第3話 終わり(2)
予約ミスって本日2話投稿しております。
こちらは2話目になりますのでご注意ください。
「よし、準備OK」
「うん」
いよいよ、ユキナとソラが移行する日が来た。
「あとはもう無いよね?」
「大丈夫だって。僕はあと2週間、ここに住むんだし。その後は誰もこの街にはいなくなるんだから、火事にさえ気をつけておけば大丈夫。二十年くらいで、全てが朽ち果て、ここも森に変わるよ」
「それを考えると怖いね」
「パパ? おうちバイバイ?」
「うん、バイバイだね」
「はーい、おうちバイバイ」
ソラが右手をグーパーして、住んでいた部屋に別れをつげる。ソラも1歳を過ぎ、言葉が少しずつ増えてきた。簡単な二言くらいなら、つなげて喋る事が出来るようになっていた。移行するので戻らないという事を理解している訳では無いが――
「じゃあ、行こうか」
「うん」
3人で一緒に玄関を出て、鍵を締める。
移行は予定では昼前なのだが、少しでも一緒にいる時間を増やすため、出勤するコウと一緒にオペレーションセンターに行き、ユキナとソラは一般開放エリアで時間を少し潰してから移行手続きに入る事にしていた。
「そんな顔をしないで、私もソラも大丈夫だから」
「そうだね。そこは心配していないよ。なにせ、成功率100%の敏腕移行オペレーター、コウ・シライが担当するんだし」
ちなみに、移行オペレーターが介在するようになってからの電子移行成功率は99.8%に達しているため、失敗を経験している移行オペレーターの方が少ない。数少ない失敗例は、テロ組織の乱入や、パニックに陥った移行者達の破壊活動の結果でしかなく、移行処理そのものについては、100%という成功率であった。
当然、様々な要因で完全肉体走査を失敗する事があるのだが、この作業の失敗は電子移行をしないというだけで、特に肉体的な影響は無い。成功するまで何度もリトライをすればいいだけであり、PBSが成功してしまえば、100%の実績である。
統計的な数字でいえば、これ程安全な技術は他には無いのだ。
「でも、心配そうな顔をしている」
フザけたコウの顔を覗き込むようにユキナが見る。
「心配じゃなくて寂しいだけ。ほら、二週間もお預けじゃ、こんな顔をするって」
「馬鹿!」
不安を隠すためにフザけただけだったが、コウの言葉の意味を悟って、ユキナは顔を赤らめ、それでも左右を見回し、誰も見ていないことを確認すると素早くコウにキスをする。
「はい。これで二週間持たせて」
「お、おう」
「はい、ソラちゃんも」
「ぶぅ」
ソラもなぜか文句を言いながらコウの頬にキスをした。
***
「クギさん、二人を時間までここで遊ばせておくので、よろしくお願いします」
「ああ、いいよ。ソラちゃん、覚えてるかな! クギのおじさんですよ」
「おーちゃん、んちわ」
一般開放エリアに着き、クギの所に顔を出したコウは、ユキナとソラを一般開放エリアで遊ばせておくと、伝えた。すると二人に会いたいとクギが警備室から出てきた。別々に移行となる事が決まってから、不安を解消するために、何度か一般開放エリアには遊びにきていたのだ。ソラもすっかり、クギには懐いており、
「子供は純真だから、俺の顔がどうとか言わないんだよ」
そう、破顔して喜んでいた。
「あそこで時間まで遊んでいるわ」
ユキナが、以前、コウが電子世界の様子を見せた球形のモニタがあるデモンストレーションホールを指差す。ソラがお気に入りの場所なのだ。すっかりユキナも操作を覚えてしまっていた。勿論、音声は出せないが――
「あ、そうだ。これ」
「何?」
コウは銀色のカードを2枚、ユキナに渡す。
「移行チケット」
「チケット?」
「そう、移行当日に移行者に渡す事になっているんだ。ユキナとソラには直接渡しなさいって事で、昨夜、預かっていたんだよ」
ユキナがカードを見ると、表面には「To Colony」の文字と、今日の日付、ユキナの名前と生年月日が書かれていた。
「でね、これを使って……あ、クギさん、ちょっとだけソラをお願いします」
「おう、いいぞ」
ソラと遊んでいたクギを残し、ユキナを移行待機者向けのブースへ連れて行く。ここは一般開放エリアの入口近くにあり、移行待機者がリラックスできるよう、音楽を聞いたり映画をみたり、軽い飲食も出来るスペースになっている。だが、利用者の多くは、そこにある電子世界と繋がっている端末を利用している。
「ほら、そこにカードを入れて。ソラの分は僕がやるから……」
「ここ?」
「そう」
ユキナがコウに言われた通りにカードを端末の小さな隙間に入れる。すると、端末と一体となっているモニタに電源が入り、「Welcome to the Colony」の文字が浮かび上がってくる。
「移行通知設定ってあるでしょ」
「あ、うん、これね」
「そこを開いて……そう、それで通知対象希望者っていうのを選択して。うん。そこで、僕のIDを……この番号ね。これを入れて……OKっと」
「これでどうなるの?」
ユキナの疑問に大きな笑みを浮かべ、
「ほら、ここを見て」
そういって、今度は違うメニューを指示する。
「あ、これは……セリにネギ先輩。オノさんとミウラさんの名前もある」
「一応、中身を確認して、変な人がいなければ全部承認しちゃって」
「何なの?」
「このリストにある人達には、ユキナが向こうへ着いたタイミングで連絡が行くようになるんだ」
「あ、そんな説明もあったわね。あまり気にしてはいなかったけど……」
「先に行く人が申請して、後から行く人が承認する事で、向こうに行っても、簡単に連絡が付くようになる。だから……これでOKっと」
コウはユキナに説明をしながら、ソラのカードを使って、もう一台の端末で操作をしていた。
「ソラにも通知が行くのね」
「うん、二週間後だから、まだソラには解らないかもしれないけど……」
「ぱぱぁ」
ちょうどその時、クギと遊ぶのに飽きたのか、ソラがヨタヨタと歩いてきた。コウはソラを抱き上げ、
「ソラ、パパはこれからお仕事だから、いい子にしておいてね。新しいおうちについて、おめめの所がピッとなったら、パパが着いた合図だからね」
「あい」
「いい子だ」
ソラをぎゅっと抱きしめる。
「それじゃ、時間だから、後で」
「はい。行ってらっしゃい」
「いてらさい」
コウはユキナにソラを渡し、周囲を見回すと、クギが察したのかさりがなく後ろを向く。それに対し心の中で感謝をしつつ、素早くユキナにキスをした。
「じゃ、あとで」
「うん、あとでね」
コウはもう一度だけユキナとソラを抱きしめると、一般開放エリアの外へ手を振りながら去っていった。
「さ、ソラちゃん。テレビをみましょうか」
「あい」
ユキナは警備室に戻ろうとしているクギに頭を軽く下げ、ユキナは天井にぶら下がっている球形モニタを、床に置いてあるクッションに寝そべって、ソラと眺め始めた。




