭を下げる。


「いいよ、いいよ。これも想定内。想定内。なんの問題もありません」


 と、手を振って気にするなと説明する。


「誰かが裏切っていたのは解っていたので、その誰かが解って良かったじゃないですか。これで心置きなく、暴れられるっていうものですよ」

「とはいえ、敵に侵入が知られてしまいましたが……」

「それも想定内。それに、そろそろですよ……」

「えっ?」


***


 10:30。業務棟地下。


 リュウジ達が駅に着く、ほんの少し前。

 業務棟の地下にある電源室の前で事務局局長が、見慣れぬ一人の男と一緒に警備部の職員と揉めていた。

 

「局長、ですから、ここから先は事前に申請いただかないと……」

「あら、おかしいわね。今日、ここのチェックをするために西日本から来るという申請を回してあるはずよ。ほら」


 そう言って、クリアファイルに入っている書類を見せる。


「た、確かに警備部の部長印も入っていますが……」

「じゃあ、いいかしら」


 だが、警備職員は、まだ折れない。

「あ、困ります。一応、連絡がなかったという事で、確認だけさせてもらわないと……」


 強引に入ろうとする局長を職員は何とか押しとどめようとしていた。


「困りましたね。これから世界の子のセレモニーがあるから、急がないといけないんだけど。仕方ないわ。彼と、警備部長に一緒に確認してきてください。私だけ、先に入っておきます」

「え、それでも……」

「何かあっても責任は私が取りますし、残り二週間ですからね」

「はぁ……」


 職員は憮然としながらも、電源室の鍵を開け、


「それじゃぁ、局長だけなら問題ありませんから……お願いします。私はすぐに部長に確認しますので」

「ええ、お願い」


 そう言って局長だけ電源室に入っていく。


「気をつけて下さい。設備には絶対触らないでください。高圧で流れていますので、場合によっては近づくだけで、引き寄せられますから」

「そこまでは入らないわ、外のパネルをチェックさせてもらうだけだから」

「お願いしますよ!」


 そう言って警備職員は、警備部長に確認するために局長が連れてきた男と、同じ階にある警備員用の小さな小部屋に戻っていった。しばらくすると、「グッ」という低い呻き声が聞こえ、男だけが戻ってきた。


「お待たせしました」

「殺してはいないわよね」

「ええ、眠って貰っただけです」


 局長もその言葉を完全に信じている訳ではないが、警備部の人間の生き死になど、それほど興味が無いために、そのまま信じる事にした。


「わかりました。あそこが非常用電源のコントロール用のパネルです。変電設備内には入れませんが、ここから切り替える事でテストモードにしておく事が出来たはずよ」


 そう言って、男に非常用電源設備をコントロールするパネルの前へ案内する。


「これですね……」

「そうよ」


 施錠されている部分を男が持ってきたバーナーを使い、一気に焼き切る。

 だが、その様子は警備室のモニタに捉えられ、ほんの数十秒程で警備部の別の職員が複数人、地下に駆け込んできた。


「誰かきたわ!」

「そこを閉めて下さい」

「っ!」


 慌てて扉をしめようとしたが、その瞬間、先頭を走っていた警備員と局長の目が合う。


「局長!?」


(見られた!)


 出来れば、自分の犯行だと露見しない事が一番だった。

 地球上に残る以上、犯罪者として追われるは避けたかったのだ。でも、最後の一線を踏み越えた以上、最悪の覚悟はしていた。彼女にとって最重要ポイントはそこでは無い。


「いそいで、みつかったわ」


 そういいながら、扉を自分の背中で固定する。

 電源室は中に立てこもられるのを防ぐために、内部からの施錠は出来ないのだ。オートロックのため、外部からもすぐには開けられない。合鍵を取りに行くまでの、ほんの少しの時間、それだけを稼げれば、目的は達成される。


「急いで!」

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