第3話 新しい世界(2)
喫茶店を出たコウは、これからオペレーションセンターへ向かうという事をユキナに説明した。
「まだ、ギリギリ一般開放エリアが使える時間だから……ちょっと凄いものを見せてあげるよ」
「は、はい!……あっ……」
そうコウは言いユキナの手を取って歩き始めた。コウは時間の余裕が無いために焦っての行動だったのだが、突然手をつながれたユキナは顔を真っ赤にし、それでも振りほどかずにコウに付いていく。コウが自分の行動に気がついたのは、駅に着き地下鉄用のカードを出そうとユキナの手を離した時だった。
ユキナとつないでいた手を離したコウは財布からカードを取り出そうとし、自分の手に残る温もりに気が付いた。コウの顔が真っ赤に染まり、
「あ、あれ……あ、ああ、ごめん。違うんだ、え、あ、違わないけど……」
「い、いえ、大丈夫です。ちょっとびっくりしましたけど……嫌じゃありませんでしたし……」
ユキナも顔を真っ赤にしたまま、コウに自分が嫌がっていた訳じゃない事を説明する。最後は掠れていて、コウには、ほとんど聞き取れなかったのだが、
「そ、そうか……よかった。えーと、じゃあ、行こうか……」
「はい……あ……」
先を歩き出したコウの手を少し見つめ、一瞬寂しそうな表情を浮かべたユキナだったが、それ以上は何も言わず、コウの後を追った。
電車はすぐやって来た。空いている車内の座席に二人並んで座ると、ユキナはコウに先ほどの質問の続きをした。
「電子世界は、どういう所が現実世界と違うんですか?」
「そうだね……僕もオペレーターという職種で、こっちに残っているので、現実として体験はした事が無いんだけど、これまでの研修と、体験学習で学んだ範囲で説明すると……」
コウはそう言いながら、身体を横に向け、ユキナの表情をはっきり見るようにして、説明を始めた。
「まず、所有欲を満たすという点で、まったく違う価値観の世界になるかな」
「違う価値観?」
「そう。コロニーの中で生活をする上では、僕たちが住む物理世界と何ら変わりは無いんだけど、基本的に欲しいと思ったものは、コロニーのリソースが許す範囲内で手に入るようになっている。少なくとも衣食住については、悩む必要は無くなる」
人類全体に行き渡る、安全で安定した衣食住の環境。
地球では手に入れられなかった環境を簡単に電子世界は提供する。
「例えば、お城に住みたいと思えば、自分の割り当てられたエリアの中をそのように拡張する事は出来る」
「どんな風になるんですか?」
「電子世界では最小単位のコミュニティ毎に家が割り当てられる。コミュニティの単位は、一人でもいいし、どんなに大きな集団でもいい。後から分裂してもいいし、合併してもいい」
ユキナは頭の中でコミュニティと家を想像している。
仲の良い人が一緒に住む感じか……
「この家は外見上、小さな普通の家なんだけど、玄関から入ったら、そこはお城になっていてもいいんだ。外から見える広さと、中に入ってからの広さを一致させる必要が無いから、現実世界みたいに、一生懸命働いて、こぢんまりとした部屋に住む必要も無くなる」
「そ、それはいいですね……」
ユキナは城にコウと二人で住む姿を想像して、にやけてしまう。
「家もそうなんだけど、電子世界では、すべての物体がデータとして扱われるため、世界全体の容量内であれば、どんなものでも自由に持つ事が出来るんだ。もちろん、公共エリアでは持ち込めるものの制限はあったりするけどね。でも、コロニーは人類全体を受け入れる事を想定して作られているので、自分の家の中だったら、かなり自由度がある生活が出来ると思うよ」
「家の中に庭を作ったり?」
「そうそう。そんな事も可能だよ」
「動物園を作ったり?」
「そうだね」
「遊園地を……」
その時、駅への到着を告げるアナウンスが鳴った。




