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第3話 終わり(1)

 シライ・リュウジ。

 ハピネスチルドレン制度により犠牲になった棄児の一人。シライ養護養育院に育てられた男。コウの後輩。


 彼はそれでも、コウのように生まれてすぐに棄てられていた訳では無い。貧乏だったが優しい家族に囲まれていた記憶がかすかに残っている。だが、リュウジが二歳の時に両親が相次いで他界。短期間に何度も親戚をたらい回しにされたあげく、最後の養父母が養子手続きをし、ハピネスチルドレンの親として支給される手当を得る権利を持った上でリュウジを棄て逃亡したらしい。


 名字は何度も変わっており、リュウジも幼すぎて自分の名字を覚えていなかった。このため、行政も棄てた養父母を辿ることも出来ず、結果的にシライ擁護院が養育する事になった。


 全く親の記憶を持っていない多くのハピネスチルドレンの中では、たらい回しにあった傷を持つ少し異質な子供だった。施設の仲間には溶け込めず、現実から逃避するかのように、ひたすら本を読み勉強をしていた。


 高校生くらいまで、彼は色白でガリガリのまま育っていた。


 だが、それが施設のOBであるタロウと出会った事で変質する。


「俺はな、リュウジ」


 OBとして顔を出したタロウは、勉強ばかりして他の子と溶け込まないリュウジの事を心配していた寮母に相談され、リュウジの元へやってきたのだ。この頃のタロウは、大学を出て大手企業に就職していた、謂わば施設の出世頭だったため、寮母の信頼も厚かった。

 

 お世話になっていた寮母の頼みという事もあり、こう言った。


「俺達ハピネスチルドレンほど、強い繋がりは無いと思うんだ」

「そう……なんでしょうか」


 リュウジはタロウなどに興味はなかったのだが、さすがに腕っ節の強そうな人間に反抗する程、愚かではない。


「そうだぞ、リュウジ。俺達は親といったよく解らないものに左右されず、俺達の意思、俺達の気持ちで家族になる事が出来る」

「意思? 気持ち? 家族になる?」

「そうだ。ここにいる仲間たちは、戸籍も関係無い、たまたま、ここにいるだけの仲間だ。だが、俺が、家族だと思えば、それは家族になる。よそのやつらは、そんな事は出来ない。産み落とされた場所に、たまたまいただけの男と女を親として家族ごっこをしなければならないんだ」


 リュウジには家族の記憶があった。だから、タロウの言っている事は少しおかしいと思ったのだが、


「じゃぁ、本当の親とかは家族じゃないんですか?」

「ああ、違う。本当の家族なんてものは必要が無いんだ。お前が、親を家族と思うから、それは家族なんだ。ここにいる仲間たちや寮母を家族と思えば、それはお前にとっての家族なんだ。少なくとも俺はそう思っている」


 そう思うから家族。


 その考えは、家族を失った後、どこにも居場所を失ったリュウジにとっては新鮮なものだった。


「タロウさん……じゃあ、僕は、僕が家族と思いたい人を、『家族と思って』いいんですね」

「そうだ! リュウジ。お前が家族と思う。その意思こそが大事なのだ。血の繋がり? 産んでくれた? 育ててくれた? そんなものは家族の一面でしか無い。大切なのは、おまえが家族と思うかだ!」


「これから私達が新しい家族よ」


 そう言われ引き取られた親戚の家では、徹底的に無視をされた。

 その次の家でも同じことを言われ、その後、邪魔者扱いをされた。

 次の家も、次の家も……


 幼かったけど、その記憶だけは鮮明に焼き付いている。


(ああ、そういえば僕は一度もあいつらを家族なんて思わなかったな)


「だったら、僕はタロウさんの事を家族と思ってもいいんですか?」


 それは何の気無しの一言だった。

 リュウジはこの日、初めてタロウと会ったのだ。だからこそ冗談としてとらえられ、笑われると思った。


「おう、思え、思え! 勝手に思え。いいぞ。俺の年齢で父親代わりはさすがに嫌だが、兄貴と思え。お前の自由だ。嫌になったら止めればいい」


 そう豪快に笑い飛ばした。


「タロウ……兄さん」

「おう、照れるな」


 タロウが照れたように鼻をボリボリと書く。


 こうして、リュウジはタロウを兄と呼ぶようになり、タロウに憧れ、いつかはタロウのようになりたいと思うようになった。


 タロウとリュウジが邂逅したこの日。寮母はもう一つの相談もしていた。


「あと、コウって子がいるんだけど……この子も何だか変わっているのよ。普通に他の子と遊んだりするんだけど……何だか、まわりの子達に興味を持っていないというか、なんだか達観していて……」


 寮母の言葉に少し気になって、リュウジと話をした後に施設内を回ったのだが、幸か不幸か、二人が出会う事はなく、タロウも仕事の時間があったので、この日は施設を後にしていた。


 この時、二人が出会っていれば……世界は変わっていたかもしれない。


***


 タロウと出会ったリュウジは、その後、施設内でグングンと頭角を現してきた。同期や後輩をまとめあげ、彼らを「ファミリー」と呼び、学校などでハピネスチルドレンと虐められる事があった場合、ファミリー全体で対処するようになっていた。その時期からガリガリだった身体を鍛えるようになり、急速に筋肉を付ける事になった。


 ただ、この頃にはコウは高校を卒業しており同時に施設を出ていたため、コウの中でのリュウジに対する認識はガリガリのガリ勉というままであった。


 リュウジ達は、それでも愚連隊のような直接的な非行行動に出る事はなく、かかる火の粉は振り払う程度の活動を中心としていた。あくまでも、家族を増やしたかっただけだったのだ。だが、そんな状態であっても、校内では一大集団として恐れられるようになり、ファミリーに参加する施設の子は増え、結局、子供達の面倒を見るためにも、リュウジは高校を卒業後も施設に残る事にした。


 そんな頃、タロウが海外で戦闘訓練を受けて帰国した。


 出世頭と思われていたタロウはいつの間にか仕事をやめ、どういう経緯があったのか語る事はなかったが、AM2C系過激派組織のリーダーになっていたのだ。海外出張に行くという言葉を信じていたリュウジは、タロウの変わりように驚きつつも、兄と仰ぐタロウの言葉は絶対視していたので、タロウと一緒に活動する事になんの戸惑いもなかった。


 だがそんなある日、突然、タロウと連絡が取れなくなったかと思うと、世間を賑わす事件が発生した。タロウは、LPO事件のリーダーとして、オペレーションセンターへの破壊工作を行い、その最中に行方不明になったのだ。


「消された……兄さんが……僕の家族が……」


 この日を境にリュウジは復讐に狂う事になる。

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