第2話 疑問(4)
二人は少し街をブラブラ歩いた後、事前の予定通り、映画館に向かった。
「どんな映画なの?」
「なんか、古い映画のリマスター版だそうです。当時はかなりの人気作品だったみたいですよ」
「へー、1980年代の映画か……ご先祖様が作った名作って感じなのかな」
「でもレトロな映画っていいですよね」
「あ、解る!」
「解ってくれます?」
「うん、最近の映画だと、没入感は間違いなくあるんだけど……なんか、自分が物語に入り込みすぎて、逆に疎外感があると言うか……それが、昔の映画だと、純粋に物語を楽しめるんだよね」
「そう! そんな感じなんです。私も最近の映画は、どんなにストーリーが楽しくても、終わった後の寂しさが強くて……」
映画館に向かう途中も、話が合ったのか、二人は盛り上がっている。少しずつ、二人の歩く距離も近づき、周囲に甘い空気を振りまいていた。
その後ろを、誰かが全速で泣きながら走り去っていった事には、さすがの二人も気が付かなかった。
***
「隊長! 班長が!」
「どうした!」
「走ってどこかに消えました……」
「もうお前が班長でいいよ」
「はっ」
***
二人が観た映画は、古いSF映画だった。
外宇宙から飛来してきたブラックホールが地球付近を通過する軌道を持っており、このままでは、地球はブラックホールに飲み込まれてしまうという設定で、地球を救うため、木星を超新星化させて対消滅させるという話だ。この中で、木星の保護を訴える団体がテロに走るのだが、その組織の女性と木星の超新星化を進める男性の間でロマンスが生まれるというものだった。
(なんで、こんな映画を!)
1980年代の古い映画という下調べだけで、ネタバレが嫌だったので、それ以上は調べていなかったユキナは、映画の内容と自分の境遇を照らし合わせて混乱していた。
ユキナには組織の意図が読めない。
(こんな感じでシライさんと付き合えって事なのだろうか……)
反発しあう組織の二人の出会いの物語。
教授は、オペレーションセンターの職員と知り合ったら報告しろと言っていた。これは、無理のない範囲でオペレーションセンターの情報を取得して欲しいという事だったのだろうか――
そんな事を考えていたユキナだったが、物語が進むにつれ主人公とヒロインのベッドシーンが始まったことで、思わず顔を伏せてしまった。
(こ、これって……)
そっとコウの表情を盗み見て、コウがこちらを見ている事に気がつき、ユキナは真っ赤になって、また顔を伏せてしまった。
(初心なんだな。誰とも付き合った事が無いのかな?)
ベットシーンの最中、ユキナの視線を感じ、チラリと横を見たら、ユキナは真っ赤になって顔を伏せてしまった。女性と交際経験が無いとはいえ、社会人のコウは、ストーリー上、不自然じゃないベッドシーンくらいで顔色を変えたりはしない。いまどきの女性もそんなものだろうと思っていた。
だから、余計にスレていないように見えるユキナの事が、より一層、可愛く思える。
(これは……やっぱり、惚れちゃったかな)
コウはユキナへの恋心を急速に自覚しつつあった。
だが、そんな二人の気持ちを余所に、映画はクライマックスを迎え、主人公とヒロインは悲劇的な結末を迎える。
(お互いの主義主張なんかより、人と人が愛し合う方が大切だと思う)
ユキナはその悲しい結末を自分自身に置き換えてしまい涙を流していた。
(もし、私とシライさんだったら……)
そして、無意識に自分とコウを当てはめて考えていた事に気がついたユキナは、あらためて顔を伏せてしまったのであった。
***
「古い映画だったけど、面白かったね」
「そうですね……でも悲しい終わり方でした……」
映画が終わった後、脱力してしまった二人は、映画館に併設されている喫茶店に入った。注文だけ済ませ、早速、今見た映画の感想を言い合う。
「なんで、何かを助けようと思って行動したのに、誰かを犠牲にする選択をするんでしょう」
「そうだね。多分、何かを助けようと必死になると、それ以外の人も同じような気持ちを持っているって事に気がつかなくなっちゃうのかもね」
「どういう事でしょう?」
「例えば、自分の一番大切な家族を助けたいと思って必死になればなるほど、他の人も、自分の家族が大切で、必死になっているという事を思いやる余裕が無くなるっていう感じかな?」
(両親は、他の人が移行して幸せになるという事の全てを否定し、私のために、私が移行しないで済むよう必死だった。そこに私がどう考えているかなんて、何もなかった……)
「そして、そこにはまり込めば、はまり込むほど、最初の目的と手段が、すり替わってしまって、テロのような極端な行動に出てしまう人がいる……そんな感じで解釈すればいいんじゃないだろうか」
コウはあくまでも映画の話をしているつもりであった。
だが、ユキナは何故、両親があそこまで頑なだったのかが、コウの言葉で腑に落ちたような気がした。結局、電子世界への移行によって、ユキナの身体を失う事への恐怖を、両親は乗り越えられなかったのだ。その恐怖から身を守るために、AM2Cに傾倒し、移行自体は自由意志だったにも関わらず、親戚や友人を否定し、移行を推進する世界を否定し、あっさりと事故で死んでしまった。
(お父さん……お母さん……)
ユキナの両親は、ユキナを失う事を恐れるあまり、魂と肉体が不可分であるという考えから抜け出せなかった。もし、ユキナの気持ちを伝えていれば、ただ、家族が一緒で暮らせれば、どこにいても幸せだって伝えていれば――
「電子世界へ移行した人達は幸せなんでしょうか?」
ユキナはずっと抱えていた疑問をコウにぶつけてみた。




