第4話 ハッピーエンド(1)
19:00 オペレーションセンター 業務棟 地上一階。
銃声と爆発音が響き渡る。
そんな中、小銃がコウとユキナに向けられていた。
平均的な日本人であれば、まず出くわすことのない緊迫した場面だ。
「動くな!」
「はい」
緊迫した場面に似つかわしくない元気な声でコウは返事をしてしまった。
その上で状況を把握して青ざめる。
だが、銃を向けている男も、この状況は想定外だったようだ。地下の入り口は爆破し、戦力を殲滅したつもりでいた。そのため、地下からの進入は想定外。しかもそれが武器を持たない一般人だとは考えもしなかっただろう。
咄嗟の事だったにも関わらず、二人が撃たれなかったのは僥倖としか言えない。それとも不幸なのだろうか――
そんな事を考えつつ、コウはユキナを背中に庇いながら、抵抗の意思が無いことを示すために両手を上げた。
やがて銃声が鳴り止む。
コウが出てきた階段の前には、どこから持ってきたのか、椅子や机などでバリケートが組まれていた。二人は、どうやらテロリストが築いたバリケートの内側にひょっこりと出てきてしまったようだ。
そのバリケートの周囲では何人もの警備部の人間が血を流して倒れている。いくら危機管理マニュアルが配られ、こういった事態に遭遇した場合の研修を受けていたとはいえ、所詮は非戦闘員。あまりの出来事に目を背けたくなる。
階段の先には、業務棟の倉庫のシャッターがあり、その周囲では、ところどころ小さな炎が燻っていた。ここから侵入を試みたのか激しい戦闘の跡が窺える。遠くで聞こえていた銃声や爆発音は次第に散発的になり、やがて静寂が訪れた。そしてコウとユキナを取り囲む銃は増えていた。
最終的に十人のテロリストに囲まれたコウは、その後ろに、ロープのようなもので胸のあたりを縛られている中年の男に気が付いた。向こうもこちらの事を認識したようだ。
「ユキナ君!」
「教授!?」
その縛られている男がユキナに向かって叫ぶ。
「ほう、お前がタカガミの娘か……」
銃を構えた男の一人がニヤリと笑いながら、そう言った。どうやら、この男がテロリストを率いたリーダーらしい。
「ああ、お前の親のことはよく知っているよ。俺達の同志がそいつを襲った時、お前の親のおかげで、そいつは助かったんだからな」
そう言って、教授のロープを引っ張り前に出す。
「教授……どういう……」
「貴様!……っが!」
男の言葉に教授が暴れようとするが、ロープの端を掴んでいた男に殴られる。
「今日は、お前も親と同じように教授を庇って、あの世にでも行くか?」
そう言って、下品な笑い声をあげる。
「ねぇ、シライさん、これってどういう意味なんだろう……?」
ユキナは落ち着きがなくなり、コウと教授の顔を交互に見る。コウは、目の前の小銃からユキナを庇いつつ、何とか打開策が無いか周囲を見回していた。その動きをみて、ユキナに下品な雰囲気で喋っていたリーダーは、何かに気が付いたようだ。
「お前……ここの職員だな……」
「……」
コウが返事をしないと、その男はいきなり銃床の部分でコウの頬を殴りつけた。その勢いで、コウが倒れる。
「シライさん!」
「あのさぁ、こっちも時間が無いんだよね。ちゃんと答えないと、このお嬢ちゃんのキレイな身体に穴を開けるぞ」
そう言って、小銃をユキナに向ける。
「コウ……シライ……電子移行室のシニア・オペレーターだ」
「よし……ついているな。一番いいのが出てきた。……おい」
「はっ」
リーダーが指示をすると、二人の男が近づいてきて、コウとユキナを教授が倒れている方へ連れて行く。ユキナは小銃で小突かれたため、自分で歩き始めたが、リーダーに殴られ倒れていたコウは、襟を掴まれ引きずられる。
「乱暴にしな……ひっ」
ユキナが慌ててコウに駆け寄ろうとしたが、小銃を額に向けられ動きを止める。
「ユキナちゃん、指示に従って。おい、自分で歩けるから、大丈夫だ……」
「そうか」
コウを引きずっていた男はコウの襟を離した。
コウは、テロリストを刺激しないようにゆっくりと立ち上がり、ユキナを力づけるように、一つ頷くと、教授の方へ移動する。
「おい、準備が出来たか?」
コウが出てきた階段の所で何やらごそごそとしていたテロリストの一人に、リーダーが声をかけた。
「はい」
「よし、では我々が待避次第、ここは封鎖。時間が無い。頼むぞ」
「はい」
その瞬間、銃声がいくつも響く。どうやら、倒れている警備員にトドメを刺しているようだ。ユキナが悲鳴をあげ、目を閉じ耳を塞ぐ。
「殺したのか?」
誰ともなく質問をしたコウに、リーダーが答える。
「当然だ」
「なんてひどい事を」
「お前たちオペレーションセンターこそ何十億人と殺しているじゃないか」
そう答えたリーダーの目は、狂気に取り憑かれているようには見えない。
「一緒にするな。電子移行は殺人ではない。彼らはみんな生きている」
「どういう状態を生きているというかなんて、お前と議論する気はねぇんだよ」
そう言って、今度はコウの腹部を銃床でなぐりつけた。
「ぐふっ」
「シライさん」
あまりの痛みにコウはしゃがみ込んでしまう。強がってみたが、痛みに対する耐性は人並みだ。吐きだした胃液には血が少し混じっていた。
「いかん、いかん。こいつは殺しちゃいけねぇんだ……」
リーダーは何かを思い出したようで、
「おい、ついてこい……」
うずくまっているコウの背中を軽く蹴飛ばし、そう言った。




