第4話 ハッピーエンド(6)
「コウ!」
「シライさん!」
会議室を出て、オペレーションルームへ向かったコウを二人が迎えてくれた。
「よかった、無事で……」
ユキナが涙目になっている。
(無事でって……ただ、会議室に行って話をしてきただけなんだけど……)
と、先輩を見ると、こちらに顔を向けようとしない。どうやら、余計な事を吹き込んでいたようだ。
「ユキナちゃん、大丈夫だよ。ちょっと処分がでてしまったけど、大した事は……あっ」
ユキナの目には処分という言葉だけで、涙が浮かんでいた。
「……やっぱり重い処分なの?」
「あ、違う違う……5年間の移行停止になっちゃったので、移行するのがかなり遅くなる……なぁって思って」
(ユキナちゃんと、一緒に移行は難しいかな)
「どういう事?」
「ほぼ移行の最終便になることが確定したって事……かな」
「それだけ?」
「うん、それだけ」
「なんだ……」
ユキナもほっとしたようだ。先輩の事を睨みつけている。
「だから、ちょっとの間、離れちゃうかもしれないけど……」
だが、その後に続いたコウの言葉にユキナが激しく反応をした。
「なんでですか!?」
「え、ああ、最終便の方に残るのは限られた人と、その家族だけになるから……」
「私も残りますよ」
「え、ユキナちゃん? 移行はしないの?」
「そうじゃなくて、シライさんと一緒にいますよって事。だってほら……」
そう言って、薬指にはめた指輪をみせる。
「おい、コウ! お前、もうプロポーズしたのか?」
「え、え、ええ?? した?」
思わず、ユキナを見つめてしまう。
「言葉にしないと伝わらないんですよね」
「えっ?」
「私と一緒に移行してください。一人じゃ怖いんで……」
そこまで聞いていたネギ先輩が、コウの事を軽く小突く。
(お前からちゃんと言え……あとで後悔するぞ)
そう耳元で囁き、ネギ先輩はそこから離れる。
(え、ええ……どういうって、そう言う事? 今? ここで?)
そんな混乱に襲われつつも、ネギ先輩が力強く頷くのをみて、コウも決意を固める。
「あ、ああ……えーと、ユキナちゃん……」
「はい」
「ユキナさん」
「はい?」
「ユキナ!」
「はい!」
「順番は最後になっちゃうけど、僕と一緒に『家族』として移行してくれないかな?」
「はい、シライさ……コウさん」
ユキナの顔に満面の笑みが広がった。
***
付き合い始めた翌日にプロポーズする事になった二人は、婚約期間を長めに取るつもりだったのだが、ともに家族のいない二人は、結局すぐに同棲を始めた。そうなると、こういう事はちゃんとした方がいいというセリと、女性には形が必要だと主張するネギ先輩に押し切られる形で、事件から半年後、教授が通っていた教会で結婚式を挙げる事になってしまったのだ。
結婚式には、無事移行を果たした教授から暖かい祝いのメッセージが届いていた。
ちなみに教授は、問題なく移行に成功し、引き続き向こうの大学で教授として物理学の研究を続けている。ユキナには改めて、ユキナの両親の死の真相を伝えている。母親の最後の言葉が、ユキナへの深い愛情だった事をきいて、ユキナは泣き崩れたのだった。
また、テロリストのうち、自殺したサブリーダー以外も、やはり移行に成功していた。チューターに対し暴言を吐き、暴れようとした――電子世界では他者に危害を加える事は不可能なのだが――ため、その場で拘束。後日、電子移行政策に対するテロ行為も含めて、彼らは犯罪者として扱われる事が決定し、通常のコミュニティからは切り離されたそうだ。
地上にいるうちに、ネギ先輩たちも結婚式を上げればいいというコウ達の主張は却下された。二人は電子世界へ移行後、新居となる城で王子と姫という設定で挙式を挙げるという夢があるので、人類でいる間は恋人同士として生活をしたいとコウ達に告げていた。
「美女とネギ」というネタで、コウとユキナが密かに笑い転げていたのは秘密である。
こうして、暖かい友人に囲まれた結婚式はつつがなくとり行われた。
なぜか途中から、コウとはそれほど面識の無いはずの警備部や執行部の人間が乱入してきたのだが、それはそれで二人にとって良い思い出となった。
なお、この日の結婚式開始時刻を以って警備部に発令されていたコウ・シライ、ユキナ・タカガミに対する警護を兼ねた監視任務は解除された。
第3章はこれでおしまいです。
そして、この物語はハッピーエンドからがスタートです。
明日、サイドストーリーを挟んだあと、明後日から第4章ソラがスタートです。
第1部 『人類は滅びますが、電子の世界で生きていきます』の最終章となります。
まだテロリストとの戦いは終わっていません……。




