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第4話 ハッピーエンド(5)

GWも今日でおしまいですね。

すっかり身体がだらけてしまった……仕事復帰にリハビリが必要です。

 オペレーションセンター襲撃事件の翌日、事件の後処理のために部長以上の幹部が集められていた。


「被害状況は?」


 センター長が会議の口火を切った。それに保安局長が応える。


「人的損失が、保安局 情報部四名死亡、警備部八名死亡、彼らは全て脳を破壊されており蘇生できませんでした。重体だった者のうち回復の見込みがなかった六名は緊急移行処置により救済。十一名が重傷、うち一名はまだ意識が回復していません。いずれにしても現場復帰は不可能です」

「重傷者のうち復帰が難しいものは、本人の希望を確認の上、移行してやれ」

「わかりました」

「軽傷者は?」

「現場にいた他の警備部のほぼ全員です。彼らの怪我は職務遂行上、何の問題もありませんが、精神的なケアが必要です。現在のところ、ここの警備は執行部が代行し、交代で当たらせています」


 その言葉に、センター長が唸る。


「しかし人的被害が大きいな……保安局は執行部を除いて半数の戦力を失った事になるのか……」

「はい、申し訳ありません」

「いや、怒っている訳では無い。建物、設備の被害状況は?」


「それは私の方で……」


 事務局長が立ち上がる。


「建物の被害は、大きなものでトンネル対岸側の警備詰所、一般開放エリア(PA)の入口扉付近、業務棟玄関部正面の地上階へつながる階段、待機室の緊急退避用のドアの破損、細かな銃痕については数えていません。いずれにしても、人的被害と比較すれば原状回復が可能なものばかりです」


「そうか……」

「それよりも、緊急避難が適用されるとはいえ、ネットで生中継されている状況で強制移行を、職員が発動した事が問題になるかと思います」

「だが、あの局面では仕方が無いのでは?」


「私もそう思いますが、大切なのは、電子移行に反対する勢力がどう反応するか……です。広報部に、シライに対して何らかの処分を課した場合、しなかった場合の世論の動きを想定させ、その結果引き起こる最終移行までの進捗速度を検討しました」


「ふむ、映してくれ」


 会議室の大きなスクリーンに、2つのパターンの反響の大きさ、反響により遅延する移行速度、それを回復するためにかかるコストが出ていた。


「十パーセントくらいの違いか」

「そうです。遅延を含めての十パーセントです」


「この場合、一緒にいた女性がAM2Cのトップの被保護者だった事も影響するとみています。そこに言及されると二人とも辛い事に……」


 そこまで聴くと、センター長は片手を上げ、事務局長の言葉を止める。


「ありがとう、わかった……総長、少しよろしいですか?」

「ああ」


 センター長は総長とともに、会議室を出て行った。


***


 コウの頬骨はやはり骨折をしていた。

 手術が必要という事だが、現時点では入院は必要が無いという事で、一晩泊まっただけで、痛み止めと一緒に一時帰宅させられた。


 そこへコウ宛にオペレーションセンターから呼び出しがかかる。


「まさか、また査問会?」


 呼び出しが事務局長からだったので、コウは不吉な予感を感じていたが、仕方がないという事で、準備を始めた。左頬にあるガーゼが痛々しい。


(痛み止めで、ボーっとするなぁ……)


 そう思いつつ、出社する準備をしていると、来客を告げるチャイムがなった。


(何か頼んでいたかな……)


 そう思いつつ、ドアを開けると、ユキナが立っていた。


「ネギ先輩から連絡がきて、出社させるので迎えに行ってやってくれって」


 そう心配そうな顔でユキナは、ここへ来た理由を話す。


(いつのまに連絡先を交換しているんだ! 先輩は)


 ちょっとヤキモチを焼きつつも、ユキナに部屋へ上がるように促す。


「ごめんなさい、午後に御見舞にいくつもりだったから、病院に迎えに行けなくて」


(おお、これが、夢にまでみた彼女が出来るって事なのか!)


 思わず感動するコウであった。


***


 昨日の襲撃の爪痕が残る地下通路だったが、すでに瓦礫などは撤去されていて、通行には支障が無いようになっていた。


「あ、ここからは部外者は……」


 業務棟の受付まで来てコウはユキナにそう告げようとすると、エレベーターホール付近で待っていてくれたネギ先輩が近づいてきた。


「コウ! こっちだ! ユキナちゃん、はい、ゲスト用の入館証」

「あ、ありがとうございます」


 執務エリアには許可されたものしか入れないのだが、ネギ先輩が準備していてくれたみたいだ。


「先輩ありがとうございます」

「いいって事だ。今回の事は俺も納得が言っていないが、仕方ないという事らしい。お前も我慢しろよ」

「はい?」

「あ、ユキナちゃんはこっちね。応接室を予約してあるから、そこで終わるのを待ってればいいよ。コウ! お前はこのまま最上階行きだ。上で室長が待っている」

「あ、解りました。ユキナちゃん、後で……」

「はい」


 ユキナが不安そうに手を振ってくれた。


***


「コウ・シライ、入ります」


 査問会が開かれた会議室と同じ場所だった。

 入るように促されたので、ドアを開け中に入ると、そこにはセンター長、保安局長、事務局長の三人が待っていた。


「かけたまえ」

「はい」


 センター長が座るようにうながす。


「昨日は大変だったな。傷の具合はどうだ?」

「はい、痛み止めが効いているので、今は大丈夫ですが、今週末に入院して週明けに手術になるそうです」


「そうか……今回の件、こちらの判断ミスだった。本当に申し訳ない」


 そして、突然、センター長が頭を下げ、それに他の二人も同じように下げる。


(うちのトップ3が頭を下げた!)


 その瞬間、先輩の「我慢しろ」という言葉がコウの脳裏を過ぎった。そして、何が起こるのかも理解をした。


「どうか、お顔を上げて下さい。これは、この後、何らかの処分が下るって事でしょうか……やはり、まずかったですよね。強制移行は……」

「ああ……そうだ。どんな事情があろうと、法令に基づかない強制移行は禁止されている」

「緊急避難も適用されませんか?」

「対外的には難しい。移行室を出た時点で、君達の安全は確保された。そう見られる可能性がある」

「ですよね……」


 コウは、実際あの時点で、移行処理を実行する事の意味を理解はしていたのだ。

 だが、教授の命はコウの目には消える直前だったように見えた。ユキナの後見人である教授を見捨てて、自分たちだけ生き残る事はコウには出来なかったのだ。


「それに、一名、移行室内で自殺をした事によって移行が出来なかった。あれは強制移行が原因の自殺だと、すでに猛烈な抗議が入っている」


 抗議は当然、AM2Cのシンパがしているものがほとんどだろうが、それを一々確認する事は出来ないため、件数として実績が積み上がってく。当然、この件は政府も動くため、こういった数値には非常にナーバスになる必要があるのだ。


「わかりました。納得できたわけではないですが、わかりました。それに、自分が働いている職場に迷惑はかけられないですよ……それで……クビですか?」


 つい先日、始末書を二枚枚書いたばかりだ。さすがに懲戒解雇は免れまい。そう覚悟したコウであったが、


「今回は就業規則違反ではなく、法令に対する違反のため、懲戒処分にはならない。いや、意地でも懲戒処分にはしない」


 法律では処罰するが、会社としては処罰しない。

 そう、センター長は言い切ったのだ。


「電子移行特別法 第14条の違反に対する処罰として、同第79条の規定により、コウ・シライを本日より最長五年、あるいは本オペレーションセンターにおける最終移行執行日から二週間前のいずれか早い日まで、電子移行停止処分とする」


 コウはセンター長の言葉を反芻し、意味を考える。


「それって……」

「最後まできっちりと働けという事だ」

「あ、ありがとうございます!」


 どちらにせよ最終便になるだろうと覚悟していたコウにとっては、何のダメージも無い処罰だ。


「この処罰を対外的に発表する。合わせて、我々三名の辞任をもって、この件の責任の所在についての話は終わりにする」


 その言葉に処分が実質上無かったことに喜んでいたコウの表情が固まる。


「え、辞任って……」

「テロリストの侵入を許し、多くの犠牲者を出した上に、オペレーションセンターの移行機能をロストさせる寸前までの事件だったのだ。トップが責任を取るのが当然だろ」

「そんな……僕だけが処分が軽いって言うんじゃ……」


「舐めるなよ。責任を取っていいのは、責任を取るために働いている人間だけだ。お前のような平社員にこの楽しみは譲ってはやらん」


 総長の陰にかくれて、普段は目立たないセンター長がワル親父っぽい表情でニヤリと笑う。保安局長と事務局長も頷く。上司の上司のそのまた上司という事もあり、これまで、あまり接する事がなかったが、彼らは彼らで意地を通せる大人なんだろう。


 そんな尊敬できる上司達に会えた事が嬉しくなり、コウはついつい軽口を叩いてしまう。


「センター長、似合ってないですよ」

「そうか。駄目か?」

「センター長らしく無いですね」

「そういうのは保安局に譲ってくださいよ」


 口々にそう言って、会議室は爆笑の渦に包まれた。

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