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第3話 不幸せな大人たち(4)

本日2回目の投稿です。

「局長……失礼します」


 警備部長が保安局長室に入ると、そこには電子移行室の室長が立っていた。


「報告がありますが……」


 万が一という事もあるため、保安局の人間では無い室長がいない方がいいと考え、意味ありげに室長の方をチラリとみてから、局長へ視線を戻したのだが、


「構わん。続けろ」


 という指示を、局長は出した。


「タカガミさんの件ですが、彼女の大学教授についても調査分析結果が出ました。教授については、警備部、情報部、どちらの見解もL2だという結論に至っております」


 L1がテロ組織には全く関係ない人、L2は、電子移行に対して反対の立場であるが、具体的な敵対行為にはいたらない者、L3が敵対者として分類されている。


「ですが、タカガミさんに発信された発信元不明のメッセージについて発信元に心当たりがあるようで、先程、LPOへの発信が認められました」

「ふむ」

「会話の内容は、解析が必要な状況で、それには二ヶ月ほど要しますが、情報部から上がっている情報も踏まえ、ケース19に該当すると進言します」

「ケース19……直接的なテロが予見される状況という事ですね」


 室長が、ここで口を挟む。


「そうだ。現段階で、直接的、かつ、具体的なテロが発生するものとして判断している」

「ただ、大学の教授が確認の電話をしただけでですか? さすがにそれは根拠が薄くないでしょうか?」


 本来は局長と打ち合わせるべき事項に、口を出す室長にイラつきつつも、


「だが、いままでのように後手に回って、万が一、電子移行の進捗に影響が出るようでは問題だろう」


 と、答えた。


 そこで警備部長宛にメッセージが入る。


 そのメッセージを読んだ警備部長は、どこかへ電話し、その音声をスピーカーに出した。


「もう一度、報告を」

「はい、こちら教授の監視班です。現在、教授を見失いました。ロストです」


 その報告に保安局長が思わず問いかけた。


「どういった状況だ?」

「大学を出てATSに乗った所に、マニュアル操作が可能な旧型の車が突っ込んできました。そしてそのまま、教授を引きずり出し、別の車に押し込みました」


「防げなかったのか」

「遠距離からの監視でしたので……」

「その後は」

「撒かれました」


 そこまで聞いて保安局長は乗り出していた椅子に腰を下ろす。


「局長。ケース19ですが、より深刻度の高い状況に至ったようです」

「そうだな」


「LPOの活動が、最近、先鋭化している事もあって、国内のAM2C系の組織からも問題視されていました。そこに国内のAM2Cの実質的なトップであり、総長の弟でもある教授が誘拐されたとなると……」

「ちょっと待って下さい」


 局長の言葉に、室長が口を挟む。


「教授が総長の弟だという事は知っていましたが、教授はAM2Cの実質的なトップというのは ……」

「教授は、AM2Cの次のトップの最有力候補であり、すでに実質的なトップとして組織運営に関わっているものとして警備部では認識している」


 その質問に警備部長が答えた。


「そ、そんな話は聞いていませんが……」


 そういって室長は保安局長を睨みつけるが、保安局長は静かに首を振る。


「推測の段階のため、保安局長はご存じ無い」


そういって、警備部長はフォローする。

その言葉に、室長は保管局長を睨み付けるのをやめ、警備部長に質問を続けた。


「では、なぜそんな人が、タカガミさんのような女性を保護しているのでしょうか?」

「タカガミさんのご両親、タカガミ夫妻は、AM2Cの内紛で教授が襲われた際に巻き込まれて死亡されたのだ」


警備部長の言葉に、室長が絶句する。


「警備部はいつから、その情報を……?」

「情報部は最初から把握をしていたようだ。警備部にその情報が共有されたのは、教授に監視を付ける事が確定してからだ」

「そう……でもなぜ、このタイミングで教授を誘拐なんて……」

「それは、解らない。だが……」


 警部部長が何かを言おうとしたタイミングで局長が声を出した。


「警部部長」

「はい」

「ケース19を宣言する」

「解りました、コントローラーは?」

「警備部でいい」

「はい」

「三十分後、対策会議だ。局内は部長級以上、他局は局長以上を全員招集。それまでに対策方針をまとめておけ」

「はっ」

「私はセンター長に報告しに行く。室長、この件は業務部内では、まだ内密に」

「わかりました」


「よし、動き出せ! 時間は有限だ! ここはまだ電子世界ではないんだからな!」


***


 あの当時、AM2C内では移行に対して断固反対すべきという強行派と、人類全体の移行を含め自由意志を尊重した方が良いという融和派に分裂寸前であった。融和派の若手リーダであった教授が強行派に狙われたのは、そんな時であった。


 娘の移行を何とか避けたいが、娘とともに安全に生きていける電子世界(コロニー)を選択肢として排除していいものか。ユキナの両親は親戚や友人に対して意地を張り続けていた一方、教授に対して、そういった弱気な一面を見せていたのだ。


 ATSの中でその相談を受けていた教授を狙って、反対車線から無人の旧式車両が猛スピードで突っ込んできたのだ。


 その結果、教授だけが生き残った。


 偶然なのか、夫婦二人が意識しての事だったのかは解らないが、事故直後、数瞬の間、意識を失っていた教授はちょうど二人が自分の身体を庇うように覆い被さっているのに気が付いた。父親は明らかに即死の状態。母親も、


「ユキナを……ユキナを……」


 その言葉だけを残し数分後に息を引き取った。

 

 教授がユキナの後見人となったのは、そういった事情があった。


(なぜ彼らはユキナ君の事を知っているのだ?)


 ユキナを送り出した教授は、最近しつこくコンタクトを取ってきているグループへ連絡をした。教授暗殺未遂の実行犯だとされていた「タムラ」が率いる過激派が、ここにきて和解をしたいと言い出していたのだ。


 非合法な活動については、自分自身、テロの被害者でもある教授は反対の立場を堅守しており、タムラのような非合法活動に手を染めるような存在は、排除する必要があると考えていた。このため、すでに情報は兄を通じて警察組織にも流しており、あとは捜査の手が入るのを待つだけだという認識でいたのだが――


『これは、これは、教授でしたか。ようやく連絡が取れました』

『君たちか? ユキナ・タカガミに連絡を取っていたのは』

『なんの事でしょう……ああ、あのオペレーションセンターの若い移行オペレーター(TO)を籠絡してくれていた連絡員の事ですか?』

『あの子はAM2Cの人間では無い』

『あれ、そうですか? 教授がAM2Cの人間だという事で連絡を取ってみたら、随分、恩を感じていたみたいですよ』

『……何がしたい』


 教授が低い声で呟く。


『分裂してしまったAM2Cの再統一』


 分裂という表現を電話の男は使っていたが、正確には大多数となった融和派と、より過激に、より先鋭的になったために組織から弾き出されようとする絶対的少数の強硬派という状態だ。


『断ったら?』

『家族揃って事故とか、悲惨ですよね……』

『どうすればいい』


 その時、電話の向こうで何かを金属で擦るような音がした。


『一度、会いたいですね。組織の統合の話し合いをしましょう』

『解った……』


 こうして、教授は外出したのだが、その矢先に襲撃を受けた。そもそも敵は教授と話し合うつもりなど最初からなかったのである――

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