第2話 疑問(3)
「ユキナちゃんとデートしたんだろ?」
「はい」
「どうだった?」
翌日、オペレーションセンターに出勤したコウは、ネギ先輩にすぐに掴まり、昨日のデートについて洗いざらい話す事になってしまった。
「……という感じだったんですよ」
「お前、何、最初のデートで議論を吹っかけているんだよ」
「そうですよね」
コウは俯いてしまう。
「僕もそう思って、昨日から反省をしてます」
「こりゃ、もう脈は無いと思ったほうがいいよ」
「そうですよね……来週、映画に行くのが最後かな……」
「おい!」
ネギ先輩がコウの肩を掴む。
「もう次のデートの約束が出来ているのか?」
「え、あ、はい」
「それなら大丈夫だ。ガンガン行け。嫌な男だったら二度目は無いはずだ」
「そ、そうですか?」
「そうだ」
「そうですよね」
コウの顔が満面の笑みに変わる。
(よし、次は『いのちをだいじに』から『ガンガンいこう』に作戦変更だ)
「だが、ここで焦るなよ。どこかに連れ込もうなんていうのは、もっての外だ。慎重に……慎重にな」
「先輩、何があったんですか?」
「いや、セリと付き合う前にな……」
ネギ先輩が遠い目をする。
「はぁ」
「とりあえず、ガンガン行くのはいいが、がっつくな」
「いや、そもそも、2回目のデートで、そんな事を考えてませんよ」
「そこは考えろよ」
「いやいやいや、有りえませんって」
「けっ、この草食系が……」
「先輩、それ死語ですから」
朝の業務開始前は、アホな会話で過ぎていくのであった。
***
「ユキナ君」
「は、はい」
大学の廊下で、ユキナは教授に声をかけられた。
「どうかな、最近は」
「はい……なかなか、まとまらなくて」
「そうか。まぁ、煮詰まって考えても良いアイデアは浮かばないだろう。たまには、ゆっくりと羽を伸ばし給え。プライベートの充実も、大切だぞ。ご両親の事もあるので、難しいかもしれないが……もう自由になってもいいと思うぞ」
「はい……」
もう少し何かを言いたそうだったが、結局何も言わず、教授は去っていった。
その背中を見ながら、ユキナは溜息をつく。
(羽根を伸ばせというのは……そういう事なのよね。でも、シライさんと会うのは、これで最後にしよう。きっと迷惑をかける事になる……)
***
「ユキナちゃんへの接触がありました」
「会話は拾えたか?」
「はい。明確な言葉はありませんでしたが、最後の言葉が、会話の流れからは不自然でした。何かの指示かもしれません」
「メールの発信源とみて間違いないか?」
「あるいは、教授から指示が出た、誰か……という所でしょう」
「了解した。無理をさせて悪いが、教授への監視体制チームを作ろう」
「幹部以上の対象への接触は禁じられていますが……」
「たまたまだ。たまたま、ユキナちゃんへの監視網の視界の端に、教授が入り込んでしまった……という体で、いくぞ」
「わかりました」
「上へはまだ報告するな」
「はい」
***
悩みの多いユキナにとっても、楽しみにしているコウにとっても長い一週間が経過した。そして、二回目のデートの日。
「お、お待たせ」
待ち合わせ場所の喫茶店に、三十分前に着いたコウだったかが、すでにユキナが座っているのをみて、驚いていた。
「い、いえ。まだ三十分前ですし」
今日が最後――
もう会わないという言葉を切り出すには、出来るだけコウに最後のデートを楽しんでもらおうと、ユキナは万全を期し、一時間前には到着していたのだ。
「こんなに早く来なくていいのに」
「そういうシライさんも早く来ているじゃないですか。前回、私の方が遅かったので、少し頑張っちゃいました」
そう言い、ユキナはぎごちない笑みを浮かべる。
油断をすると涙が出てきそうになるのを堪えるために必死なユキナの表情にコウは全く気が付かず、むしろ、
(やばい! 可愛すぎる!)
と、悶えていたのだ。
女性慣れしていないコウにとっては、少し目が潤んだ状態で微笑むユキナの姿は、刺激が強すぎたのだ。
元々、可愛いというよりは、綺麗という表現がふさわしい見た目のユキナなのだが、コウに向ける優しい微笑みにプラスして、少し潤んだ目。これが相乗効果となり、普段は無い妙な色気を醸し出している。それを受けてコウは、顔面の温度が上昇した事を自覚してしまう。
(先輩! ガンガンいこう作戦が、大変な事になりそうです)
衆目も気にせず、今直ぐにでも抱きしめたい! フラフラと、そう思ってしまう気持ちを、『がっつくな』というネギ先輩の言葉を思い出しながら、必死に抑え込むコウであった。
「ど、どうしようか? 映画まで時間があるので、少しブラブラする?」
「はい!」
コウは赤くなった顔を誤魔化すようにレシートを持って歩き出した。喫茶店で待ち合わせたのに、何も注文せずに歩き出したコウに、ユキナは慌てて後を追う。
レジまで行ってユキナが付いてきていない事に気が付き、慌てて足を止めた。
(いかん、いかん。エスコート、エスコート)
止まって申し訳なさそうにしているコウにユキナは、
(あれ? 今日のシライさん、緊張している?)
コウが焦っている姿は、ユキナにとって好ましいものだった。少しだけ、最後のデートという悲壮感が薄らぐ。ユキナはコウに追いつき、ニコリと笑う。
「ご、ごめん。ちょっと焦っちゃった。会計してくるね」
「あ、私が……」
「だ、大丈夫。待たせちゃったし、僕が払うよ」
二人とも時間前に集合していたのに、この初々しい会話。
可憐なユキナが目立っていたため、さりげなく注目していた店内の客、その中には監視として配置されていた者が大半ではあったが、彼らの耳にもこの会話が届いていた。
恋が始まったばかりの仲の良い二人の姿。
温かく見守る者、イラつく者、呪殺しようとブツブツ呟く者、千差万別であった。
そして――
***
バキッ!
「おい、今の音はなんだ! シライ班!」
「はい、班長がインカムを投げ捨てました」
「なんでだ!」
「監視でほとんど家に帰らない事に激怒した彼女に、ちょうど昨日、振られたそうであります」
「そ、そうか……そっとしておいてやれ」




