第4話 ハッピーエンド(3)
最初の爆発は、コウの予想通り一般開放エリアの入口付近を吹き飛ばしていた。そして、先行していたテロリストの部隊20名が、ここから侵入し、警備員しかいなかった一般開放エリアおよびその奥の通路を制圧。
この時点で、業務棟にいた一般職員の避難指示が出され、一般職員は外階段を使って外へ脱出を開始していた。また、執行部の全実行部隊と警備部の半数は第十七区画へ出張っており、残りの半数は地下及び地上部でテロリストと交戦に入っていた。
テロリストは、どこからやってきたのか?
そもそも、地上からのアクセスは船かヘリコプターなどを利用するしか手段が無い。それ以外は地下鉄で移動するか、セキュリティの厳しい大型貨物搬入用の地下トンネルを利用するしかない。
だが、彼らは執行部と警備部を出し抜くことで、警戒が手薄になった地下トンネルへトラックで突入。入口の警備部詰め所はロケットランチャーで爆破され全員死亡。ガードロボットおよび監視カメラ類は、偶然にも緊急メンテナンスが入り再起動中という状態で、ここまでの大規模な侵入を許してしまっていた。
LPOに急襲を仕掛けるという積極的な選択肢が、完全に裏目に出てしまった結果であった。オペレーションセンターには、その業務遂行に関わる範囲での自衛権、捜査権しか認められていない事から、戦力的に部隊を二つに分けるという選択が出来なかったのだ。
結果的に、時間差で執行部を出し抜いたテロリスト達は地下と地上一階部を制圧。その直後にコウ達が現れたのである。
***
待機室から入口とは反対側に通路があり、この通路の奥に八角形の部屋がある。この部屋は反対側にも通路があり、そちらはコウ達が働く執務エリアにつながる階段があるだけだ。
移行室は建物の吹き抜けの中で、この二本の廊下により支えられており、天井及び床は建物とは接していない。電子移行の|完全肉体走査《PBS: Perfect Body Scanning》 を実施する都合上、建物と接している面は少ないほうがいいため、こういった構造となっている。
移行室そのものはガラス張りの部屋となっており、一つ上のフロアにあるオペレーションルームからも、その様子が見られるようになっている。
「おい、あっちの扉はなんだ?」
テロリストのリーダーは、待機室にある、もう一つのドアについて質問をしてきた。
「あれは、緊急退避装置だ」
「緊急退避装置?」
「……電子移行は最悪、脳が生きていれば可能だ。大規模災害などが発生して、電子移行の続行が難しく、通常の方法では待避が出来ないと判断された場合、待機室にいる人間はあそこに飛び込んで、冷凍状態で助けを待つ……電子移行の最終局面ではオペレーターの数も減るし、移行作業そのものが、どうなるか解らないから、ああいった装置が保険として用意されている」
あくまで緊急用の装置である。
扉を開けて飛び込めば、その先は急勾配の滑り台になっていて建物の地下、ちょうど一般開放エリアの真下の階にある、終末医療対象者用の短期冷凍冬眠室まで移動できる。
これも、公式にアナウンスされている通りだ。
(そんな事も知らないのか、こいつら……)
コウは、心の中でだいぶ呆れていた。
だが、
「そうか……」
リーダの男はそういって、他の男に何かの指示を出した。
「おい、何をする気だ?」
「移行に関わるものは全て潰す」
そういってニヤリと笑う。
「いきます、3、2」
「耳を……」
コウは慌てて、ユキナにそう告げ自分も耳を塞ぐ。
大轟音とともに、緊急退避装置の扉が奥へ吹き飛び、緊急待避装置の下へ落ちていく。開いたドアの向こうが気になるのか、リーダーが覗き込んだ瞬間、
「うわぁぁ!」
リーダーは叫び声を上げ、ドアの後を追って落ちていった。今まで何も言わずおとなしくしていた教授が、爆煙で煙るなか、自然な動きでスタスタと移動し、無言でリーダーを蹴り落としたのだ。
「タロウさん!」
一瞬呆然とした他のテロリスト達であったが、リーダーが消えていった緊急待避用のシューターへ慌てて駆け寄り、覗き込む。
だが、シューターの奥は爆発の影響で照明も落ちており、タロウと呼ばれたリーダーの姿はどこにも無い。
「ふん、ざまぁみろ」
「ふざ……けるな!」
教授のその言葉にテロリストの一人が駆け寄り、銃床で顔面を殴りつけた。その衝撃で教授は待機室の床に昏倒する。
「や、やめろ」
コウが静止しようとするが、教授を殴り倒した男はそのまま銃を構え、教授の腹部へ2発、発砲した。
「ぐっ、ぐっ」
くぐもった声が響き、教授の腹部が真っ赤にそまる。
「教授!」
「おい、そいつを引きずって移行室へいくぞ。俺たちはタロウさんの遺志を継ぎ、予定どおりそこで礎となる。おい、お前が運べ!」
教授を撃った男がサブリーダーだったのか、指揮権は混乱する事なく引き継がれてしまった。そして、コウに教授を運ぶように指示をする。コウは慌てて、教授へ駆け寄り、傷口をする。ユキナも近づき、自分の袖を引きちぎり教授の腹部を押さえた。
「しっかり!」
「ああ、すまん。あいつが、タケガミさん達の仇だと思うとなぁ……つい」
早急に止血をしなければ命に関わるような状態なのに、教授はしてやったりとした顔でニヤリと笑った。
「喋らないでください」
「すまんな、ユキナ君」
だが、そんな教授をユキナが叱り、教授も素直に謝った。
「おい、さっさと運べ」
「シライ……君だったな。気にせず、運んでくれ。どうせ、もう助からんよ」
「教授、そんな……」
「解りました。ユキナちゃん。そっちの肩をもってくれる」
「は、はい……」
「ぐぅ」
教授は低く呻いたが、それ以上は歯を食いしばって歩き始める。
「手が塞がったから、口頭オペレーションモードに切り替えるぞ」
「わかったから、早くドアを開けろ」
「ああ……」
「Listen, oral terminal, uid, kou.shirai 」
コウがそう呟くと、
-- Ok, welcome Kou
待機室にあるスピーカーから、機械音声が響いた。
「Unlock door B」
-- Ok, unlocked door B
「これでドアが開いた。押せば開くから開けてくれ」
「あ、ああ」
テロリスト達はあまりにもあっさりロックが解除されたのに驚いていたが、コウの言われた通りにドアを押してみると――
「確かに開いた」
「便利だな」
そういって、やり方を教えろと言い始めたが、
「声紋登録をしていないと無理だ」
と言われて引き下がった。
コウは顎でその先を示し、
「あの奥が……移行室だ」
と説明した。
「お前たちが先に行け」
「解った……」
サブリーダーの指示に従い、コウとユキナは教授を抱えたまま、歩き始めた。
「教授、大丈夫ですか……」
「ああ、大丈夫かと言われれば、大丈夫じゃないが……もうちょっとの辛抱だろ。死ぬまでの時間を楽しむよ、ははは」
「教授」
「ユキナ……君、本当に君には迷惑をかけっぱなしだ。許して欲しい……」
「そんな私の方こそ……」
そんな二人を見て、コウはある決意をした。




