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第4話 ハッピーエンド(2)

 リーダーは配下に、コウと教授を立たせるように指示し、そのまま盾代わりに先頭を歩かせる。二人の後ろには、ユキナの後頭部に小銃を突きつけており、何かあれば真っ先にユキナを殺すという状況を作られているため、抵抗しようもなかった。


 そのまま、コウ達が出てきた階段を、再び降りるよう指示された。


「す、すまないユキナ君。こんな事になって……それと、君は?」

「シライです」

「そうか、君がユキナ君の……」

「教授、それは後で……」

「ああ」


 三人が身を寄せ合い、小声で話す。


「これはどういう事なんでしょうか?」

「彼らはAM2Cの強硬派だ……本来、組織とは関係の無いはずの君に連絡していたのは、どうやら彼らだったみたいだ」


「今日、その事を話そうと思っていたの。教授は私を組織に引き込もうとしていたのではなくて、むしろ距離を置いてくれていたのを、私が勘違いしていたみたい」

「はは……」 


 確かにそれは良い話だ。こんな状況じゃなければ――


 コウはそんな事を考えているが、その言葉を聞いて、リーダーが叫び始めた。


「諸君、聞いての通りだ! この男はAM2Cの幹部にも関わらず俺達を裏切った!」


 男が歩きながら演説をする。

 その姿にカメラのようなものを構えている男もいた。


「この放送を見ている全ての国民よ! 電子移行などという嘘に塗り固められた政策に騙されて、搾取され続けている国民よ! 今から、電子移行の秘密を暴き、このイカれた建物をぶっつぶしてやる。よく見ておけ、俺達が(いしずえ)となり、世界中で同志が一斉に蜂起する! 電子移行はオシマイだ。失った命は還ってこないが、これで人類は救われる!」


 そう叫んだ瞬間、爆音が再び響き、たったいま降りてきた階段が崩れ落ちてきた。


「よし、封鎖完了」

「おい、上にいた仲間は置いていくのか?」


 他人事ながら心配になったコウはそう質問をしたが、


「彼は最初の礎となった! 俺たちも続くぞ!」


 その質問は無視され、テロリスト達は、どうやら自爆したらしい仲間を称え、自分たちも続くと息を巻いた。


(狂ってやがる……)


 リーダーの目が普通の人と変わらないのは、最初から狂っているからだ。狂っているのが正常な状態だから、自分たちのような人間には区別が付かないのだ――


 コウは爆発の衝撃に座り込んでしまったユキナを抱きしめ、


「大丈夫。大丈夫だから」


 と、囁くように伝え、なんとか立ち上がらせた。ここで足手まといだと思われると、何をされるか解らない。希望は限りなく少ないが、何とかユキナだけでも逃がす算段を――


 だが、そんな考えを見透かしたように、再び銃はユキナに向けられ、コウは言われるがまま、つい先ほど爆風が吹き荒れた受付を進み、エレベーターホールまで移動した。


「移行室まで案内してもらおうか」


 リーダーの言葉に、ゆっくりと胸ポケットからカードを取り出したコウは、エレベーターの読み取り装置に翳し、網膜と静脈で認証処理を行う。最初の爆発から十分は経過しており、エレベーターは使用制限がかけられていたのだ。

 

 テロリストだけでは、階段以外で電子移行室があるフロアに移動は不可能だった。

テロリスト達はコウ達とともに、エレベーターに乗った。残念ながら、三十人は乗せることの出来るエレベーターのため、テロリスト達を分断する事は出来なかった。


 コウが普段担当している電子移行室の最上層である第一電子移行室は十二階にある。


(あそこなら余計な設定変更は不要だ)


 そう思ったコウは、十二階を押した。それを見てリーダーは慌てたように「開」ボタンを押し、エレベーターの移動を止めた。


「おい、なんで一番上の移行室を選択したんだ!」


 そう言って、リーダーが片手でコウの額に銃を押しつける。まだ、少し熱を持っている銃口が額を灼く。


「っ……そ、そこが僕の職場だ。他のフロアだと管理権限で設定変更をしてもらわなければ、動かせない!」

「本当か!」

「信用しないなら撃て!」

「駄目!」


 その言葉に、ユキナがコウにしがみつく。

 額の痛みに一瞬昇った血がユキナの体温を感じて落ち着く。


「本当だ。僕のカードを見れば、第一電子移行室担当とあるだろう」

「……おい」


 リーダーがコウから銃口を逸らさないまま、部下に指示を出す。部下は、コウの言葉からジャケットの内ポケットを漁り、たったいまエレベーターに翳したカードを確認した。


「確かに第一と書いてあります」

「そうか」


 そういって、リーダーは「開」ボタンから指を離した。同時にエレベーターのドアが閉まり始める。


「悪かったな、疑って」


 そういって、リーダーはニヤリと笑った。


***


 

19:12 オペレーションセンター業務棟十二階

  

 エレベーターが十二階に到着する直前、人質となっているコウ達三人はエレベーターのドアに向けて一直線に並ばされた。


 そしてドアが開く。


「盛大な歓迎ありがとう、諸君」


 ドアの向こうには無数の銃口がこちらを向いている。

 裏を掻かれた執行部がようやくヘリで戻ってきたのだ。屋上から状況をモニタリングしながら、コウが十二階を行き先に選んだことを把握し、エレベータホールの前で待機。侵入をここで食い止めつつ、他の階の出入り口を制圧していくよう動いていた。


「抵抗は無駄だ」

「抵抗? お前達はこのカメラの前で人質ごと撃ち抜くつもりか?」


 執行部の戦力を率いているのは、いつも一般開放エリアで警備をしている白髪の男だ。あきらかに警備をしている時と雰囲気が違う。まさに歴戦の勇士。


「やっぱり軍人上がりは本当だったんだ」


 味方が増えた事で、ほっとしたコウの口から軽口が出た。だが、事態は一向に良くなっていない。むしろ、混沌としてきたと言えよう。



「その奥が、広告などで出て来る移行を待つ者達が最後の時を待つ待機室だろ。死刑執行前の控室だな……おい、開けろ!」


 テロリスト達はカメラを回しながら、コウ達を少しずつ前に押し出す。その動きに合わせ執行部の防衛ラインは少しずつ下がる。明らかに人質を意識しての動きだ。


(見捨てられた訳では無い)


 テロリストとは交渉しないという原則はあったが、日本の場合、無条件に撃つという判断はしない。可能な限り、解決の糸口を探してくれる。


「開けろ!」


 防衛ラインを下げさせ、待機室の前まで来たコウに、リーダーがドアを開けろと指示をする。すぐには動かなかったコウにイラついたのか、向けていた銃をユキナに向けた。


「待て、開ける!」


 ユキナは真っ青な顔をしつつも、コウの方に顔を向け、


(大丈夫)


と、声に出さずに口を動かした。ここを開けたら、コウが撃たれる可能性まで考えての健気な姿だ。執行部の奥から、すすり泣きが聞こえるのは気のせいだろうか――


「彼女に銃を向けないでくれ。ちゃんと開けるから」


 コウはそういって、待機室のドアを開ける。


 テロリスト達はその瞬間、人質ごと押し込むように中に流れ込み、今開けたドアを閉じる。

 

「移行装置はどれだ?」

「移行装置?」


 テロリストの疑問に対し、コウは一瞬、意味がわからず、そのまま返してしまう。


「移行装置だ! ここにあるんだろ?」

「ここは待機室だ。移行はそこから奥の電子移行室で実施するのだ」

「移行室? ここで移行するんじゃないのか?」


 どうもコウとテロリストの話が噛み合っていない。


「お前らオペレーションセンターはここに人を押し込め、移行装置という名の殺人装置で人を殺しているんだろ」


(おいおい、いつの時代の偏見だよ)


 電子移行開始当初、ナチスのガス室のようなものだという噂が出る事もあり、何度かマスコミが入って調査されたりもしたが、現在では、そんな事は都市伝説ですら出てこないというのに――


「移行は電子移行室で行う。ここは、あくまでも移行前に心を落ち着けるための待機室だ」

「……移行室へ案内しろ」


 そういって、再び、教授とユキナも前に突き出し、コウとともに先行させる。


(執行部はともかく、警備部はどうなっている! 誰もいないじゃないか!)

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